忘れられない貴方へ

白詰えめ

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色褪せぬままで

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 恋ってなんなのかってわからなかった。でも、好きで好きでたまらなくてその人のことを考えると胸が暖かくなる、そんな人はいた、でもこれは恋だったのだろうか。私の好きな人は同性だった。

 高校2年生の春、彼女は転校してきた。
「はじめまして一条彩瀬と言います。よろしくお願いします」
それが彼女とのはじめての出会いだった。
「一条さんってさ、両方苗字みたいだね」
初めてかけた言葉がこれってちょっと反省してる、もっと何かあっただろうって思う。
それでも彼女は笑って。
「はじめて言われた。自分で不思議なところだと思ってるのに、みんな言ってくれないんだよね」
「あはは、そうなんだ。あ、私佐藤ユキ。ねえよかったら彩瀬って呼んでいいかな?」
「もちろん!じゃあ私もユキって呼ばせてもらうね」
彼女はいつも笑っていた。
かわいい彩瀬はすぐにクラスの人気者、マドンナ的存在になり沢山の友人が出来ていた。誰とでも仲良く出来るような優しい子だったから。私なんて、彩瀬にとっては、ただのクラスメイトなんだなって少し寂しく思った。
「最初に話しかけたの私なのに」

 いつも通り教室でご飯を食べようとしたら、他のクラスの子が私の席を使って友達とご飯食べてたから、気まぐれで屋上に行った。そしたら、いつも昼休みになったら消えるよねって言われてた彩瀬がいた。一人でご飯を食べていた。

 突然現れた2人っきりの空間にドキドキした。同性なのになんで?なんて思ったけど、きっと屋上で食べるのが初めてだから、そう思った。私が立ちすくんでいると、彩瀬が声をかけてきた。
「あれ?ここに人が来るなんて珍しい。せっかくだし一緒に食べよ」
そう言われ、私は大袈裟に頷いて。隣に座った。
「ユキはいつも教室で食べてなかったっけ?誰かと喧嘩した?」
そう心配そうに聞いてきた。
「ううん。ただ、他のクラスの子が席使ってて」
「あー、とうとうユキの席も使われたかー」
「もしかして彩瀬も?」
「そうそう、他の子が使ってたから、ご飯邪魔するの悪いなって思って、」
彩瀬らしい答えだった。私はただ、声をかけるのが怖かっただけなのに。


「ごちそうさまでした」
彩瀬はそうつぶやいて弁当を閉じた。昼休みもまだまだ時間があったため彩瀬が話しはじめた。
「長い髪っていいよねなんだか女の子っぽくて」
中庭でおしゃべりしてる女の子たちをみて言っているようだった。
「髪は女の命っていうぐらいだしねー」
ユキがそういうと、彼女はふふと笑って
「たしかに、そうね」
とつぶやいた。

その日から私は髪を伸ばした。

 屋上で2人で昼食をとるのが日課になった。一緒にたわいもない話をして笑う、ただそれだけ。でも、とても楽しかった。

いつしか、クラスで彼女を目で追うようになっていた。彼女を見ると胸がドキドキとしていた。
「ねえねえユキちゃんって好きな人とかいないの?」
クラスの女子がきいてきた。もちろんいないよ、と適当に返したが。私は内心ドキっとした。でもまだ恋とは限らない。きっと違うんだ。そう言い聞かせてきた。

 今日もいつも通り屋上へ向かった。
「ユキ髪伸びてきたね、前短かったのに。長いのもかわいいね」
そう髪を触りながら笑っていた。ドキドキが止まらなかった。
「たまには伸ばしてみようかなって思って」
きっと声が震えていたと思う。
それから少しして彩瀬が言った。
「ユキって好きな人とかいないの?」
ビックリした。
「急にどうしたの?」
なるべく笑いながら言った。
「ユキとガールズトークってやつをしてみたいなーって思って」
なんだ、そうゆうことか。ホッとしながらもちょっと残念なんて思ったりもした。
「なるほど、うーん。居るけど教えなーい」
いないって言うつもりだったのに、言葉が勝手に出てきた。
「えーー。教えてよー」
「いや!彩瀬は好きな人いないの?」
「私は、、。居ないかな」
「そっかー。聞こうと思ったのに!」
「ふふふ」
ユキだよなんて期待してたが、
いないと聞いて、安心した。

時間はあっと言う間にすぎた。彩瀬と初めて会ったのは高校二年生の時だったのにいつのまにか高校三年生の二学期になっていた。この頃には、もう、恋だと確信した。気持ちを伝えようか迷っていた。

 休日のある日彩瀬と町であった。せっかくだから一緒にカフェ行こうよ、と言われてついて行った。
「もうすぐみんな離れ離れだねー」
寂しそうな表情をしていた。
「そうだね」
やっぱり会えなくなっちゃうのかな、彩瀬とも。そう思うと焦りに襲われた。
「ねえ彩瀬私ずっと言いたいことがあって。聞いてくれるかな?」
言ってしまった。もう後戻りは出来ない。
「いいよ。なんでも言って」
そう言う彼女の目はなんでも見透かしているように見えた。鼓動がはやくなっていく。
「じ、実は、ずっと、前から彩瀬の事が、好きです。その、付き合ってくれませんか?」
そう言うと彼女は一瞬驚いて、すぐ微笑んでくれた。
「いいよ」
と短く言った。

 それから2人で色んなところに行った。一緒にイヤリングを作って交換をしたり、日記を書きあったりもした。ひたすら彩瀬と楽しい日々を過ごして、このままずっと幸せだってそう思ってた。

 だが、「卒業おめでとうございます。」というお決まりの言葉から始まった卒業式が終わり、とうとうこの学校ともお別れの日がやってきた。私がぼんやりと学校を見つめていると、後ろから足音が近づいてきた。
「ユーーキ!卒業おめでとう!」
そう言って彩瀬が抱きついてきた。
「ありがと。彩瀬もおめでとう。」
そう言うと私の大好きな満面の笑みになった。
「ねえ、今から暇?」
「もちろん」
「じゃあついてきて!」
彼女の後ろをついて行った。階段を駆け上がって屋上に着いた。
「もうここには来れないのかー」
そう寂しそうに彩瀬が笑った。
そして、
「私ね、成人したら結婚しなきゃなんだって。
お家の決まりで、逆らえないってお母様が言ってた。」
え。私は唖然とした。何も言葉が出て来なかった。
「だから。ごめん。ユキ私を振って。」
嫌だ。でも彩瀬のためなら。嫌な気持ちをグッと堪えた。
「わかった」
涙が溢れてきて止まらなかった。震えが増し続ける声で「彩瀬別れよう」と言った。
「あーあ。振られちゃった。大好きだったのになぁ。」
そう寂しそうに笑っていた。
「でも親友としては仲良くしてくれる?なんてわがままかな?」
彼女のそばに入れるならなんでもよかった。
「もちろん。仲良くする」
そう言うと。彼女は嬉しそうに笑った。
「ありがと」

 そらから、一年経ってからだ。再び彩瀬と会ったのは。街中でたまたまあった彩瀬は変わらない姿でそこにいた。私が声をかけると。
「ユキ!久しぶり!なんだか、ここにいたらユキに会える気がしたんだよね」
と笑った。
「じゃあカフェ行く?」
「うん!」
彩瀬が笑った。
「最近どう?」
「うーんやっと仕事に慣れてきたって感じかなー」
「そっかー。よかった」
「彩瀬は?」
「私はねー。ずっと家の中。今日は抜け出してきちゃった」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫。そういう決まりだから」
「そっか」
こんなことしか言う事が出来なかった。もっと気が利いた事を言うつもりだったのに。

時間が過ぎるのは早かった。
「久しぶりにユキと会えて嬉しかった!またね!」
そう手を振ってくれた。高校時代一緒に作ったイヤリングが綾瀬の耳で揺れていた。送ろうか?と聞いたが、バレるとダメだからって、そこで分かれた。

 それから彩瀬に会うことはなかった。だけど、きっと、それで良かったのだ。彩瀬は私の存在など忘れて、きっといい家庭を築いているそう思うことにした。そうでなければ。いや、これ以上は考えても仕方がない。

 甘酸っぱい青春を味わえた喜びは、思い出として永遠に残るだろうと思う。過ぎたことは決して変わらないのだから。
「彩瀬大好きだよ」
1人でそっと呟くと、久しぶりにつけた彩瀬が作ってくれたイヤリングの鈴がリンとなった気がした。
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