真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE1:藤堂直文

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《赤城拓哉》
杉山総合病院に到着するとメガネの男の研修医が出迎えた。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。手術室に運ぶぞ」

藤堂はぐったりとしている。
かなりの出血をしているから当然だろう。
「輸血を急げ」
術衣に着替えて手を洗う。
メガネの研修医も震えながら手を洗っている。
「名前は?」
「細井です」
「細井、落ち着け!」
「は、はい」
「行くぞ!」
メガネの研修医を連れて手術室に入った。

機械出しの若い看護師が叫ぶ。
「早くして下さい。血圧は維持していますが、いつ急変してもおかしくありません」
「藤堂さんよ、死ぬなよ!俺の借金を帳消しだ!」
「あなたは何を言っているんですか」
「何でもない。人工心肺は準備出来ているか?」
「はい、大丈夫です」
「開胸する。電メス!」
俺は胸を開き、肋骨を開く。
心臓が見えた。
銃弾が貫通して穴が空いている。
人工心肺を素早く静脈と動脈につなぐ。
「ポンプオン!」
人工心肺を経由して血液が体を巡っていく。
「赤城先生、もう無理ですよ。穴なんか塞げません」
俺には誰にも言えない力がある。
これは母から受け継いだ力だ。
メスで心臓を切り開く。
メガネ君が慌てて頭を抱える。
「あんたは馬鹿か!もう、無理だよ。この人が殺した。そして、僕も片棒を担いでしまった」
「うるさい。少し黙ってろよ。俺の借金がかかっているんだ」
俺は心臓中央の穴に手を当てる。
「ちちんぷいぷい、痛いの飛んでけ」
これが俺の呪文だ。
細胞を活性化させて良品の細胞を分裂させて増幅させる。
縫うふりをしながら心臓の穴を良品の細胞で再生した。
「よし、完了だ」
「何が起きた?」
「ポンプオフだ」
人工心肺が止まる。
「さあ、動けよ!」
心臓が再び鼓動し始めた。
ヨッシャー!
借金が消えた!
「閉じるぞ」
俺はウキウキで閉胸した。
「藤堂さんよ、また、来るよ。その時は借金返済の証明書と一千万を用意しとけよ!じゃあな」
俺は眠っている藤堂に声をかけて手術室を出た。
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