真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 2:上原さくら

帝都医大

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《赤城拓哉》
藤堂から連絡があったのは一ヶ月後だった。
勤務先は帝都医大の総合内科だ。
希望は外科だと言ったのに、空きがそこにしか無かったらしい。

藤堂が病院から徒歩で十五分ぐらいの場所にマンションを借りてくれていた。
それは有難い。
内科の事務所にいくと早速の仕事だ。
先輩医師の柄本孝男からだ。
ひょろっとした細身で幸が薄そうに見える。
「おい、新人、外科にカルテを持って行ってくれ」
「俺が?」
「外科への配達は新人の仕事だ」
「はいはい」
俺は柄本から封筒を受け取り、事務所を出た。

この病院では外科の奴らが一番偉い。
だから、人によっては威張りちらしているらしい。
外科の事務所に入る。
封筒の宛先は織田裕太だった。
外科のエースらしい。
「外科の織田先生はいますか?」
奥の席に座る一人が手を挙げた。
「俺だ。持ってこい」
なんて偉そうなんだ。
俺は新人だと自分に言い聞かせて封筒を渡した。
「じゃあ、帰ります」
「待てよ。これはなんだ?」
「カルテだけど」
「こんな末期を助けられるか?少しは考えろ」
そう言って俺にカルテをぶつけた。
落ちたカルテを拾う。
確かに救えないな。
だけど、織田の態度は無いだろう。
腹が立つ。
「さすがのエースも無理か。外科的治療を希望していたが、内科で診るよ」
「は?治すだと。眺めているだけの内科に治せるわけないだろ。笑わせるなよ」
「諦めて少しも考えない外科よりマシだろ」
「お前、名前は?」
「お前に名乗る名前などない」
俺は外科の事務所を出た。
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