偽聖女の濡れ衣を着せられて追放だそうですが、本当にいいんですね?

とーわ

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第九話

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 娘さんに連れられて馬車のところまで行くと、木にもたれかかってお父さんが休んでいた。怪我をしているので、私から申し出て手当てをさせてもらう。

「まあ……治癒魔法が使えるんですか?」
「ええ、少し心得があります」

 そう言いつつも、私が魔法を使っているんじゃなくて、肩に乗っているナーヴェが『再生』の力を使っていたりする。

 神殿に『治癒師』はいたし、神官には必須とも言われているけれど、そういった人たちの治癒魔法ではすぐに怪我は治らないし、重傷は手に負えない。

「ああ……痛みがすうっと消えて、楽になりました。ありがとう、親切なお嬢さん」
「いいえ、どういたしまして」

 こうやって感謝を伝えてくれる人に対しては、治癒魔法を遠慮なく使うことができる。

 感謝は『信仰』に通じるものがあって、私のことを崇めるというわけではないけれど、感謝してもらえると、その気持ちが私の力になる。正確には、私に向けられた感情を魔力に変えられるということになるけど、負の感情はあまり貰いたくない。魔力に変えても「あてられて」しまうから。

「改めまして、私はローラング商会のダグラス・ローラングです」
「私は娘のミシェル・ローラングです。助けていただき、ありがとうございます。あなたが来てくださらなければ、今頃私たちは……」
「私の方こそごめんなさい。あの人たちは、私をとらえたかったみたい」

 事情を全て説明すると、この親子を深く巻き込むことになってしまう。私が聖女だったことは話さずに、捕まって奴隷にされそうになったというだけで済ませておいたほうがいい。

 彼らが兵士の格好ではなく、野盗の装いに着替えていたのは幸いだった。兵士の姿だと、さすがに帝国軍だとすぐに分かってしまうから。

「治癒魔法だけでなく、他の魔法も色々と使いこなされるようですね。それほどの方が、なぜこのような山の中に……」
「ええと……修行をしていたんです。この子と一緒に」

 完全に子犬のふりを続けているナーヴェ――この子の愛嬌は文字通り魔性に近いものがあって、少し無理のある話でもあっさり通せてしまう。

「それほどの修行によって得た魔法で、彼らを倒したと……私も若かったら習いたかったものです」
「お父様、魔法は個人の素養が大きく影響するものなのよ。後天的に魔法が使えるようになる人はほとんどいないというわ」

 ミシェルの言う通り、魔法の力は生まれつき持っているもので、個人で適性が違う。

 私が聖女として見いだされたのは、私の魔法が聖女の役割を務める条件を満たしていたから。歴代の聖女がみな、私と同じ召喚術を使っていたわけじゃなくて、聖女の形にもいろいろある。

 人々が想像するのは、祭礼用の衣装を着て大々的な儀式を行い、国の未来を占ったり、凶作や疫病から救われるように祈ったり――それも、確かに効果はある。

 私も違う形ではあるけど、毎日のように祈っていた。他の聖女が祈りが届くように願い続けるものなら、私の場合は、祈りの対象となる天界や魔界の住人を召喚術で呼んで、直接交渉をするという形になる。

 このナーヴェはそうやって呼び出したわけではなくて、私が聖女になる前からの付き合いだった。

「あの……魔法使い様、よろしければ、お名前をお聞かせいただけますか」

 ミシェルがおずおずと聞いてくる。彼女は私と年齢が同じくらいに見えるけれど、出会い方が出会い方だったから、私に対して緊張してしまっている――せっかくだから、もう少し打ち解けられるといいんだけど。
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