生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1436.【ハル視点】待機する者

 全員の緊張感がすこし和らいだ所で、父さんがおもむろに口を開いた。

「ファーガスの機転とマルク殿の腕前のおかげで、最初に転移してもらう隊をどこにするのかという問題は無事に解決できそうだな」

 キリッと引き締まった顔を作ってそう口にしてはいるが、あれは明らかにホッとしているよな。まあさっきまでの状況を思えば、無理もないとは思うんだが。

「今回の遠征には信頼できる参加者しかいないからな。逆にどこの隊も選べずにいたんだが――二人のおかげで助かったよ」

 さらりとそう続けた父さんの言葉に、参加者たちは嬉しそうに笑みを浮かべたり、誇らし気に胸を張ったり、照れくさそうに頬を赤らめたりしている。

 父さんはこと戦闘に関係する話しでは、決してお世辞を言わない人だ。

 みんなも、それを知っているんだよな。だからこういう言い方をしても、ごまかしやお世辞ではなく、素直に誉め言葉として受け取ってもらえるわけだ。

 実の父ながら、本当に人たらしだよな。いや、そういう所が英雄らしいとでもいうべきなんだろうか。

 もしアキトがここにいたら、きっとキラキラと目を輝かせて本で読んだケイリー・ウェルマールの通りだと喜ぶかもしれない。帰ったらこんな事があったと報告するかと考えていると、不意にファーガス兄さんが顔をあげた。

「父さん、それは全員で同時に転移をするつもりだという意味なのか?」
「いや、それはさすがに危険すぎるだろうな。何が起きるかも分からない」

 父さんの言葉に、ウィル兄もすぐに頷いた。

「半分…いやせめて三分の一ぐらいは、ここに残すべきじゃないー?この魔道具に細工とかされないためにもさ。用心は必要だよー?」
「ああ。それもそうだな…それじゃあ…人選は…どうするか…」

 解放されたと思ったのに、改めて人選を考えないといけないのか。そう言いたげに少し憂鬱そうな顔をした父さんに、ファーガス兄さんは苦笑を浮かべながら声をかけた。

「俺も一緒に考えるから」
「ありがとう、助かる」

 そうして二人は、顔を寄せ合って周囲には聞こえないぐらいの小さな声で相談を始めた。

 そんな二人の姿を見て、俺とウィル兄はすこしだけ距離を取る。

 もちろん俺達も一緒になって考える事もできるんだが、こういうのには領主と次期領主が相談して決めたという事実が必要だったりするからな。二人から頼まれない限りは、参加しない。

 今の俺達の役目は、他の参加者たちの様子を見る事だろう。そう思って視線を向けてみれば、参加者たちはコソコソと何かを話し合っているようだった。

 相談が終わるまでは待機時間だから特に文句は無いんだが、一体何を話しているんだろうと興味は湧いてくるな。

 そんな事を考えながら眺めていると、不意に数人の参加者とパチリと視線が合った。なんだ?と思うよりも早く、その数人は控え目に手をあげた。

 俺とウィル兄の方をしっかりと見ているという事は、おそらく父さんとファーガス兄さんに話したい事でもあるんだろう。

 真剣な表情で相談中の二人の邪魔はしたくないが、これは仕方がないやつだ。ちらりと視線を向けてみれば、ウィル兄はこくりと頷いてから口を開いた。

「父さん、ファーガス兄さん」

 相談中だった二人は、ウィル兄の呼びかけにパッと顔をあげた。ウィル兄が言葉にはせずにあっちを見てと視線だけで示せば、二人はすぐにそちらを見た。

「どうかしたのか?」
「ご相談中に申し訳ありません。領主様、ファーガス様。私たちの隊は、ここに残りたいと思うのですが…よろしいでしょうか?」

 ああ、なるほど。自主的にここに残ると決めてくれた参加者の隊長たちが、手をあげて主張していたのか。

 つまりさっきのあれは、誰が残るかの相談をしてくれていたんだな。

「…それは…もちろん助かるが、本当に良いのか?」

 ファーガス兄さんがそう尋ねれば、手を上げた参加者たちは揃って頷いた。

「はい、もちろんです!」
「ここを守るのも重要な事だと考えました!」
「私の隊もです!」

 それぞれの隊長の言葉に、その後ろに並んでいる隊員たちもコクコクと頷いて同意を示している。この様子だとその判断を不満に思っていそうな隊員は、一人もいなさそうだな。

 そんな参加者たちの様子をしっかりと確認してから、父さんが口を開いた。

「そうか…ありがとう」
「その判断に、心から感謝する」

 ファーガス兄さんも、続いてそう声をかける。二人もどの隊に残らせるかを考えるのは大変だったんだろう。

 二人から感謝の言葉をかけられた参加者たちは、ハッと答えながらそれぞれの敬礼を披露した。
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