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食事の日の当日。
金曜日の仕事終わりに会う事になり、抄介はその日はかなり服装に気遣った。
最近服を買った覚えがなかったので、会う日が決まった次の日に、慌てて色々買い込んだのだ。
(マジでプライベート死んでたな)
クローゼットを開いた時に、いつ買ったか覚えのない服が何着あって、これを着て行ったら玲が絶対引くレベルの服だった。
待ち合わせの場所は今から行く居酒屋の近くの駅になった。
携帯を確認すると八時過ぎになっている。見渡すがまだ玲の姿は見えなかった。
清掃業を早めに切りあげると言っていたが、難しかっただろうかと色々思考しながら待っていると、駅から慌てて走ってくる小柄の青年がこちらへと向かってきた。
「遅くなりました!ごめんなさい!」
息を切らしながら抄介へと謝罪する玲に、つい抄介は胸が高鳴った。
私服姿を初めて見て少し感動してしまったのだ。
ジーンズ生地のジャケットに黒のワイドパンツを履き、ジャケットの中には白のTシャツを着ていた。
今の若者に流行っている服装で玲らしさを感じた。
抄介の服装は黒のカーディガンに薄いグレーの長袖Tシャツ、ベージュのチノパンを履いてきた。
今の流行りがよくわかっていなかったので、マネキンが着飾っている物を実は買ってきたという、少し恥ずかしい事実がある。
「い、いや大丈夫だよ。随分走ってきたな」
笑いながら抄介は玲に言った。
「仕事が遅くなったんで、滅茶苦茶走りました!」
そう息を切らしながら話す玲に、抄介は笑顔で返した。
「そんなに慌てなくても良かったのに」
「だって抄介さんと初めてご飯行くので、初日遅刻とか嫌だなぁと思って。でも結局少し遅刻しちゃったけど」
言いながら玲は申し訳なさそうな表情になるが、それすら抄介にとっては許せてしまう。
「いいよ、気にしてないから。俺、別に玲の先輩じゃないし、その・・・」
そう言い淀み、
「と、友達みたいなもんだろう?」
照れ笑いをしながら言う抄介に、玲はパッと花が咲くように笑顔になった。
「そうですね!ありがとうございます!さ、行きましょう!」
「そうだな」
二人は笑いながら、抄介のお気に入りの居酒屋へと向かった。
店は平屋建の、外観はダークブラウンの木目調の壁に覆われているお洒落な佇まいで、玄関は木製の扉になっていた。
扉を開け、二人はゆっくりと入店する。
いらっしゃいませと店員に言われると、抄介は予約している倉沢ですと言った。
「え?」
予約していることに驚いた玲は、思わず声を上げた。
「予約してくれたんですか?」
「まあ、もし席取れなかったら嫌だなって思って念の為に」
照れくさそうに笑う抄介に玲は再び驚いて言った。
「そうなんですね!嬉しいです。大人の男って感じでカッコいいですね!」
思わぬ褒め言葉に抄介はかなり嬉しくなってしまうが、照れくささも出てくる。
「そんなことないよ、金曜日だしお店が混む可能性もあったし」
抄介が必死に言い訳をしていると店員に促され、予約席へと二人は案内された。
席は窓際にある二つの椅子があるテーブル席で、テーブル、椅子と共に木製で暖かさを感じた。
店内はそれなりに客が入っていて賑わっていた。
二人は向かい合い、食べたい物や飲み物をお互い注文し、食事が出てくるまで二人談笑が始まった。
「いいお店ですね」
辺りを見渡しながら玲はそう言い、抄介は笑顔で返した。
「だろ?居酒屋って言うと大衆向けの感じがするけど、ここは家族や女性同士でも気楽に行ける店なんだよ」
「そうですよね。部屋の内装もウッド調で暖かい気持ちになりますね」
確かに間接照明が天井からぶら下がり、それが暖かい光となって雰囲気も抜群だ。
玲は楽しそうで見渡すことに飽きないらしい。
その様子を見ていた抄介は、ここを選んで良かったと心から思った。
「そんなに気に入ってくれてよかったよ。安心した」
「メチャクチャ気に入りました!またここに友達と来ようかな」
「ああ、友達とここへ来るといいよ」
そんなことを言いつつ、抄介はどこかで、それは本当に友達なんだろうかと考えてしまった。
(いかん、余計なことを考えてる。今は忘れて玲との会話を楽しもう)
頭を振っている姿を見事に玲に気づかれ、驚いた表情をしていた。
「どうしたんですか?」
「あ、いや・・・ほら、飲み物来たよ」
慌てて話を逸らし、運ばれた飲み物を受け取って玲に渡した。
「乾杯!」
そうお互いのグラスを軽く当て、飲み物を口に付けた。
玲は抄介の先ほどの変な動きについては特に問われず、楽しく食事を始めた。
「美味しかったですね!この店」
色々飲み食いし会話も盛り上がったが、気づくと時間は十時頃になっていた。
玲はそろそろ帰らなければならなかったので、名残惜しかったが店を出ることになった。
金曜日の夜ということもあってまだ夜道にも人通りが多く、その中を二人は歩いていたが、玲は満足気な表情で抄介に話した。
「良かったよ。店の雰囲気も気に入ってくれてたみたいだし」
笑みを浮かべている玲をチラッと見ながら抄介は答えた。
「はい!店の雰囲気はメチャクチャ好きですね!」
楽しそうに玲は頷いていた。
少し寒さが軽減して、お互い春のコートを着なくても歩けるほどの暖かさになり、抄介の気持ちもどこか嬉しくなる。
季節の流れと共に玲との関係が変化しているようにみえて、つい心も弾んでしまった。
隣で玲と一緒に歩けることがこんなに幸せな気持ちになるなんて、ちょっと戸惑いながらも、それでもいいんじゃないかと認める気持ちが出始めていた。
談笑しながら歩いて行くと、すれ違う人と玲が一瞬ぶつかりそうになるのを抄介は気づいた。
当の本人は気づいていないのか、避けることなく真っ直ぐ進もうとしている。
抄介は慌てて怜の肩を抱き、自分の下へと引き寄せた。
驚いた玲は思わず抄介を見つめた。
「危なかったよ、今、知らない人とぶつかりそうになってた」
「あ・・・ごめんなさい!俺、時々やらかすんですよね」
苦笑しながら謝罪する玲が思いのほか抄介と距離感が近かったことと、未だに玲の肩に触れたままでいることに気づき、抄介は慌てて体ごと退いた。
「ご、ごめん」
「いえいえ!抄介さんが守ってくれたので俺、他の人に迷惑かけずにすみました。ありがとうございました!」
笑顔で言う玲に抄介はホッとした気持ちになる。
決してわざと触れたわけじゃないのだが、変な罪悪感も生まれた。
「でも、守ってくれた抄介さん、素敵でした」
抄介の気持ちを察したように玲は優しい笑顔で言われ、抄介は思わず、玲は自分に気があるのではと勘違いしてしまうほど動揺してしまった。
(絶対そんなことないんだけどな)
そう一人心の中で思いながら、必死に舞い上がる気持ちを抑えながら先を急いだ。
帰り道、ハプニングもありつつ歩いているとようやく最寄りの駅に着いた。
「本当に今日はありがとうございました」
改めて玲は抄介にお礼を言い始めた。
「いやいや、また良かったらご飯行こう」
そう抄介が言うと、すっと玲は黙るので怪訝そうに見つめた。
少し調子に乗り過ぎたのだろうかと不安になったのだ。
「本当に俺、嬉しかったんです。ご飯誘っていただいて・・・」
「え?」
真剣な表情の玲に驚き、抄介は彼を見つめた。
「よくあるじゃないですか。“今度一緒にご飯行きましょう”って。社交辞令ってやつというか、行きましょうと言いながら結局ずっと行かないやつ。別にいいんですけど実はちょっと寂しいって思っていて、なんなら行く気もないのに言わないで欲しいなって逆に思ってしまうというか」
寂しげな表情で玲は話しを続ける。
「でも抄介さんは言ったことを実現してくれたから、抄介さんのこと信用できる人なんだなって思えたんです」
「玲・・・」
玲から真っ直ぐな目で告げられ、抄介はとても信頼されていることに驚き、一瞬言葉を無くした。
本当に自分のことを慕ってくれているのだと感動したのだ。
「本当にありがとうございました!絶対次回も行きましょう!次回は俺が店、決めますね」
玲から満面な笑みで誘われ、抄介は心が震える感覚を初めて知った。
「ああ、絶対に行こうな」
「はい!それではごちそうさまでした!ありがとうございます。また!」
笑顔で何度も振り返り、手も振りながら自分から去っていく玲の姿を、抄介も手を振りながら見送っていた。
そして胸に締め付けるような痛みを感じながら実感していた。
(もう駄目だ。これは認めるしかない)
玲の背中を名残惜しく見送りながら、抄介は思った。
(俺、玲が好きだ)
休憩室以外で会って、普段の彼の姿や無邪気な笑顔を見ているうち、そう思わざるを得なかった。
理解していたんだろうが、認めると自分が変わってしまうのではと不安が大きかったが、認めてみても何も変わらなかった。
(玲のことが好きなだけだ。何も俺は変わってない)
男か女とか関係ない。ただ玲が好きになってしまっただけだ。
暖かい感情が抄介の心に大きく広がっていく。
この暖かさを実感しめながら、くるりとその場を後にした。
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