ある休憩室で突然一目惚れをした話

リツキ

文字の大きさ
12 / 27

12.

 

 携帯のアラームが鳴り、抄介は手探りで携帯を探し音を止めた。
 ゆっくりと体を起こしベッドから出ると、カーテンを開けながら携帯で時間を確認した。
 現在八時で玲との待ち合わせ時間は十時だった。
 天気は良好で、きっと良いドライブ日和になるだろうと思った。
 そのまま浴室に行きシャワーを浴びる。
 時間をかけて身支度を整えると、財布と車のキーを持ち自室を出た。
 今日は玲と約束していたドライブデートの日で、初めての一日デートになる。
 玲は昨日の夜、LINEでかなりテンションの高いメッセージが送られてきて、相当今日のデートを楽しみにしているようだった。
 彼は車の免許証は持っていたがペーパードライバーらしく、ドライブデートをしたことがないらしい。
 人から聞いていて羨ましく思っていたようだった。
 そんな話を聞くと抄介は密かに笑うと共に、可愛らしいと思ってしまった。
 車に乗りエンジンをかけ、走り出した。
 待ち合わせ場所は抄介が住んでいるマンションの最寄り駅だった。
 そこから玲を拾ってドライブに出かける計画だ。
 車を駅の近くまで走らせると、改札口を出たところに黒のバケットハットを被り、白のゆるい長袖Tシャツとカーキー色のカーゴパンツを履いた玲が立って待っていた。
 抄介の車を見つけた玲は軽く手を振りながら、運転席へと向かってきた。
「おはようございます!」
 満面な笑みで挨拶をする玲の姿が可愛らしく、抄介はおはようと返しながら言った。
「珍しく帽子被ってるんだな?」
「はい、お洒落と日焼け対策です!」
「似合ってるよ」
 元気に答える玲の可愛さに、抄介は思わず恥ずかしいことを口走ってしまった。
「え?あ、ありがとうございます」
 ふわっと頬を赤く染めながら、玲は恥ずかしく帽子をいじる。
「さ、行こう。車に乗って!」
「はい」
 言った抄介も気恥ずかしくなり視線を逸らした。
 小走りで助手席に乗り込み着席すると、玲は抄介の服装を見て口を開く。
「抄介さんもお似合いですよ?」
「そ、そうか?」
 抄介が着用している白の半袖Tシャツに長袖のグレーグリーンのシャツを羽織り、黒のチノパン姿を見て言った。
 一応この日の為に仕事帰りに慌てて服を買いに行ったのだが、褒められて抄介は安堵する。
 玲の前では変な格好ではいたくなかったので、彼に褒められれば合格点と言えるだろう。
 シフトノブをパーキングからドライブに切り替え、車は隣県にある海で有名な場所に向かって走り出した。
 


 窓を開けると爽やかな風が車中を駆け巡った。
 帽子を取った玲の茶色の髪が、風を受けて躍るようになびいている。
 チラリと抄介は玲を見ると、楽し気にカーラジオから流れる曲を聞きながら歌っていた。
「これ何て言う曲なんだ?」
「抄介さん知らないんですか?すごく有名な曲なのに」
「悪いな、俺、本当に流行ってる曲とかドラマとか全然知らないんだ」
「そうなんですか・・・あまりテレビとか見ないんですか?」
 かなり不思議だったのか、更に玲は抄介に問いかけた。
「あまりっていうか、興味がなくて。ドラマもあんまり見ないな。特にこの仕事を始めてから全く見なくなってる」
「へぇ~」
 そう言って玲は一瞬俯いたが、
「それだけ仕事が忙しくて余裕がなかったってことなんですね」
 同情するような表情で抄介の横顔を見た。
「そうだな、本当にそう思うよ」
 苦笑いをしながら抄介は答える。
 元々そんなにテレビを見るタイプじゃなかったが、大学時代は友達と話が合わなくなるのが嫌だったので、みんなが見ている番組だけはチェックしていた。
 大学を卒業と共に友達とも会わなくなり、会っても話す話題は仕事のこと、彼女のこと、将来のことが多かったせいで更に見なくなった。
「俺って本当に人生楽しんでないよな」
「そんなこと。その時は仕事に夢中だっただけでそういう時って誰でもありますよ」
「うん、まぁそうなんだけど」
「でも今は俺と一緒にご飯行ったり、ドライブしたりで楽しんでるんじゃないですか?」
「ああ」
「それで今、抄介さんは人生を楽しんでるんですよ!」
 優しく諭すように答える玲に抄介はそれだけで癒されていた。
 最近抄介はどこか自分の人生を悔やんでいる節があった。
 仕事に夢中のあまり彼女から捨てられ、自分だけの世界をずっと生き続けているような気持ちにいたのだ。
 孤独であってもそれでもどこか選んできた道を正当化したいと思っていた。
 自分は間違っていないと。だから玲が口にしてくれたことで気持ちが楽になっていくのだ。
「玲にそう言ってもらえて俺、気が楽になるよ」
「よかった。抄介さんの役に立てて」
 チラリと抄介は玲に視線を送ると、優しい笑みを浮かべていた。
「そういえばあの男とは大丈夫か?」
 不意に抄介から問われた玲は一瞬思考していた。
「あの男ってもしかして大芝さんのことですか?」
「玲に言い寄ってきた男の名前って大芝って言うのか」
 渋い表情で言う抄介に玲は苦笑しながら答えた。
「そうです。あれからはとりあえず何も言ってこないですね。連絡もないし。このまま何もなければいいんですけど・・・」
 不安気な玲に抄介は一瞥して言葉を返した。
「もし何かあったら俺、協力するから」
「抄介さん・・・」
 目を見開き、玲は抄介の横顔を見つめた。
「俺ができる限りは絶対に守る」
「・・・ありがとうございます」
 頬を薄っすらと赤くして玲は満面な笑みで答えた。



 海が見えるところまで来ると、車を駐車場に停めた。
 再び玲は帽子を被り、抄介と二人で海岸沿いに舗装された歩道を歩きながら会話をしていた。
 舗装された歩道は煉瓦で敷かれていてお洒落さを感じる。
 日曜日ではあるが人通りはそれほど多くなく、のんびりと歩ける雰囲気だった。
 抜けるような青空の下、明るい陽射しが注がれ暑すぎず気候も良く、気持ちのいい海から来る潮風が二人の体を通り抜けて行く。
 海は青く、波は穏やかに立っている。
 屋外で過ごすのは本当に久しぶりで、心が洗われるような気持ちになった。
「海ってこんなにキラキラしてたんですね」
 眩し気に海を見ながら玲は言った。
「そうだな、俺も海に来るのは久しぶりだったから、こんなに綺麗で眩しかったんだな」
 同意しながら抄介も海に視線を送った。
「海に来るのいつぶりなんですか?」
 玲に尋ねられ抄介は暫く思考した。
「確か、大学生くらいかな」
「誰と来たんですか?」
「えっと・・・当時付き合ってた彼女かな?」
「へぇ~リア充してたんですね」
 つまらなそうに言う玲に抄介は少し焦ったように答えた。
「いや、彼女が海に行きたいって言ったから・・・」
「彼女の水着姿とか見たかったんじゃないですか?」
「あ・・・いや、まぁ・・・」
「ほら!抄介さんエッチですね」
「なんだよエッチって」
 呆れながら玲を見るが、彼は少し拗ねた表情になっている。
 もしかしてやきもちでも妬いているのかと、少し抄介は嬉しくなる。
「もう過去のことだから。そういう玲はいつぶりの海なんだ?」
 問われて玲は少し考えると、そうですねと言い話し出した。
「高校生以来だと思います。確か男友達四人くらいで女の子と遊びたくて行った気がします」
「なんだ、玲も女の子目的で行ったんじゃないか」
「俺は全然。他の三人が遊びたかっただけで。あんまりそういうの興味がなくて」
 俯く玲に抄介は怪訝そうな表情になって見つめた。
「なんか好きじゃないっていうか。海へ行った時はギャルの子ばかりに声をかけていて、俺ギャルっぽい子とか苦手なんです。普通の子がいいっていうか・・・」
「普通か」
「はい。話とかついていけないと馬鹿にされそうで疲れるかなぁとか」
 そうぼやくように言う玲に、意外と古風な部分があることに驚いた。
「そうか、ギャル嫌いなのか」
「はい」
 ジッと玲は抄介を見て答えて来た。
「抄介さんはギャル好きなんですか?」
「いや好きじゃないよ。俺も普通の子がいい」
「・・・良かった」
 安堵したのか、ふわっと笑んだ。抄介はこの笑顔にいつも心を奪われる。
 今はただ、この笑顔の傍にいられれば、それだけで充分だと思ってしまう。
「じゃあ今度海に来るときは、お互い海パン持って来るか?」
 空気を変えるつもりで抄介は言ってみたが、玲は少し恥ずかしそうに返した。
「それって、俺の裸が見たいってことですか?」
「い、いや。そういうことじゃ・・・」
「やっぱり抄介さんはエッチです」
 顔を赤らめながら抄介をからかい、二人の空気が和み出した。
 ふと抄介は玲と手を繋ぎたい気持ちに駆られ、人の目を少し気にしながら、抄介はサラッと玲の手と繋いでみた。
 驚いた玲は抄介を見る。
「嫌なら離すよ?」
 玲に気を遣いながら抄介は尋ねた。
 少し俯く玲だったが、小さく頭を左右に振った。
「大丈夫です。しばらく繋いでます」
 ぎゅっと繋いだ玲の手の力が籠った。
 抄介はそれが嬉しくて、コッソリほくそ笑んでしまった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

告白現場に遭遇したら、まさかの俺の推しだった

花魁童子
BL
配信者である主人公の浅葱は、推しの告白現場に居合わせてしまった。そしてそれと同時に推しには好きな人が⁉ それを知ってしまって、推しとまさかの付き合うことになってしまう。偽りの恋人だけどなぜか嬉しく感じる。高校生活を送っていくうちに芽生える思い‼ 二人の気持ちはどうなるのか⁉