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1本目「愚かな男」

1話「0歳」

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「おぎゃあおぎゃあ…」
遠くで赤子のなく声が聞こえる。
何?
そうつぶやいたこの口からこぼれたのは
「あう?」
という言葉のなりそこないの鳴き声。
異常事態か。そう思い目を開けようとするが目が明かない。
「あお?」
そう聞こえる声がむなしく響いただけだった。
「****。」
何者かの声が聞こえる。
それは、言葉として私が認識できない音であり私の聞き覚えのない言語でもあった。
体を持ち上げられる感覚がする。
私は...何なのだ?
その疑問のみが脳を占める。
私という存在を我思う故に我ありと定義づけたまではよかったのだが私が何なのかが分からない。
知識がある。
意識がある。
しかし、記憶は無いのだ。
何時知ったのかも定かでない知識から赤子であると仮定される私の自我の確立が成立するのには早すぎるということもわかり、さらに混乱する。

赤子。そう、赤子なのだ。
言葉をしゃべられないこの口におぎゃあとなく声。
慣れぬ持ち上げられた感覚と明かない瞼。
状況証拠には、少ないだろうが私の知識から当てはまる状態は、「自らが赤子である」っという状況しかないのだ。何も紡がないこの唇に意識を向けると、何かやわらかいものが充てられたことに気が付く。
「・・・。」
哺乳瓶だろうか少しずつ冷たくなっていくそれは、ミルクの匂いがしていた。
私は、赤子の本能なのかそれを口に含みチューチューと吸った。
甘い。そう感じた私の思考はだんだんと溶けていく。
...赤子の体は、眠くなりやすいようだ。
「ふわ~ケプっ」
あくびをして、小さくげっぷをすると私は私を包んでいるであろう布をつかんで眠った。
大体0歳のころ。
私が私になったその瞬間だった。






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