【完結】クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい

根古川ゆい

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【マシューside】俺のきもち

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 俺の名前はマシュー・ハワード。伯爵家の長男として産まれた。

 歴代騎士の家系ではあるが、うちの方針は他家からしたら信じられないほどに自由なものだった。

 幼いころから叩きこまれるハワード家の方針いわく、騎士になった者の中から、家を継ぐ者を選ぶ。その歳、年齢性別は一切考慮に入れない。家を盛り立てる事ができると思った者を、全ての子の中から選び出す。騎士になりたくなければ、無理に騎士を目指す必要はない。それぞれの好きな道に進むことを許す。

 実際に祖父母の代では、女性騎士となった祖母が家を継いだし、両親の代では、次男であった父が家を継いだ。余程の事がなければ長子が継ぐことが多い貴族界では異端、それがハワード伯爵家だった。

 痛い思いはしたくないから騎士は嫌だなぁなんて、幼い頃は考えていたんだ。

 あの日リナティエラに会うまでは。

 正直に言って、俺は顔合わせ自体にまったく乗り気じゃなかった。

 この国では7歳から社交が始まる。社交と言っても、ただのお茶会程度のものではあるが、見知らぬこどもと交流をすることを求められる。王家主催のものはまだ良い。ひっそりと隅にいれば同じ年に産まれた王子の陰に隠れられる。ただ自分の家が主催のものは、隠れることはできなかった。

 それでも、父や叔父の騎士としての話を聞きたがる男の子の相手は何とかできた。

 鬼門は女の子だった。騎士の話は怖いから嫌だ。もっと楽しいお話が聞きたい。そんなことを言われても困ってしまう。そこからの流れは皆一緒だった。表情が変わらないから怖いとか、もっとお話してとか自分からは話題ひとつ作らないのに責められてばかりだった。無表情で無口、おまけに不愛想。そんな風に噂されているのを知ってからは、余計に表情はこわばってしまった。間違いなく悪循環にはまり込んでしまっていた。

「かおあわせですか?」
「そうだ、もちろん相性が良くなければ、無理強いはしないが」

 その日の出発前、悪戯っぽい目で俺を見つめていた父を、やけに覚えている。きっとお前は気にいると思うよなんて言われても、期待はしなかった。

 父と友人だと言うクラーク伯爵家の広間で待っていたのは、鮮やかな金髪に温かみのある茶色の目をした女の子だった。ほっそりとした3歳年下の女の子は、ニコニコと笑いながら俺に挨拶をした。

「はじめまして、リナティエラ・クラークです」
「マシュー・ハワードです」

 まだ社交開始の年齢になってないから、俺が無口で不愛想だって噂も知らないんだな。そう思うと少しだけ肩の力が抜けた。

 父親は俺の様子を見て、二人だけで話させることにしたようだった。クラーク伯爵もあっさりと席を外して、大きな窓が開かれた部屋で本当に二人だけにされたのには驚いてしまった。メイドか侍従ぐらいは室内に控えるのが普通なのに、本当に二人だけだ。

 何を話せば良いのか分からずそれでも必死で話題を探していると、リナティエラ嬢は話し始めた。

 天気の話に、趣味の話、好物の話、好きな場所、好きな本に、お気に入りのお菓子に他にもたくさん。俺の愛想の無い相槌を聞きながら、それでも彼女はひたすらに話し続けてくれた。

 いろんな話をしながらコロコロと変わっていく表情が、可愛いと思った。

 楽しそうだった彼女は、庭で木登りをしている時に見つけた鳥の巣の話をした途端に、頬を赤くして黙り込んでしまった。

 俺も木登りは好きだ。弟と競いあってよく庭の木に登っている。両親どころかメイドや侍従も慣れたもので、木の上から飛び降りる俺たち兄弟を見て笑っている。

 以前の茶会で、俺が木登りを話題にした時に木登りなんてはしたないなんて言ってた女の子もいたから、急にそこに気づいてしまったんだろうか。

「リナティエラじょうは、たくさんおはなししてくれるんだね」
「ご、ごめんなさい」
「なんであやまるの?ぼくはくちべただから、きにせずはなしてくれてうれしいよ」
「そうなの?いやじゃないならよかったわ」

 まずは俺だけに話題探しを押し付けなかったお礼を告げる。

「そのとりのす、ぼくもみてみたいな」
「ほ、ほんと?」
「うん、いっしょにみにいこう」

 ふにゃりと安心したって書いてある笑顔を見せてから、僕が差し出した手にそっと乗せられたのは小さな手だ。うん、本当にこの子は今までに会った子たちとは違うんだ。無口で不愛想な俺にもっとこうしろって言わずに、一生懸命楽しませようとしてくれる子。その上、一緒に木登りだってできる。そう思うと、思わず笑みが零れた。

 窓から抜け出して二人で木登りをしているところを見つかって、うちの父とクラーク伯爵二人がかりですごく怒られたけど、俺の心は決まっていた。

「おれは、リナティエラじょうがいい」

 そう帰りの馬車の中で父に言うと、父はほらやっぱり気に入ったと楽し気に笑っていた。
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