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⑭
夏樹が目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
寝かされていた布団から身体を上げると、首の後ろがまた痛むようだった。
部屋の中には夏樹だけではなく、恐らくここまで気絶した自分を運んでくれた雪がスマホを弄っていた。
夏樹が起きたのに気づいて、スマホを弄る手を止めてこちらに顔を向ける。
「おはよ。意外と綺麗に入っちゃってごめんね?」
「いや、腕……脚が鈍っていないようで安心したぜ」
「当たり前でしょ? 空手を辞めた夏樹と違って僕はまだずっと空手やっているんだから。寧ろ、引退して久しいのに対人戦で勝ってる夏樹の方が怖いんだけど?」
「いやぁ……集団組手、久々で楽しかった。状況が状況でなければもっと楽しめたんだがな」
夏樹はそう言いながら、自分の身体を見下ろした。首の後ろがズキズキする以外の症状はなく、どうやら『ラット』状態になるのは避けられたようだ。
「ありがとな。お陰で春斗を襲わずに済んだ……春斗はどうなった?」
「病院に運んだよ。あのストーカー女と一緒に。なんの薬が使われたのか彼女以外わからないしね。依存性があるといけないから。多分違法な薬物だろうし」
「あの女、一発殴っておけばよかった」
「よしなよ。今の世の中、αの男がΩの女を殴ったなんて大炎上だよ? いくら彼女が悪くても」
「でも、そもそもあいつがストーカーなんてしなきゃ、春斗はあんな風に苦しまなくて良かったのに」
「……まぁ、夏樹の気持ちは痛いほどわかるけどね。でも、僕が警察に通報しておいたし、あの女も夏樹を襲った男達も間もなく捕まるんじゃないかな? 証拠はいっぱいあるしね」
「結局、警察沙汰になっちまったか」
「大事にしたくないっていう春斗の気持ちもわかるんだけどね。彼女がしていたことは間違いなく犯罪だし、ああいうタイプの人間は一度捕まらないと懲りないだろうから。それに、将来警察官を目指している僕にとっては、どうしても犯罪行為を見逃すことは出来なくてね」
雪の言っていることは尤もだった。一方的に好意を寄せることはいい。でも、その結果手紙を大量に送り付けて、尾行したり、物を盗んだり、金に物を言わせて夏樹を集団で襲わせたり、春斗を薬で無理矢理ヒート状態にしたり……と、彼女のしたことは、到底許されるものではなかった。
でも、彼女が捕まったということは、被害者である春斗への聴取は必須だろう。そして、彼がまだ未成年である以上、両親にもこの一連の騒動を知られてしまう。
「……結局、俺が恋人をごっこをしたのは、無駄だったか」
「それは違うんじゃない? 寧ろ、夏樹がいたからこそ、ストーカー女を特定出来たし、彼女を捕まえることが出来た。僕は無駄だとは思わないよ。それに……本当に偽りの関係だったの?」
「……少なくとも、春斗にとってはな」
「……まぁ、春斗が病院から帰ってきたら、二人でよく話し合った方が良いと思うよ」
雪はそう言って立ち上がり、玄関の方へと向かった。
「帰るのか?」
「うん。僕も警察に行って事情聴取を受けないといけないから。夏樹もそのうち呼ばれると思うよ」
『それじゃあ』と雪は手を振って帰ってしまった。一人になった夏樹は、再び布団の上に寝転がる。
『本当に偽りの関係だったの?』―――雪の言葉が脳裏に蘇る。
「偽りの恋人ごっこだったよ……俺の気持ちはともかく」
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