ある休憩室で突然一目惚れをした話

リツキ

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18.



(なんで?なんで抄介さんがここにいるの?なんで?)
 撮影中だが視線だけは抄介から離れることができなかった。
 抄介の隣には見慣れた着物姿の女性が立っている。そして時々抄介はその女性に話しかけていた。
(あの着物って・・・)
 薄いピンク色の着物。
 玲が今日から世話になる旅館の女中が着ている物と一緒だったのだ。
 なぜその女中さんと話しているのかはわからない。
(まさか知り合いってことかな?) 
 一瞬、玲の中で嫌な気持ちが胸の中で廻る。
 この短期間で新しい彼女がいたっておかしくはない。でもまさかと思いながら視線だけ送っていると、撮影は終わりと告げた。
 ざわつく中を玲は思わず体が動くが、その瞬間、玲と抄介の目が合った。
 抄介は玲を見つめて、少し強張った表情をしていた。
 確実に抄介は玲だと認識している。
 玲が更に近づこうとした瞬間、抄介は身を翻しその場を逃げるように後にした。
 去っていく姿をその女中は声をかけているが、それを無視して人混みの中へと消えて行く。
 玲は追いかけるように女中の所に行き声をかけた。
「あの!今の男の人って・・・お知り合いですか?」
 問われた女中は少し驚いた表情をしたが、すぐに玲の質問に返答した。
「え?まぁ知り合いというか・・・今は私が勤めている旅館のお客さんです」
「え!」
 驚き、思わず大きな声を玲は上げた。抄介は玲と同じ旅館に宿泊しているのだ。
 知り合いだと言ったので更に玲は尋ねた。
「あのうさっきの人、倉沢さんって人じゃないですか?」
「ええ、そうですけど、なんで知っているんですか?あなた俳優さんですよね?」
 更に問い質され玲は一瞬戸惑うが、本当のことを話し始めた。
「はい、俳優なんですがその、俺がバイトしていた職場で倉沢さんと知り合いまして、最近会っていなかったので、話がしたいなと思って確認したかったんです」
「そうなんですね。確か今は仕事を辞めて気分を変える為にここへ来て長期滞在をしているみたいですよ」
 笑顔で話す女中に玲は驚いて答えた。
「長期滞在?」
「ええ、一ヶ月くらいはいる予定ですよ」
「一ヶ月・・・」
 こんな山奥に一カ月も居るなんて、抄介はかなり精神的に参っているのだと感じた。
(俺のせいだ・・・俺が、抄介さんを深く傷つけたんだ)
 グッと拳を握り締めると、すっと女中に向かって言った。
「お願いがあります。倉沢さんの部屋に案内してもらえますか?」
「え?それは私の判断では・・・」
 困り兼ねている女中だが、玲は諦めることができなかった。
「俺、実はあなたの旅館に泊まっている客人です」
「あ、そういえばそうですね。撮影のスタッフさんや俳優さんたちがこちらに泊まっていらっしゃいますね」
 言って必死な思い出玲は女中にお願いをした。
「お願いです。倉沢さんの部屋に案内して下さい。俺はどうしてもあの人に謝らないといけないんです!」





 今日予定していた撮影は終わり、明日へと持ち越された。
 時間は夜八時になっている。
 旅館に戻った玲は早速着替えて、女中が待つフロントへと行く。
 女中は玲の必死の表情を見て、個人情報だから本当はいけないんですけどと言いながら承諾してくれたのだ。
 緊張の面持ちの玲に、女中はこちらですと言い案内をした。
 昭和に建てられた木造二階建の建物で、赤いカーペットが敷かれた長い廊下をパタパタとスリッパの音を立てながら歩いて行く。
 突き当りに階段があり、二階へと上がるとそこから二部屋歩いた先にある、“梅の間”と書かれた部屋に案内された。
「ここです」
 そう言う女中に玲は静かに頷いた。
 女中がコンコンと木製の扉をノックすると、抄介の声が聞こえて来た。
「はい」
「倉沢様、遅くに申し訳ございません。実は倉沢様にお会いしたい方がいらっしゃいまして・・・」
「・・・・」
 女中の話に抄介の返答はなく、無言になっている。
 玲は不安になりチラリと女中を見た。女中も玲の顔を見る。
 暫くして、ようやく抄介の声が聞こえてきた。
「わかりました」
 そう言い、ガチャっと扉が開いた。
 開けた瞬間、玲は尋常なく心臓が高鳴った。
 久しぶりに見た抄介の顔。どこか暗い表情だったが元気そうに見えた。
 しかし抄介の視線が玲に向けられた瞬間、顔が無表情になった。
「こちらのお客様なんですがよろしかったですか?」
 何のリアクションもなかった抄介に気を遣った女中は、彼に尋ねた。
「大丈夫です。すみません」
 低いトーンで返答し、女中は頭を下げるとそそくさと部屋を後にした。
 二人きりになり、玲はすぐに謝りたかったのだが、抄介の雰囲気に圧され言葉が出てこなかった。
(抄介さんはやっぱり怒っている)
 そう思い玲は俯いていると、
「部屋、入った方がいいんじゃないか?こんなところで芸能人がいたらマズいんじゃないか」
 静かなトーンでさらりと言う抄介に玲はハッとさせられた。
「抄介さん・・・ごめんなさい、俺の本当の姿を言わなくて」
「・・・いいからとにかく部屋に入った方がいい」
 扉を大きく開き、玲を招き入れた。


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