虫 ~派遣先に入って来た後輩が怖い~

銀色小鳩

文字の大きさ
11 / 53
虫 派遣先に入って来た後輩が怖い

第11話

 こうして、私は隆史と別れることを約束させられたのだった。かわりに、はるかと付き合うというところまでは言い合っていなかった。
「隆史さんと別れるって事は、もうホテルとか行かないってことですよ? 食事もデートとしては行かないってことですよ?」
 はるかは念を押してきた。
「うん。」
 返事をして、はたと気づく。
「デートとしては……デートじゃない食事は行ってもいいってことなの?」
 予想していなかった質問だったらしい。はるかは口をひんまげて、眉をしかめた。
「だから……」
 さっき、会ってる姿を見たくないって言ったじゃないですか。まだわからないんですかこのやろう。そんな苛立ちのこもった「だから」だった。
「うー……」
 はるかは、目をほそめて、どう言おうか迷っているようだった。
「うー、だぁ……めじゃあ……ないんですけど――」
 くりくりした頭を左右に振りながら、納得できなさそうに唸っている。
「だめ――じゃ、ないんですけど、いやかなって」
 そして、様子をさぐるように、上目遣いで私を見た。
「児島さんと、隆史さんて、付き合う以外の付き合いって、あったんですか?」
 変な文法だが、言いたいことはわかる。
「ないですよね」
「うーん?」
「じゃあ、それって、デートですよね?」
 沈黙がおりる。
 はるかは、手をひざに置いて、あらたまって言った。言っていいものかどうかわからないものを、無理に勇気を出して伝えるみたいに。
「じゃあ、イヤです!」
 妙に、初々しかった。可愛くすらあった。いつか、あんなことをした人間と同一人物だとは信じられないほど、はるかは、すっきりとした若葉のように見えた。
 ちくりと、胸の奥で、虫の声ほどの小ささで、何かが疼いた。
 なんだ?
 陽光が目に直接あたって、しみるような、そういう痛みのようなものが――。
 私は、こんな風じゃない。はるかみたいじゃない。
 いや、むしろ、嫌いだ。こういう、すぐに人に好意を見せて、弱みをさらしてしまうような迂闊さが。
 弱み……はるかは、あの夜に泣いた。あのときは単純に受け入れてもらえなかったから泣いたのだと思っていた。でも、今は、はるかは単に泣き虫なのではないかとも思える。はるかが夜中に泣いている姿が想像できる。
 私のことで? いや、そうじゃない。はるかは、なんだか、泣き顔が似合う。けして汚い泣き顔ではなくて、自分から何でもかんでもまともに受け止めてしまうような痛みのある泣き顔が。
 DVDを借りてきておきながら、途中からまったくそれを観もせずに、まったりとお茶を飲む時間だけが流れていく。
「あーー」
 はるかは、床にごろりと寝転がった。
「まだ信じられない」
「なにが」
「児嶋さんが、私と離れるのがイヤだっていう理由だけで、隆史さんと別れるなんて」
 ああ、そういうことになるのか。そういわれてみればそうだった。 肘をついて、はるかがじっと見つめてくる。
「ほんとうにいいんですか?」
 …………。
 答えにつまって、私はうつむく。
 後悔するかもしれない。隆史は結婚したいと言ってきていたし、私ももう27だ。はるかと結婚するわけにもいかないし、そもそも、付き合いたいというわけでもない。
 でも、はるかにいなくなられるのがイヤだった。
 隆史がいなくなることよりもイヤだった。
 はるかは、隆史よりも腕が細い。力が強いといっても、それは女性のもので、男性に抱きしめられているような安心できるがっしりした感じはなかった。
 むしろ、頼りなげな感じがすることもあった。守ってあげたいような。
 男性のような安心感はないけれど、しぐさにはしっかりとした意志が通っていて、存在感があった。
「でも、はるか。最後に1回だけ会うよ」
「え」
「別れるって、言ってくる」
「ああ、それは、仕方ないですよね」
 さらりと言って、はるかは私を許した。
感想 1

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範
恋愛
 となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。  ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。