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101話 シルエット家領地へ -22-
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「ほんまやっ! ……エルヴァンの羽やおまへんか?」
興奮を抑えきれない様子で、背の高いほうのドワーフが、ずいっと一歩踏み出してきた。
丸太のような腕に、分厚い手。だがその動きは荒くない。
「なあ、そこのめっぽう別嬪さんなお兄ちゃん」
……この喋り方。
イントネーション、間の取り方、語尾の落とし方。
転生前の俺、伊丹トキヤの母親、カッコ、シュッとしてはるが口癖、カッコ閉じるとほぼ同じ……。
この世界のドワーフは、関西人なんか!?
「ちょっ、ちょっと、すんまへんな。見せてもろても宜しいでっか?」
「ど、どうぞ」
俺は、手にしていた一本を、そのまま大きいほうに差し出した。
彼は、まるで宝物に触れるかのような慎重さでそれを受け取り、すぐさま光にかざす。
角度を変え、軸を回し、羽面をなぞる。
「……ええ発色してはるやないかい」
「ちょっ、こっちにも見せてみぃっちゅーねん」
小さいほうのドワーフが身を乗り出し、二人して唸り声を上げた。
「いやー、こりゃ最高級や……、文句のつけどころがありまへんわ」
大きいほうが羽軸を指で軽く弾き、反発としなりを確かめる。
「ほら見てみぃ。軸がびしっとしてはる。しっかり芯、通っとるわ」
「先っちょ、ちょぼっと削るだけで、そのまま使えるで、これ」
小さいほうが頷きながら言う。
「いやいやいや、こう、ゴッテゴテに派手な彫刻ほどこした金属のペン先付けて加工したら、こう、バーンとなるんちゃうやろか?」
「ええやないかい。バーンというか、ガーンと来るわ」
「しっかし、入手困難なエルヴァンの羽を、こんだけ揃えて…………」
二人の視線が、自然とダンサーへ向いた。
雅やかな彼は、変わらず優雅に、そして律儀に踊り続けている。
人の視線など意に介さず、逃げる気配もない。
「いや、こんな至近距離におる時点で、もうありえへんわ。目ぇ開けたまま夢見とるんとちゃうやろな?」
感嘆の息が、同時に漏れる。
「凄いこっちゃで……、ほんまに」
「なあ、別嬪さんなお兄ちゃん。わしらの国にな、テン・ノージっちゅー場所があんねん」
小さいほうが、すぐに言葉を継ぐ。
「希少生物を保護して、ついでに見せてくれるとこや。ほんでな、そこに、いっつも空っぽの区画があるんや」
「せやせや」
「空っぽ言うてもな、おらへんわけやない。ちゃんと中にはおるんや」
「やけどな」
「木の影とかに上手いこと隠れよって、全然、表に出てけえへん」
二人が顔を見合わせ、声を揃える。
「――彩尾鳥エルヴァンのとこや」
大きいほうが、しみじみと言った。
「こんな近こうで見たん、初めてやわ」
二人同時に、感嘆の息を漏らす。
「……ほんま、ええもん見せてもろたわ。いやー、これ、おおきにやで」
そう言って、小さいほうのドワーフが、名残惜しそうに羽を差し出してきた。
「ところで……」
ふと、二人の顔を見比べて、俺は口を開く。
――この二人は、間違いなく。
「……馬車の改造を手伝いに来てくれた方ですよね?」
「せやで」
即答だった。
「よう分かったな、お兄ちゃん」
「もしかして、心、読めるんちゃうか?」
冗談めかして言ったかと思うと、次の瞬間。
「いやー、どーしょー」
大きいほうが、わざとらしく頬に手を当てる。
「わしが別嬪さんなお兄ちゃんに一目ぼれしたん、バレてまうがなー」
「あほかっ。こんなちっこいオッサン、相手にされるわけないやろー」
二人して、げらげらと笑い出す。
……勢いが完全に関西だ。
一瞬、母方の親戚のおっちゃん連中に囲まれた、あの正月の居間を思い出す。
少し後ろに控えていたナタンが、心得た様子で一歩前に出た。
「セレスさま、ご紹介します」
慣れた調子で、軽く手を差し出す。
「こちら、背の高いほう――ガルム・ブレッヒェンさん。そして、こちらが弟のベルン・ブレッヒェンさんです。ご兄弟だそうです」
「おう、ガルムや。お初にお目にかかりまっせ」
「ベルンや。よろしゅうな」
「セレスです」
名乗ってから、順に手を差し出す。
がっしりとした掌が、思いのほか温かい。
まずはガルム。次いでベルン。
「うん、やっぱりなぁ」そう言ってガルムが、にいっと歯を見せて笑った。「兄ちゃんが、セレスはんやな。遠くからでも分かったで」
「え……、どうしてですか?」
「そらもう、こっちのナタンはんから聞いとったんや。鉢合わせたら、アフロディーテも裸足で逃げ出す別嬪さんやて」
ベルンが、肩をすくめて続ける。
興奮を抑えきれない様子で、背の高いほうのドワーフが、ずいっと一歩踏み出してきた。
丸太のような腕に、分厚い手。だがその動きは荒くない。
「なあ、そこのめっぽう別嬪さんなお兄ちゃん」
……この喋り方。
イントネーション、間の取り方、語尾の落とし方。
転生前の俺、伊丹トキヤの母親、カッコ、シュッとしてはるが口癖、カッコ閉じるとほぼ同じ……。
この世界のドワーフは、関西人なんか!?
「ちょっ、ちょっと、すんまへんな。見せてもろても宜しいでっか?」
「ど、どうぞ」
俺は、手にしていた一本を、そのまま大きいほうに差し出した。
彼は、まるで宝物に触れるかのような慎重さでそれを受け取り、すぐさま光にかざす。
角度を変え、軸を回し、羽面をなぞる。
「……ええ発色してはるやないかい」
「ちょっ、こっちにも見せてみぃっちゅーねん」
小さいほうのドワーフが身を乗り出し、二人して唸り声を上げた。
「いやー、こりゃ最高級や……、文句のつけどころがありまへんわ」
大きいほうが羽軸を指で軽く弾き、反発としなりを確かめる。
「ほら見てみぃ。軸がびしっとしてはる。しっかり芯、通っとるわ」
「先っちょ、ちょぼっと削るだけで、そのまま使えるで、これ」
小さいほうが頷きながら言う。
「いやいやいや、こう、ゴッテゴテに派手な彫刻ほどこした金属のペン先付けて加工したら、こう、バーンとなるんちゃうやろか?」
「ええやないかい。バーンというか、ガーンと来るわ」
「しっかし、入手困難なエルヴァンの羽を、こんだけ揃えて…………」
二人の視線が、自然とダンサーへ向いた。
雅やかな彼は、変わらず優雅に、そして律儀に踊り続けている。
人の視線など意に介さず、逃げる気配もない。
「いや、こんな至近距離におる時点で、もうありえへんわ。目ぇ開けたまま夢見とるんとちゃうやろな?」
感嘆の息が、同時に漏れる。
「凄いこっちゃで……、ほんまに」
「なあ、別嬪さんなお兄ちゃん。わしらの国にな、テン・ノージっちゅー場所があんねん」
小さいほうが、すぐに言葉を継ぐ。
「希少生物を保護して、ついでに見せてくれるとこや。ほんでな、そこに、いっつも空っぽの区画があるんや」
「せやせや」
「空っぽ言うてもな、おらへんわけやない。ちゃんと中にはおるんや」
「やけどな」
「木の影とかに上手いこと隠れよって、全然、表に出てけえへん」
二人が顔を見合わせ、声を揃える。
「――彩尾鳥エルヴァンのとこや」
大きいほうが、しみじみと言った。
「こんな近こうで見たん、初めてやわ」
二人同時に、感嘆の息を漏らす。
「……ほんま、ええもん見せてもろたわ。いやー、これ、おおきにやで」
そう言って、小さいほうのドワーフが、名残惜しそうに羽を差し出してきた。
「ところで……」
ふと、二人の顔を見比べて、俺は口を開く。
――この二人は、間違いなく。
「……馬車の改造を手伝いに来てくれた方ですよね?」
「せやで」
即答だった。
「よう分かったな、お兄ちゃん」
「もしかして、心、読めるんちゃうか?」
冗談めかして言ったかと思うと、次の瞬間。
「いやー、どーしょー」
大きいほうが、わざとらしく頬に手を当てる。
「わしが別嬪さんなお兄ちゃんに一目ぼれしたん、バレてまうがなー」
「あほかっ。こんなちっこいオッサン、相手にされるわけないやろー」
二人して、げらげらと笑い出す。
……勢いが完全に関西だ。
一瞬、母方の親戚のおっちゃん連中に囲まれた、あの正月の居間を思い出す。
少し後ろに控えていたナタンが、心得た様子で一歩前に出た。
「セレスさま、ご紹介します」
慣れた調子で、軽く手を差し出す。
「こちら、背の高いほう――ガルム・ブレッヒェンさん。そして、こちらが弟のベルン・ブレッヒェンさんです。ご兄弟だそうです」
「おう、ガルムや。お初にお目にかかりまっせ」
「ベルンや。よろしゅうな」
「セレスです」
名乗ってから、順に手を差し出す。
がっしりとした掌が、思いのほか温かい。
まずはガルム。次いでベルン。
「うん、やっぱりなぁ」そう言ってガルムが、にいっと歯を見せて笑った。「兄ちゃんが、セレスはんやな。遠くからでも分かったで」
「え……、どうしてですか?」
「そらもう、こっちのナタンはんから聞いとったんや。鉢合わせたら、アフロディーテも裸足で逃げ出す別嬪さんやて」
ベルンが、肩をすくめて続ける。
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