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52話 ナタンという男(前編)
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༺ ༒ ༻
翌朝。
アルチュールとリシャールと共に朝食を取りに食堂へ向かうと、入り口近くで学院の料理長――ヨアヒム・リーベルトが、厨房の見習いたちに指示を出していた。
彼はブロンドの髪を後ろでひとつに束ね、純白のシェフコートを端正に身に着けていた。一見して、年齢は三十五前後。まるで王都のサロンにいる貴公子のような容貌だが、その実、元SS級の冒険者という経歴を持つ変わり者だ。
「あ、コルベール君。ちょうど良かった」
俺を見付けると、ヨアヒムは穏やかに微笑んで、片手で“こっちこっち”と手招きをしたあと、大きな木箱を持ち上げた。
前々からここで顔を合わせることは多く、カウンター越しに「今日のお勧めは……」なんて言葉を交わしたことはあったけれど、こうして真正面から話すのは、これが初めてだ。
「今朝、早い時間にこれが届いた。君宛てだ。差出人は――ロジェ・ラクロワ騎士」
「ロジェが……?」
近付いて中を覗くと、そこには整然と並んだ大量の焼き菓子が入っていた。
素朴な香ばしい匂いがふわりと広がる。
「これは……」
「“眠れる牧場の村”――ヴィル=シュヴァルの伝統菓子だ」ヨアヒムは満足げに頷いた。「届けに来た店主は、ラクロワ騎士と同郷の出身で、ナクティスに襲われるずっと前に村を出て、この国でパンと菓子の店を開いている。ラクロワ騎士は時々その店に立ち寄っていたそうだ。君たちに感謝の品だと」
そう言って、ヨアヒムは「ほら、これ」と小さなカードを差し出して来た。
箱に一緒に入っていたらしく、そこには丁寧な筆致で――
〈学院のみんなで食べてくれ〉
――と書かれていた。
「ロジェらしいな」
カードを覗き込んだリシャール殿下が、ふっと目を細める。
「律儀な男だ」
隣でアルチュールも静かに頷いた。
「あと、伝言」ヨアヒムが少し笑みを深める。「“こんなことで礼になるとは思っていない。近いうちに必ずうかがって、直接礼を言いたい”――そう伝えてほしいそうだ」
今は、目を覚ましたニコラのことで忙しいはずなのに。
それでもこうして、丁寧に気持ちを届けてくれるロジェに、ますます親しみを覚える。
俺はそのとき、ふとあることを思い出した。課外授業のあと、難解になっていく勉強と学院行事の準備に忙殺されロジェにまだ礼状を書いていなかった。
こういうところも、綾ちゃんによく叱られていたな。
メッセージの返信もつい遅れがちで、いつも「お兄ちゃんは、すぐ後回しにするんだから」と呆れられていた。
きっちりしなくては。
あとでまとめて書いて、ジュールに託そう。
それからヨアヒムが木箱を隣にいた副料理長のマティアス・ローデンへと手渡す。淡い栗色の髪をした青年で、ヨアヒムの片腕として厨房を任されている。彼の作るスープやソースはどれも繊細で、香草の扱いにかけては学院一とうたわれるほどで、ヨアヒムも、彼の舌を全面的に信頼しているという。
マティアスは箱の重みを確かめるように抱え直した。
丁寧に焼き上げられた菓子の香りが、木箱の隙間からふわりと立ちのぼる。
「それ……あとで誰でも紙袋に入れて部屋に持ち帰れるように、ビュッフェのデザートのところに置いていただけませんか?」
俺がそう提案すると、「了解です。いい考えですね! そうしましょう」とマティアスが穏やかに言った。
「――なるほど……」
野性と知性が同居するヨアヒムの整った顔に、ふと笑みが浮かぶ。大きな手が俺の頭を軽く撫でた。
「トイチロの言う通りだな」
……ト、イチロ?
彼はそう言うと、どこか嬉しそうに目を細め、「いい子だ」と小さく呟く。
それから満足げに頷き、マティアスと肩を並べて、「じゃあな」と軽やかな足取りのまま厨房へと戻っていった。
ヨアヒムたちの姿が扉の向こうに消えるのを見送ると、俺はアルチュールとリシャールと共に、ビュッフェ台へと朝食を取りに向かった。
香ばしいパンの匂いと、焼きたてのベーコンの脂が弾ける音が食堂いっぱいに広がっている。温かな空気が胸の奥まで満ちて、自然と肩の力が抜けた。
――やっぱり、こういう穏やかな朝はいいな。
窓際のテーブルに腰を下ろすと、リシャールがナイフを手に取りながら言った。
「そろそろ、ナタンが現れてもいい頃ではないか?」
少し前――ここへ来る途中、俺たちは廊下でカナードとモローに会った。
二人によれば、ナタンは本人の希望で授業に出るため、早朝にはすでに退院したという。今は医務室で最終チェックをしているらしい。
モローが「ロックハートに叩き起こされて、俺が迎えに行ったんだ」と苦笑していた。
「トレモイユ君は、あとで食堂に行くと言っていたそうですよ」
カナードが穏やかに付け加える。
俺は「お二人は食堂に行かれないんですか?」と聞いたが、モローは「さっき俺がテイクアウトして、部屋で二人で食べたから」とあっさり答えた。
……え、それって、もう付き合ってるってことじゃないか?
思わず口を開きかけたが、目の前にリシャールとアルチュールがいることを思い出して、そのときは慌てて言葉を飲み込んだ。
今、思い出しても喉の奥から「ぐふぅ……」という妙な声が出そうになる。思い出し笑いならぬ、思い出し萌え……。ヤバイ、危ない。焼きたてのパンをちぎって口に運び、蓋をする。
あとでネージュに報告してやろう。
彼は、学生時代から一途に『月下美人』を想い続けたチャラ男×いつしか情にほだされた真面目美人、カッコ、妄想、カッコ閉じるに食指が動くだろうか……。
そんなことを考えながらパンを咀嚼していると、リシャールがナイフを置きながら言った。
「お、やっと来たようだ」
背後から、柔らかな声がかかる。
「セレスさま」
「ナタン!」
振り返ると、昨日まで寝込んでいたはずのナタンが立っていた。顔色はすっかり良く、背筋もまっすぐに伸びている。
「よかった。退院おめでとう。もう大丈夫なのか?」
「おはようございます、セレスさま。ええ。少しだるいですが、普通に動くには全く支障はありません」
ナタンはにこやかに笑い、朝食を取りに行くと、席に加わった。
「ナタン。昨日は……本当に助かった。よくやったな」
俺がそう言うと、ナタンは嬉しそうに肩をすくめた。
「当然です。セレスさまに“大切な俺の侍従で家族”って言われたんですから」
「ああ……、言ったっけね、そんなことを」
「ですから、家族として全力を尽くしました」
――と、どこか誇らしげに背筋を伸ばしたあと、ナタンはフォークを胸の前でぎゅっと握りしめ、目を潤ませながら続けた。
「だって、セレスさまが……っ、完璧で高貴で、ちょっとだけ私に意地悪なセレスさまが……! “大切な俺の侍従で家族”だなんて! そんな恐れ多いお言葉、人生で一度でも聞けると思いましたかっ!? 冷ややかな目で見つめられることに至高の喜びを感じていた私に、また新しい感情が芽生えた瞬間っ!」
「うん、その芽生えた新しい感情、そのまま育つ前に引っこ抜こうか。それとも除草剤をぶっ掛けようか」
「……ああ、やっぱりこの冷たさ、最高です。心が凍えるのに、下半身がしびれる……セレスさまのこの対応って、まるで真冬の朝日に照らされる氷の結晶みたいでっ!」
「詩的に言えば許されると思うなよ」
アルチュールが半ば呆れたようにナタンを見つめながら言った。
「……本当に元気になったんだな。うん、よかった」
と、そのとき――リシャール殿下が、紅茶のカップを置く音と共に口を開いた。
「で? アルチュール、昨夜はセレスに慰めてもらったのか?」
ぶほっ。
口の中の水を危うく吹き出しかけた。
ナタンが「えっ」と固まり、アルチュールの手がぴたりと止まる。
ヤバい。この話題は完全に不味い。俺は反射的にテーブルの下でベネンに軽く魔力を集めて低く呟いた。
「ミュエ・リュヌ」
淡い光が、ふわりと四人の周囲を包み込む。これで、俺たちの会話は外部に聞こえない。
この学院にヴォワレゾを使うような不届き者はいないと思うが、念のためだ。
「……リシャール、どういうことですか?」
ナタンが隣に座っているリシャールへと、ゆっくり顔を向けて言う。
「殿下と呼べ」
「シャー、どういうことですか?」
「リとルはどこに行った?」と呟きながら、殿下は軽く肩をすくめた。「まあいい。この二人は付き合っていて、昨夜は“あんなこと”や“そんなこと”もしたと推測される」
「いや、あんなことやそんなことって何だよっ!?」
慌てて声を上げる俺。
……確かに“そこそこ”はしたけど!
昨夜、アルチュールが「傷ついた」とあまりにもしつこく言うので、立派に成鳥になっているシエルをこれまた立派に成鳥になっているネージュに預けてからアルチュールの部屋で一緒にシャワーを浴びて――その、そこでいろいろと。
そのあとはちゃんとお互いの髪を乾かし合って、自室に戻って別々に寝たから。
ああ、思い出しただけで顔が燃える。
「付き合い始めたことは、知ってましたよ」
ナタンがさらりと静かに言った。
その声に、俺もアルチュールも同時に「は?」と顔を上げた。
「私が驚いたのは、シャーが知っていたことです」
殿下がふっと笑う。
「気づいていたのか?」
「はい。お二人の椅子の距離が、以前は二十七センチ離れていたのに、今は二・五センチです」
「……どこを測ってるんだお前は!?」
即座に突っ込む俺に、ナタンは真顔で返した。
「愛の距離、です」
アルチュールが下を向いてくすくすと肩で笑い、リシャール殿下は眉間を指で押さえ、小さくため息をついていた。
翌朝。
アルチュールとリシャールと共に朝食を取りに食堂へ向かうと、入り口近くで学院の料理長――ヨアヒム・リーベルトが、厨房の見習いたちに指示を出していた。
彼はブロンドの髪を後ろでひとつに束ね、純白のシェフコートを端正に身に着けていた。一見して、年齢は三十五前後。まるで王都のサロンにいる貴公子のような容貌だが、その実、元SS級の冒険者という経歴を持つ変わり者だ。
「あ、コルベール君。ちょうど良かった」
俺を見付けると、ヨアヒムは穏やかに微笑んで、片手で“こっちこっち”と手招きをしたあと、大きな木箱を持ち上げた。
前々からここで顔を合わせることは多く、カウンター越しに「今日のお勧めは……」なんて言葉を交わしたことはあったけれど、こうして真正面から話すのは、これが初めてだ。
「今朝、早い時間にこれが届いた。君宛てだ。差出人は――ロジェ・ラクロワ騎士」
「ロジェが……?」
近付いて中を覗くと、そこには整然と並んだ大量の焼き菓子が入っていた。
素朴な香ばしい匂いがふわりと広がる。
「これは……」
「“眠れる牧場の村”――ヴィル=シュヴァルの伝統菓子だ」ヨアヒムは満足げに頷いた。「届けに来た店主は、ラクロワ騎士と同郷の出身で、ナクティスに襲われるずっと前に村を出て、この国でパンと菓子の店を開いている。ラクロワ騎士は時々その店に立ち寄っていたそうだ。君たちに感謝の品だと」
そう言って、ヨアヒムは「ほら、これ」と小さなカードを差し出して来た。
箱に一緒に入っていたらしく、そこには丁寧な筆致で――
〈学院のみんなで食べてくれ〉
――と書かれていた。
「ロジェらしいな」
カードを覗き込んだリシャール殿下が、ふっと目を細める。
「律儀な男だ」
隣でアルチュールも静かに頷いた。
「あと、伝言」ヨアヒムが少し笑みを深める。「“こんなことで礼になるとは思っていない。近いうちに必ずうかがって、直接礼を言いたい”――そう伝えてほしいそうだ」
今は、目を覚ましたニコラのことで忙しいはずなのに。
それでもこうして、丁寧に気持ちを届けてくれるロジェに、ますます親しみを覚える。
俺はそのとき、ふとあることを思い出した。課外授業のあと、難解になっていく勉強と学院行事の準備に忙殺されロジェにまだ礼状を書いていなかった。
こういうところも、綾ちゃんによく叱られていたな。
メッセージの返信もつい遅れがちで、いつも「お兄ちゃんは、すぐ後回しにするんだから」と呆れられていた。
きっちりしなくては。
あとでまとめて書いて、ジュールに託そう。
それからヨアヒムが木箱を隣にいた副料理長のマティアス・ローデンへと手渡す。淡い栗色の髪をした青年で、ヨアヒムの片腕として厨房を任されている。彼の作るスープやソースはどれも繊細で、香草の扱いにかけては学院一とうたわれるほどで、ヨアヒムも、彼の舌を全面的に信頼しているという。
マティアスは箱の重みを確かめるように抱え直した。
丁寧に焼き上げられた菓子の香りが、木箱の隙間からふわりと立ちのぼる。
「それ……あとで誰でも紙袋に入れて部屋に持ち帰れるように、ビュッフェのデザートのところに置いていただけませんか?」
俺がそう提案すると、「了解です。いい考えですね! そうしましょう」とマティアスが穏やかに言った。
「――なるほど……」
野性と知性が同居するヨアヒムの整った顔に、ふと笑みが浮かぶ。大きな手が俺の頭を軽く撫でた。
「トイチロの言う通りだな」
……ト、イチロ?
彼はそう言うと、どこか嬉しそうに目を細め、「いい子だ」と小さく呟く。
それから満足げに頷き、マティアスと肩を並べて、「じゃあな」と軽やかな足取りのまま厨房へと戻っていった。
ヨアヒムたちの姿が扉の向こうに消えるのを見送ると、俺はアルチュールとリシャールと共に、ビュッフェ台へと朝食を取りに向かった。
香ばしいパンの匂いと、焼きたてのベーコンの脂が弾ける音が食堂いっぱいに広がっている。温かな空気が胸の奥まで満ちて、自然と肩の力が抜けた。
――やっぱり、こういう穏やかな朝はいいな。
窓際のテーブルに腰を下ろすと、リシャールがナイフを手に取りながら言った。
「そろそろ、ナタンが現れてもいい頃ではないか?」
少し前――ここへ来る途中、俺たちは廊下でカナードとモローに会った。
二人によれば、ナタンは本人の希望で授業に出るため、早朝にはすでに退院したという。今は医務室で最終チェックをしているらしい。
モローが「ロックハートに叩き起こされて、俺が迎えに行ったんだ」と苦笑していた。
「トレモイユ君は、あとで食堂に行くと言っていたそうですよ」
カナードが穏やかに付け加える。
俺は「お二人は食堂に行かれないんですか?」と聞いたが、モローは「さっき俺がテイクアウトして、部屋で二人で食べたから」とあっさり答えた。
……え、それって、もう付き合ってるってことじゃないか?
思わず口を開きかけたが、目の前にリシャールとアルチュールがいることを思い出して、そのときは慌てて言葉を飲み込んだ。
今、思い出しても喉の奥から「ぐふぅ……」という妙な声が出そうになる。思い出し笑いならぬ、思い出し萌え……。ヤバイ、危ない。焼きたてのパンをちぎって口に運び、蓋をする。
あとでネージュに報告してやろう。
彼は、学生時代から一途に『月下美人』を想い続けたチャラ男×いつしか情にほだされた真面目美人、カッコ、妄想、カッコ閉じるに食指が動くだろうか……。
そんなことを考えながらパンを咀嚼していると、リシャールがナイフを置きながら言った。
「お、やっと来たようだ」
背後から、柔らかな声がかかる。
「セレスさま」
「ナタン!」
振り返ると、昨日まで寝込んでいたはずのナタンが立っていた。顔色はすっかり良く、背筋もまっすぐに伸びている。
「よかった。退院おめでとう。もう大丈夫なのか?」
「おはようございます、セレスさま。ええ。少しだるいですが、普通に動くには全く支障はありません」
ナタンはにこやかに笑い、朝食を取りに行くと、席に加わった。
「ナタン。昨日は……本当に助かった。よくやったな」
俺がそう言うと、ナタンは嬉しそうに肩をすくめた。
「当然です。セレスさまに“大切な俺の侍従で家族”って言われたんですから」
「ああ……、言ったっけね、そんなことを」
「ですから、家族として全力を尽くしました」
――と、どこか誇らしげに背筋を伸ばしたあと、ナタンはフォークを胸の前でぎゅっと握りしめ、目を潤ませながら続けた。
「だって、セレスさまが……っ、完璧で高貴で、ちょっとだけ私に意地悪なセレスさまが……! “大切な俺の侍従で家族”だなんて! そんな恐れ多いお言葉、人生で一度でも聞けると思いましたかっ!? 冷ややかな目で見つめられることに至高の喜びを感じていた私に、また新しい感情が芽生えた瞬間っ!」
「うん、その芽生えた新しい感情、そのまま育つ前に引っこ抜こうか。それとも除草剤をぶっ掛けようか」
「……ああ、やっぱりこの冷たさ、最高です。心が凍えるのに、下半身がしびれる……セレスさまのこの対応って、まるで真冬の朝日に照らされる氷の結晶みたいでっ!」
「詩的に言えば許されると思うなよ」
アルチュールが半ば呆れたようにナタンを見つめながら言った。
「……本当に元気になったんだな。うん、よかった」
と、そのとき――リシャール殿下が、紅茶のカップを置く音と共に口を開いた。
「で? アルチュール、昨夜はセレスに慰めてもらったのか?」
ぶほっ。
口の中の水を危うく吹き出しかけた。
ナタンが「えっ」と固まり、アルチュールの手がぴたりと止まる。
ヤバい。この話題は完全に不味い。俺は反射的にテーブルの下でベネンに軽く魔力を集めて低く呟いた。
「ミュエ・リュヌ」
淡い光が、ふわりと四人の周囲を包み込む。これで、俺たちの会話は外部に聞こえない。
この学院にヴォワレゾを使うような不届き者はいないと思うが、念のためだ。
「……リシャール、どういうことですか?」
ナタンが隣に座っているリシャールへと、ゆっくり顔を向けて言う。
「殿下と呼べ」
「シャー、どういうことですか?」
「リとルはどこに行った?」と呟きながら、殿下は軽く肩をすくめた。「まあいい。この二人は付き合っていて、昨夜は“あんなこと”や“そんなこと”もしたと推測される」
「いや、あんなことやそんなことって何だよっ!?」
慌てて声を上げる俺。
……確かに“そこそこ”はしたけど!
昨夜、アルチュールが「傷ついた」とあまりにもしつこく言うので、立派に成鳥になっているシエルをこれまた立派に成鳥になっているネージュに預けてからアルチュールの部屋で一緒にシャワーを浴びて――その、そこでいろいろと。
そのあとはちゃんとお互いの髪を乾かし合って、自室に戻って別々に寝たから。
ああ、思い出しただけで顔が燃える。
「付き合い始めたことは、知ってましたよ」
ナタンがさらりと静かに言った。
その声に、俺もアルチュールも同時に「は?」と顔を上げた。
「私が驚いたのは、シャーが知っていたことです」
殿下がふっと笑う。
「気づいていたのか?」
「はい。お二人の椅子の距離が、以前は二十七センチ離れていたのに、今は二・五センチです」
「……どこを測ってるんだお前は!?」
即座に突っ込む俺に、ナタンは真顔で返した。
「愛の距離、です」
アルチュールが下を向いてくすくすと肩で笑い、リシャール殿下は眉間を指で押さえ、小さくため息をついていた。
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