忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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最終章:崩壊王国の戦い

第159話 攻略開始

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 白い空間の奥へと、二人は歩き出した。

 足音が響くたび、景色が少しずつ変わっていく。はじめは真っ白だった地面が、やがて灰色の石畳へと変わった。

「……妙な地じゃ。重力がねじれておる」

 クータンが小さく息をついた。その声には、わずかな怯えと畏れが混じっている。

「ぬしよ……申し訳ないが、我にはここがどうにも掴めぬ」

「うん、まぁ……そりゃそうっすよね」

「元主神が想像した地とはいえ、このような領域、我の記録にも存在せぬのじゃ」

 玄太は苦笑して、足もとを見た。

 石畳に、見覚えのある模様が刻まれている。巨大な爪に引っかかれたように裂けた壁、三段目が崩れた階段、そして右手の奥の開かない門。

 やっぱりどれもゲームで見たまんまだ。

「大丈夫。おれ、ここの構造だいたい分かるから」

「……なんと?」

「例えばここ。正面は見た目で行けそうに見えて、実は先が崩れてる。だから、右の瓦礫の裏に回るのが正規ルートっす」

 そう言って玄太は迷いもなく右に進み、瓦礫の隙間に体を滑り込ませた。その先には、暗い通路がぽっかりと口を開けている。

「ね、言ったとおり」

「これは奇なり……すでに神の領域を看破したと申すか?」

「だって、さっきの正面ルートで何回も落ちたっすもん」

「むぅ……ぬしは何を言うておる」

 理解が追い付かないクータンを置きざりに、狭い通路の中をずんずん進むと、突然床の一部が沈んだ。

 ガコンッ!

「そうだっ!ここ、床落ちトラップ!!」

 玄太は反射的に一歩引く。

 目の前の床が抜け、底なしの闇が口を開いた。ほんの指先の距離で止まった玄太を見て、クータンは目を丸くする。

「なぜ今のが避けられるのじゃ」

「へっへ~ん!内緒っすよ!クータンはおれに着いてくればOKすから!」

 クータンが半ば呆れながら肩をすくめる。玄太は笑って、闇の縁を慎重に跨ぎ越えた。

「からくりは分からぬが、それもぬしのアストラの力なのじゃろう」

「うん!てんぱいのいる場所まで……絶対にこの足で辿り着く!」

 クータンの言葉に、玄太は小さく頷いた。見上げた空の向こう、ひび割れた雲の隙間に、白い世界に似つかわしくない黒い塔の影が揺らいでいる。

 崩壊王国・第一領域。

「んじゃ、てんぱい奪還ミッション、攻略開始っす!!」

 現実と記憶の境がゆっくりと溶け合いながら、二人の新たな探索が始まった。

 *****

 一方、アルカノア農場。

「さぁ……これでよしっと」

 シーダはリビングの中央に置かれた大きな導流晶に手をかざした。淡い光が部屋いっぱいに広がり、テーブルを囲む皆の顔をやさしく照らす。

 アリス、ラクター、コンバイン、ミミ、ライラ、ベータ、グロウ、そしてリオック。
 
 全員が両手を導流晶の上に重ねていた。

 シーダの詠唱と共に、共鳴の音がふわりと鳴り、空気が微かに震える。

 光がそれぞれの胸元へ流れ込み、乱れた魔力が整っていく。体の奥にまとわりついていた赤い痛みが、すうっと溶けていった。

「……ん、これでだいたい安定したと思う」

 シーダが手を離すと、導流晶の光がゆっくりと弱まり始めた。

「はぁぁぁ~……生き返ったでふ」

 ミミがその場にパタリと倒れこむ。

「まったく……お前はどこでも大げさだな」

 コンバインが苦笑してミミの頭を軽くつつく。

「い、痛いでふぅ~。だって本当に苦しかったんでふ!」

 グロウとベータ、ライラもソファにもたれかかり、疲れ切ったように肩で一息ついた。

「……たしかに、幼い子には特に負担が大きかったわね。よく頑張ったわ」

 シーダが安心したように微笑む。

「そういうシーダも干渉を受けたのに、無理させてごめんね」

 申し訳なさそうなアリスの手を握り、声に出さずに大丈夫よと伝える。

「赤い魔力……あれは尋常な干渉ではない。導流晶がここになければ、我らも危なかったな」

 ラクターが腕を組んで眉を寄せる。

「あらかじめ玄太がぶっ倒れといてくれたおかげだな」

 コンバインがラクターの横にぴったりとくっついて、腕を組んで真似をする。

「……玄太さん、一人で大丈夫かな」

 ライラの小さな声に、部屋の空気がしんと静まった。

 アリスは黙ってテーブルの上の導流晶を見つめる。外の風が、カーテンをやさしく揺らす。

「玄太……そして天貴殿……」

 リオックが低く呟く。

「向こうで何が起きているかは分からんが、無事でいてくれ」

 誰もが同じ願いを胸に、短い沈黙を共有した。

 ――その時、アリスが顔を上げた。

「……さぁ、私たちも、うかうかしてられないわよ!」

 その声に、皆がはっと顔を向ける。

「アルカウッド、もうすぐ最終段階に入るでしょ?」

 ラクターが静かにうなずいた。

「うむ……しかしアリスよ。あの構造は俺にも理解できんが、一体何が作られているのだ?」

「えぇ!隊長も聞いてないんですかい?」

 コンバインが驚いてラクターとアリスの顔を交互に見やる。その視線にアリスは苦笑して肩をすくめた。

「えへ!ごめんなさい。そこはまだ秘密ってことで」

「おいおい!俺たちにも内緒なのかよ」

 アリスは笑いながらも、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

「必要がなければ、それでいいかなと思って……」

「……?」

 コンバインが眉をひそめる。

「その……あまり詳しく話すと、みんなを余計に心配させちゃうかもしれないから」

 そう言って、アリスはすぐに明るい声を取り戻した。

「とにかく、完成すれば―――」

 その時、コンコン、とドアが叩かれた。

「入っていいかしら?」

 聞き慣れた声と共に、ノーグがリビングへ顔を出した。手には図面の束、腰には工具をぶら下げている。

「ノーグさん!ちょうど行こうと思っていたの!」

 アリスが立ち上がると、ノーグは頷いた。

「みなさま、手を貸してくださる?」

「ってことは……って、まさか!」

「ええ!いよいよ仕上げよ!」

 ノーグのやる気でリビングの空気が一気に動き出す。誰もが席を立ち、顔を見合わせ、次の瞬間には足音が重なっていた。

 ――アルカウッド。

 アリスの“秘密の改造”が、いよいよ最終工程へ。

 静かな決意を胸に、アルカノアの仲間たちは歩き出した。
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