8 / 15
【マシューside】俺のきもち
しおりを挟む
俺の名前はマシュー・ハワード。伯爵家の長男として産まれた。
歴代騎士の家系ではあるが、うちの方針は他家からしたら信じられないほどに自由なものだった。
幼いころから叩きこまれるハワード家の方針いわく、騎士になった者の中から、家を継ぐ者を選ぶ。その歳、年齢性別は一切考慮に入れない。家を盛り立てる事ができると思った者を、全ての子の中から選び出す。騎士になりたくなければ、無理に騎士を目指す必要はない。それぞれの好きな道に進むことを許す。
実際に祖父母の代では、女性騎士となった祖母が家を継いだし、両親の代では、次男であった父が家を継いだ。余程の事がなければ長子が継ぐことが多い貴族界では異端、それがハワード伯爵家だった。
痛い思いはしたくないから騎士は嫌だなぁなんて、幼い頃は考えていたんだ。
あの日リナティエラに会うまでは。
正直に言って、俺は顔合わせ自体にまったく乗り気じゃなかった。
この国では7歳から社交が始まる。社交と言っても、ただのお茶会程度のものではあるが、見知らぬこどもと交流をすることを求められる。王家主催のものはまだ良い。ひっそりと隅にいれば同じ年に産まれた王子の陰に隠れられる。ただ自分の家が主催のものは、隠れることはできなかった。
それでも、父や叔父の騎士としての話を聞きたがる男の子の相手は何とかできた。
鬼門は女の子だった。騎士の話は怖いから嫌だ。もっと楽しいお話が聞きたい。そんなことを言われても困ってしまう。そこからの流れは皆一緒だった。表情が変わらないから怖いとか、もっとお話してとか自分からは話題ひとつ作らないのに責められてばかりだった。無表情で無口、おまけに不愛想。そんな風に噂されているのを知ってからは、余計に表情はこわばってしまった。間違いなく悪循環にはまり込んでしまっていた。
「かおあわせですか?」
「そうだ、もちろん相性が良くなければ、無理強いはしないが」
その日の出発前、悪戯っぽい目で俺を見つめていた父を、やけに覚えている。きっとお前は気にいると思うよなんて言われても、期待はしなかった。
父と友人だと言うクラーク伯爵家の広間で待っていたのは、鮮やかな金髪に温かみのある茶色の目をした女の子だった。ほっそりとした3歳年下の女の子は、ニコニコと笑いながら俺に挨拶をした。
「はじめまして、リナティエラ・クラークです」
「マシュー・ハワードです」
まだ社交開始の年齢になってないから、俺が無口で不愛想だって噂も知らないんだな。そう思うと少しだけ肩の力が抜けた。
父親は俺の様子を見て、二人だけで話させることにしたようだった。クラーク伯爵もあっさりと席を外して、大きな窓が開かれた部屋で本当に二人だけにされたのには驚いてしまった。メイドか侍従ぐらいは室内に控えるのが普通なのに、本当に二人だけだ。
何を話せば良いのか分からずそれでも必死で話題を探していると、リナティエラ嬢は話し始めた。
天気の話に、趣味の話、好物の話、好きな場所、好きな本に、お気に入りのお菓子に他にもたくさん。俺の愛想の無い相槌を聞きながら、それでも彼女はひたすらに話し続けてくれた。
いろんな話をしながらコロコロと変わっていく表情が、可愛いと思った。
楽しそうだった彼女は、庭で木登りをしている時に見つけた鳥の巣の話をした途端に、頬を赤くして黙り込んでしまった。
俺も木登りは好きだ。弟と競いあってよく庭の木に登っている。両親どころかメイドや侍従も慣れたもので、木の上から飛び降りる俺たち兄弟を見て笑っている。
以前の茶会で、俺が木登りを話題にした時に木登りなんてはしたないなんて言ってた女の子もいたから、急にそこに気づいてしまったんだろうか。
「リナティエラじょうは、たくさんおはなししてくれるんだね」
「ご、ごめんなさい」
「なんであやまるの?ぼくはくちべただから、きにせずはなしてくれてうれしいよ」
「そうなの?いやじゃないならよかったわ」
まずは俺だけに話題探しを押し付けなかったお礼を告げる。
「そのとりのす、ぼくもみてみたいな」
「ほ、ほんと?」
「うん、いっしょにみにいこう」
ふにゃりと安心したって書いてある笑顔を見せてから、僕が差し出した手にそっと乗せられたのは小さな手だ。うん、本当にこの子は今までに会った子たちとは違うんだ。無口で不愛想な俺にもっとこうしろって言わずに、一生懸命楽しませようとしてくれる子。その上、一緒に木登りだってできる。そう思うと、思わず笑みが零れた。
窓から抜け出して二人で木登りをしているところを見つかって、うちの父とクラーク伯爵二人がかりですごく怒られたけど、俺の心は決まっていた。
「おれは、リナティエラじょうがいい」
そう帰りの馬車の中で父に言うと、父はほらやっぱり気に入ったと楽し気に笑っていた。
歴代騎士の家系ではあるが、うちの方針は他家からしたら信じられないほどに自由なものだった。
幼いころから叩きこまれるハワード家の方針いわく、騎士になった者の中から、家を継ぐ者を選ぶ。その歳、年齢性別は一切考慮に入れない。家を盛り立てる事ができると思った者を、全ての子の中から選び出す。騎士になりたくなければ、無理に騎士を目指す必要はない。それぞれの好きな道に進むことを許す。
実際に祖父母の代では、女性騎士となった祖母が家を継いだし、両親の代では、次男であった父が家を継いだ。余程の事がなければ長子が継ぐことが多い貴族界では異端、それがハワード伯爵家だった。
痛い思いはしたくないから騎士は嫌だなぁなんて、幼い頃は考えていたんだ。
あの日リナティエラに会うまでは。
正直に言って、俺は顔合わせ自体にまったく乗り気じゃなかった。
この国では7歳から社交が始まる。社交と言っても、ただのお茶会程度のものではあるが、見知らぬこどもと交流をすることを求められる。王家主催のものはまだ良い。ひっそりと隅にいれば同じ年に産まれた王子の陰に隠れられる。ただ自分の家が主催のものは、隠れることはできなかった。
それでも、父や叔父の騎士としての話を聞きたがる男の子の相手は何とかできた。
鬼門は女の子だった。騎士の話は怖いから嫌だ。もっと楽しいお話が聞きたい。そんなことを言われても困ってしまう。そこからの流れは皆一緒だった。表情が変わらないから怖いとか、もっとお話してとか自分からは話題ひとつ作らないのに責められてばかりだった。無表情で無口、おまけに不愛想。そんな風に噂されているのを知ってからは、余計に表情はこわばってしまった。間違いなく悪循環にはまり込んでしまっていた。
「かおあわせですか?」
「そうだ、もちろん相性が良くなければ、無理強いはしないが」
その日の出発前、悪戯っぽい目で俺を見つめていた父を、やけに覚えている。きっとお前は気にいると思うよなんて言われても、期待はしなかった。
父と友人だと言うクラーク伯爵家の広間で待っていたのは、鮮やかな金髪に温かみのある茶色の目をした女の子だった。ほっそりとした3歳年下の女の子は、ニコニコと笑いながら俺に挨拶をした。
「はじめまして、リナティエラ・クラークです」
「マシュー・ハワードです」
まだ社交開始の年齢になってないから、俺が無口で不愛想だって噂も知らないんだな。そう思うと少しだけ肩の力が抜けた。
父親は俺の様子を見て、二人だけで話させることにしたようだった。クラーク伯爵もあっさりと席を外して、大きな窓が開かれた部屋で本当に二人だけにされたのには驚いてしまった。メイドか侍従ぐらいは室内に控えるのが普通なのに、本当に二人だけだ。
何を話せば良いのか分からずそれでも必死で話題を探していると、リナティエラ嬢は話し始めた。
天気の話に、趣味の話、好物の話、好きな場所、好きな本に、お気に入りのお菓子に他にもたくさん。俺の愛想の無い相槌を聞きながら、それでも彼女はひたすらに話し続けてくれた。
いろんな話をしながらコロコロと変わっていく表情が、可愛いと思った。
楽しそうだった彼女は、庭で木登りをしている時に見つけた鳥の巣の話をした途端に、頬を赤くして黙り込んでしまった。
俺も木登りは好きだ。弟と競いあってよく庭の木に登っている。両親どころかメイドや侍従も慣れたもので、木の上から飛び降りる俺たち兄弟を見て笑っている。
以前の茶会で、俺が木登りを話題にした時に木登りなんてはしたないなんて言ってた女の子もいたから、急にそこに気づいてしまったんだろうか。
「リナティエラじょうは、たくさんおはなししてくれるんだね」
「ご、ごめんなさい」
「なんであやまるの?ぼくはくちべただから、きにせずはなしてくれてうれしいよ」
「そうなの?いやじゃないならよかったわ」
まずは俺だけに話題探しを押し付けなかったお礼を告げる。
「そのとりのす、ぼくもみてみたいな」
「ほ、ほんと?」
「うん、いっしょにみにいこう」
ふにゃりと安心したって書いてある笑顔を見せてから、僕が差し出した手にそっと乗せられたのは小さな手だ。うん、本当にこの子は今までに会った子たちとは違うんだ。無口で不愛想な俺にもっとこうしろって言わずに、一生懸命楽しませようとしてくれる子。その上、一緒に木登りだってできる。そう思うと、思わず笑みが零れた。
窓から抜け出して二人で木登りをしているところを見つかって、うちの父とクラーク伯爵二人がかりですごく怒られたけど、俺の心は決まっていた。
「おれは、リナティエラじょうがいい」
そう帰りの馬車の中で父に言うと、父はほらやっぱり気に入ったと楽し気に笑っていた。
25
あなたにおすすめの小説
捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——
usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。
傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。
心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。
そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。
「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」
──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。
離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています
鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」
そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。
お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。
「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」
あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。
戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」
――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。
彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。
「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」
「……本当に、離婚したいのか?」
最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。
やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。
剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う
石月 和花
恋愛
両親が亡くなって男爵家を叔父に乗っ取られた令嬢のアンナは、騎士だった父から受けた手解きのお陰で、剣を手に取り冒険者として日銭を稼ぎながら弟を育てていた。
そんなある日、ひょんな事から訳ありそうな冒険者ルーフェスと知り合ったのだった。
アンナは、いつも自分の事を助けてくれるルーフェスに、段々と心が惹かれていったが、彼女にはその想いを素直に認められなかった。
何故ならアンナの目標は、叔父に乗っ取られた男爵位を取り返して身分を回復し、弟に爵位を継がせる事だったから。この願いが叶うと、冒険者のルーフェスとは会えなくなるのだ。
貴族の身分を取り戻したい気持ちと、冒険者としてルーフェスの隣に居たい気持ちの間で悩み葛藤するそんな中で、アンナはルーフェスの重大な秘密を知ってしまうのであった……
##
ファンタジー小説大賞にエントリーしています。気に入って頂けましたら、応援よろしくお願いします!
##
この話は、別タイトルで小説家になろうでも掲載しています。
【完結】恋を忘れた伯爵は、恋を知らない灰かぶり令嬢を拾う
白雨 音
恋愛
男爵令嬢ロザリーンは、母を失って以降、愛を感じた事が無い。
父は人が変わったかの様に冷たくなり、何の前置きも無く再婚してしまった上に、
再婚相手とその娘たちは底意地が悪く、ロザリーンを召使として扱った。
義姉には縁談の打診が来たが、自分はデビュタントさえして貰えない…
疎外感や孤独に苛まれ、何の希望も見出せずにいた。
義姉の婚約パーティの日、ロザリーンは侍女として同行したが、家族の不興を買い、帰路にて置き去りにされてしまう。
パーティで知り合った少年ミゲルの父に助けられ、男爵家に送ると言われるが、
家族を恐れるロザリーンは、自分を彼の館で雇って欲しいと願い出た___
異世界恋愛:短めの長編(全24話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
突然婚約破棄された出来損ない令嬢は、騎士になって世の中を見返します!
香取鞠里
恋愛
「この学園の卒業という素晴らしい良き日ではあるが、私はイルアとの婚約を破棄する」
私、公爵令嬢であるイルア、十八歳は、生まれもって婚約者とされていた自国の王子、マーティン、十八歳に婚約破棄を告げられていた。
イルアは公爵令嬢だが、成績も悪ければ、取り立ててできることもない。いわゆる出来損ないだ。
自分の無能さを自覚していた上、マーティンの裏での悪行を知っていたイルアは、婚約破棄されたことを素直に受け入れ、内心大喜びだった。
しかし、ある日王子の計らいで襲われかけたとき、自分のことをバカにするやつらに腹を立て騎士になることを志す。
いつまでも出来損ないだからとバカにされたくなかった。
世間を見返してやろうと騎士への道を進み始めたとき、イルアの指導者として、ひとつ上の男性ルキと出会う。
騎士としてイルアが腕を上げると同時に、二人の仲が深まる中、騎士としてのイルアのことを聞きつけたマーティン王子が再びイルアの元を訪れて──!?
【完結】君に、生きる力を~公爵令嬢に裏切られ追放された王子は、巻き返しを図る
ノエル
恋愛
王都の華やかな卒業パーティー。レオン王子は、愛するクラリスをエスコートするはずだった。だが、彼女は隣国の王子の腕に抱かれ、真紅のドレスを纏って現れた
「私は、より良い未来を選んだだけよ。ガルナスの方が国力があるわ」そんな言葉で、レオンの誇りも、未来も、砕け散る。王家に見限られ、失意のままに辺境の地で生きることを強いられたレオン王子。
これは、“誰かに必要とされる”ことで、人生が再び輝きを取り戻す物語。
※ざまぁはありますが、しぶとく生き残ります。
全12話
【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜
きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。
悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。
切ない話が書きたくて書きました。
転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる