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五章 花葬―あの日の誓いをもう一度―
夏休み最後の日
夕暮れになり、イオ達は寮に戻る事にした。
「なにも本気で殴らなくても……」
ディーンは真っ赤になった頬を擦りながら言った。
「ディーン先輩が変な事を言うからじゃないですか!」
前を歩くイオは未だに少し怒っているようで、頬をぷぅっと膨らませてディーンを睨みつける。その顔をみたディーンは、苦笑いしながら大人しく彼の後に続いて歩いた。
行く時は、長い時間歩いたはずなのだが、帰りは思ったよりも早く、学校の校舎が見えた。ディーンは不思議そうに辺りを見渡す。
「おっかしいなぁ……これって行きと同じ道?」
「違いますよ。こっちの方が近道なんです」
「じゃあ、なんで行きはこの道通らなかったの?」
「あの場所は……正しい順序じゃないと辿り着けませんから」
「ふぅん」
イオが言っている事はよく解らなかったが、ディーンはなんとなく彼が喋りたくなさそうにしているのを察して、口を閉ざした。
林を抜けると、見慣れた寮の建物が見えた。周りに生徒の気配はしないが、遠くからがやがやとした賑やかな声が聞こえてくる。
「じゃあ、ここでお別れしよっか」
「そうですね。寮までは一緒に帰れませんし……」
誰かに見つかるかもしれないので、イオ達はここで別れる事にした。
「それじゃあまたね、イオちゃん」
ディーンは笑顔で手を振りながらそのまま別れようとした。
「……ディーン先輩」
しかし、イオはその場に立ち止まり、ディーンを呼び止める。
「何?」
「どうして、何もきかないんですか?」
イオはとても困惑した様子で……それでも自分より背の高いディーンを真っ直ぐ見あげていた。
「どうしてって……訊いたら答えてくれるの?」
「それは……できません。でも、僕と会っているのは」
「『マッドベア事件について知っている事を話して欲しいから』……そう思ってた?」
ディーンの言葉に、イオの瞳が揺れる。
「……違うんですか?」
「確かに僕は契約しているデュラハンに君のあとをつけるように指示したり、行動を監視したりした。それがマッドベア事件の解決に繋がると思ったからだ」
イオの顔に変化は無い。恐らく彼はディーンのしていた事を全部知っていたのだろう。
「でも、君をデートに誘ったのは個人的に興味を持ったからだよ」
「興味?」
「君は僕が君の事をずっと監視していたことを知っていた。にも関わらず、毒に倒れた僕を助けようとした。何故そんなことをするのかとね。一緒に行動して解った気がする。イオちゃんが悪い事は出来ない優しい子なんだって」
「ディーン先輩……」
「君が何者なのか。君とマッドベア事件とは何か関わりがあるのか……それは今でも知りたいと思っている。けど、君が隠したいのなら、今は何も訊かない。正直者のイオちゃんが秘密にしようとしている事だ。何か事情があるんだろう?」
ディーンがそう訊ねると、イオは俯いたまま小さく頷いた。
「君が悪い事に加担するような人間じゃない事を、僕は知っている。その心配はもう無くなった。だからもう、君について詮索することはやめたよ」
それを聞くとイオは安堵したような笑顔を浮かべたが、同時に少し寂しそうに俯いた。イオの感情を鋭く見抜いたディーンはにっこり笑いながら告げる。
「でも、君への個人的な興味は尽きないので、デートのお誘いは積極的にするつもりだけどね」
「え……?」
「勿論、イオちゃんからのお誘いも楽しみにしているから」
ディーンはそういって片目を瞑ってウインクをすると、素早くイオに近づいてその頬に軽くキスをした。
「ディーン先輩!?」
「それじゃ、またねーイオちゃん」
「ちょ、待ってくださいっ!! 今の……あぁもう、ディーン先輩!」
イオの怒鳴り声を背中で訊きながら、ディーンはその場から逃亡したのだった。
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