腐男子♥異世界転生(完結)

よしの こひな

文字の大きさ
81 / 198

81話 シルエット家領地へ -2-

「――ところで、この馬車の乗り心地は最高だな」
 リシャールが感心したように座面を軽く叩く。
 外から見れば、どこからどう見ても普通の四輪馬車。落ち着いた木製の車体に最低限の装飾。
 質素と言ってもいいほど。王太子殿下が乗っているとは、誰も思わないだろう。
 だが、扉を開けた途端――見た者は必ず、感嘆の声を漏らすに違いない。

 まるでリムジン――そもそも“リムジン”という呼び名自体、元は馬車の一種に由来するのだけれど……と、それはさておき。

 内部はアンティーク調。テーブルを挟んで向かい合う赤いベルベットの座席がゆったりと車体の左右に配され、魔石ランプが柔らかく揺らめき、八人ぐらい乗っても窮屈にならない広さ。
 外観からはとても想像できない”空間拡張魔法”を施した、移動式個室のティーサロンになっている。

 そして揺れがほとんどないのは、俺がナタンに相談した車のサスペンション構造を、彼が魔法陣であっさり再現してしまったからだ。
 車輪の上にスプリングを置く――ただそれだけのごく簡単な図を描いて見せただけだというのに。
 本来なら、金属加工も精密調整も必要なはずの構造を、彼は魔力制御と小規模の陣式だけで実装してしまった。

 それだけではない。
「車輪に衝撃を吸う帯のようなものを巻きたい」と言った俺の一言に、ナタンは目を輝かせて即座に反応した。
 樹海に自生する植物から採れる弾力性の高い“伸縮樹液”――既に中庭に植えられていた――を使い、柔らかくも強靭な天然素材へと加工して、あっという間に車輪へ巻き付けた。

 そもそもこの世界では『魔法』の存在ゆえに、「困れば魔法で解決できる」という発想が根強く、科学や技術の発展はどうしても遅れがちだ。
 だが、ナタンのように頭の回転が異常に早い人間に、ほんの少しでも“理屈のヒント”を与えると、途端に景色が変わる。
 魔法と技術をつなぐ発想さえ与えれば、彼らは一気に未知の領域へ踏み込み、世界を何歩も先へ進ませてしまうのだ。
 きっと今後、この国の馬車は次々とこの構造へと切り替わっていくだろう。

「先日、セレスさまから内部拡張機能のご相談を受け、「外観は、シャーのために変えないように」とのご要望でしたので、急ぎ設計をまとめました。学院に許可を得てうちの馬車を一台持ち込み、オベール警備官とカナード寮監にも手伝って頂き、作り上げたものです」
 ナタンが誇らしげに語る。

「セレスが私のためにっ!? この礼は、私が王位継承権を辞退し、コルベール家に婿入りして人生を捧げる事しか思い付かない」
「いや、そんな礼は要らないです。ルクレールと同じようなこと言わないでください」
「即、断られるとは残念だ。しかし、これを旅行が決まってからの短期間で仕上げるとか……さすがな、ナタン」
「光栄です、シャー」

 今のところ俺にとってナタンは、「助けてナタン」と言った瞬間に何かしら凄いものを出してくれる“便利すぎる例のアレ”みたいな存在になりつつある……ような気がする。
 そんなことをぼんやり考えていたときだった。
 ふと視線を横にやると――、
「……ん? おい、これはまた上等な酒じゃないか」
 サイドボードを漁っていたルクレールが、立派な木箱を引っ張り出した。
 中には濃い琥珀色の液体。年代物のスピリッツだ。
「デュラン副官からの差し入れです。今夜、屋敷で開けましょう」
 ジュールが穏やかに制止する。
「いや、今飲みたい」
「王太子殿下の警護中だろ」
 俺が冷静にツッコむと、ルクレールは悪びれもせず、「俺は休暇中だ」と肩をすくめた。
「駄目です」
 ジュールがぴしゃりと遮る。
 ルクレールは少し考えたあと、突然ニヤリと笑った。
「……よし。アン・ブラ・ド・腕相撲フェールで勝負だ、ジュール」
「ずるいですよ! 俺に勝ち目はありません。ヴァロアさんに勝てるのは、グルネル指揮官だけじゃないですか!」
 ジュールが眉を寄せる。

「なら、俺が相手する」

 俺が言うと、ルクレールの口角が吊り上がった。
「勝てると思っているのか、セレス?」
「やってみなきゃわからないだろう?」
感想 10

あなたにおすすめの小説

女の子として育てられた身代わりメイド、冷酷公爵に正体を暴かれ執着の檻に閉じ込められる 〜夜に咲く花〜

ひとひら|雨音美月
BL
女の子として育てられたラナには、誰にも言えない秘密があった。 ――僕は、男だ。 18歳の冬、没落した一族の罪を贖うため、冷酷な公爵・セヴェランにメイドとして捧げられた。 純白のフリルに身を包み、偽りの乙女を演じ続ける日々。 正体が露見すれば即処刑――薄氷の上を歩くような緊張が、常にラナを縛りつけていた。 しかし、ある穏やかな午後。 その均衡は、あまりにも呆気なく崩れ去る。 逃げ場を失った身体を捕らえられ、隠し続けてきた真実を見抜かれたとき、 氷のように冷え切っていた主従関係は、静かに形を変えた。 「お前は男ですらない。……ただの、私の所有物だ」 突きつけられたのは死ではなく、逃れられない執着。 行き場を失った孤独な存在を囲い込み、決して手放そうとしない絶対的な支配。 偽りの乙女としての時間は終わりを告げ、 ラナは一人の青年として、抗えないほど深く書き換えられていく。 それは救いか、それとも堕落か。 孤独を抱えた二人の魂は、背徳の熱の中で静かに絡み合っていく――。

記憶を失っている間に推しの婚約者になっていました

由香
BL
事故で記憶を失っていたルカは、ある日突然思い出す。 ここが前世で夢中になっていた恋愛ゲーム世界だということを。 しかも自分は、最推しだった第一王子アルベルトの婚約者になっていた。 甘すぎる距離感。 慣れたように落とされるキス。 そして見え隠れする、王子の重すぎる執着。 忘れていた恋を、もう一度始める貴族学園BL。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

素っ気ない態度で擬態した溺愛系アルファが、運命の番を囲い込む方法

きたさわ暁
BL
「素っ気ない態度で擬態した溺愛系アルファが、運命の番を囲い込む方法」 乃花高嶺(17) ヒートに不具合のあるオメガで、全てを諦めたように国の養護施設で管理されるような生活をしている。クラスメイトの朝日の言った「運命の番を待っている」に辛辣な返しをしてしまったことを後悔している。怜に助けられ、少しずつ不具合も解消している。 西田(西園寺)怜(25) とある企業の第二総務部に勤務。本来は御曹司。カフェで高嶺と出会い、番だと認識し、本能から手に入れようとしたが、高嶺のことや、自分の生い立ちを考えて必死に素っ気ない態度を取ろうとして、失敗しているアルファ。 高嶺は国の養護施設のオメガだ。ヒートに不具合がある。ある日クラスメイトの朝日にカフェの新作を飲みに行こうと誘われ、訪れたカフェで怜に出会う。その途端ヒートが始まり怜に助けられる。体の不具合を治す為、養護施設を出て怜と暮らすようになった。穏やかで落ち着いた生活は徐々に高嶺を元気に自由にしていく。素っ気ない態度ながらも、優しいアルファの怜に心惹かれていくが、自分がどんな存在だったのか外の世界を知り、自覚していく。 そんな時、怜の婚約者だというオメガが現れ……? 切ない現代オメガバース、連載開始します! 全40話、完結しています。

【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 本編完結済です。 もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。 皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます! 皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! 動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません