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二・嘘つきとピエロ
しおりを挟む「徳くん?」
私が声をかけると、徳君は、何でいるの? という目を向けながら、固まった。「お前、何してんだよ……」
和樹の、疑う低い声がした。賑やかなデパートの音は、私の耳からは消えていた。
「絵里奈ちゃん、和樹くん、知恵ちゃん…どうしてこんな所に……」
「こちらが聞きたいわね。それに……そっちの女、見かけた事がある気がするの。悪いけど、お顔を拝見させてもらっても宜しくて?」
知恵は少し低い声でそう、聞くように命令した。
「ど、どうして?」
「どうしてじゃないよ。芹菜が妊娠してる時に、どうしてほかの女性と、しかも親しげに歩いてるの? もしかしてご家族? 疚しい関係なんてないよね?」
私の問に、彼は何も言わなかった。
知恵は何もかもがわかったように、ドスの効いた声で言った。
「おい…そこの女…もうてめぇの名前はわかってんだよ……晴美さん」
晴美さん?
知らない人。高校にはいなかった。それより、どうして知恵は、女の人の名前を知っているんだろう。女の人は、名前を呼ばれた時にビクリと方を震わせていたから、ビンゴなんろう。
「知ってる人?」
「昔、うちの兄貴と付き合ってたんだけど、借金こしらえて兄貴に払わせようとして離婚したの。借金プラス慰謝料で、相当の額を背負ってるはずだけど……返済しきったのかしら? 兄貴への慰謝料返済も、ストップしたから、親の方が払ったって聞いてるけど?」
知恵は女の人を、逃しはしない、という目でジト目。徳くんは、そうなの!?とか言ってた。
「で、お前ら、どういう関係なわけ? 場合によっちゃ、弁護士入れてお話しないとなぁ?」
「晴美さん、またお金背負う気なのね。どこまで借金背負ってとんずらできるかしら?」
「徳くん、悪いけど白状して? 芹菜が可哀想だよ、こんなの…妊娠して、大好きな人の子供を身ごもった、って嬉しそうだったのに」
私たちの言葉に、ファミレスに行って話すよ。という徳さん。女の人は「私は行かない!」「関係ない!」「名誉毀損よ!」と、謎の言葉を放っていた。
そんな彼女は、知恵が引っ張ってくれた。
「ふじこってんじゃねぇよ…」
「ふじこる?」
「ごめん、2ちゃん民の言葉」
何やら喚いている、という意味らしい言葉を吐き、和樹くんはイライラしたようだ。
「で、徳。晴美さんとどんな関係で?」
「……出合い系で。最近、芹菜が体調不良ってずっと言ってて、ご飯も付き合ってくれなくて…前は労ってくれてたりしたけど、今は床にずっと伏せてる…」
「そりゃ……当たり前よ。馬鹿なんじゃないの? 妊娠の予兆よ! バッカみたい!!」
ファミレスで叫ぶ知恵。流石に公共の迷惑になるので、私と和樹くんで抑えた。
「………ごめんなさい。少し取り乱したみたい。もう平気よ」
深呼吸を繰り返して、知恵ちゃんは少し微笑むと、また緊張感漂う表情に戻った。
「……芹菜の体調不良は、妊娠すると起こるものよ。多分、吐き気目眩嘔吐…そんな感じだったでしょう?」
「あ、………嘘…だって晴美さんは、あなたに愛想が尽きたんだって…」
「それを本人に確認もせずに、理解した気でいたの?」
知恵のその問に、彼はバツの悪そうな顔で頷いた。
「…妊娠の際に出る症状を、徳さんは把握してなかったんですか?お医者様から、お話は行くはずですけど?」
私の問に、彼は
「その時、何故か新人たちがいきなりやめはじめて、会社もバタバタしてて…嫁の容態すら、嫌なように見えて…医者から説明を受けたのに、忘れてたんだ…労いの言葉が欲しくて、彼女の暖かい笑みを見せて欲しくて……」
彼はきっと、精神が疲れてしまったんだろう。
でも、それが嘘をついて、騙していい理由にはならない。
「で、晴美さんも、借金なんてないですよ~、恋愛経験ゼロですよ~、と嘘を固めて彼とあったわけね? 自分の借金をチャラにしてもらう金鶴を見つけて、逃がさまいと、離婚させてまで? 親に金すら返せないやつが、出合い系なんてやるんじゃないわよ……ケバイピエロと嘘つき。いいカップルね?」
知恵はそう言って、静かにふたりを凍てつかせていった。
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