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携帯のアラームが鳴り、抄介は手探りで携帯を探し音を止めた。
ゆっくりと体を起こしベッドから出ると、カーテンを開けながら携帯で時間を確認した。
現在八時で玲との待ち合わせ時間は十時だった。
天気は良好で、きっと良いドライブ日和になるだろうと思った。
そのまま浴室に行きシャワーを浴びる。
時間をかけて身支度を整えると、財布と車のキーを持ち自室を出た。
今日は玲と約束していたドライブデートの日で、初めての一日デートになる。
玲は昨日の夜、LINEでかなりテンションの高いメッセージが送られてきて、相当今日のデートを楽しみにしているようだった。
彼は車の免許証は持っていたがペーパードライバーらしく、ドライブデートをしたことがないらしい。
人から聞いていて羨ましく思っていたようだった。
そんな話を聞くと抄介は密かに笑うと共に、可愛らしいと思ってしまった。
車に乗りエンジンをかけ、走り出した。
待ち合わせ場所は抄介が住んでいるマンションの最寄り駅だった。
そこから玲を拾ってドライブに出かける計画だ。
車を駅の近くまで走らせると、改札口を出たところに黒のバケットハットを被り、白のゆるい長袖Tシャツとカーキー色のカーゴパンツを履いた玲が立って待っていた。
抄介の車を見つけた玲は軽く手を振りながら、運転席へと向かってきた。
「おはようございます!」
満面な笑みで挨拶をする玲の姿が可愛らしく、抄介はおはようと返しながら言った。
「珍しく帽子被ってるんだな?」
「はい、お洒落と日焼け対策です!」
「似合ってるよ」
元気に答える玲の可愛さに、抄介は思わず恥ずかしいことを口走ってしまった。
「え?あ、ありがとうございます」
ふわっと頬を赤く染めながら、玲は恥ずかしく帽子をいじる。
「さ、行こう。車に乗って!」
「はい」
言った抄介も気恥ずかしくなり視線を逸らした。
小走りで助手席に乗り込み着席すると、玲は抄介の服装を見て口を開く。
「抄介さんもお似合いですよ?」
「そ、そうか?」
抄介が着用している白の半袖Tシャツに長袖のグレーグリーンのシャツを羽織り、黒のチノパン姿を見て言った。
一応この日の為に仕事帰りに慌てて服を買いに行ったのだが、褒められて抄介は安堵する。
玲の前では変な格好ではいたくなかったので、彼に褒められれば合格点と言えるだろう。
シフトノブをパーキングからドライブに切り替え、車は隣県にある海で有名な場所に向かって走り出した。
窓を開けると爽やかな風が車中を駆け巡った。
帽子を取った玲の茶色の髪が、風を受けて躍るようになびいている。
チラリと抄介は玲を見ると、楽し気にカーラジオから流れる曲を聞きながら歌っていた。
「これ何て言う曲なんだ?」
「抄介さん知らないんですか?すごく有名な曲なのに」
「悪いな、俺、本当に流行ってる曲とかドラマとか全然知らないんだ」
「そうなんですか・・・あまりテレビとか見ないんですか?」
かなり不思議だったのか、更に玲は抄介に問いかけた。
「あまりっていうか、興味がなくて。ドラマもあんまり見ないな。特にこの仕事を始めてから全く見なくなってる」
「へぇ~」
そう言って玲は一瞬俯いたが、
「それだけ仕事が忙しくて余裕がなかったってことなんですね」
同情するような表情で抄介の横顔を見た。
「そうだな、本当にそう思うよ」
苦笑いをしながら抄介は答える。
元々そんなにテレビを見るタイプじゃなかったが、大学時代は友達と話が合わなくなるのが嫌だったので、みんなが見ている番組だけはチェックしていた。
大学を卒業と共に友達とも会わなくなり、会っても話す話題は仕事のこと、彼女のこと、将来のことが多かったせいで更に見なくなった。
「俺って本当に人生楽しんでないよな」
「そんなこと。その時は仕事に夢中だっただけでそういう時って誰でもありますよ」
「うん、まぁそうなんだけど」
「でも今は俺と一緒にご飯行ったり、ドライブしたりで楽しんでるんじゃないですか?」
「ああ」
「それで今、抄介さんは人生を楽しんでるんですよ!」
優しく諭すように答える玲に抄介はそれだけで癒されていた。
最近抄介はどこか自分の人生を悔やんでいる節があった。
仕事に夢中のあまり彼女から捨てられ、自分だけの世界をずっと生き続けているような気持ちにいたのだ。
孤独であってもそれでもどこか選んできた道を正当化したいと思っていた。
自分は間違っていないと。だから玲が口にしてくれたことで気持ちが楽になっていくのだ。
「玲にそう言ってもらえて俺、気が楽になるよ」
「よかった。抄介さんの役に立てて」
チラリと抄介は玲に視線を送ると、優しい笑みを浮かべていた。
「そういえばあの男とは大丈夫か?」
不意に抄介から問われた玲は一瞬思考していた。
「あの男ってもしかして大芝さんのことですか?」
「玲に言い寄ってきた男の名前って大芝って言うのか」
渋い表情で言う抄介に玲は苦笑しながら答えた。
「そうです。あれからはとりあえず何も言ってこないですね。連絡もないし。このまま何もなければいいんですけど・・・」
不安気な玲に抄介は一瞥して言葉を返した。
「もし何かあったら俺、協力するから」
「抄介さん・・・」
目を見開き、玲は抄介の横顔を見つめた。
「俺ができる限りは絶対に守る」
「・・・ありがとうございます」
頬を薄っすらと赤くして玲は満面な笑みで答えた。
海が見えるところまで来ると、車を駐車場に停めた。
再び玲は帽子を被り、抄介と二人で海岸沿いに舗装された歩道を歩きながら会話をしていた。
舗装された歩道は煉瓦で敷かれていてお洒落さを感じる。
日曜日ではあるが人通りはそれほど多くなく、のんびりと歩ける雰囲気だった。
抜けるような青空の下、明るい陽射しが注がれ暑すぎず気候も良く、気持ちのいい海から来る潮風が二人の体を通り抜けて行く。
海は青く、波は穏やかに立っている。
屋外で過ごすのは本当に久しぶりで、心が洗われるような気持ちになった。
「海ってこんなにキラキラしてたんですね」
眩し気に海を見ながら玲は言った。
「そうだな、俺も海に来るのは久しぶりだったから、こんなに綺麗で眩しかったんだな」
同意しながら抄介も海に視線を送った。
「海に来るのいつぶりなんですか?」
玲に尋ねられ抄介は暫く思考した。
「確か、大学生くらいかな」
「誰と来たんですか?」
「えっと・・・当時付き合ってた彼女かな?」
「へぇ~リア充してたんですね」
つまらなそうに言う玲に抄介は少し焦ったように答えた。
「いや、彼女が海に行きたいって言ったから・・・」
「彼女の水着姿とか見たかったんじゃないですか?」
「あ・・・いや、まぁ・・・」
「ほら!抄介さんエッチですね」
「なんだよエッチって」
呆れながら玲を見るが、彼は少し拗ねた表情になっている。
もしかしてやきもちでも妬いているのかと、少し抄介は嬉しくなる。
「もう過去のことだから。そういう玲はいつぶりの海なんだ?」
問われて玲は少し考えると、そうですねと言い話し出した。
「高校生以来だと思います。確か男友達四人くらいで女の子と遊びたくて行った気がします」
「なんだ、玲も女の子目的で行ったんじゃないか」
「俺は全然。他の三人が遊びたかっただけで。あんまりそういうの興味がなくて」
俯く玲に抄介は怪訝そうな表情になって見つめた。
「なんか好きじゃないっていうか。海へ行った時はギャルの子ばかりに声をかけていて、俺ギャルっぽい子とか苦手なんです。普通の子がいいっていうか・・・」
「普通か」
「はい。話とかついていけないと馬鹿にされそうで疲れるかなぁとか」
そうぼやくように言う玲に、意外と古風な部分があることに驚いた。
「そうか、ギャル嫌いなのか」
「はい」
ジッと玲は抄介を見て答えて来た。
「抄介さんはギャル好きなんですか?」
「いや好きじゃないよ。俺も普通の子がいい」
「・・・良かった」
安堵したのか、ふわっと笑んだ。抄介はこの笑顔にいつも心を奪われる。
今はただ、この笑顔の傍にいられれば、それだけで充分だと思ってしまう。
「じゃあ今度海に来るときは、お互い海パン持って来るか?」
空気を変えるつもりで抄介は言ってみたが、玲は少し恥ずかしそうに返した。
「それって、俺の裸が見たいってことですか?」
「い、いや。そういうことじゃ・・・」
「やっぱり抄介さんはエッチです」
顔を赤らめながら抄介をからかい、二人の空気が和み出した。
ふと抄介は玲と手を繋ぎたい気持ちに駆られ、人の目を少し気にしながら、抄介はサラッと玲の手と繋いでみた。
驚いた玲は抄介を見る。
「嫌なら離すよ?」
玲に気を遣いながら抄介は尋ねた。
少し俯く玲だったが、小さく頭を左右に振った。
「大丈夫です。しばらく繋いでます」
ぎゅっと繋いだ玲の手の力が籠った。
抄介はそれが嬉しくて、コッソリほくそ笑んでしまった。
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