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第88話 修理した縮小リング
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俺は頭を抱えた。
「なんで下着はいてないんだよ?」
「……持ってない」
アテナが答える。
「前にミアと買い物に行ったろ。その時に買わなかったのか?」
「……買わなかった」
前にミアとアテナと俺とで城下町にアテナの服を買いに行ったのだが俺はミアに任せっきりだったからな。
てっきり下着だって買っていると思うじゃないか。
「う~ん、あとでまたミアに買い物に連れてってもらえ。今度は下着も買ってくるんだぞ」
「……わかった」
こくりとうなづく。
ちょっと、いやかなり恥ずかしいがミアに頼んでおかないと。
こいつはわかっているようでわかってなさそうだからな。
俺を無表情で見下ろすアテナを見返し、そう自分に念を押す。
俺は小さくなった体でベッドにジャンプして飛び乗るとふかふかの毛布の上で大の字になった。
アテナはテーブルの上にあったリンゴを手に取りこっちに近づいてくる。
「悪いアテナ、俺にもリンゴ一つくれないか」
「……うん」
そう言うとアテナは持っていたリンゴを俺に向かって放り投げた。
「うおっ!?」
小さい体でリンゴをキャッチする。
びっくりした~。
目の前に迫ってくる大きなリンゴに一瞬押しつぶされるかと思った。
リンゴで圧死なんて笑えない。
「アテナ、渡し方ってもんがあるだろうがっ」
「……?」
可愛らしく首をかしげている。
いやいや。
こういうとこなんだよな、アテナの何考えているかわからない危うさは。
再度自分の分のリンゴを取ってきたアテナは俺の横に腰掛けると両手に大事そうに持ったリンゴをシャクシャクと食べ始めた。
「おいしいか?」
「……おいしい」
そりゃなによりだ。
俺もリンゴをひとかじりする。
俺の身長の倍以上はあるリンゴ。たしかにおいしいが食べきれる気がしない。
十口食べたところで腹いっぱいになってしまった。
すでにリンゴを食べきって俺の様子を見ていたアテナに「食べかけだけどいるか?」と訊くと、
「……いる」
そう言ってアテナは俺の食べかけのリンゴにかじりついた。
一点をみつめながら食べすすめていく。
どんだけリンゴが好きなんだ、こいつ。
「アテナ、俺ちょっと横になってるからもしメガネの奴が来たら起こしてくれ」
「……わふぁっふぁ」
うん、やっぱり自分の部屋は落ち着く。
安心しきった俺はベッドの上でいつの間にか眠りについていた。
「……カズン」
「……カズン」
俺を呼ぶアテナの声で脳が覚醒する。
「ん、アテナか……。俺眠ってたみたいだな」
「……メガネ来た」
吐息がかかるくらいの距離にアテナの顔があった。
そしてその後ろにメガネが立っている。
顔を上下左右に振り、
「王子ってもっと大きな部屋に住んでると思っていたよ。意外と狭いんだね~」
相変わらず俺を王子と知っての発言とは思えないことを口にする。
「そんなことより縮小リングは直ったのか?」
「んふふ~、どう思う~?」
身を乗り出し顔を近づけてくるメガネ。
「何歳なの?」「ふふっ、いくつに見える~?」みたいなノリはやめろ。気持ちの悪い。
「直ったから来たんだろ。じゃなきゃ人嫌いのお前がわざわざこんなところまで来ないだろうが」
「ご名答~」
メガネはくるりとターンをしてみせる。
「僕のことよくわかってるね~。本当は地下室を出たくなかったんだけどきみがそうなったのは僕の責任でもあるから仕方なくね」
お前の責任でしかないけどな。
「それで直した縮小リングは?」
「ここにあるよ~」
人差し指の腹の上に乗せた縮小リングを俺にそっと渡そうとする。
「おう。サンキューな」
一応礼を言ってそれを受け取った。
指にはめる。
「ここを押せばいいんだな」
俺は縮小リングのダイヤ部分に手を乗せた。
「そうだよ~」
メガネはネジが一本どこかいってしまっているが天才発明家なのは間違いない。
俺はダイヤ部分を押し込んだ。
ガチッ。
するとみるみるうちに体が大きくなっていく。
「おお! 戻っていってるぞ」
ぐんぐんと縦にも横にも大きさを取り戻していく。
「やっぱりすげーなメガネ」
「僕は天才だからね~」
あっという間にもとの大きさに戻った。
「よし……ん? あれ? なんかまだ大きくなってるんじゃないか?」
「あれれ~」
メガネが首をひねる。
「お、おい! どうなってんだこれ!?」
俺の体はゆうに三メートルを超えていた。
ベッドの天蓋をぶち破り、このままでは天井まで届きそうな勢いだ。
「おいっメガネ! なんとかしろっ!」
「う~んと、とりあえずもう一回押してみてよ」
「押せばいいんだな。押すからな!」
俺はパニクりながらもダイヤ部分をもう一度押した。
ガチッ。
すると……なんとか大きくなるのは止まったようだった。
ベッドの上に乗っていた俺はメガネを見下ろす。
「メガネ。もとに戻れるんだろうな?」
「もうちょっと時間もらえるかな~、ははは」
さすがのメガネもこの光景にちょっと引いているじゃないか。
「……カズン大きい」
アテナが首を目いっぱい上にして俺を見上げる。
その時、俺の乗っていたベッドが大きくなった俺の重さに耐えきれず壊れた。
「はぁ……新しいベッド買わなきゃな」
まるで自分の声じゃないような野太い声で俺はつぶやいた。
「なんで下着はいてないんだよ?」
「……持ってない」
アテナが答える。
「前にミアと買い物に行ったろ。その時に買わなかったのか?」
「……買わなかった」
前にミアとアテナと俺とで城下町にアテナの服を買いに行ったのだが俺はミアに任せっきりだったからな。
てっきり下着だって買っていると思うじゃないか。
「う~ん、あとでまたミアに買い物に連れてってもらえ。今度は下着も買ってくるんだぞ」
「……わかった」
こくりとうなづく。
ちょっと、いやかなり恥ずかしいがミアに頼んでおかないと。
こいつはわかっているようでわかってなさそうだからな。
俺を無表情で見下ろすアテナを見返し、そう自分に念を押す。
俺は小さくなった体でベッドにジャンプして飛び乗るとふかふかの毛布の上で大の字になった。
アテナはテーブルの上にあったリンゴを手に取りこっちに近づいてくる。
「悪いアテナ、俺にもリンゴ一つくれないか」
「……うん」
そう言うとアテナは持っていたリンゴを俺に向かって放り投げた。
「うおっ!?」
小さい体でリンゴをキャッチする。
びっくりした~。
目の前に迫ってくる大きなリンゴに一瞬押しつぶされるかと思った。
リンゴで圧死なんて笑えない。
「アテナ、渡し方ってもんがあるだろうがっ」
「……?」
可愛らしく首をかしげている。
いやいや。
こういうとこなんだよな、アテナの何考えているかわからない危うさは。
再度自分の分のリンゴを取ってきたアテナは俺の横に腰掛けると両手に大事そうに持ったリンゴをシャクシャクと食べ始めた。
「おいしいか?」
「……おいしい」
そりゃなによりだ。
俺もリンゴをひとかじりする。
俺の身長の倍以上はあるリンゴ。たしかにおいしいが食べきれる気がしない。
十口食べたところで腹いっぱいになってしまった。
すでにリンゴを食べきって俺の様子を見ていたアテナに「食べかけだけどいるか?」と訊くと、
「……いる」
そう言ってアテナは俺の食べかけのリンゴにかじりついた。
一点をみつめながら食べすすめていく。
どんだけリンゴが好きなんだ、こいつ。
「アテナ、俺ちょっと横になってるからもしメガネの奴が来たら起こしてくれ」
「……わふぁっふぁ」
うん、やっぱり自分の部屋は落ち着く。
安心しきった俺はベッドの上でいつの間にか眠りについていた。
「……カズン」
「……カズン」
俺を呼ぶアテナの声で脳が覚醒する。
「ん、アテナか……。俺眠ってたみたいだな」
「……メガネ来た」
吐息がかかるくらいの距離にアテナの顔があった。
そしてその後ろにメガネが立っている。
顔を上下左右に振り、
「王子ってもっと大きな部屋に住んでると思っていたよ。意外と狭いんだね~」
相変わらず俺を王子と知っての発言とは思えないことを口にする。
「そんなことより縮小リングは直ったのか?」
「んふふ~、どう思う~?」
身を乗り出し顔を近づけてくるメガネ。
「何歳なの?」「ふふっ、いくつに見える~?」みたいなノリはやめろ。気持ちの悪い。
「直ったから来たんだろ。じゃなきゃ人嫌いのお前がわざわざこんなところまで来ないだろうが」
「ご名答~」
メガネはくるりとターンをしてみせる。
「僕のことよくわかってるね~。本当は地下室を出たくなかったんだけどきみがそうなったのは僕の責任でもあるから仕方なくね」
お前の責任でしかないけどな。
「それで直した縮小リングは?」
「ここにあるよ~」
人差し指の腹の上に乗せた縮小リングを俺にそっと渡そうとする。
「おう。サンキューな」
一応礼を言ってそれを受け取った。
指にはめる。
「ここを押せばいいんだな」
俺は縮小リングのダイヤ部分に手を乗せた。
「そうだよ~」
メガネはネジが一本どこかいってしまっているが天才発明家なのは間違いない。
俺はダイヤ部分を押し込んだ。
ガチッ。
するとみるみるうちに体が大きくなっていく。
「おお! 戻っていってるぞ」
ぐんぐんと縦にも横にも大きさを取り戻していく。
「やっぱりすげーなメガネ」
「僕は天才だからね~」
あっという間にもとの大きさに戻った。
「よし……ん? あれ? なんかまだ大きくなってるんじゃないか?」
「あれれ~」
メガネが首をひねる。
「お、おい! どうなってんだこれ!?」
俺の体はゆうに三メートルを超えていた。
ベッドの天蓋をぶち破り、このままでは天井まで届きそうな勢いだ。
「おいっメガネ! なんとかしろっ!」
「う~んと、とりあえずもう一回押してみてよ」
「押せばいいんだな。押すからな!」
俺はパニクりながらもダイヤ部分をもう一度押した。
ガチッ。
すると……なんとか大きくなるのは止まったようだった。
ベッドの上に乗っていた俺はメガネを見下ろす。
「メガネ。もとに戻れるんだろうな?」
「もうちょっと時間もらえるかな~、ははは」
さすがのメガネもこの光景にちょっと引いているじゃないか。
「……カズン大きい」
アテナが首を目いっぱい上にして俺を見上げる。
その時、俺の乗っていたベッドが大きくなった俺の重さに耐えきれず壊れた。
「はぁ……新しいベッド買わなきゃな」
まるで自分の声じゃないような野太い声で俺はつぶやいた。
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