《異世界ニート》はニセ王子でしかも世界最強ってどういうことですか!?

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第35話 誘拐

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テスタロッサたちが帰ってからものの五分もしないうちにエスタナ王とエスタナ王妃が血相を変えて城に飛び込んできた。

「だ、誰か来てくださいっ! テスタが、テスタがっ!」
「助けてください! 娘がさらわれたんですっ!」

城内に響くほどの大きな声でエスタナ王とエスタナ王妃が叫んだ。
なんだって!? テスタロッサがさらわれた?

メイドたちや兵士たちが集まる。
衛兵を引き連れ国王も最上階の謁見の間から下りてきた。

「な、なにごとじゃ!?」
「イリタール王様、テスタが誘拐されたんです!」
エスタナ王が国王にすがりついた。

「とにかく落ち着いて一から話してみなさい」
「は、はい」

話は五分前にさかのぼるそうだ。
テスタロッサとエスタナ王とエスタナ王妃は馬車に乗って城下町を出たという。
そこで、待ち伏せしていたかのように盗賊に襲われ持っていた貴金属と馬車を奪われた。その時に抵抗したテスタロッサも一緒に連れ去られてしまったんだそうだ。

「兵士を集めよ! 今すぐテスタロッサちゃんを救出するのじゃ!」

兵士たちの動きは早かった。二分とかからずに城内にいた全ての兵士と衛兵たちが城の入り口に集結した。

国王が陣頭指揮を執る。
「カルチェよ、お主の班は南と東へ向かえ。パネーナの班は北と西じゃ。わしと衛兵たちはテスタロッサちゃんがさらわれた場所へ向かう。さあ行くぞい!」

国王たちが城を出ていく。
俺はというとその様子を二階から見ていた。

俺はエルメスの部屋へと向かった。
「エルメスいるか」
「ちょ、ちょっとノックくらいしてくださいよ。私が着替え中だったらどうするんですか童貞王子」
エルメスは部屋の中で歩きながら魔術所を読んでいた。
エルメス曰く「この方がよく頭に入る」のだそうだ。

「んなことよりお前って魔術で人探しとか出来るか?」
「なんなんですか藪から棒に。そんなこと出来ませんよ」
「へっ? 出来ないのか? 別の世界から人間や魔獣を召喚出来るくせに?」
「それとこれとは話が別です。私は神様じゃないんですからね。出来ないこともありますよ」
当てが外れた。
てっきり人探しくらいエルメスの魔術でちゃちゃっと出来ると思っていた。

うーん、まいったな。

するとそこに、

「キュイイィッ!」

と空飛ぶカピバラが俺に向かって体当たりしてきた。

「おっと、なんだお前、逃げてきたのか?」

このヘンテコな生き物はテスタロッサが飼っている魔獣でハーレクインという。
人の考えていることがわかるらしい。

「お前もしかしてテスタロッサの居場所わかるのか?」
「キュイイィッ」
うなづくハーレクイン。

「よし、今すぐ案内しろ」
「キュイイィッ」
ハーレクインはエルメスの部屋の窓から飛び出ていった。
俺もその後を追って窓から飛び降りる。

「あっちょっとカズン王子っ」
エルメスの声を背に俺は城内を出て城下町を駆け抜けた。

「キュイイィッ」

あいつなかなか早いな。
ハーレクインを見上げながら追いかけていく。

「あっ王子だ!」
途中子どもに指を差されながらもハーレクインを見失わないようについていく。

しばらく走ると前に馬車が見えた。
以前テスタロッサが城に来た時に乗っていたものと同じだ。

「あれだな」
「キュイイィッ」
ハーレクインが下降してくる。


俺は手綱を握っているボロを着た男を横から突き飛ばした。

「うわっ!?」

ボロを着た男が落ちて馬が驚き立ち止まった。
勢いのついた馬車が横転する。

「……やば、大丈夫かなテスタロッサの奴」

すると馬車の中から、

「もう~、何よ最悪なんだけど……」

と悪態をつきながらテスタロッサが顔を見せた。
よかった。無事だったようだ。
そして反対側からは、

「いてぇな、くそっ」

いかにも悪党面の盗賊が這い出てきた。

「お、親分、大丈夫ですかい?」
さっき突き飛ばしたボロを着た男が悪党面の盗賊に近寄る。
「ああ、でも何が起こったんだ?」
「あいつです! あいつが邪魔したんです!」
ボロを着た男が俺を指差す。

「なんだお前」
「この国の王子だ」
「がっはっは。バカ王子か。バカ王子が俺様になんのようだ?」
「テスタロッサを連れ戻してお前を警備隊に引き渡す」
「……ふっ。笑えない冗談だぜ」
悪党面の盗賊が人間の背丈ほどもある大きな斧を肩にかけた。

「俺は働きもしないお坊っちゃんてのが一番嫌いなんだよ!」
重そうな斧を感じさせない動きで飛び込んでくる。

「奇遇だな。俺も嫌いだよそんな奴は」
俺はその大きな斧を片手で受け止めた。
「なっ!?」
「だから俺は変わりたいんだ!」

もう一方の手で悪党面の盗賊の顔を殴り飛ばす。

「ぶふぉへぇっっ!!」

奇声を上げて吹っ飛ぶ悪党面の盗賊。

ぴくぴくと動いている。
よかった。ちゃんと手加減できていた。
俺はもう一人の男を見た。

「ひっ!」

ボロを着た男は逃げ出した。
だが、逃がさない。
俺はボロを着た男の前に回り込むと腹に軽く一撃入れた。

「うぐぅっ」

地面に顔から倒れこむ。

「ふぅ……終わったか」

「終わったか、じゃないわよ、かっこつけちゃって。もっと安全に助けなさいよっ」
テスタロッサが服の汚れを払い落としながら文句を言う。

「そんなこと言うんなら助けるんじゃなかったな」
「あっ、そんなこと言うわけ? あんたが偽物だってことバラし――」
「キュイイィッ」
ハーレクインが間に入るようにして飛び回る。
そして俺の肩の上に乗った。

「おい、暑苦しいからどけって」
毛並みがもこもこしていて今の俺には暑い。
「ハーレクイン。あんたあたし以外には懐かないのに……」

もー、こいつフンとかしないだろうな。 
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