4 / 13
食堂
しおりを挟む
食堂は学生で賑わっていた。学食で何かを購入した生徒だけでなく、校内のコンビニでカップラーメンを買った生徒、ただ喋りに来ている生徒など、多くの生徒が昼休みはここに来る。キャンパスの食堂は三階まであり、それぞれのフロアも大きいのだが、席を探して彷徨っている生徒が多くいる。
「いただきます」僕は手を合わせた後に、三百七十円のカレーライスにスプーンを入れ、口に運んだ。決して美味しくはないが不味くはない。値段を考えると文句は言えない。しかし、美味しくはない。そんな学食のカレーライスを食べながら、不味く作るのが難しいのが、カレーライスの利点なのかもしれないと僕は思う。そのことを正面にいる牧野に伝えようとしたら、目の前にあるコロッケパンを食べずに僕を見ていた牧野が口を開いた。
「あなたはいつも、いただきますを言うね」
僕は口の中のカレーライスを飲み込んでから、
「普通じゃないかな」と返答する。
「いいや、普通じゃないよ」タイミングよく、女子大生の四人組が、僕らの横の空いたスペースに座る。僕と牧野は口をつぐみ、それとなく隣に視線をやる。
四人組は流行りの韓国アイドルの話で盛り上がりながら、なんとなく食事を取り始めた。僕から見て一番遠くに座っていた子だけが、控えめに手を合わせて「いただきます」と小さな声で言っていた。
牧野はほらね、と言う顔でこっちを見る。
「言わないことが悪いとまでは言わないけれど、言った方が良いだろ」と僕は彼女たちに聞こえないように言う。
「それは間違いないね」と牧野は返すと、「いただきます」と言いパンを食べ始めた。
「牧野だって言ってるじゃないか」
「私はあなたが毎回言うのを見て、ちゃんと毎回言うようになった。それまでは言ったり言わなかったり。一人の時は言わないことの方が多かったと思う」口元についたコロッケの衣を拭いながら牧野は続ける。
「あなたには色々と尊敬できるところがる」
僕は牧野の言葉に照れ臭さを覚える。牧野はどんな言葉でも淡々と伝えることができる。
「今日の授業は何だっけ?」
「二限が日本近代文学で、三限が第二外国語、四限がロシア文学という名の、ドストエフスキーの授業ね」
「良いな。文学部の授業は楽しそうだ」
「あなたは、文学部じゃないからそんなこと言えるの。実際に受けてみたら失望すると思う。本を読んでた方が面白いわ」牧野はため息をつく。
「けど面白いところもあるだろ」
「それはあなたの授業でも一緒でしょ」
「まあ、それはそうか」
僕はカレーライスを口に運んだ。
「ここのカレーって美味しいの?」牧野がコロッケパンを持ちながら聞いてきた。キャベツがテーブルの上に落ちている。
「不味くはないけど、おいしくもない。値段を考えると文句も言えない。そんな感じの味」僕は先ほど思ったことをそのまま口にする。
「何それ、一口食べて良い?」
「どうぞ」僕はカレーの皿を牧野の方に押し出す。牧野は僕の使っていたスプーンをそのまま使い、カレーを口に運んだ。
「本当だ」牧野が口を押さえ、少し笑いながら言う。
「だろ」そう言って僕は皿を自分の前に引き戻したが、何となくすぐ食べるのが恥ずかし区、そのままにしておいた。
「まあけど確かに、ルーを使っている以上、味の破綻はしないね」
「うん、不味く作るのが難しいのが、カレーの利点だと思うんだ」僕は先ほどの大発見を牧野に伝えた。
「確かに。小学校の林間学校でカレーを作るのも納得」
「牧野もカレーを作ったのか」
「旅行先はバラバラでも作るものは一緒ね」牧野は笑った。
「俺は米がうまく炊けなかったよ」
「明らかにその係が一番重要で難しいよ」
「負担の偏りがすごいよな。牧野は何担当?」
「サラダ。野菜を切ってドレッシングをかけるだけ」牧野はドレッシングかける手の動きをした。
「それは随分と良い御身分だな」
「転校してすぐに林間学校だったからね。そんな大役を任されることにはならないよね」
「そうか。転校はやっぱり嫌だった?一回もしたことのない身からすると、一度はしてみたい憧れの行為なんだけど」
牧野はため息をついた。
「最悪。ハードルの上がった教室に、明らかに人気者になれないタイプの女の子が一人で入って行くの。今でもたまに夢を見るくらいには最悪」
「前言を取り消すよ。転校は最悪だ」僕もどう転んでも人気者にはなれなから、あまり良い思いはできなさどうだ。
牧野は僕の言葉を聞いて少し笑った。
「まあ今楽しい生活をできているから良かったよ。今の生贄だったと思えば悪くはない」
「それならよかった」その楽しい生活に僕が貢献できているのかを聞くことは、できなかった。そう聞いたらきっと牧野は頷くだろうし、そうなった時の僕の顔を牧野に見せたくはなかった。
「いただきます」僕は手を合わせた後に、三百七十円のカレーライスにスプーンを入れ、口に運んだ。決して美味しくはないが不味くはない。値段を考えると文句は言えない。しかし、美味しくはない。そんな学食のカレーライスを食べながら、不味く作るのが難しいのが、カレーライスの利点なのかもしれないと僕は思う。そのことを正面にいる牧野に伝えようとしたら、目の前にあるコロッケパンを食べずに僕を見ていた牧野が口を開いた。
「あなたはいつも、いただきますを言うね」
僕は口の中のカレーライスを飲み込んでから、
「普通じゃないかな」と返答する。
「いいや、普通じゃないよ」タイミングよく、女子大生の四人組が、僕らの横の空いたスペースに座る。僕と牧野は口をつぐみ、それとなく隣に視線をやる。
四人組は流行りの韓国アイドルの話で盛り上がりながら、なんとなく食事を取り始めた。僕から見て一番遠くに座っていた子だけが、控えめに手を合わせて「いただきます」と小さな声で言っていた。
牧野はほらね、と言う顔でこっちを見る。
「言わないことが悪いとまでは言わないけれど、言った方が良いだろ」と僕は彼女たちに聞こえないように言う。
「それは間違いないね」と牧野は返すと、「いただきます」と言いパンを食べ始めた。
「牧野だって言ってるじゃないか」
「私はあなたが毎回言うのを見て、ちゃんと毎回言うようになった。それまでは言ったり言わなかったり。一人の時は言わないことの方が多かったと思う」口元についたコロッケの衣を拭いながら牧野は続ける。
「あなたには色々と尊敬できるところがる」
僕は牧野の言葉に照れ臭さを覚える。牧野はどんな言葉でも淡々と伝えることができる。
「今日の授業は何だっけ?」
「二限が日本近代文学で、三限が第二外国語、四限がロシア文学という名の、ドストエフスキーの授業ね」
「良いな。文学部の授業は楽しそうだ」
「あなたは、文学部じゃないからそんなこと言えるの。実際に受けてみたら失望すると思う。本を読んでた方が面白いわ」牧野はため息をつく。
「けど面白いところもあるだろ」
「それはあなたの授業でも一緒でしょ」
「まあ、それはそうか」
僕はカレーライスを口に運んだ。
「ここのカレーって美味しいの?」牧野がコロッケパンを持ちながら聞いてきた。キャベツがテーブルの上に落ちている。
「不味くはないけど、おいしくもない。値段を考えると文句も言えない。そんな感じの味」僕は先ほど思ったことをそのまま口にする。
「何それ、一口食べて良い?」
「どうぞ」僕はカレーの皿を牧野の方に押し出す。牧野は僕の使っていたスプーンをそのまま使い、カレーを口に運んだ。
「本当だ」牧野が口を押さえ、少し笑いながら言う。
「だろ」そう言って僕は皿を自分の前に引き戻したが、何となくすぐ食べるのが恥ずかし区、そのままにしておいた。
「まあけど確かに、ルーを使っている以上、味の破綻はしないね」
「うん、不味く作るのが難しいのが、カレーの利点だと思うんだ」僕は先ほどの大発見を牧野に伝えた。
「確かに。小学校の林間学校でカレーを作るのも納得」
「牧野もカレーを作ったのか」
「旅行先はバラバラでも作るものは一緒ね」牧野は笑った。
「俺は米がうまく炊けなかったよ」
「明らかにその係が一番重要で難しいよ」
「負担の偏りがすごいよな。牧野は何担当?」
「サラダ。野菜を切ってドレッシングをかけるだけ」牧野はドレッシングかける手の動きをした。
「それは随分と良い御身分だな」
「転校してすぐに林間学校だったからね。そんな大役を任されることにはならないよね」
「そうか。転校はやっぱり嫌だった?一回もしたことのない身からすると、一度はしてみたい憧れの行為なんだけど」
牧野はため息をついた。
「最悪。ハードルの上がった教室に、明らかに人気者になれないタイプの女の子が一人で入って行くの。今でもたまに夢を見るくらいには最悪」
「前言を取り消すよ。転校は最悪だ」僕もどう転んでも人気者にはなれなから、あまり良い思いはできなさどうだ。
牧野は僕の言葉を聞いて少し笑った。
「まあ今楽しい生活をできているから良かったよ。今の生贄だったと思えば悪くはない」
「それならよかった」その楽しい生活に僕が貢献できているのかを聞くことは、できなかった。そう聞いたらきっと牧野は頷くだろうし、そうなった時の僕の顔を牧野に見せたくはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる