杖の下に回るゴールデンレトリバーは打てぬ

鈴木史基

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第八話 マリネーター

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 このままではレオルヴァンがまたグズグズになってしまい、楽しい会話はできそうもないので一度スイッチを切った。
「レオちゃんって貴族の当主なら子どもがいて当然の歳なのに婚約者とかすら居なかったよね? 叶わぬ恋でもしてた?」
「そんなんじゃありません……」
「なら良かった」
遊び放題の地位と外見だろうにあまりにうぶなので、もし操を立てていたならちょっと悪いことしたかな、とマリーナは思っていた。ほんの一ミクロンほど。
「……腹違いの弟が優秀で、母親の家柄も上で、次期当主は弟が確実と言われていたのに、父の遺言で僕が当主になってしまったんです」
「え? それで次の当主を弟か、その子どもにするために自分は結婚しないって?」
レオルヴァンはうなずく。
屋敷の中は平和に見えて弟派ばかり。自分と母への敵意が形にならないように人畜無害に振る舞うことしかできなかった。まして妻子など……。
「まぁ、こうなってしまったのでもうなんの意味もありませんが……」
母と共に教会に入るなり出奔するなり、家督を早く弟に譲らなかったこと。
脱税も横領もこの弟の母の指示だったが、それに気付きもしなかったこと。
策を講じて政敵の出世を阻止するか、対抗出来る地位を築けなかったこと。
戦力にと慌てて買った魔術師奴隷はとっとと身代を稼いで出ていったこと。
全部レオルヴァンが弱くて甘かったのが悪い。
差押状を読んだ時の弟の顔はこの先一生忘れられないだろう。
「じゃあ男は? 子供もできないし、自分の身は自分で守るでしょ」
「僕にはそういう趣味はありません」
「レオちゃんにはなくてもさぁ……。まぁいいや、お友達とかは? 財務大臣より強いカード持ってなかったの?」
「……損をしてまで助けてくれるような友人はいません」
「そうかなー? 伯爵家とか恩売ってなんぼでしょ。学閥もあるし、社交界は年中どこでもやってるし、貴族社会なんて横のつながり大事なのに」
「学校には行っていません。教育は家庭教師が。社交の場は父と弟が出ていましたが、僕が継いでからは宮廷で行われる伝統のもの以外あまり顔を出していませんでした」
「なんで? 身体弱かった?」
「本当に五年以上前のゴシップは何もご存知ないのですね」
「教えて~」

 帝国は基本的に一夫一妻制であるが、特権階級の家長は何人娶ってもよい。
帝国を支える高貴な血筋の断絶を避けるためと言い訳しているが、単にかつての皇帝が好色で色惚けた法案が多数通ったうちのひとつだ。
レオルヴァンの母は伯爵領に従属するしがない農村を治める男爵の娘だったが、竪琴の名手で容姿がとびきり美しかったためひと目で伯爵を虜にし、第二夫人として迎えられた。
第一夫人は同じ爵位である伯爵の令嬢で、親が決めた婚姻だった。
気位の高い第一夫人を差し置いてあっという間に身籠もった第二夫人、レオルヴァンの母は自身と子の危険を感じて離れに引きこもったのだ。
離れに立ち入れるのは実家から連れて来た使用人数名と夫、伯爵領の外から招聘した家庭教師のみ。
帝国貴族にとってはめずらしくもない話だ。
「家の中が不和不和なのはわかったけど、なんで外にも出なかったのかはわかんないな。軍幼年学校も魔法学園の貴族クラスも全寮制でむしろ安全じゃん」
「……」
「教えて教えて~」
絶対に言いたくない。
が、命令された以上答えないわけにはいかない。
出まかせでこの主人を言いくるめられる気もしない。
「……として……られ……」
「んー?」
「第一夫人の目を反らすために、十五歳まで女として育てられたのです」
「あぁ、なるほどね~! レオちゃん、深窓の令嬢だったんだ」
マリーナは色々と腑に落ちた。
軍幼年学校も魔法学園も入学するのは男子のみである。
正確には魔法学園の門戸はどんな身分の者でも、もちろん女性にも開かれているが、魔力検査と入学試験で抜群の成績を収めなければならない。
魔力が人並みにある貴族の子弟であれば落第点でも入れる五年制の貴族クラスは男子しか受け入れていないのだ。
それ以外にも思い当たる節はある。
ご令嬢なら家から出ず、社会から孤立していても変ではない。
女の趣味とされる紅茶に造詣が深いこと。
女の子扱いに過剰反応するところ。
世間ずれしていない感じ。
しっくりくる女装。
このかわいげ。
「なるほどね~」
マリーナはもう一度言って紅茶を飲む。ぬるくなっても美味しい。

 「ミストレスのことを聞いてもいいでしょうか」
「えー、やだ。」
「……」
「……しょうがないなぁ。聞いたからには答えないとね」
「ありがとうございます。では……」
「まって。せっかくだから簡単なゲームにしよう」
マリーナはリモコンを取り上げ、ポチポチと何度か押した。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ……
「っ……! ひぁ、ッ」
レオルヴァンは思わず腰を浮かせたが、すぐに膝の力が抜けて座面に尻を落とすことになり、高い声が出た。
「いま十段階のレベル五ね」
はい、いいえ、で答えられる質問をレオルヴァンが行う。
はいなら強、いいえなら弱のボタンでマリーナは答える。
マリーナは国教の主神に誓って嘘を答えない。
レオルヴァンがイくかレベル零になったら終了。
次の質問が十秒カウントダウン以内に出てこなくても終了。
答えを誘導するために判り切った質問やマリーナに関係ない質問は禁止。
すでに頭に靄がかかり始めたレオルヴァンは何度か聞き返しながら一応ルールは理解した。
どこから来たか、何が目的か、はいといいえだけで聞くのは困難そうだ。そのためにマリーナはこの形式にしたのかもしれない。
多く質問するにはレベル二と三あたりではいといいえを反復するのが理想だ。
まずは続けていいえを出したい。

 「じゃあ、どうぞ」
「は、いっ。……先ほど誓った神を、信じておいでですか」
弱。
「おー、いきなり痛いところついてきた。でも誓う相手が居なかっただけで嘘をつく気はないよ。レオちゃんに誓おうか?」
「……次。記憶喪失というのは事実ですか」
弱。
「じゅーう、きゅーう……」
「僕を買ったのは、仕返しですか」
弱。
これは肯定が来ると覚悟していた。ではなぜ……。
「じゅーう、きゅー」
「憐れみ、ですか」
「うーん……」
ヴィン、ヴィン、ヴィン……
振動のパターンが変わった。
「な、んぁ……っあぁ!」
「ちがう……? 多分そう、部分的にそう……? ごめん。わかんないや」
慣れつつあったレオルヴァンの直腸内が勝手にキュンキュン動いてつらい。
今のレベルは二だが、三に上げられて無事でいられるかわからない。
いったんレベル一に下げて落ち着くか、即答不能の質問をしてイチかバチかパターンを変えてもらえれば……。
「……なーな、ろーく……」
「くぅ……、あなたは、自分が何をしたいかも分からない……?」
強強強。レベル五。
ヴィンッ ヴィンッ ヴィンッ
「あ゛あぁあぁあ――っ!!」
「すごい。とてもそう。だってここまで来てもぜんぜん自由じゃないし。大事なものは次の瞬間また全部なくすかもしれないし」
レオルヴァンはそれどころではなくて、マリーナの声が聞こえていない。
「はっ、はぁ……っ、ひぅっ……」
「あ、イってないんだ。じゅーう、きゅーう、」
「ぁ、んっ……、ま、って、」
「はーち、なーな」
優雅に微笑みながらカウントダウンを続けるマリーナの右足がテーブルの下ですっと伸びる。
ふみ、と、つま先でレオルヴァンの陰茎を押した。
クロッチ部分のスリットから飛び出して天を向くそれはメイド服のたっぷりした裾を押し上げて痛いほどに勃ちっぱなしである。
「ぐッ~~……!」
「ろーく、ごーぉ」
ふみふみ、すりすり……
「ぃや、っだ、ぁあ……ッ、ゃ、あぁ」
「よーん、さーん」
ぬちぬち、にちゃにちゃ……
レオルヴァンの先走りがマリーナのストッキングをすっかり濡らし、水音を立てる。
凶悪な振動音も依然続いている。
「にーい、いーち、」
「~~~~ッぼ、っ僕のこと……、好きですかっ……?」
レオルヴァンは必死でそれだけ言った。なんでもいいから弱めてほしい。
強強強強強。レベル十。
ヴィヴィンッ!!ヴィヴィンッ!!ヴィヴィンッ!!
「っう、そッ……、あぁっ、ん゛んん……っ!、……くぅ、ふぅ、はぅ、ぁっ……」
「大好きだよ」
目の焦点が合わず、不随意な痙攣を止める気力もなく、ぐったりと背もたれに身を預けるレオルヴァンの耳にこの言葉は届いたが、理解できない。
一方的にこんな仕打ちをしておいてどういう好きだというんだ……。
結局わかったことなどほとんどないし……。
マリーナは白濁でべったり濡れた足を魔法で綺麗にすると立ち上がり、テーブルの片付けを始めた。
「楽しかったね、マリネーター。またの挑戦をお待ちしております」
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