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25.
桜川と話し合いをしてから一週間後、抄介と玲はある店に向かって歩いていた。
今日は一応客として訪れる予定なので、念の為に現在茶髪の玲には黒髪のストレートウィッグを被ってもらうことにした。
店に着き、扉を開いた。
そこには忙しそうにアキラが店内で注文を聞いて歩いているところだった。
「あら、いらっしゃい抄ちゃん・・・」
言ってアキラの視線は、抄介の隣にいる玲へと視線が注がれる。
「この子ってもしかしてあなたの・・・」
勘の鋭いアキラに抄介は苦笑いをしながら答えた。
「・・・はい。お騒がせした子です」
「こ、こんばんは。お邪魔します」
玲はペコリとアキラに向かって頭を下げると、アキラはフフッと笑いながら返した。
「やっぱり!初めまして。どうぞ、こっちのカウンター席の方がいいわよね」
笑顔で対応され、二人は遠慮なくカウンター席へと向かった。
二人は椅子に座るといつものお通しが出てきた。
「あ!肉ジャガだ」
見るなり玲は破顔しながら言う。
「そうよ。うちの名物でね。これが食べたくて通ってくるお客さんもいるの。食べてみて!」
箸を渡すと、玲は早速肉ジャガを頬張った。
「美味しい!!ジャガイモに甘辛の味が染み込んですごく美味しいです!」
「でしょう?喜んでくれて良かったわ」
笑顔でアキラが言うと、さてと言いながら二人に問いかけた。
「何をお飲みになる?抄ちゃんはいつものビールで良かった?」
「はい、俺はそれで。玲はどうする?」
問われ玲はメニュー表を見ながら、うーんと唸っていた。
「そうですね・・・俺も抄介さんと同じビールで!」
「了解!」
二人に背中を向けたアキラは、注文の飲み物の準備にかかった。
フフッと急に笑い出す玲に抄介は怪訝に思い尋ねた。
「何か可笑しかった?」
「抄介さん、“抄ちゃん”って呼ばれてるんですね」
笑いが止まらず笑みを作りながら玲は言った。
「何でだろう。アキラさんの特段と偏見で“ちゃん”って呼ばれる人が何人かいるんだよな。俺はその一人なんだけど」
別にちゃん呼ばわりが嫌ではないのでそのままになっているが、アキラに言われて不快に思う人はいるのだろかと思った。
彼の明るく穏やかな人柄が“ちゃん”と呼ばれても嫌と思わないのかもしれない。
ビール二つを持ちながらアキラは抄介たちの下へとやって来る。
テーブルに置くと二人は手に取って飲み始めた。
「どうでもいいけど、なんでこの子はウィッグを被ってるの?」
ひそひそ声で尋ねてきたアキラに抄介は苦笑しながら答える。
「一応お忍びで来ているからさ。念のために身バレしないようにしたんだ」
「なるほどね」
「どこで誰が見てるかわからないからね」
言って抄介は玲を見つめると、そうだとアキラが呟いた。
「ごめんなさいね。私、あなたの正体を知った時、抄ちゃんに誤解を招くようなことを言ってしまったかもしれない」
申し訳なさそうにアキラは玲に向かって謝ってきて、彼は怪訝そうに問いかけた。
「それってなんですか?」
「あなたが過去、女優さんと噂があったっていう記事を彼に見せたのよ。それでかなり抄ちゃんが落ち込んでしまっていたから」
「え、そうなんですか?」
驚いた表情で玲は抄介を見た。
「つまり、玲は元々女性が好きだったんだってわかって、俺に好意を抱くっていうのが嘘だって思ったんだ。だから俺はいいように利用されたのかなって思ったっていうか」
気まずそうに言う抄介の言葉を聞いて、ふと旅館で話していたことを玲は思い出していた。
確かに自分に対してBLドラマの為に利用したんだろうと抄介に言われていた。誤解はここからだったのだとわかり、玲は苦笑した。
「そうだったんですね。理解しました」
「ごめんなさい。私も落ち込んでた抄ちゃんをなんとか励まそうとしてちょっと気になったから調べたのよね。そうしたらその記事が出て来たから・・・」
再び申し訳なさそうに言うアキラに玲は慌てて口を開いた。
「いいんです。もう終わったことなので・・・」
笑顔で言うがアキラはまだ心苦しい表情をしていた。
「もうその件の誤解は解けているので大丈夫ですよ」
フォローを入れる抄介にアキラは、そうと呟きながら、
「ありがとう」
言って安心したように微笑んだ。
「そうだ、玲君!もうあのドラマの続編はないの?」
「あのドラマ?」
「園井さんと共演してたBLドラマよ!」
目を輝かせてアキラは問いかける。しかし玲は申し訳なさそうに答えた。
「すみません、俺は全然そういうのはわからなくて」
「あら、そうなのね。すごく良かったから続編希望したいの」
BLドラマを褒めまくるアキラに抄介は少し疑問に思い、ドラマについて尋ねた。
「そんなに良かったんですか?」
「そうよ!園井さんが素敵で!玲君との雰囲気もメチャクチャ良かったの~」
ウットリとして語るアキラは、今まで見たことがない程の幸せな顔をしていた。
(よっぽど園井さんのファンなんだな)
そんなことをぼんやり思いながら、ふと玲と園井がどんな演技をしていたのか気になりアキラに尋ねてみた。
「どんな話だったんですか?そのBLドラマって」
「玲君が園井さんに一生懸命追いかける話なのよね。でも最終的には園井さんも玲君に振り向いて両想いになるというお話よ」
「え、玲が追いかけるのか?」
予想外の内容に抄介は少し面食らうと、玲は苦笑いをしていた。
「そうなのよ!玲君が健気でいじらしいのよ。応援したくなっちゃう。でもそんな健気さに心打たれて園井さんと恋人になるんだけどね」
ニッコリ笑いながらアキラは玲を見て言った。
「そうなんです。俺が園井さんに一目惚れをして何度もアタックするみたいな感じでしたね」
「マジか・・・」
思っていた内容とは違い、抄介は困惑してしまった。
勝手に玲が想われるパターンだと思っていたから、それはどこか自分に投影していたのかもしれない。
「それで恋人になってからのラブラブシーンが素敵なのよね~」
聞き捨てならない言葉に抄介は思わず玲に詰め寄り問い詰めてしまった。
「え!!何、そのラブラブシーンってどんなシーンなんだよ!!」
「えっと・・・裸になってキスしたぐらいです」
「は、裸になってってどういうことだよ!!」
「ちょっと抄ちゃん、声が大きいわよ!」
アキラに叱られ抄介は慌てて身を竦めた。
「すみません、でもマジで気になるんで」
動揺している抄介に玲は少し申し訳なくなるが、続けて話し始めた。
「ただ裸になってキスしてるだけです。それ以外は何もしてないですよ」
「いやいやいや!裸になってキスしてるだけで充分だろう?マジかよ」
抄介は頭を抱え落ち込んでしまい、慌てて玲は抄介の傍に寄って慰めた。
「本当は抄介さんに俺の作品、見て欲しいなぁって思っているんですけどきっとこのシーンが辛いだろうなって思ったんで言わなかったんです」
「・・・なんで俺に見せたいんだ?」
ちらりと抄介は玲に視線を送る。
「それは俺、演じている途中から抄介さんを思い出しながらなぜか演じてました」
「え?」
驚き抄介は抱えていた頭を静かに起こした。
「理由はわからないんですけど、演じている時だけなぜか園井さんの役が抄介さんを思い出させたんです。不思議ですよね、その時は抄介さんのこと恋愛感情で見てなかったのに」
微笑みながら言う玲に抄介は急に抱きしめたくなるが、必死にその欲を抑えた。
「そ、そっか」
不思議だがそう言われると抄介は嬉しくなってしまう。
まさか思い出して演じてくれているとは、その時の自分は玲にとって思い出させるような存在になっていたのだろうかと勝手に思い、つい笑顔になってしまった。なんとも単純な思考に抄介はみっともなく感じた。
「あら、抄ちゃんのご機嫌が直ったところで、もっとドラマの裏話教えてよ!」
「あーはい。答えらえる範囲だったら・・・」
玲は笑いながらアキラのリクエストに答えようと、ドラマを撮っていた時のことを思い出しながら話を始めた。
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