ある休憩室で突然一目惚れをした話

リツキ

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13.

 

 しばらく海岸沿いを歩くと近くにレストランがあり、お互い空腹だったので入ることになった。
 レストランの外観は白く平屋建の建物で、個人経営をしている洋食屋だった。
 規模はそれほど大きくはないが入ると居心地の良さそうな空間で、大きな窓ガラスから海が見え、木製のテーブル席が何席か置いてある。
 二人は海が見える窓ガラスの近くにあるテーブル席に案内された。
「玲は何食べるんだ?」
 メニュー表を見ながら抄介は玲に尋ねる。
「うーん。抄介さんは何を食べるんですか?」
 逆に問われ、少し驚いた抄介はそうだなと言いながら、
「俺はハンバーグセットかな」
「選ぶメニューがなんか可愛いですね!」
 少し笑む玲に抄介は苦笑いをしながら言い返した。
「いいだろう?好きなんだよ、ハンバーグが」
「そうなんですか?じゃあまた別の日にハンバーグが美味しい洋食屋さん行きましょうね」
 優しく笑う玲に抄介は少し恥ずかしく感じたが、玲の気遣いをおもんばかり、抄介は静かに頷いた。
 暫しメニューを見ていた玲だったが、ようやく注文を決めたようだった。
「じゃあ俺もハンバーグセットにします!」
「いいのか?被るぞ」
 以前、定食屋で被るのを嫌がっていたのだが、今回は逆に玲が抄介に合わせてきたのだ。不思議に思い玲に尋ねてみた。
「大丈夫です。敢えて抄介さんと同じ物にしたんです」
「え?」
 驚き、抄介はジッと見つめて来る玲を見返す。
「だって・・・付き合っているなら一緒にしてみたいじゃないですか」
 少し頬を赤く染めながら小さい声で言う玲に、釣られるように抄介も顔が暑くなるのを感じてしまった。
「そ、そうか。そうだよな。じゃあ一緒にしよう」
 言って抄介は店員を呼び、ハンバーグセットを頼んだ。
 二人の関係が変わったことで玲の行動にも変化があることに、抄介はとても嬉しかった。
 自分に合わせてくれたこと、そして同じ物を共有したいと思ってくれたことだ。
(こんな些細なことも嬉しく感じるなんてな)
 抄介は携帯を見ている玲を見て、一人幸せを噛み締めた。



 ハンバーグセットはバラエティに富んでいて、とても美味しく満足に食事を楽しんだ。
 食事を終えた後、コーヒーを飲んでいた抄介はふと、玲と海をバックに写真が撮りたいと思い彼に声をかけた。
「なぁ、後で写真を撮ろうよ」
「え?あ・・・」
 抄介は珍しく柄にもないことを言ってしまったのだが、玲はあまり気乗りしないのか、はっきりとした返事をしない。
「嫌か?」
 心配そうに見る抄介に玲は静かに顔を横に振った。
「いいえ、大丈夫です」
 ニコッと笑む玲に抄介はホッとした表情になって、
「じゃあ後で」
「はい」
 頷く玲を見て抄介はそろそろ出ようと声をかけ、二人は立ち上がってレジへと向かった。
 レジで抄介がまとめて払うと、玲は自分も払うと申し出てくれたが、抄介はそれを優しく断った。玲はそれに感謝すると店を出た。
 店を出るなり抄介は、若干はしゃぐように海に向かって指をさした。
「じゃあ、あっちで撮ろう」
「はい!」
 二人は海を背に抄介の携帯でツーショットを撮った。
 撮れた写真を玲と見ると、二人は思わず笑ってしまった。
 少し恥ずかしさもあったが抄介は本当に楽しかったので、どうしても思い出として残したかったのだ。
「また後で写真送るな?」
「はい」
 緩く笑む玲を見て抄介は少し不安な気持ちが過ぎる。
 先ほど写真を撮ることを一瞬躊躇っていたので、やや強引に撮らせてしまったんじゃないかと思ったのだ。
「あまり写真撮られるの嫌いだったか?」
「え?うーん」
 玲は話すことを躊躇していたが、苦笑いしながら小さく頷いた。
「そ、そうか。悪かったな・・・ごめん」
「いいえ。全くってわけじゃないんですけど、抄介さんが撮りたそうだったし、ならいいかなって思って」
 濁すような返答だったがとりあえず今回は良かったようだった。
 抄介は安堵して玲を車へと促した。
 車に乗り込みエンジンをかけ、店を後にした。



 食事を終えて走り出してから時間は五時頃になっていた。
 ぶらりと海沿いをドライブしてから、そのまま玲の自宅近くまで送っていくことになった。
 運転している途中、ラジオの音ばかりで暫く玲の声が聞こえないことに気づいた。
 玲に一瞥すると彼の瞼は閉じており、ぐっすりと眠っているようだった。
 疲れたのだろかと思い苦笑した抄介だが、起こさないようになるべく静かに運転に気をつけた。
 玲の寝顔を少し見てみたい気持ちもあるが、運転をしている以上、横眼で見るのはなかなか難しい。
 しかし段差舗装で車が少し跳ね、その反動で玲の瞼が静かに開き始めた。
 やがてドア越しに傾いていた体が、静かに正面へと起こし軽く目を擦りながら抄介に声をかけた。
「ごめんなさい、寝ちゃいました」
「いいよ、疲れたか?」
「そんなこと。車の中が気持ち良くて眠気に襲われました」
 笑いながら言う玲に抄介は一緒になって笑った。
「よかったよ。ハラハラする運転じゃなくて」
「はい。抄介さん運転上手ですね」
 本当に玲は抄介を褒めてくれる。嬉しいが時々気恥ずかしさもある。
 でもそんな玲の褒め上手にどこか、安堵させられているのも確かだった。
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
 そんなことを話していると、玲は驚いて窓を見ていた。
「もう薄暗くなってたんですね」
「うん、あと少しで玲の自宅に着くよ」
「そうなんですね」
 少し寂しそうに言う玲に抄介は優しく言った。
「また行こう、ドライブ」
「はい、また行きたいです」
 笑顔で返事をする玲だが、それでもまだ寂しげだった。


 気落ちしている玲を抄介は気にしながら運転する最中、ようやく玲の自宅の近くに着いた。
 着くころにはすっかり日は暮れ暗くなっていた。
 玲が住んでいるマンションの近くに公園があり、付属している小さな駐車場があるのでそこに車を停めた。
 車のエンジンを静かに止め、二人は車から降りた。車の前で二人は向き合うと抄介は静かに言った。
「それじゃあまた行こうな」
 そう言うと玲は小さい声で、はいと言った。
「絶対また行きましょうね」
「帽子、忘れるなよ?」
「大丈夫です!もう手に持ってますから」
 ぎゅっと帽子を掴み抄介に見せた。
 しかし何か玲は抄介に言いたげで、気になった抄介は彼に尋ねる。
「どうした?」
「本当に今日も、この前もありがとうございました」
「いいよ。俺も楽しかったし」
「・・・本当に俺、抄介さんに感謝してるんです」
「玲?」
 神妙な面持ちの玲に、抄介は怪訝に思い顔を見つめた。
「いつも俺の事助けてくれて、優しくしてくれて俺、俺・・・」
 一瞬口淀み、言葉が詰まった。
「俺、抄介さんのこと、本当に好きなんだって自覚したんです」
「え?」
 玲の言葉の意味が抄介は一瞬理解できなかった。
「今更なんですけど俺、本当に恋愛感情として抄介さんのことが好きになったんです」
「・・・え?」
 言われて抄介は言葉を無くしたが、そのまま玲は話しを続けた。
「告白されて俺、最初は驚いたし本当にその時は恋愛感情で見た事がなかったので正直にそう言いました。でもこのままだと抄介さんは俺と会ってくれなくなると思ったのでそれは嫌だと思ったし、抱きしめられた時に不思議な安心感が俺の中にあって、抄介さんと離れたくないという気持ちでいっぱいになったんです。だから抄介さんと付き合うって決めました。でもまだふわっとした感覚ではあったんです」
 俯き、玲は必死に自分の気持ちをどう伝えようと考えているように見えた。
「でも前回、大芝さんとのことではっきりわかったんです。あの人に触れられた時は本当に嫌だったけど、抄介さんは全然違った。その後抄介さんとその・・・キスした時、本能で感じたんです。この人と触れ合いたい、離れたくない・・・」
 再び口籠る玲だったが、抄介は静かに見守った。
「この人が好きなんだって思ったんです」
 すっと玲の手が抄介の手に触れ、ぎゅっと握った。
「俺、抄介さんが好きです。本当の気持ちです」
 涙を零しながら言う玲に抄介は心を揺さぶられ、彼を思いっきり抱き締めた。
 抄介の胸の中で幸せな気持ちと喜びが混ざりあって、言葉にし難い感情が早いスピードで廻っていた。
「玲、すごく嬉しいよ」
 口から出る言葉は本当に単純過ぎて嫌になる。
 もっと喜びの感情を伝えたいのに、それに合った言葉はないんだろうかと抄介は自己嫌悪に陥るが、玲がおずおずと抄介の背中に自分の手を回し出した。
 服を掴む玲の握力の感触に抄介は多幸感に溢れた。
 静かにお互いの体を離すと二人は見つめ合った。
 抄介は玲の目を見つめながら彼の顔に近づき、優しくお互いの唇を重ねた。
 何度か振れるだけのキスを繰り返すと、次第に角度を変えながら口づけを続ける。
 不思議と玲からも求められている感じがして、抄介は少し高揚するのを覚えた。
 優しく唇の感触を味わいながらお互い長いキスをする。
 唇を重ね合うたびに離れ難く時間を忘れていった。
 ようやく二人は離れるが、抄介は愛おしそうに玲を見つめ、玲も抄介に愛情を帯びた目で見つめていた。
「玲、好きだ」
「抄介さん、俺も好きです」
 再び抱き締め合い、幸せの余韻を二人は味わった。
 玲の一心の想いを受け止め、抄介は人生の中で最も幸せな時だと感じ、これからも玲を大切にしたいと本気で思った。
 そしてこの幸せが一生続けばいいのにと本気でそう思ってしまった。


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