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64話 デート -6-
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実際、転生前のことのは話せない。だが、核心には触れずとも、かいつまんで本当のことだけは淡々と述べることができる。
「俺は昔、シルエット家の領地のすぐそばまで行ったことがある」
それは、セレスタンとしての記憶に残る事実。
本題とは全く関係しないが、けれど、こちらに都合よく誤解してもらうためには、こうした前置きが必要だった。
「俺は、学院でお前に出会う前から、お前のことを知っていた」
これもまた事実。
「その時から、ずっと、憧れていた」
これは、本心。
アルチュールの表情がわずかに揺らぎ、真剣に俺を見つめてくる。
「入学式のとき、俺、アルチュール見て、めちゃくちゃ動揺してただろ?」
「いや……正直に言うと……俺がセレスを見て、あまりにも綺麗で……頭が真っ白になって。どう振る舞えばいいのかも、どんな言葉を選べばいいのかも分からなくて、セレスが動揺してたとか全く気付かなかった。でも……そうなると、つまり……俺がセレスを知る前に、セレスは俺を知っていたってことか? ああ、だから俺の名を……」
俺はゆっくりと頷いた。
「押されて折れたとか、俺が察して流されたんじゃない。元々憧れていた相手に、正面から好意を示されて、堪えきれなくなった」ここまで言って、俺はふっと笑う。「それにな、俺、独占欲めちゃくちゃ強いから。自分で選んだものを、お前に着けさせて、“この男は俺のもの”って主張したいくらいには、しっかり惚れてる」
「……セレス」
「引いただろ?」
「いや……嬉しすぎて、どうしたらいいのか本当に分からない――心臓が止まりそうだ」
最後の言葉に、そっと漏れた吐息のような熱が混じる。
「あと、もうひとつ」
俺は、包装されていない小さな箱をそっと手提げ袋から取り出した。
「右手、出して」
アルチュールが言われるまま右手を差し出す。その指は、日々の剣の稽古を映すように、節が少しだけ固い。
箱を開け、指輪を手に取る。金ではなく、銀青色の金属で出来た弓術用のサムリング。リシャール殿下に選んだものと色違いだが、意匠は同じ。
「セレス……これは……」
「殿下のとは色違いだけど、同じもの。アルチュールも弓を使うだろ。……それに、こういうの、似合うし」
俺は彼の親指に、そっとリングを嵌めた。
魔紋が一瞬だけ光り、指の太さに合わせて微かに締まる。
「……凄いな、これは……。ぴったりと指に馴染む」
アルチュールが感嘆の溜息をもらし、小さく呟く。
「で、これは“俺用”……実は、これらは、さっき内緒で追加して買ってた」
もう一つ、サムリングを指先で軽く挟んで差し出す。こちらは銀で、光を受けると淡く青みを帯びる。
「よかったら、俺にはめてくれ」
アルチュールが驚いた目で俺を見る。
右手を差し出すと、彼は慎重に、まるで儀式みたいな動作で俺の親指にリングを嵌めた。
金属が体温で少しだけあたたかくなる。
「……それから、ナタンの分も買った」
「ナタンも?」
「ああ。俺とアルチュールだけで同じもの着けてたら、傍から見たら色々と面倒だろ。だから、殿下とナタンには悪いけど、これ見たとき好都合だと思って四人おそろいにした」
アルチュールは指先のリングをそっと撫で、柔らかい表情を浮かべて少しだけ視線を伏せた。
「アルチュール、これで分かったと思うけど、重いですよ、俺は」正面から彼を見て俺は続けた。「覚悟、いいですか?」
彼は、ほんの息を呑む間を置いてから、ふっと、大輪の花が綻ぶように笑った。
「……ああ。セレス」
それから、噴水の水音に負けないくらいはっきりとした声音で、「ずっと、そばにいさせてほしい。俺が生涯で愛する相手は、お前だけだ」とアルチュールは言った。
夕陽が傾き、街路の影が長く伸びていく。
水で遊んでいたネージュとシエルが、小さく羽ばたきながらこちらへ戻ってくる気配がした。
そうこうしているうちに五時の鐘が遠くで鳴り始め、約束どおり、馬車がレダの泉の前に横付けされる。
俺たちは買ったものを抱え、家族を肩に乗せて乗り込んだ。
揺れる車内で、ネージュとシエルが今日の戦利品――足環と果物とを前に小さく小躍りをする。
「ほら、足出してみろ」
俺が言うと、二羽は嬉々として座面の上で細い脚を伸ばした。
まずはネージュの足に、銀色の小さな足環をそっと通す。魔紋がふっと光り、金属がぴたりと馴染んだ。
「これは軽くて綺麗だな、セレス!」
「兄貴っ、白く輝く羽に銀の足環が似合っているでござる。さながら、凍てつく冬に凛と咲く白椿のごとし」
シエルが羨ましそうに覗き込む。
「じゃあ、次はシエル」
同じ銀の足環を片足に通すと、こちらも同じように微かな光を吸い込み、形が収まる。
「おおっ……! 拙者のも見事にいなせでござる! 父上っ、見てくだされ!」
「はいはい、ちゃんと見てる。良かったな、シエル」
二羽はそろって足元を誇らしげに見せ合い、羽をばたつかせてまた小さな踊りを始めた。
マルスとオグマも含め四羽おそろい。彼らに渡したときの反応まで、もう目に浮かぶようだ。
「ところで、ネージュ? マルスとオグマは、剣士ごっこで自分のことをなんて呼んでいるんだ?」
俺はネージュに向かって尋ねた。
「マルスは『余は』で、オグマは『麿』、語尾は『おじゃる』だな」
「…………」
また今度、リシャール殿下とナタンにちゃんと謝罪しておこう。
「俺は昔、シルエット家の領地のすぐそばまで行ったことがある」
それは、セレスタンとしての記憶に残る事実。
本題とは全く関係しないが、けれど、こちらに都合よく誤解してもらうためには、こうした前置きが必要だった。
「俺は、学院でお前に出会う前から、お前のことを知っていた」
これもまた事実。
「その時から、ずっと、憧れていた」
これは、本心。
アルチュールの表情がわずかに揺らぎ、真剣に俺を見つめてくる。
「入学式のとき、俺、アルチュール見て、めちゃくちゃ動揺してただろ?」
「いや……正直に言うと……俺がセレスを見て、あまりにも綺麗で……頭が真っ白になって。どう振る舞えばいいのかも、どんな言葉を選べばいいのかも分からなくて、セレスが動揺してたとか全く気付かなかった。でも……そうなると、つまり……俺がセレスを知る前に、セレスは俺を知っていたってことか? ああ、だから俺の名を……」
俺はゆっくりと頷いた。
「押されて折れたとか、俺が察して流されたんじゃない。元々憧れていた相手に、正面から好意を示されて、堪えきれなくなった」ここまで言って、俺はふっと笑う。「それにな、俺、独占欲めちゃくちゃ強いから。自分で選んだものを、お前に着けさせて、“この男は俺のもの”って主張したいくらいには、しっかり惚れてる」
「……セレス」
「引いただろ?」
「いや……嬉しすぎて、どうしたらいいのか本当に分からない――心臓が止まりそうだ」
最後の言葉に、そっと漏れた吐息のような熱が混じる。
「あと、もうひとつ」
俺は、包装されていない小さな箱をそっと手提げ袋から取り出した。
「右手、出して」
アルチュールが言われるまま右手を差し出す。その指は、日々の剣の稽古を映すように、節が少しだけ固い。
箱を開け、指輪を手に取る。金ではなく、銀青色の金属で出来た弓術用のサムリング。リシャール殿下に選んだものと色違いだが、意匠は同じ。
「セレス……これは……」
「殿下のとは色違いだけど、同じもの。アルチュールも弓を使うだろ。……それに、こういうの、似合うし」
俺は彼の親指に、そっとリングを嵌めた。
魔紋が一瞬だけ光り、指の太さに合わせて微かに締まる。
「……凄いな、これは……。ぴったりと指に馴染む」
アルチュールが感嘆の溜息をもらし、小さく呟く。
「で、これは“俺用”……実は、これらは、さっき内緒で追加して買ってた」
もう一つ、サムリングを指先で軽く挟んで差し出す。こちらは銀で、光を受けると淡く青みを帯びる。
「よかったら、俺にはめてくれ」
アルチュールが驚いた目で俺を見る。
右手を差し出すと、彼は慎重に、まるで儀式みたいな動作で俺の親指にリングを嵌めた。
金属が体温で少しだけあたたかくなる。
「……それから、ナタンの分も買った」
「ナタンも?」
「ああ。俺とアルチュールだけで同じもの着けてたら、傍から見たら色々と面倒だろ。だから、殿下とナタンには悪いけど、これ見たとき好都合だと思って四人おそろいにした」
アルチュールは指先のリングをそっと撫で、柔らかい表情を浮かべて少しだけ視線を伏せた。
「アルチュール、これで分かったと思うけど、重いですよ、俺は」正面から彼を見て俺は続けた。「覚悟、いいですか?」
彼は、ほんの息を呑む間を置いてから、ふっと、大輪の花が綻ぶように笑った。
「……ああ。セレス」
それから、噴水の水音に負けないくらいはっきりとした声音で、「ずっと、そばにいさせてほしい。俺が生涯で愛する相手は、お前だけだ」とアルチュールは言った。
夕陽が傾き、街路の影が長く伸びていく。
水で遊んでいたネージュとシエルが、小さく羽ばたきながらこちらへ戻ってくる気配がした。
そうこうしているうちに五時の鐘が遠くで鳴り始め、約束どおり、馬車がレダの泉の前に横付けされる。
俺たちは買ったものを抱え、家族を肩に乗せて乗り込んだ。
揺れる車内で、ネージュとシエルが今日の戦利品――足環と果物とを前に小さく小躍りをする。
「ほら、足出してみろ」
俺が言うと、二羽は嬉々として座面の上で細い脚を伸ばした。
まずはネージュの足に、銀色の小さな足環をそっと通す。魔紋がふっと光り、金属がぴたりと馴染んだ。
「これは軽くて綺麗だな、セレス!」
「兄貴っ、白く輝く羽に銀の足環が似合っているでござる。さながら、凍てつく冬に凛と咲く白椿のごとし」
シエルが羨ましそうに覗き込む。
「じゃあ、次はシエル」
同じ銀の足環を片足に通すと、こちらも同じように微かな光を吸い込み、形が収まる。
「おおっ……! 拙者のも見事にいなせでござる! 父上っ、見てくだされ!」
「はいはい、ちゃんと見てる。良かったな、シエル」
二羽はそろって足元を誇らしげに見せ合い、羽をばたつかせてまた小さな踊りを始めた。
マルスとオグマも含め四羽おそろい。彼らに渡したときの反応まで、もう目に浮かぶようだ。
「ところで、ネージュ? マルスとオグマは、剣士ごっこで自分のことをなんて呼んでいるんだ?」
俺はネージュに向かって尋ねた。
「マルスは『余は』で、オグマは『麿』、語尾は『おじゃる』だな」
「…………」
また今度、リシャール殿下とナタンにちゃんと謝罪しておこう。
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