【完結】淫魔ファウヌス、シスター・マリエッタを溺愛する。

ヲ。

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05 シスター・マリエッタ、触手の悪魔にとらわれる。


 クエンカへ来る前に上司であるシスター・イザベラから伝えられたのは「森で行方不明者が出ている」ということだった。

 マリエッタが調べてみると、確かに行方不明者がいる。観光客というよりは地元民の、しかもカップルで行動していたひとびとに被害が出ているらしい。
 そうであればと、観光地である旧市街地から離れて、市街地から森へ入った。ひと目につかずに姿を消しているのなら、やはり人気のない場所だろう。
 ホテルは市街地と森の境目に位置していたので、森へ出るのには徒歩で一時間もあれば十分だ。
 マリエッタに荷物はない。もともと少ない現金と着替えくらいしか持っていなかったが、それはまだ駅の金庫に預けたままだ。
 マリエッタの武器は肉体すべてなので、獲物は必要なかった。

 マリエッタはバチカンの特定調査機関「グノーシス」の調査員で、悪魔祓いのプロフェッショナルだ。
 機関の担う役割はキリスト教信仰にかかわる事件の諜報・調査などさまざまと聞いているが、あまり詳しいことをマリエッタは知らない。ただ、マリエッタの所属する部署は、悪魔やそれに類する超常現象を調査して本部に報告、場合によっては排除することを役目としている。
 その機関で悪魔祓いをして、早5年。
 命を落とすこともある現場にあって、5年も続けば大ベテランだ。日本人由来の容姿のせいで若く見られるが、ちゃんと18歳を迎えているし、十分な実力と実績があると自負している。
 今回だって、なにも問題はないはずだ。

 ホテルからしばらく歩いて、ようやく森の前までたどり着く。鬱蒼とした木々が生い茂った、薄暗い森だった。だが、地元民が行き来しているのか、わずかに道のようなものが見える。まずはここを進もうと思うが、マリエッタは一度空を見上げた。
 やや日差しが傾いてきている。
 今森へ入れば、調査が中途半端なまま夜を迎えてしまうだろう。
 悪魔は陽が落ちてから動きが活発になるものだ。だからファウヌスは「陽が落ちるまでに」などと言っていたし、そもそも夜の森は狩人だって滅多に入らない。熟練調査員のマリエッタと言えど、今からここへ入るとなると調査の難易度がやや上がる。
 しかし、このまま調査せずにホテルに戻るのもよくない。なにせ、宿代を払うのはファウヌスだ。今晩中にかたを付けて、ちゃんとお礼をしなければ。
 ひとまずは道なりに歩いて、月が見えるころには戻ろうと決める。

 ファウヌス、心配しますかね⋯⋯。

 夕焼けに赤くなりつつある森を歩きながら、ふと男の笑顔が脳裏をよぎった。慌てて頭を横に振る。
 これは自分のしごとだ! 悪魔だってしごとをしていると言っていた。だからファウヌスだって森に行くのを止めなかったのだ。
 いや、そもそも、どうしてあの男が自分を心配している、なんてことが大前提になっているのか。
 昨日知り合って、こちらが一方的にご迷惑をおかけしている男性だ。ファウヌスが悪魔でなければ土下座して一生恩に着るレベルだろう。

 そして悪魔だからこそ、体液が報酬なんてことが通用したのだ。体液を欲しがるなんて、悪魔でなければよほどの変態だろうし、そういう変態に頼ろうとはさすがのマリエッタも思わない。ファウヌスはそういうのとは違う。だって、キスしただけであんなにうれしそうに笑うし。

 ファウヌスとのキス、気持ちよかったな⋯⋯。

 長く歩いて、警戒心が緩んでいるのかもしれない。彼との口付けを思い出して、下腹が熱くなった。頬も熱を持っている気がする。なんだろう、これ。
 マリエッタの春のそよ風みたいな浮かれた意識を現実に引き戻したのは、独特の気配だった。


 悪魔の気配だ。


 マリエッタはあまり気配に過敏な方ではないので、それでも探知できるというのはかなりの大物に違いない。
 どこにいるのか。
 警戒しつつ、薄暗くなった森を歩く。道からは外れなかった。道を失えば、戻れないかもしれない。それが一番良くないことを知っていた。
 「グノーシス」はあくまでも調査機関だ。退魔は必ずしも求められていない。相手を調査したうえで、万全の装備で挑む。それが「グノーシス」のやり方である。
 マリエッタは先鋒であり、調査人だ。探査が下手なのは致命的だが、それを上回る体力と武力と聖なる力が、マリエッタのこれまでの信頼を築いていた。
 ふいに、周囲に違和感を覚える。
 どうやら気配が移動しているらしい。これは、まずい。

 ──囲まれている。

 いつの間に、などと言うより先に、拳を構える。周囲のいかなる動きにも応じられるよう、膝を柔らかく保ち、重心を低く構え、一歩を素早く踏み出せるようにかかとを浮かせる。
 だが、マリエッタの予測を越えて、気配は地面から伸びてきた。

「!」

 しまった、と思った時には、片足をなにかに引っ張られ、宙にぶら下げられてしまった。

 足首に絡みついているのは、草のような木の根のような、かさかさとした質感の蔓だった。宙に逆さまに吊るされたと思えば、次は両腕を拘束され、磔のような体勢で宙に高く掲げられる。
 蔓の出どころに視線を向けると、大木に擬態した悪魔が、ゆっくりと、本当にゆっくりとしたスピードで道に近づいていた。

「こんなにとろとろと移動していれば、気配を感じにくいのも納得ですね」

 そうして知らずに背後を取られた住人が幾人か犠牲になったのだろう。
 果たして、この悪魔はどんな目的を持つのか。

「というか、こんな悪魔、いましたっけ?」

 マリエッタはあまり物覚えが良くない方だが、悪魔の名前と特徴は忘れない。それではしごとにならないから。
 大木は根を足のように動かし、枝を手のように、その枝から蔓を伸ばして長い指のように操っている。これはまるで──

「マンドラゴラ?」

 普段は地中で根を張り、引き抜かれる時に叫び声を上げ、その声を聞いたものは死ぬと伝わる妙薬のもと。
 まさか、それがこんなに巨大に育っているとは。よく今まで見つからなかったものである。
 マンドラゴラはかなり興奮状態にあるようで、指らしき触手がうねうねと動いてマリエッタに迫った。

 草とわかれば噛みちぎる!

 そんな意志でいたが、その気配を魔草は感じ取ったらしい。口元に太い触手を無理やり突っ込んできた。

「んんー!」

 ぐぽりと喉奥まで触手が挿入される。歯を立てたが、弾力があり、噛み切ることは難しそうだ。そればかりか噛み跡からなにかじわりと染み出している。甘く感じた。
 途端に、体が熱を帯びる。

「ッ!?」

 出掛けにファウヌスと交わしたキスなどより、はるかに強い衝動が全身を襲った。
 なに、これ?

「ん、ン、ンぅーーーー!」

 なんとか口から吐き出そうとしてもがいても、蔓はびくともしなかった。かなり強い力で拘束されている。それに、全身を襲う熱でさらに力が入らなくなってしまった。
 戸惑っているうちに、魔草の蔓は服の隙間をぬってマリエッタの素肌に侵入してくる。襟元から、ワンピースのスカートの裾から、無数の細い触手が肌を這う。

「んンぅ!」

 不快さに思わず目を閉じる。そして、すぐに目を開いた。敵を見失ってはいけない。マンドラゴラは顔もないのに、なにかごきげんなように見えた。浮かれたような様子で、嬉々としてマリエッタの肌をなでていく。
 すぐに下着の内側まで侵入され、乳首を何本もの細い触手がかすめていく。その感触は手足を拘束しているかさついたものではなく、なにか粘液がべっとりと絡んでいる。先程経口摂取した魔草の体液だろうか。粘液はほのかに温かく、マリエッタの小さな乳頭にぺとぺとと塗りつけられていく。

「んふぅ」

 刺激としては大したことがないはずなのに、思わず鼻から息が抜ける。腰ががくがくと震えているのが自分でもわかった。今自分が、なにを考えているのか強く意識してしまって、酷い羞恥が襲ってくる。

 触って、ほしい──。

 魔草の体液を塗りつけられて、乳首が異常なほど敏感になっていた。服の中で勃起した乳首は蠢く触手の気配だけで今にも達しそうなほどだ。早く、はやく⋯⋯いいや、違う!
 正気と欲求の間でふらついているところへ、細い触手がぴん、とマリエッタの尖った乳首を弾いた。

「んんんんん~~~~~~~ッ!!」

 雷に打たれたような刺激が全身を駆け巡る。刺激が股間にたどり着いたところで、力が抜けた。膣奥がじぃんと余韻に震える。それでも拘束は緩まない。

 どうしよう。なにか反撃方法はあるだろうか。この拘束を解かなければ。解いたところで反撃は⋯⋯いや、なんとか生き延びて、機関に戻ればこちらの勝ちだ。見誤るな。自分は調査人だ。反撃は義務じゃない。

 ぼうっとした視界の中で、それでもマリエッタはマンドラゴラを睨みつける。
 マンドラゴラは目も顔もないはずなのに、その視線に酷く喜んでいるように見えた。

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