Apple Field

水晶柘榴

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壱 腐敗

(04) 府 -フ-

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《なぁ、マサゴ。今日はどれくらいに帰ってくるんだ?》

 クシャクシャの黒髪の幼子おさなごは、そう問いかけた。しがみつくようにして、後ろから寝椅子カウチに座る人物を覗き込む。その人物は腕を上げ、覗き込んだ幼子おさなごの頭を愛おしげに撫でながら口を開いた。

《おいおい―――。もっとお上品に話したらどうだ? 育て方が悪いってのかぁ? 口の利き方には気をつけろって言ってんだろうが》

 長い髪を、高い位置で結い上げた人物がそう言うと、幼子おさなごは唇を突き出しながら、目の前の人物の頬を、指先でチョンとつつく。

《マサゴだっておんなじような話し方じゃねーか。なんでこっちばっか悪いんだよ》

 幼子おさなごの言葉に、長髪の者は盛大に、たっぷり5秒ほどかけてため息を吐き、それから口を開いた。

《ガキがナマ言うなっつの。イイオトナってのは素直な子供がなるんだぞ?》

《そんなもんか? ……じゃあ、ちょっとだけスナオになってやるよ。だから―――》



「……うっわ、恥ずかし」

 起きがけに、そう呟いた。見慣れた室内は少々ほこりの匂いがするが、もともと廃屋はいおくのような建物に住み着いているので、致し方ない。知識も技術もない部屋の主は、とりあえず寒い隙間風すきまかぜが気になり、ひび隙間すきま粘土ねんどで塞いだ。やはり冷気はどこからか入り込むらしく、相変わらず寒いのだが、それにも慣れたものである。

 少し毛が禿げた、薄い毛布もうふを払い、それから木箱を並べた簡素かんそ寝台ベッドを降りた。最初の頃はこの寝台ベッドから落ちて目が覚めたものだが、今ではすっかり体に馴染んでいる。

 夢を、見た。忘れもしない光景であったが、夢にまで見てしまうと気恥ずかしい物がある。

 外を見れば日は高くなっており、自分たちの活動時間が近いことに気が付く。艶やかな、黒く長い髪を簡単に結い上げると、外へと向かう。

 ―――仕事の時間だ。




「カツミ様、ヒイズ先生、降りる準備をお願いします」

 高い声でそう言われ、カツミはカーテンの方へと振り向いた。馬車くるまは相変わらずガタガタと揺れているが、道の舗装ほそうの具合がいいのか、先刻ほどではないように思う。

「もう、着いたのか」

車番くるまばんのもとに着いたようですね」

 馬車くるまの中が明るくなり、隧道トンネルを抜けてから、時間はあまり経っていない。意外そうなカツミの口調が面白かったのか、ヒイズは微笑ほほえみを浮かべ、何処にたどり着いたのかを教えてくれる。

車番くるまばん?」

「ええ、役所の施設の一つで、馬車くるまと馬を預かってくれるのですよ」

「なるほど」

 たしかに馬車くるまごと宿を借りれば、かなりのスペースが必要になってしまう。それならば、街の一角に馬と車を預かる場所をもうけたほうが、人の出入りも、円滑えんかつになるのだろう。

 しばらくすると、完全に馬車くるまが止まり、カツミは馬車くるまを降りた。先ほどの門番と同じ、傭兵ようへいおぼしき男が、アガタの隣に立っていたのだが、カツミの姿に一瞬意外そうな顔をし、それから、続いて馬車くるまを降りた、ヒイズの手枷てかせを見て、眉を寄せた。

 不躾ぶしつけではあるが、客観的に見て、カツミの容姿は珍しく、ヒイズの手枷てかせは異様なので仕方がない。話せばすぐに、人柄の好ましい人物であることが分かるので、その態度もすぐに緩和かんわするだろう。

「鍵の作成に当たって説明は不要でしょうか?」

 傭兵ようへいの男は紙を貼り付けた板を取り出し、そう訪ねた。少々気にかかることはあったものの、対応はおおむね丁寧なので、門前であったような無頼漢ゴロツキたぐいではないだろう。

「ああ、特に―――」

「いえ、説明をお願いします」

 アガタが説明を断ろうとしたが、ヒイズがそれをさえぎり、傭兵ようへいの男に説明を求めた。一瞬、意外そうに首をかしげたアガタだったが、ヒイズがカツミに視線を向けたので、すぐに意図いとに気が着く。

 カツミに馬車くるまを預けるやりとりを、教えようというのだ。カツミもそれに気づいたので、傭兵ようへいの話に耳を傾ける。

「―――よろしいですか? では説明します。まず、今我々がいるここは、車を預かる施設です。馬房ばぼうは別にありますが、説明は後ほど。荷物を積んだ状態で―――」


 今現在カツミたちは、壁と天井を石で囲われた、広い空間にいる。馬車くるまがしっかりと整列しており、管理が行き届いた様子が伺えた。

 傭兵ようへいの話をまとめるとこうだ。


・ここは預かった馬車くるまを保管する場所で、係りの傭兵ようへい同伴どうはんなしでは、進入を禁止する。
傭兵ようへい以外の者が武器に触れることを禁止する。
馬車くるまに積んでいる武器を持ち出す場合も、持ち主は一切いっさい触れず、傭兵ようへいが外まで運ぶ。
・貴重品、腐敗する飲食物以外の荷物は積んだままで構わないが、盗難を防ぐため傭兵ようへい立会いのもと、目録もくろくを作成する。

・馬をあずける場合は、目録もくろく馬房ばぼうの記号か文字、馬の数、種類、名前を記入する。
・馬をあずけた場合は、馬房ばぼうへの侵入は自由だが、私物の持ち込みを禁止する。
・餌は、役所が用意した物か、販売している物を与えること。

目録もくろくは番号の書かれた鍵箱に入れて保管し、鍵は馬車くるまの持ち主に預ける。
・鍵には箱の番号が書かれていないので、鍵を預かる際に番号を記憶する。
・馬と馬車くるまを引き取る際は、受付で番号を言って鍵を渡し、役人の立会いのもと目録もくろくを確認して、問題なければ引渡し終了。


 ということらしい。

 かなり面倒な手続きではあるが、盗難が疑われるのならば致し方ない。おそらく盗難被害が多いので、このような徹底した管理を行っているのだ。

目録もくろくの確認は一人いれば事足ります。私が残りましょうか?」

「いや、武器があるので、私が残ろう」

 アガタはヒイズの申し出を断った。そういえば彼女は武人なので、武器を持っていてもおかしくはない。カツミは手合わせを経験したこともあり、彼女がどのような武器を用いるのかが少し気になったが、こんを交えたことがあったので、そのたぐいの物だろうと当たりを付ける。

 ふと見ると、傭兵ようへいの男は少しバツが悪そうな顔をして、カツミを見ていた。何があったかと一瞬考えたのだが、ことはすぐに思い当たった。

 男の身長はカツミと同じくらいなので、決して低くはないのだが、アガタの背はカツミよりもずっと大きいのだ。これでは男の立場がないというものだろう。一方で、先ほどヒイズが手につけているかせに、眉を寄せていたので、おそらく彼にも近づきたくないのだ。それならば、容姿が珍しい男の方がマシとでも思われたらしい。


「にしても随分と小奇麗にしてるんですね」

 傭兵ようへいに言われ、一歩下がったところで控えていたココノの頭がわずかに揺れた。それからすぐに目を閉じて頭を軽く下げる。するとヒイズが愛想よく笑みを浮かべ、さりげなくココノを背に隠した。

「ああ、彼女はもともとグウ采女うねめをしていましたからね」

「すれはすごい。……って、今は采女うねめなんて形だけか。器量きりょうのいいんで、羨ましいですよ」

「ありがとうございます。アガタ殿、武器は私がお持ちしますので、やはり私が残りましょう。……お前は皆と行きなさい」

 ヒイズはアガタにそう言うと、彼女も心得たと頷いた。それから、ココノに対して少し低い声で指示を出す。ココノが礼をすると、三人は馬車くるまの保管所の出口へと向かう。馬車くるまが出入りする扉は、鉄製で、車輪のついた大きな門戸もんど開閉かいへいするようになっているが、人の出入り口はいたって普通の、木製の小さめの扉だ。

「……」

 カツミがチラリと後ろを盗み見ると、ヒイズは目録もくろく作成のために、傭兵ようへいと話していた。少し後ろを歩くココノと目があったが、彼女は瞬きするように目を伏せるだけだ。前を歩くアガタは後ろを振り返ることもなく、落ち着いた様子で歩いている。



「アガタだ。先ほどあずけた、合口あいくちを返してくれ」

 アガタはそう言って、受付の男性に赤い紐飾りを差し出した。受付の者は頭を下げると、背後の棚の番号を確認し、それから同じ色の紐が結び付けられた武器を確認する。よく見ると一つ一つ違う色と結び方の紐飾りが付いており、それで判断しているらしい。

 棚には裏板が付いていないらしく、向こう側の景色もはっきりと見て取れる。どうやら受付の向こう側は、棚をはさんで馬車くるまの受付になっているらしい。

「武器は馬車くるまにあるんじゃないのか?」

 合口あいくちとは、つばのない短刀のことだ。アガタは武器が馬車くるまにあると言っていたはずなのだが、受付でも武器を受け取ろうとしている。

「ああ、それは戦などで使う得意武器でな、こちらは普段から持ち歩いている物だ」

 さすが武人、普段から武器を持ち歩いているらしい。それも、今までカツミが気付かなかった事を思えば、隠し持っていた物だ。しかしせっかく隠し持っていた物を預けてしまっては、隠し武器ではないだろう。それとも隠し武器も他にあるのだろうか。


「それから、手首にかせをつけた癖毛の男に、“潮騒亭しおさいてい”に来るように伝えてくれ。ああ、背は小さめで―――」

「俺と同じくらいだ」

 アガタはヒイズに言伝ことづてを残そうとしたようなのだが、彼とカツミ自身の名誉のために訂正する。大柄なアガタから見れば小さく見えるかもしれないが、二人共背は低くない。

 受付の傭兵ようへいは、少し戸惑ったように苦笑くしょうを見せている。一方でココノは特に表情は変えていないのだが、視線を下げている。もしかしたら、こちらも呆れているのかもしれない。

「そうか、そう言えばよかったのだな」

 アガタはあっけらかんとしているが、カツミとしては重要なことだ。ヒイズの背が低いということは、大して身長の変わらないカツミまで低いことになってしまう。

「か、かしこまりました。それではこちらをどうぞ」

 アガタが差し出された革袋を受け取り、手早く中を確認すると、足早に出口へと向かう。カツミとココノも小走りでそれに続く。少々足が速いのは、足の長さの違いではない。と、カツミは心の中で断言した。

「“白魚亭しらうおてい”じゃないのか?」

「なにがだ?」

 役所を出たところで、カツミが尋ねた。石造りの地面は、人が歩くたびにコツコツと音を立てる。多くの人の足音と、話し声が混ざり合った雑踏ざっとう合間あいまに、波の音が聞こえる。建物のせいで見えないが、ここは港町なのだ。鼻をかすめるしおの匂いは間違いない。

「宿だ。“白魚亭しらうおてい”じゃないのか?」

無法者むほうものの勧めた宿に行くつもりか?」

 と言われ考える。“白魚亭しらうおてい”は、町に入る際に教えられた宿だ。確かに、門番をしていた傭兵ようへいは、あまりいい人物ではないのだろう。あのような者が門番であれば、無法者むほうものを引き入れるとも言っていた。それならば勧められた宿も、やはり良い宿ではないのかもしれない。

「カツミ様、“潮騒亭しおさいてい”は、軍が贔屓ひいきにしている宿なのですわ」

「さすがココノ殿、よく覚えていたな。少々不自由をいることになるやもしれないが……」

「今が身分不相応の贅沢であるとわきまえているつもりでございます。どうかお気になさらないでくださいませ」

「?」

 どうやらこの様子では、最初から“潮騒亭しおさいてい”に停泊ていはくすることは決定していたらしい。しかしそのあとの話はやはり理解できない。一つ一つの説明を求めたいところではあるが、面倒でもある。ここは二人を信用して、自分が知る必要ないことだったと考えておく。

 ……はて、自分は面倒くさがりなのだろうか。

「ぶっ」

 思考に耽っていたら、歩みを緩めてしまったらしい。いつのまにか、前を歩いていたアガタの背中に、顔面をぶつけてしまった。アガタはさすがとでも言うべきか、カツミが情けなくなるほどに堂々としており、すぐそばのココノは小さな体でおろおろと、所在しょざいなさげに手を振っている。

「“潮騒亭しおさいてい”は広場を通って、港沿いに出る。はぐれると追い剥ぎに身ぐるみをはがされるぞ」

「……物騒だな」

 アガタの口ぶりでは、この街を一人歩くだけでも危険と言っているようだ。しかしカツミは弱くはない。アガタと手合わせができるほどなのだから、むしろ強い部類ぶるいである。というか戦いのために召喚されたこともあって、戦いは得意なほうだ。にも関わらず、この扱いは納得がいかない。

「この人ごみだ。北の貧困街スラムの者は特に手癖てくせが悪い。目をつけられると厄介だぞ」

「わかった」

 カツミは気持ち半分で聞き、適当な返事を返した。実際に人が多いので危険なのだろうが、背の高いアガタはいい目印だし、カツミは特に貴重品を持ち歩いているわけでもないので、大きな注意事項はないはずだ。

 歩けば人の数は、役所のあたりとは比べられないほどに増え、歩きざまに人と肩を触れ合うほどになっている。途中に、カツミの髪色が珍しいのか、チラリと視線を感じることもあるが、まあ害はないだろう。


「どこを見ている!!」

 ふと、大声が聞こえ、そちらを見ると、男が声を荒らげていた。人ごみの中であまり見えないが、誰かと揉めているらしい。

「ごめんなさい。あの、ぼく、人が多くて見えてなくて……」

 男はでっぷりと太り、見たところ商人といったで立ちだ。対する人物は、おそらく男にぶつかったのだろうが、小柄で姿が隠れていること、澄んだ高い声を持っていることから、子供と思えた。子供相手に目くじらを立てる様子は、余りにも大人気おとなげがなく、もじもじと怯える少年が、哀れだった。

 周りの者は、かかわり合いにならないようにしているのか、チラリと脇目で見ているようだが、声を掛けようとは考えていないらしい。カツミも何事だろうとは思ったが、声をかけるわけではない。視線を向ける全員が、カツミと同じくして、この先どうなるのかという興味を向けているのだ。

「ごめんなさいっ!!」

 少年はそう言い残して、人ごみを縫うように消えていった。すると、憤慨した男の鼻息が聞こえるばかりで、周囲の人間も興味をなくしたようだった。

 カツミが妙な物を見かけたのは、そのあとだ。


 男のふところに、何者かの手が伸びた。


 男のふところから抜かれた何かは、その手の主のふところへしまいこまれ、また別の手がその者のふところへと伸び、ふところの何かは別の者のふところへしまわれる。この人ごみの中、何故それに気づいたのかはわからない。少年を怒鳴りつけた商人のふところにあった物は、次から次へと人の手からふところへとしまわれ、次第にそれは見えなくなっていた。

「カツミ、はぐれるぞ」

「……ああ」

 先ほどのようにアガタに声をかけられ、カツミはまた、歩き出す。今見た物は、おそらく集団の掏摸スリだ。もしかしたら最初の少年が標的ひょうてきを決めているのかもしれない。少年が選んだ男を標的ひょうてきに、掏摸スリを働く。それをふところに入れたところで、別の者がかすめ取り、またふところに入れる。

 この人ごみの中だ。たとえ見つかったとしても、標的ひょうてきが最初の掏摸スリを捕まえるには時間を要する。その間に別の者が掏摸スリを働くことで、取った物を移動させる。標的ひょうてき掏摸スリを働いた者は、奪った物を持っていないので、追求されたところで、罰することは難しいだろう。

 ―――頭がいい。

 口に出すことは簡単だが、カツミはそれを見るだけにとどめた。面白いからだ。商人の男も感じのいい人物に思えなかったので、放置したところで、カツミの良心が痛むこともない。

 気が付けば、カツミの足は、商人の男のふところから取られた物が消えた、人ごみの中へと歩き出していた。
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