住めば都の最下層 ~彩花荘の人々~

緒方あきら

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3、祭りの町

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 翌日、私はカーテンの隙間から差す朝の陽射しで目を覚ました。
 やはり、暑い。昨日は遠慮していたが、部屋には古いエアコンがある。入居が正式に認められたら、これを使うことにしようと決心した。
(十八歳の誕生日をこんなところで迎えるなんて、思いもしなかったな)
 不思議な感傷に浸りつつも、上半身を起こす。
 時刻は朝の六時半過ぎ。夕飯は七時と聞いたけど、朝ごはんは何時なのだろう。
 またアレが食卓に並ぶのかと思うと閉口してしまうが、文句の言える立場ではない。
「蓮人くんと秀男さんは起きているかな?」
 音を立てないように部屋を出ると、向かいの蓮人くんの部屋が開きっぱなしになっていた。すでに布団はたたまれている。蓮人くんはもう起きているようだ。
 部屋には大きなパソコンが鎮座していた。なるほど、あれがネットゲームのためのパソコンか。
「蓮人くん? どこにいるの?」
 秀男さんが寝ているかもしれないので、控えめな声で呼びかけるが返事はない。
 ふと、廊下のすりガラスの向こう側で動く影が見えた。
 蓮人くんだろうか。私は靴を履き、カギのかかってない玄関を開けて外に出た。
「よう、起きたのか。おはよう」
「あ、蓮人くん、おはよう!」
 蓮人くんは気怠そうに立ち上がった。その手には水の入ったスプレーが握られている。
「庭のお手入れをしていたの?」
「まあな。ミニトマトやしそは水をやるだけでも結構育つが、ナスはこの時期虫がつきやすいんだ。葉にスプレーしてやるとだいぶマシになる」
「この植物たち、蓮人くんが面倒を見てたんだ」
「ああ。オレがこいつらを育てなきゃ食卓は白米だけだっただろうさ。感謝しろよ」
 そっけなく言った蓮人くんだったが、そう言ったあと、ふっと息を吹き出した。
「それにしても、昨日食卓を見たお前の顔はなかなか見ものだったぞ」
「あれは……だって、お世話になってるのにこんなこと言うのはなんだけど、ごはんがアレしかないなんて思わなかったから」
「まぁ、あれじゃあ最低の最下層って呼ばれても仕方ないな。秀男さんは食えればなんでもいいってひとだからな。まぁ、オレもあまり食事にこだわりはない。その結果あの食卓ってワケだ」
「もし私がここに住めるようになったら、もうちょっと豪華な食卓にするから!」
 蓮人くんは小さく笑うと「期待しとくよ」と言って私の横を通り抜けた。
「おーい! 蓮人、響子! 朝飯出来たぞー!」
 ちょうどそのとき、秀男さんの大きな声が響いた。
 私たちは連れたって台所のテーブルまで言って、食卓についた。
「いただきます」
 三人で声をそろえて言うと、昨晩と同じ浅漬けに手を伸ばす。
 ああ、やっぱりこれだけってすっごくわびしい。でも負けるもんか!
「美味しい! 美味しい!」
「うまい! うまい!」
「朝から元気だな、お前ら……」
 食事を終えると、蓮人くんが片付けを始めた。これも当番制らしい。
 手伝おうか、と言おうと思ったけれど茶碗三つに箸三組だけの洗い物である。
 わざわざそんなことを言いだすまでもなく、蓮人くんは手早く洗い物を終えた。
「どうしたんだよ、そんなところに突っ立って」
「いや、うん。手伝おうかと思ったけど、あっさり終わっちゃったし……それに、大家さんがいらっしゃるまで私何をしていいか」
 蓮人くんは首を微かに左右に振って言った。
「さぁなぁ。適当に時間潰しておけよ。オレは、ネトゲをする」
「適当に……うーん」
 参ったなぁと立ち尽くす私をしり目に、蓮人くんは自分の部屋に戻っていった。
 仕方なく私も部屋に戻る。布団を片付けて、スマートフォンのメモで必要そうなものを書き出していった。
 男所帯の割りに彩花荘は清潔に保たれている。朝ごはんこそ最下層ではあるが、その呼び名ほど落ちぶれてはいないんじゃないかなと思った。
 夏休み初日か……。なんとなく、そんなことを思い出した。
 友達は皆、遊んだりゆっくりしたり思い思いに過ごしていることだろう。
 もう電車も動いている。この町から出ていくことも可能だ。
 だけど、私はここを気に入り始めているのかもしれない。
 乱暴な言葉遣いだけど優しい秀男さんと、愛想のない態度だけど冷たさはない蓮人くん。
 それに、格安の家賃だって魅力だ。私は、ここでこの夏を過ごせたらな、と思い始めている自分に気が付いた。
 なにより――あのふたりの心の色はとてもキレイだったから。
「ここなら、安心して過ごせる気がする。うまく行くといいな」
 私がにわかに緊張し始めたとき、玄関のドアが開く音がした。
「蓮人、秀男! 新しく入りたいって子を連れて来な!」
 威勢の良いおばさんの声が響く。口ぶりからして、大家さんがやってきたのだろう。
 私は慌てて居ずまいを正し、部屋を出た。ほぼ同時に蓮人くんも部屋から出てきて、秀男さんも降りてきた。
 大家さんも靴を脱いで廊下にやってきたところだった。
「ふうん、この子かい。ずいぶん若く見えるねぇ。まあいい、詳しい話は台所で聞くから、アンタら皆集合!」
「あの、オレはネトゲ中なんだけど」
「同居者が増えるかもしれないんだよ。ゴダゴダ言ってないで来な」
「はぁ……イベント回らなきゃいけないのに」
 蓮人くんがブツブツ文句を言いながら台所のテーブルについた。私もそのとなりに座る。向かいに秀男さんと大家さんが座った。
 大家さんは背の低い、天然パーマのおばさんだった。心の色はどっしり構えた落ち着いた橙色だ。
「アンタ名前は?」
「はい、三島響子と申します。あの、ここ、彩花荘に入居させて頂きたくて……」
「なんでまたこんな男しかいない古い家に住みたがるんだい。家賃が安いから?」
「それはもちろんあります。あと、最初はただ困ってここに駆け込んだって感じでした。でも、秀男さんも蓮人くんも良いひとだって伝わったので……」
「オレが良いひと? がはは! 照れるじゃねぇか!」
 秀男さんが大声で笑うと、大家さんはそのおでこをペチンと叩いた。
「秀男、アンタはいつも声がでかい! で、三島の響子ちゃんだっけ? アンタ若く見えるけど、歳はいくつ?」
「今日で十八歳になりました! ちゃんと成人してます」
「今日が誕生日……昨日まで未成年だったのか」
 蓮人くんがつぶやく。もっと年上に見られていたのかもしれない。
「ふうん……アンタ、その顔のキズ。もしかして家出かい?」
「違います! 成人してますから、家出じゃなくて旅立ちというか旅行というか」
「この町に来たってことは何か理由があるんだろ? 事情を話してみな」
 私の言葉をさえぎって大家さんが言った。
(この町に来たってことは理由がある?)
 この町にはただ電車で寝過ごしてきただけのはずだけど――何かワケがあるのだろうか。
 とにかく、私は大家さんにお父さんが失業し酒浸りになり、暴力を受けたことを包み隠さず話した。心の色が見えることは、話さなかった。
 どうしても、信じてもらえると思えなかったのだ。
 事情を聞き終えた大家さんは軽く頷くと、ひとつ息を吐いた。
「まぁ、そりゃあ家を飛び出したくもなるわね。秀男、蓮人、アンタらはどう思う?」
「悲しいことだぜ、実の父親によぉ……オレはつらいぜ!」
 涙目になった秀男さんが言う。こんなに共感してくれるとは。
「まぁ、逃げ出して当然のことなんじゃない? って感じ」
 蓮人くんは淡々とそう言った。
「ってことはアンタらも納得したってことなんだね。よし、いいだろう。三万円」
 大家さんがそう言って手を出した。
「あ、えっと……私、ここに住んでいいんですか?」
「良いから三万円って言ってるんだろ。手持ちはあるのかい?」
「は、はい!」
 私は財布からなけなしの万札を三つ取り出した。あとで秀男さんか蓮人くんにATMの場所を聞かなくては……。
「これ、三万円です!」
「あいよ、確かに。昨日の宿泊代はまぁ、タダにしといてあげるよ。八月いっぱい、アンタはここの住人だ。はい、これがここの合いカギ。ほかのふたりとうまくやりなよ」
 私がお金を手渡すと、大家さんがそれを財布にしまい立ち上がった。
 話はもう終わりなんだろうか。あまりにもあっさり認められて、私はなんだか拍子抜けしてしまった。
「あの、さっきこの町に来たってことは理由がっておっしゃってましたが、ここって何か特別な場所なんでしょうか?」
 去りかけた大家さんの背中に問う。大家さんが振り返った。
「なんだい秀男、蓮人、アンタら何も話してないのかい? これから一緒に暮らすんだから、きちんと説明してやんな。あと、アンタらも家賃今週中には収めなさいよ!」
「いやー、説明ってのも難しくて……って今週中!? あーい……」
「オレはすぐにでも」
 秀男さんがしんどそうに返事をした。蓮人くんは立ち上がり一度台所を出ると、さっさと部屋から三万円を持ってきて大家さんに手渡した。
「はい、蓮人の分も確かに受け取った。じゃあ、あとは説明よろしく。秀男! 家賃滞納するんじゃないよ!」
 そう言うと大家さんは去っていった。なんともパワフルなひとだ。
 台所のテーブルに三人で取り残された形になった私たちは、しばしの間沈黙した。
「あの、この町って何か秘密みたいなのがあるんですか?」
 沈黙にも耐えかねたし、ずっと気になっていたことなので私が口を開く。
 秀男さんは「うーむ」とうなり天井を見た。蓮人くんがそんな秀男さんを見て、ため息をついて言った。
「まあ、この町に暮らすと決まったんなら話さないワケにもいかないな」
 そういうと蓮人くんはテーブルに肘をついて、じっとこっちを見て言った。
「いいか、これから話すことはお前にとって奇妙極まりない話だとは思う。だが、真実だ。だからめんどくさいから、あんまりオーバーアクションしたり疑ったりするなよ」
 蓮人くんがふぅっと息を吐いて続けた。
「この町……裏御神楽町にやってくる人間はな。皆心に絶望を抱えたひとなんだ」
「心に絶望を抱えたひとが来る?」
「そうだ。その絶望のかたちはひとそれぞれだが、何かしら絶望を感じて元の居場所から出て行ったひとたちが行き着く町。それが裏御神楽町だ」
 信じられなかった。そんな不思議な町が存在することも。私がここに来たことも。
「お前は、父親に理不尽な暴力を振るわれたことや、それまでの父親の堕落していていった様に絶望を感じたんだろうな。それでここにやってきたのだろう」
「でも、そんなことあり得るの!?」
「さあな、あり得るかどうかなんてわからない。だけど、事実こうしてこの町がそういう風に存在しているんだ。受け入れるよりほかないだろ」
 たしかに、裏御神楽町なんて駅名はどこにもなかった。夕方なのに終電だと言って降ろされたのもおかしな話だった。それは全部、私の心が抱いた絶望感が私をこの町に呼んだということなのだろうか。
「とても……信じられないけど。でも奇妙な現象は確かにあって。言われてすぐ受け入れることは出来ないけど、そんなこともあるのかなって……ちょっと、混乱してる」
「だよなぁ、すぐには受け入れられないよな、こんな話。オレだって未だに変なことだと思っているよ」
 それまで黙っていた秀男さんが、今まで見せた事のないくらい真剣な表情で言った。
「とにかく、ここはそういう場所なんだ。だからこそ、大家さんもお前をこうしてすぐに受け入れたんだろうさ。オレは絶望を感じた自覚はなかったが……まぁいろんなことに失望はしたけどな」
 蓮人くんも秀男さんも、あの大家さんも、皆何か絶望を感じてここにやってきたのか。
 町のお祭りを思い出す。たくさんのひとがいて、皆笑顔だった。彼らもまた、絶望を抱えてここにやってきたのだろうか。
「だけど、この町のひとは元気だし表情も明るいひとが多かった。なんでだろう?」
 私の問いに、蓮人くんが苦笑して答えた。
「ある種の現実逃避なのかもな。それで解決することがあるのかはわからない。だけど、ひとが抱いた絶望なんて簡単に解決するものじゃないだろう」
「うん……そうだね、それは、私もわかる気がするけど」
 突飛でにわかには信じがたい話。
 だけど、それが事実なのかもしれない。蓮人くんの、キレイだけどもやがかかった心の色。秀男さんの、青空のように澄んでいるけど奥底に見えた深い悲しみの紺色。
 ここには、そうして絶望を感じたひとが集まって……皆で暮らしているのか。
 心の色が見える私だからこそ、こんな話でも少しわかってしまう部分があった。
「まぁ、そんなワケだ。オレは今はネトゲで現実逃避を続けながら適当にやっている。秀男さんは自由気ままにやりながら、金に困ったときだけバイトしている。ここはそんなふうに、おかしいけど生き方に優しい場所だ。これで説明は終わりかな。質問は?」
「すぐに質問っていうのも出てこないけど……わからないことがあったらまた教えて欲しいって思う。今は気持ちの整理が落ち着かないから」
 そうか、と言って席を立ちかけた蓮人くんに、秀男さんが言った。
「まぁまぁ待て蓮人。大家さんに頼まれた説明は終わった! これからはオレたちのここでの生活の話だ。せっかく集まってるんだから、済ませちまおうぜ」
「ああ、まぁそうだね秀男さん。それもあった」
 蓮人くんが座り直し、秀男さんが台所の隅っこに貼られた紙を指さした。
「昨日も言ったがここでの生活はもろもろ当番制だ。ゴミ捨てとか洗い物とか、米の買い出しとかな! 響子もここに住むことになったんだから、当番に入ってもらうぜ!」
 秀男さんが快活に笑う。この明るく元気なひとの絶望はいったいなんだったのか。ちょっと今は聞きだせそうな雰囲気でもなかったし、私は頷いた。
「はい、共同生活ですもんね。私もしっかり当番します」
「当番は一週間ごとだ。お前にはまずこの町に慣れるために、最初の週の当番をやってもらおうか」
 それは私も望むところであった。家事も苦痛じゃないし、ゴミ捨てだって、ゴミ捨て場さえわかればそんなに気にならない。そもそもこのふたりの質素な生活でどれだけゴミが発生するんだろうという疑問はあったけど。
「わかりました。最初の当番やります。ただ、町の地理とかがまだぜんぜんわからないので、色々助けてもらっちゃうことがあるかもしれないけど……」
「そりゃあしょうがねぇさ。なぁに、そんなに入り組んだ町じゃない。すぐに覚えられる」
「ただこの町はインターネットにすら載ってないような町だからな。地図は必要かもしれないな。まぁいい、オレがネトゲの空いた時間に作っておいてやる」
 そうして三人で当番制の紙を書いていく。
 第一週が私、次が蓮人くん、そのあとが秀男さんで、あとはそれのローテーションだ。
「これで決めることはだいたい終わったかねぇ?」
 秀男さんが無精ひげを指でポリポリ書きながら言う。蓮人くんが口を開いた。
「そうだね。あと、昨日も言ったけど昼飯は各自だから、まぁお祭り会場で何か買えばいいんじゃない。町内会が全面的に支援しているから、屋台の食い物も全部安いし」
 昨日、たこ焼きを買ったときも安いなと思ったが、ここのお祭りは町内会が下支えしているのか。確かに私の近所の町内のお祭りも、こことは比べ物にならないほど小さい規模だったけど、食べ物は安かった。
「あんな大きなお祭りを、町内会が支援してるんだ」
「まぁ、ここは絶望を感じたやつらの集まりの町だろ。せいぜい祭りで憂さを晴らしているんじゃないかな。オレもにぎやかな祭りは嫌いじゃねぇしな!」
「でも、お祭りが終わったらお昼どうしよう。コンビニとかってあります?」
 私の問いに蓮人くんが答えた。
「コンビニはある。けどその心配はいらない。この裏御神楽町は、毎日祭りをやっているんだ」
「えっ、お祭りを毎日!? 夏祭りとかだけじゃなくて?」
「おう、そうさ。一年中祭りをやっている町。それがこの裏御神楽町だ。なかなか粋だろ?」
 一年中お祭りをやっているなんて……絶望を感じたひとが集まるってことにしても、奇妙な事実ばかりの連続で頭が混乱してしまう。
「なんで一年中お祭りをしてるんですか? 不思議です……」
「それも、皆が抱いた絶望に対する抵抗かもなぁ。ちょっとでも明るく楽しく、町を彩っている。最初に年中町をお祭り騒ぎにするって考えたやつは相当寂しがり屋だったんだろうぜ」
 秀男さんが頭に手を置きながら答えた。
 絶望を抱いたひとが集まる町。一年中お祭りをしている町。
 この町はあまりにも奇妙なことや風習が集まっている。だけど――そんな風にしたから、悲しみを抱いたひとたちがあんなふうに笑顔でいられるのだろうか。
「まぁそういうワケだ。これで今度こそ説明は終わりかな」
 蓮人くんが席を立って、台所を出て行った。
 秀男さんが、蓮人のやつはせっかちだねぇと呟いて続けた。
「まぁ、少しずつ慣れていくさ。不思議で奇妙でも、こうして町はずっと成り立っている。お前は今日からそこの住人だ。わかんないことがあったらまた気軽に聞いてくれりゃあいいよ。よろしく頼むぜ」
 秀男さんも席を立ちかけたとき、思い出したように言った。
「ああ、そうだ。昼飯のオススメは、祭りの屋台の焼きそば屋『来々屋台』だ。肉にもやしにキャベツにニンジンに……って具沢山なうえにうまくてボリュームもある。いくらオレたちが最下層って言っても、ちったぁ肉くらい食わねぇとな!」
 がっはっは! と笑って秀男さんも台所を去っていく。
 私は、一度にあまりにたくさんの情報を教えられて頭の整理が追い付かず、しばらく台所の椅子に腰掛けて頭を抱えていた。
 こんな場所があるなんて信じられない。だけど、確かに私は今ここにいるんだ。不可思議な気持ちと、混乱する思い。それも日を追うごとになれていくのだろうか。
 部屋に戻ると頭がどっと疲れて、また枕を引っ張り出して私は横になった。
「絶望を抱いたひとの町、お祭り騒ぎを続ける町かぁ……」
 相反しているけれど、だからこそ成り立つような気もする。
 そして、私がここにやってきたおかしな経緯もそのせいだったのかと思ってみたり。
 この町の住人たちは、いったいどんな思いで暮らしているのだろう。
 眩暈がするような様々な思いが駆け巡る。
(私は強い子、明るい子……)
 おまじない。前向きに、前向きにとらえるんだ。
 どんなことが起きたって、前を向いて、明るく元気に――。
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