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三*罪と浄化

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「で、徳くん、どうするの? このまま離婚に持ち込むの? あなたの子を身ごもったあの子を置いて、借金まみれの女と結婚するの? あなたを一途に思ってくれてる、彼女を捨てて?」
 私の問に、徳くんは震えた。小刻みに震え、まるで、天敵を目の前にした草食動物のよう。
「…まぁ、どっちにしろこの件は、芹菜には伝えるわ。泣きべそ書いて謝り倒すことね。双方への慰謝料請求も覚悟しなさい」
「いい加減にしなさいよ! さっきから何もかもを知った口ぶりね! 前のヤツだって、アンタが探偵だのなんだの雇わなければ、騙し通せたのよ? なんで邪魔するのよ!」
 ファミレスという小さな空間の中で、大きな叫び声をあげる女。確か、晴美さん、と言うらしい。知恵は嫌そうに目を鋭くさせ、舌打ちをする。
 ファミレス中の賑やかなはずの声も、デパート特有の騒がしさも失った一つのテーブルでは、淡々とした冷徹な時間が過ぎていく。
 知恵は重い口を開いて、まるで言い聞かせるように言った。
「あのねぇ、晴美さん。あたしはね、実害さえ来なければ何でもいいのよ。あんたが誰と結婚使用が構わない……でもね、今回と前回は、あたしに実害が及ぶの。兄貴を不幸にしたくなかったし、友人に不幸になって欲しくない。人間のモラル的に当たり前でしょう? それくらい、あなたでも分かるでしょ? 友人が妊娠して、それが友人旦那で、みんなで嬉しくて祝いを買いに来たら、友人の旦那が浮気をしてた。それを、あの子に伝えたらどれだけ傷つくと思う? 人間的価値を捨てたあなたでも、それ位はわかるでしょう?」
 知恵の言葉により、肌寒かった空気は、さらに凍てついたようだ。
 和樹は二人に真っ直ぐな目を向けた。
「徳お前さ、やってることが人としてまずいこと、っつうのは、理解してるよな?」
「…………はい」
「なら、芹那には隅から隅まで伝えて、許されないとしても謝罪して、罪を償うのが、お前のやるべきことなんじゃないか?」
 和樹の言葉に、徳さんは重々しく頷いた。その通りだ。
 たとえ許されないとしても、きちんとまずは謝罪をしなければならない。
「晴美さん。場所が悪いけど、あなたにも謝罪をしてもらうわ。私達の友人にも、徳にも、私の兄にも、あなたの家族にも」
「はぁ? 意味わかんない! ちょっと遊んだだけでしょお? それなのに………二回も私の未来を妨害したのよ! 慰謝料払いなさいよ!」
「そう言うのは、法的に見てもらいましょう。まあ、あなたの方が圧倒的に不利だけど」
 冷たい目を向け、知恵は芹那の待つ病院へ、明日行く、と伝える。
 万が一逃げたら、弁護士と警察を交える、と伝え、私たちは作戦会議に家へ帰った。




「ねえ…私の友達が浮気されててさ…旦那はもちろん、不倫相手に制裁を下そうと思うんだけど…何がいいかな?」
 家に帰り、私はお酒を飲む彼氏に聞いた。彼はお酒をセーブできる人だし、きちんと会話になるので問題は無い。
 彼は私の顔を見ると、
「そういうやつは世間体を気にする事がねえから、社会的には落としづらいんだよ。だから、周りから崩した方がいい。友好関係とか、異性関係とか」
 彼はそう言うと、明日持ってけ、とボイスレコーダーを渡してくれた。
「…なんでこんなの持ってるの?」
「取引先が変なことしないように、一言一句レコードしてるんだよ。前うちの会社、取引先がそんな事実ないとか、書類はでたらめだ、とか言って取引を途端に打ち切りやがったからよ。全員、レコードするよう言われてんの」
 彼の会社が意外に恐ろしいことを知った………

「俺らもいつ結婚するか決めねぇとな」
「それもそうだね」
 さて、明日を楽しみにしよう
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