【完結】クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい

根古川ゆい

文字の大きさ
7 / 15

任務の説明

しおりを挟む
 バルコニーからの景色は、さすが王宮の夜会場というべきでしょう。照明に照らされる計算されつくした華やかな庭は、ため息が出るほど綺麗でした。

「リナ、さっき説明はしたけど」
「はい」
「本当にただの任務だったんだ」
「分かってます」

 マシュー様は、それからいろんなことを説明してくださいました。

 今回の依頼は王家からのものだったこともあり、詳細を告げることはできなかったこと。

 エミリーさんに魅了された人がなんと騎士団員にもいたため、騎士団員全員から魅了耐性のある者を探した結果、自分しかいなかったこと。

 魅了されたふりをしろと言われていたが、私といる姿を一目でも見られれば、魅了が効いていない事がバレるからと父である将軍から接触を禁止されていたこと。

「一週間前にあの女が流した噂で、どれほど傷ついたかと思うと…」

 寄せられた眉間のしわが、マシュー様の苦悩を物語っています。

「せめて手紙でもと思ったが、それも任務失敗の恐れがと上から禁止されていたんだ」

 これがきっかけでリナに嫌われたらどうしてくれると騎士団本部で暴れてしまったなんて冗談までおっしゃっていました。

「私、エミリーさんと話している所も見かけました」
「そうか…」
「二人で腕を組んで歩いている所も」
「すまない」
「噂を聞いて、つらくて、確かに泣きました」

 傷ついていませんと言うことは簡単です。けれど、マシュー様にどうしても伝えたいと思ってしまったのです。

「でも、それでもマシュー様のことを好きだなと思ったんです。もし今日婚約破棄されても、ずっとお慕いしていましたって伝えるつもりでした」
「ずっと?」
「初めてあったあの日からずっとお慕いしております」

 どうしても伝えたかったのはこの言葉でした。

 よく考えると、素直に言葉にして伝えたのは、これが初めてです。可愛いと言ってくれないと思っていたけれど、私だってマシュー様に格好良いとも好きだとも伝えていなかったことに気づいてしまったのです。

「ああ、君も、そうなのか?本当に?」
「君、も?」
「口下手で表情も無いこどもに一生懸命いろんなことを話してくれた君を、俺は好きになったんだ」
「マシュー様も?」
「つまらないとかもっと話せとか言わずに、僕のために必死で話題を探してくれた君をね」

 マシュー様は微笑みながら私の頭をそっと撫でてくれました。

「諦めないでくれてありがとう」
「いえ」
「そろそろ戻らないと駄目かな」
「そうですね」

 私も、今ならこの卒業パーティーを心から楽しめると思います。マシュー様はすっと跪くと、恭しく手を差し伸べてくれました。

「リナティエラ嬢、どうか踊って頂けませんか?」

 正式な作法のお誘いに、すっと手を伸ばす。

「喜んで!」

 婚約破棄される覚悟を決めていた筈なのに、こんなに幸せで良いんでしょうか。悩む私の手を引きながら、マシュー様はそっと耳元で囁きました。

「講師の任を受けた理由が、卒業パーティーで他の男と躍らせないためだと言ったら、軽蔑する?」

 あまりに甘い言葉に頬を染めながら、私は満面の笑みで答えました。

「いいえ、とっても光栄ですわ!」


Fin
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

姉に嵌められました ~姉を婚約破棄してきた王子を押し付けられてもお断りします~

佐崎咲
恋愛
「ルイーゼ=リスターク! お前との婚約は解消し、私はシェイラと婚約する」   広間の真ん中で、堂々と宣言したのはラルカス第二王子。 私は愕然とした。 すぐに姉に嵌められたのだと気が付いた。   婚約破棄されたのは姉。 押し付けられたのは妹である、私。   お姉様が婚約破棄されたら困る! 私だってこんなアホ王子と婚約なんてしたくない!   という、姉妹によるアホ王子の押し付け合いと、姉妹それぞれの恋愛事情。   頭を空っぽにしてお読みください。   数日以内に完結予定です。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

王子様からの溺愛プロポーズを今までさんざんバカにしてきたみんなに見せつけることにしました。

朱之ユク
恋愛
 スカーレットは今までこの国の王子と付き合っていたが、まわりからの僻みや嫉妬で散々不釣り合いだの、女の方だけ地味とか言われてきた。  だけど、それでもいい。  今まで散々バカにしてきたクラスメイトに王子からの溺愛プロ―ポーズを見せつけることで、あわよくば王子の婚約者を狙っていた女どもを撃沈してやろうと思います。

地味令嬢の私ですが、王太子に見初められたので、元婚約者様からの復縁はお断りします

reva
恋愛
子爵令嬢の私は、いつだって日陰者。 唯一の光だった公爵子息ヴィルヘルム様の婚約者という立場も、あっけなく捨てられた。「君のようなつまらない娘は、公爵家の妻にふさわしくない」と。 もう二度と恋なんてしない。 そう思っていた私の前に現れたのは、傷を負った一人の青年。 彼を献身的に看病したことから、私の運命は大きく動き出す。 彼は、この国の王太子だったのだ。 「君の優しさに心を奪われた。君を私だけのものにしたい」と、彼は私を強く守ると誓ってくれた。 一方、私を捨てた元婚約者は、新しい婚約者に振り回され、全てを失う。 私に助けを求めてきた彼に、私は……

婚約破棄の日の夜に

夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。 ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。 そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····

【完結】『偽り婚約の終わりの日、王太子は私を手放さなかった』~薄氷の契約から始まる溺愛プロポーズ~

桜葉るか
恋愛
偽装婚約から始まる、薄氷の恋。 貴族令嬢ミレイユは、王太子レオンハルトから突然告げられた。 「俺と“偽装婚約”をしてほしい」 政治のためだけ。 感情のない契約。 ……そう思っていたのに。 冷静な瞳の奥ににじむ優しさ。 嫉妬の一瞬に宿る、野性の熱。 夜、膝枕を求めてきた時の、微かな震え。 偽りで始まった関係は、いつしか—— 二人の心を“本物”へ変えてゆく。 契約期限の夜。 最初に指輪を交わした、あの“月夜の中庭”で。 レオンハルトは膝をつき、彼女の手を包み込む。 「君を手放す未来は、存在しない。  これは契約ではない。これは“永遠”だ」 ミレイユは、涙で頬を濡らしながら頷いた。 偽りの婚約は、その瞬間—— 誰も疑えない、本当の未来へ変わる。

婚約者が私と婚約破棄する計画を立てたので、失踪することにしました

天宮有
恋愛
 婚約者のエドガーが、私ルクルとの婚約を破棄しようと計画を立てていた。  それを事前にユアンから聞いていた私は、失踪することでエドガーの計画を潰すことに成功する。  ユアンに住んで欲しいと言われた私は、ユアンの屋敷の地下室で快適な日々を送っていた。  その間に――私が失踪したことで、様々な問題が発生しているようだ。

処理中です...