異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中

文字の大きさ
50 / 56

第50話 ヘレンとおばあさん

しおりを挟む
俺が助けた少女はヘレンと名乗った。
ヘレンは寝たきりのおばあさんと俺たちがさっきまでいた小屋で二人で暮らしているのだという。
明かりがついていたのに誰も出てこなかったのはヘレンのおばあさんが寝ていたからのようだ。

ヘレンはおばあさんが風邪をひいてしまったとかで薬草を取りに森の中をさまよっていたところ、レッドライオネルと遭遇してしまったらしい。
そこに俺たちが現れたというわけだ。

俺たちはヘレンを一人で帰らせるのは危険だと思ったので、家まで送り届けることにした。

「結城ってば森林破壊なんてしやがって、悪い奴だなぁ」
新木が楽しそうに言う。
いつもは何かと俺に小言を言われることの多い新木なので、ここぞとばかりに俺をいじってくる。
反論したいところだが森を破壊してしまったことは事実なので俺は黙ってスルーを決め込む。

「だ、大丈夫だよ。この辺りはおばあちゃんの土地だから」
「あーあ、だったらそのおばあちゃんに結城は謝らなくちゃなぁ」
「わかってるよ」
「あ、それも大丈夫だと思うよ。ここら辺って森があるせいでモンスターが出て危ないっておばあちゃん言ってたもん。だから森がなくなった方がモンスターがいなくなるから多分喜んでくれると思う」
少女は助けられた恩を感じてか、俺をフォローするように言葉を紡いでいった。
とても優しい子のようだ。

それから十分ほど歩いて俺たちは少女たちの住む家へとたどり着いた。
「やっと小屋についたぜっ」と声を張り上げる新木。
ガサツな奴め。


☆ ☆ ☆


「孫がお世話になりました。本当にありがとうございます」

ヘレンのおばあさんが頭を少し浮かせて俺たちの顔を見た。

「あ、無理はなさらずに。おばあさんは横になっていてください」
「そうですか。申し訳ありませんね」

俺はおばあさんを布団に寝かせるとヘレンのもとへ近寄っていく。
そしておばあさんには聞こえないように、
「なあヘレン、おばあさんはどこが悪いんだ? 怪我か? それとも病気か?」
小声で訊ねる。

「よくわからないの。うち貧乏だからお医者さんにも診てもらえないし……」
とヘレンはうつむいてしまう。

「おい結城、空気読めよな。そんなデリカシーのないこと訊くもんじゃないぞ」
お前が言うか。

「勘違いするな。怪我か病気か訊いたのはヒールかリフレッシュか判断するためだ」
「なーんだ、そういうことかよ。だったら早く言えよな」
「結城くんは本当に小さい女の子が好きなんだね」
語弊のある言い方をするな。

「え、えっと、ひーる? りふれっしゅ? って何?」
「あー、実は俺はどんな怪我でも病気でも治せるんだよ。だから今からヘレンのおばあさんを治療してもいいか?」
「えっ、ほんとっ?」
「ああ、本当だよ」
俺は努めて優しくヘレンに話してやった。

「おねがいお兄ちゃんっ、おばあちゃんを治してあげてっ」
「ああ、任せとけ」

俺は寝ているおばあさんの横に立つと「ヒール」「リフレッシュ」と立て続けに唱えた。
するとおばあさんは、
「……ぅん? あら? 何か体が軽くなったような……」
言いながらすくっと立ち上がってみせる。

「おばあちゃんっ!? 動けるようになったのっ!?」
「ヘレン。おばあちゃん、なんだかすっかり体の調子がよくなったわ。嘘みたいよ」
「うわぁ~ん、おばあちゃ~んっ!!」
「あらあらヘレンったら」

泣きながら抱きついてくるヘレンをおばあさんは涙ながらに抱きしめた。
その光景を前にふと横にいた新木を盗み見ると、新木は目を潤ませていた。
だが俺の視線に気付くやいなや、新木はそっぽを向いてしまった。
素直じゃないな、まったく……。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

処理中です...