勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中

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第36話 ジュエル王女

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俺はジョパン城に着くと門番にプルセラ王女に会いたいと伝えたが門前払いをくらってしまう。
成人の儀の護衛役まで務めたというのにあんまりだろう。

仕方なく俺は門番の目の届かないところまで移動してふわっと浮かび上がった。
地上が駄目なら空から直接行ってやる。

俺は誰にも見られていないことを確認しながら飛び立つとすぐにジョパン城の裏手に回った。

「げっ」

裏側の塔の上に見張りがいた。

俺は塔の下に回り込むととりあえず息を整える。
その位置から周りを見回し窓が開いている箇所を発見するとすぐさまそこからお城に入り込んだ。

俺が入った場所は広い通路だった。
通路沿いにドアがいくつもある。

プルセラ王女の部屋はどこだ……?

おそらく上の方の階にある日当たりのいい南側の部屋だろうとあたりをつけて階段を上がっていく。

最上階に着くと南側の通路に移動した。
ドアが三つある。
俺は一つ目のドアをノックしてみた。

「なんじゃ?」
と中から男の声が返ってくる。
違った。プルセラ王女の部屋じゃない。

「誰じゃ、何の用じゃ?」
ドアに近付いてくる足音。

まずい。
俺はドアが開く間際、宙に浮かんで天井にへばりついた。

「おーい、誰じゃー!」
俺の下で叫ぶ王冠をかぶり着飾った男。
ジョパン国王だ。

みつかったらどんな重い罪が課せられるか。
上を見ないでくれ、気付かないでくれと祈りながら何とかジョパン国王をやり過ごした。

ふぅ~。

ジョパン王妃は既に他界しているためジョパン国王は二人の娘と三人家族のはず。
つまり……。
俺は残る二つのドアのどちらかがプルセラ王女の部屋だと判断する。

俺は床に下りると真ん中のドアをノックした。
すると中からプルセラ王女の声で「はーい」と聞こえてきた。
当たりだ。
俺はドアを開けると誰にも見られないようさっと中に入った。

部屋の中は天蓋付きのベッドに高そうな家具、大きな鏡が置かれていた。
なんかプルセラ王女のイメージと違うな、と思っているとベッドから足が見えた。
ベッドに座っているようだ。

「プルセラ王女、やっぱり剣術大会出ますよ。ランド王子に勝てるかはわからないですけどやるだけやってみます」

「プルセラ? わたくしはジュエルですけれど」

ベッドにかかっていたレース地の幕を開けて出てきたのはジョパン国の第一王女ジュエルだった。

「ジュエル王女!? プルセラ王女は?」
「妹でしたら隣の部屋だと思いますが、すみませんあなたはどなたですか?」
ジュエル王女はプルセラ王女そっくりの声で訊いてくる。

見た目はプルセラ王女とは違って可憐でおしとやかな雰囲気だが声はプルセラ王女そのものだ。
姉妹だからって似ているにもほどがある。

「えーっと、俺はですね……」
「ランド王子がどうとかおっしゃっていましたが、もしかして妹に何か頼まれましたか?」
「えっと……はい、まあ……」
俺はお城に来た経緯を説明した。ジュエル王女には話しておいたほうがいいと思ったからだ。


「やはりそうでしたか。妹はわたくしとランド王子の結婚を阻止しようと画策しているようでしたから」
「プルセラ王女はジュエル王女のことを心配して俺にランド王子を倒すよう頼んできたんです」
「確かにランド王子がおっしゃっていましたね、自分に勝てたらわたくしをその方にくれてやると……でもそのようなことはおやめください」
ジュエル王女は俺の目を見据える。

「えっと、ジュエル王女はランド王子のことが好きなんですか?」
「いいえ、まったく」
首をゆっくり横に振る。

「だったら――」
「でしたらあなたはランド王子に勝ったらわたくしと結婚するおつもりですか?」
「いやあ、それは……」
「わたくしはあなたのことを知りませんし、あなたはわたくしのことを知らないでしょう。そのような方に命を懸けてまで戦ってもらう理由がありません」
「はあ……」

ジュエル王女は達観しているというか諦めているというか。
とにかく俺は何も反論出来なかった。

言い返す言葉もない俺は、
「……じゃ、じゃあすみません、失礼します」
「妹にはわたくしの方から言っておきますので。あなたはお城の兵士にみつからないように出ていってください」
いそいそとジュエル王女の部屋を出る。

そこをちょうどタイミングよくというか悪くというか、
「っ!?」
「っ!?」
部屋から出てきたプルセラ王女にみつかった。

「お前何してんだこんなとこでっ!」
「静かにしてください、兵士にみつかりますからっ」
「むぐぐっ……」
俺はプルセラ王女の口をふさぎ部屋の中に入る。

部屋の中にはテレビとベッドとタンスがあってベッドの周りには沢山のぬいぐるみが並べられていた。

「ぷはっ……お前またやったなっ。私は王女だぞっ」
「押し入り強盗みたいな真似したことは謝ります、すみません」
「なんでお前がここにいるんだっ。どうやって入ったっ」
「空から飛んで入りました」
窓が開いていたのでつい。

「お前、姉さんの部屋にいたよな。何してたんだ?」
「やっぱり剣術大会に出ることをプルセラ王女に伝えようとしたんですけどちょっと部屋を間違えまして……」
「私の部屋と姉さんの部屋を間違えたのか。馬鹿かお前」
声がそっくりだったんだからしょうがないだろうが。

「それでどんな話をした?」
「えっと、ランド王子と戦うなとか自分のために命は懸けなくていいとか言ってましたけど」
「ふん。姉さんのことだ、どうせそんなとこだろうとは思ったがな。姉さんは昔から自分を押し殺すところがあるからな」
「あなたと違って?」
「そうそう、私とは正反対……って何を言わせるっ!」
顔を赤くするプルセラ王女。
やはりこの人は王族には思えない。

「本人がいいって言ってるんですから勝手なことはしない方がいいんじゃないですか?」
「ふんっ。やはり馬鹿だなお前は。大馬鹿だ」
そう言うとプルセラ王女は窓際に歩いていった。

大きな窓の前に立ち外をみつめるプルセラ王女。
「姉さんは本心では誰かに結婚を止めてほしいはずだ。私にはわかる」
本当かなぁ、勝手なことをしたら怒りそうな感じだったけど。とは思ったが口には出さないでおこう。ややこしくなるだけだ。

「お前はこれをつけろ」
プルセラ王女は机から何かを取り出すと俺に放ってよこした。

「おっと……なんです、これ?」
「イヤホンだ。それをつければ私の声がいつでも届く。試しにつけてみろ」
「……なぜ?」
「いいからつけろっ」
床をどすどす蹴りつけるプルセラ王女。
そんなことしたら下の人に聞こえるだろ。

「はい、つけましたよ」
『あー、あー。聞こえるか?』
イヤホンからプルセラ王女の声が聞こえてくる。

「聞こえます」
『よし、これで剣術大会の間私がお前に指示を出すからその通りに動け、いいなっ』
「はい? 全然よくないですけど……」
『私は小さい頃は剣術を習わされていたから剣には覚えがあるんだ。大船に乗った気でいろ、わっはっは』

イヤホンから届く笑い声を聞きながらそれってやっぱ反則なんじゃないかなぁと思う俺だった。
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