四人の勇者

福澤賢二郎

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無能の勇者

12.仕事

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《天野翼》
宿屋で代金を払い、馬屋の前に集まった。
傭兵達は準備を整えて次々と出発していく。
「みんな、第三領の勇者の所へいくのかな」
ファンが蒼い瞳で僕を見詰める。
(ねぇ、アリスと私、どっちが好きなの?)
「えっ、突然、何を言い出すんだ」
(昨日だって、結局はアリスと私の両方を抱き締めて寝てたでしょ)
「う~ん、じゃあ、一つ教えてよ。ファンは何者?」
(まだ、教えられない)
「じゃあ、俺も教えない」
(ず、ずるいよ)
アリスとサイラスが愛馬を連れてこちらに歩いて来ているのが見えた。
「さあ、行くよ」

僕達は街の薬屋に向かった。
傭兵達は文句を言いながら店を出てくる。
アリスが覗き込むように僕を見た。
「ツバサ様、どうしますか?」
「入ってみようか」
「はい、サイラスは馬を見ててもらえる?」
「承知しました」
僕とアリスは馬をサイラスに任せてお店に入った。
ファンは壁をすり抜けて入ってくる。
(薬がほとんど無い)
「どうしたんだろう?」
アリスが不思議そうに僕を見る。
「誰かそこにいるんですか? 時々、見えない誰かと話していませんか?」
「そ、そんな事ないよ」
「昨日の夜も私以外の誰かがいました。う~ん、そんな風に感じました」
「また、話すよ。今は薬を買おう」
アリスはクスッと笑う。
「買いたくても薬がありませんね」
「本当だね」
若い女性の店員さんが申し訳ない表情で頭を下げる。
「すみません。全て売り切れてしまいました。それに薬草が無くて」
「どうして?」
「良質の薬草が取れる地域の近辺で魔王軍と第三領の勇者様が戦っているために取りに行けないんです。だから、戦場でも戦死者が多数出ています」
「そうか。でも、薬が無いと困るな」
「すみません」
アリスが閃いた様な表情をした。
「ツバサ様、薬草を取りに行きましょう。そして、皆さんが必要な薬も供給できるし、資金も稼ぐ事が出来ます」
「そうだな。みんなを助けよう」
店員さんが頭を下げる。
「宜しくお願いします。高い価格で買い取らせて頂きます。どうか、宜しくお願いします」

僕達の目的が決まった。
薬草を確保して資金を増やそう。

さあ、出発だ!
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