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食堂
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食堂は学生で賑わっていた。学食で何かを購入した生徒だけでなく、校内のコンビニでカップラーメンを買った生徒、ただ喋りに来ている生徒など、多くの生徒が昼休みはここに来る。キャンパスの食堂は三階まであり、それぞれのフロアも大きいのだが、席を探して彷徨っている生徒が多くいる。
「いただきます」僕は手を合わせた後に、三百七十円のカレーライスにスプーンを入れ、口に運んだ。決して美味しくはないが不味くはない。値段を考えると文句は言えない。しかし、美味しくはない。そんな学食のカレーライスを食べながら、不味く作るのが難しいのが、カレーライスの利点なのかもしれないと僕は思う。そのことを正面にいる牧野に伝えようとしたら、目の前にあるコロッケパンを食べずに僕を見ていた牧野が口を開いた。
「あなたはいつも、いただきますを言うね」
僕は口の中のカレーライスを飲み込んでから、
「普通じゃないかな」と返答する。
「いいや、普通じゃないよ」タイミングよく、女子大生の四人組が、僕らの横の空いたスペースに座る。僕と牧野は口をつぐみ、それとなく隣に視線をやる。
四人組は流行りの韓国アイドルの話で盛り上がりながら、なんとなく食事を取り始めた。僕から見て一番遠くに座っていた子だけが、控えめに手を合わせて「いただきます」と小さな声で言っていた。
牧野はほらね、と言う顔でこっちを見る。
「言わないことが悪いとまでは言わないけれど、言った方が良いだろ」と僕は彼女たちに聞こえないように言う。
「それは間違いないね」と牧野は返すと、「いただきます」と言いパンを食べ始めた。
「牧野だって言ってるじゃないか」
「私はあなたが毎回言うのを見て、ちゃんと毎回言うようになった。それまでは言ったり言わなかったり。一人の時は言わないことの方が多かったと思う」口元についたコロッケの衣を拭いながら牧野は続ける。
「あなたには色々と尊敬できるところがる」
僕は牧野の言葉に照れ臭さを覚える。牧野はどんな言葉でも淡々と伝えることができる。
「今日の授業は何だっけ?」
「二限が日本近代文学で、三限が第二外国語、四限がロシア文学という名の、ドストエフスキーの授業ね」
「良いな。文学部の授業は楽しそうだ」
「あなたは、文学部じゃないからそんなこと言えるの。実際に受けてみたら失望すると思う。本を読んでた方が面白いわ」牧野はため息をつく。
「けど面白いところもあるだろ」
「それはあなたの授業でも一緒でしょ」
「まあ、それはそうか」
僕はカレーライスを口に運んだ。
「ここのカレーって美味しいの?」牧野がコロッケパンを持ちながら聞いてきた。キャベツがテーブルの上に落ちている。
「不味くはないけど、おいしくもない。値段を考えると文句も言えない。そんな感じの味」僕は先ほど思ったことをそのまま口にする。
「何それ、一口食べて良い?」
「どうぞ」僕はカレーの皿を牧野の方に押し出す。牧野は僕の使っていたスプーンをそのまま使い、カレーを口に運んだ。
「本当だ」牧野が口を押さえ、少し笑いながら言う。
「だろ」そう言って僕は皿を自分の前に引き戻したが、何となくすぐ食べるのが恥ずかし区、そのままにしておいた。
「まあけど確かに、ルーを使っている以上、味の破綻はしないね」
「うん、不味く作るのが難しいのが、カレーの利点だと思うんだ」僕は先ほどの大発見を牧野に伝えた。
「確かに。小学校の林間学校でカレーを作るのも納得」
「牧野もカレーを作ったのか」
「旅行先はバラバラでも作るものは一緒ね」牧野は笑った。
「俺は米がうまく炊けなかったよ」
「明らかにその係が一番重要で難しいよ」
「負担の偏りがすごいよな。牧野は何担当?」
「サラダ。野菜を切ってドレッシングをかけるだけ」牧野はドレッシングかける手の動きをした。
「それは随分と良い御身分だな」
「転校してすぐに林間学校だったからね。そんな大役を任されることにはならないよね」
「そうか。転校はやっぱり嫌だった?一回もしたことのない身からすると、一度はしてみたい憧れの行為なんだけど」
牧野はため息をついた。
「最悪。ハードルの上がった教室に、明らかに人気者になれないタイプの女の子が一人で入って行くの。今でもたまに夢を見るくらいには最悪」
「前言を取り消すよ。転校は最悪だ」僕もどう転んでも人気者にはなれなから、あまり良い思いはできなさどうだ。
牧野は僕の言葉を聞いて少し笑った。
「まあ今楽しい生活をできているから良かったよ。今の生贄だったと思えば悪くはない」
「それならよかった」その楽しい生活に僕が貢献できているのかを聞くことは、できなかった。そう聞いたらきっと牧野は頷くだろうし、そうなった時の僕の顔を牧野に見せたくはなかった。
「いただきます」僕は手を合わせた後に、三百七十円のカレーライスにスプーンを入れ、口に運んだ。決して美味しくはないが不味くはない。値段を考えると文句は言えない。しかし、美味しくはない。そんな学食のカレーライスを食べながら、不味く作るのが難しいのが、カレーライスの利点なのかもしれないと僕は思う。そのことを正面にいる牧野に伝えようとしたら、目の前にあるコロッケパンを食べずに僕を見ていた牧野が口を開いた。
「あなたはいつも、いただきますを言うね」
僕は口の中のカレーライスを飲み込んでから、
「普通じゃないかな」と返答する。
「いいや、普通じゃないよ」タイミングよく、女子大生の四人組が、僕らの横の空いたスペースに座る。僕と牧野は口をつぐみ、それとなく隣に視線をやる。
四人組は流行りの韓国アイドルの話で盛り上がりながら、なんとなく食事を取り始めた。僕から見て一番遠くに座っていた子だけが、控えめに手を合わせて「いただきます」と小さな声で言っていた。
牧野はほらね、と言う顔でこっちを見る。
「言わないことが悪いとまでは言わないけれど、言った方が良いだろ」と僕は彼女たちに聞こえないように言う。
「それは間違いないね」と牧野は返すと、「いただきます」と言いパンを食べ始めた。
「牧野だって言ってるじゃないか」
「私はあなたが毎回言うのを見て、ちゃんと毎回言うようになった。それまでは言ったり言わなかったり。一人の時は言わないことの方が多かったと思う」口元についたコロッケの衣を拭いながら牧野は続ける。
「あなたには色々と尊敬できるところがる」
僕は牧野の言葉に照れ臭さを覚える。牧野はどんな言葉でも淡々と伝えることができる。
「今日の授業は何だっけ?」
「二限が日本近代文学で、三限が第二外国語、四限がロシア文学という名の、ドストエフスキーの授業ね」
「良いな。文学部の授業は楽しそうだ」
「あなたは、文学部じゃないからそんなこと言えるの。実際に受けてみたら失望すると思う。本を読んでた方が面白いわ」牧野はため息をつく。
「けど面白いところもあるだろ」
「それはあなたの授業でも一緒でしょ」
「まあ、それはそうか」
僕はカレーライスを口に運んだ。
「ここのカレーって美味しいの?」牧野がコロッケパンを持ちながら聞いてきた。キャベツがテーブルの上に落ちている。
「不味くはないけど、おいしくもない。値段を考えると文句も言えない。そんな感じの味」僕は先ほど思ったことをそのまま口にする。
「何それ、一口食べて良い?」
「どうぞ」僕はカレーの皿を牧野の方に押し出す。牧野は僕の使っていたスプーンをそのまま使い、カレーを口に運んだ。
「本当だ」牧野が口を押さえ、少し笑いながら言う。
「だろ」そう言って僕は皿を自分の前に引き戻したが、何となくすぐ食べるのが恥ずかし区、そのままにしておいた。
「まあけど確かに、ルーを使っている以上、味の破綻はしないね」
「うん、不味く作るのが難しいのが、カレーの利点だと思うんだ」僕は先ほどの大発見を牧野に伝えた。
「確かに。小学校の林間学校でカレーを作るのも納得」
「牧野もカレーを作ったのか」
「旅行先はバラバラでも作るものは一緒ね」牧野は笑った。
「俺は米がうまく炊けなかったよ」
「明らかにその係が一番重要で難しいよ」
「負担の偏りがすごいよな。牧野は何担当?」
「サラダ。野菜を切ってドレッシングをかけるだけ」牧野はドレッシングかける手の動きをした。
「それは随分と良い御身分だな」
「転校してすぐに林間学校だったからね。そんな大役を任されることにはならないよね」
「そうか。転校はやっぱり嫌だった?一回もしたことのない身からすると、一度はしてみたい憧れの行為なんだけど」
牧野はため息をついた。
「最悪。ハードルの上がった教室に、明らかに人気者になれないタイプの女の子が一人で入って行くの。今でもたまに夢を見るくらいには最悪」
「前言を取り消すよ。転校は最悪だ」僕もどう転んでも人気者にはなれなから、あまり良い思いはできなさどうだ。
牧野は僕の言葉を聞いて少し笑った。
「まあ今楽しい生活をできているから良かったよ。今の生贄だったと思えば悪くはない」
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