こーる・おぶ・くとぅるー ~ひと夏の呼び声~

AAKI

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5.じゃあくな神様は手をのばす

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「――はっ」

 気づけばまた夜中まで寝てしまっていた。手元に時計がないからはっきりした時間はわからないけど、病室の電気を消す時間を過ぎているのは確かだ。
 頭が少し重い。眠りすぎたせいかな? 正直、なんでこんなに眠れてしまうのかわからない。変な薬でも入れられてる?

「うぅ……頭、風邪とかでもないよね……」

 ここしばらくはこんな症状なんてなかったから、足がおぼつかないのもあって上手く歩けない。
 独りでトイレに行こうとしたのはおネエさん達かんご師さんを信用できないから。でも、床がどことなく凸凹しているしている気がする。

「うぅぅ、グルグル回る……」

 本当に風邪でおかしくなっているのか、入り口近くのトイレにたどり着くころには床や壁、天井が筒状になって回転している気さえし始める。
 なんとか扉をスライドさせて開けるも、そこは個室全体が黒い海そうめいたものに覆われていた。

「は? これは、現実?」

 まだ夢でも見ているのかと疑ってみるも、痛み止めが切れたことで骨折した足がわずかに痛んでそれ・・を否定してきた。
 海そうに覆われているせいか、磯臭ささえ感じるんだから変な幻覚を見ているのかもしれない……。薬のせいだ!

「ツカサ! ツカサも、病院に何かされてるんだ! 変な薬でも入れられてなきゃ、こんなにもおかしなことばかりなはずない!」

 ボクはそう考えた。いつまでも退院できないのは、病院がボクら患者かんじゃさんを薬とかの実験に使ってるんだよ!
 急がなきゃ!
 廊下までおかしな石造いしづくりの、ゲームで出てくるみたいなダンジョンみたいな見た目になっているし!

「はぁ、はぁ……」

 体の不調に加えて使い慣れない松葉杖で急いだから、かなり息が上がってしまった。それでもなんとかたどり着いて、ボクは扉についた窓からわずかに光が漏れているのに気づく。
 やばい!
 慌てて部屋の中に飛び込んで行った。

「ツカ、っ!」

 足がもつれて、ううん、床にびっしりと生えた海そうに足を取られて? 部屋に飛び込むと同時にころんでしまう。松葉杖が……!

「ショウゴ君!?」

 かんご師のおネエさんがボクに気づいた。振り返ったその手には銀色のトレーがあって、上にはイモムシかナマコみたいな黒い物体が……!
 その何かはウジュウジュと震え身じろぎし、トレーの上でのたうち回る。まさか薬じゃなくて寄生虫きせいちゅう

「どうしてこんな時間に、こんなところまで……」

 お医者さんの男の人も、見られてヤバいものを見られたからか慌てている。
 僕たちがやられていることはわかったけど、でも、もう限界……だ。
 ボクは、敵の前だというのに、意識を手放すことになった。
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