腐男子♥異世界転生

よしの と こひな

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102話 シルエット家領地へ -23-

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 普通なら謙遜すべきなんだろう。
 けれど、いかんせん元のセレスタンが本当に美しい。俺が「そんなことないです」と口にするのは、さすがに勝手が過ぎる気がするし、だからこそ、どう反応すれば正解なのか分からない。
 こういうとき、転生前の俺――伊丹トキヤの母親だったら、「いややわー、よう言われますねんー」と言いながら、相手の肩を脱臼させる勢いでバシバシ叩くところだ。
 まあ、実際あの人、若い頃に友人が勝手に応募したのをきっかけに、ミスコンで優勝したことがことがある。
 本人は「なんで私がやねん」と言いながらステージに立たされ、結果だけしっかり持ち帰ってきたという、いかにもあの人らしい逸話つきだ。

 思わずナタンを横目で見ると、彼は涼しい顔のまま、口角をわずかに上げている。
 俺は小さく咳払いをしてから、二人に向き直った。
「突然呼び出す形になってしまって、申し訳ありません。馬車の改装を手伝っていただいて……」
「はぁ? 何言うてんはりますねん。こんな滅茶苦茶ワクワクする仕事、初めてやで?」
 満面の笑みを乗せ、ガルムが被せるように大きく手を振った。
「ほんまそれですわ」
 ベルンも深く頷く。
「呼んでもろて、感謝感激、雨あられやで。なんぼお礼言うても足りまへんわ」
「セレスはんが考案したんやてな?」
 ベルンが、楽しそうに言った。
「あのサスペンション、ええわぁ……。しびれたわ。あんな発想、普通は出てけえへんで」
「走行中の衝撃を逃がす構造、考えた人の顔が見たい思てましたけど、まさか、こんな別嬪さんやとはなぁ」
 ガルムが、じっと俺を見る。

 いや、俺が考えたわけじゃないんだけどな……。

「考案と言うか……、以前読んだ本に、似たようなヒントが……」
 いつもの言い逃れだ。苦笑いで受け流す。
 だが正直、この誤魔化しも、そろそろしんどくなってきた。
 俺も何でも知っている“〇〇兄ちゃん”や、“〇〇〇のおっちゃん”が欲しい。
 一度でいいから、「〇〇兄ちゃんに聞いたんだ」、「〇〇〇のおっちゃんが言ってたよ」で押し通してみたい。

 胸の内で、小さく肩をすくめた。
 そもそも、現代人の知識を思い出しながら組み替えただけだ。
 元の世界じゃ、当たり前に使われてた構造だし……。
 だが、そんな事情を説明できるはずもない。
 そこへ、ナタンが一歩前に出た。
「セレスさま、こちらのお二人の腕は確かです。順調にいけば、明日には完成する見込みです」
「それは良かった」
 ナタンが言うなら、間違いはない。

 そして、これは、好都合ではないだろうか。
 この二人なら……。

 頭の中で、思考が一気に加速する。
 まずはシルエット子爵に相談。彼らドワーフがどれほど信用できるか、情報を外に漏らす危険性はないか。
 問題がなければ――、
 そう。大型バリスタ矢の大砲連射式ポリボロス連射バリスタ、それらの製造にも、ぜひ加わってもらいたい。見解だけでも欲しいところだ。
 そして、完成した暁には、この城にも魔物の棲む森へ向けて、城壁の上に設置したいと思っている。
 あとで兄弟には、お近づきのしるしに彩尾鳥さいびちょうエルヴァンの羽を、何本か贈っておこう。
 さっきの様子を見る限り、確実に喜ぶ。

 そのやり取りの最中、
「今夜は――」
 アルチュールとノアールを囲むように、シルエット家の面々が集まっている方から、子爵の声が響いた。
「星を見ながら、皆でノアール帰還の祝いとしよう!」
「おおーっ!」
 あちこちから、どよめきと歓声が上がる。
「それから、馬車の改造に力を貸してくれているブレッヒェン兄弟も、ぜひ残って参加してくれ! 住み込みでない者たちも、今から間に合うなら家族を呼んで構わん」
 どよめきが、ひときわ大きくなった。
ストンボア猪型の魔獣フォレストホーン森角羊の肉があります!」
 猟師のアンドレが声を上げる。
「よしっ」
 それに応えるように、料理人たちも気合の入った声を上げる。
「腕によりをかけますぞ!」
 その一言を合図に、場の空気は一気に祝宴のそれへと傾いた。

 誰かが号令をかけたわけでもないのに、人の流れは自然と屋敷前の広場へ向かい、いつの間にか準備が始まっている。
 祝賀は即席だったが、実に賑やかだった。
 卓が並べられ、星を仰ぎながらの立食パーティー。
 主役となる食材は、ルクレールとジュール、そして猟師たちが仕留めた肉。
 豪快に焼かれたそれらは、噛むたびに旨味が溢れた。
「うまっ!」
 思わず声が出たところで、俺の横に並ぶ影があった。
 串に刺した肉を頬張りながら、もう片方の手には酒の注がれたグラス――ジュールだ。

 おいおい。もう、殿下の護衛任務は完全にシルエット家の騎士に丸投げしたな?

「ちょっ、聞いてくださいよー、セレスー……」
 既に酔いが回ってるらしい。
 ジュールは口を動かしつつ、完全に愚痴の調子になる。
「ヴァロアさんにですねー、認識阻害魔法使ってストンボアに化けておびき出せー、って言われたんですよー」
「ストンボアに化ける?」
 彼は酒を一口あおり、勢いで続けた。
「どうしろって言うんですか! 顔だけストンボアで、体は人間のままですよ!? そんなの相手から仲間認定されるわけないじゃないですかっ!」
 ぷんすかと肩をすくめながら、また肉にかぶりつく。
「しかも『うまくやれ』の一言ですからね。あの人……!」
 頭の中で、顔だけストンボアになったジュールが森の中をうろつき、本物の魔獣に「おまんは……誰じゃ?」と訝しげに見られている光景が浮かぶ。
 耐えきれず、俺は小さく吹き出した。
「ちょ、笑わないでくださいよ!」
「いや……それは、笑うでしょ?」
 ジュールは不満そうに唇を尖らせたが、次の瞬間には彼も苦笑して、グラスを軽く掲げる。
「まあ、やりましたけどね……」

 やったのかよっ!?

「めっっちゃくちゃ追いかけられました。今まで生きて来た中で、一番のトップスピードを記録できるぐらい走りましたよ、俺。……結果オーライですけどね。こうして旨い肉にありつけてるわけですし」
 ジュールはそう言って、串に刺さった肉をもう一口かじり、間髪入れずに酒をあおった。
 喉を鳴らして飲み下す様子は、今日一日の疲労と緊張がようやく抜けた証のようにも見える。

 焚き火の炎が、夜風に揺れた。
 ぱちぱちと爆ぜる音と、肉の焼ける匂いが混じり合い、広場を満たしていく。
 俺は自然と隣に立つジュールの肩に手をまわし軽く抱き寄せていた。それから背中を、ぽん、と叩き慰めるように労うように何度か撫でる。
「……ジュールのおかげで、こんな旨い肉が食えてるんだ。誇っていい」
 素直にそう言うと、ジュールは一瞬きょとんとし、それからくすくすと笑った。
「はあ……癒されますー……」
 完全に気を許した声だった。
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