生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1437.【ハル視点】魔道具の条件

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 転移の魔法陣を使用する場合には、魔法陣のある範囲にさえ入れれば何人でも同時に移動する事が可能だ。

 だが魔道具の場合は違う。

 魔道具に触れて発動させる人の体に、直接触れている事が一緒に転移するための条件だ。

 ――と、俺たちは今までずっとそう信じてきたし実際にそうしていたんだが…どうやらマルクによるとそれの条件は正しくないらしい。

「え、そうなんだ?」
「お前知ってたか?」
「いや、ずっとそう信じていたんだが…」
「えー正しくないって事は、間違ってたのか?」

 ざわざわと一気に騒がしくなった周囲の反応に、マルクは慌てた様子でぶんぶんと手を振り回した。

「あの、みなさま、申し訳ありません。すこし紛らわしい言い方をしてしまいましたね。もちろんその方法でも転移することはできますから、決して間違っていたというわけではありません!ただ他にも発動可能な条件がある…そう思って頂いたら――」

 必死になって言い訳を始めたマルクに、ファーガス兄さんは苦笑しながら声をかけた。

「あー、マルク。周りの事は気にしなくて良いぞ」

 ただ驚いただけで誰もマルクを責めるつもりはないからなと、ファーガス兄さんは続けた。さっき話していた参加者たちも、慌てた様子でコクコクと頷いている。

 まさかマルクがここまで気にするとは、思っていなかったんだろう。
 
「だから説明を続けてくれ。――私たちの知らない、転移の魔道具の発動可能条件とは…いったい何なんだ?」

 父さんからそう促されたマルクは、すぐに口を開いた。

「魔道具を発動する人に、全員が直接触れている必要はありません。人を介して触れている人も対象になります」
「人を介して…ってことはー例えば父さんが魔道具を発動させるとして、その父さんに触れてるファーガス兄さんに触れていれば、俺も転移できるって考え方で合ってる?」
「はい、その通りです。ただしこれは転移の魔道具に限ります。ですから他の魔道具にあてはまるわけでは無い事だけ覚えておいてください」

 そんな便利な条件が何故広まっていないのかと思ったが…転移の魔道具事態が滅多に出回らないものだから、発動条件についても詳しい事は広まっていなかったという事か。

「そういう事なら、転移は簡単にできそうだな」

 父さんは嬉しそうに微笑みながらそう呟いた。

「そうだね。全員が一人に触れるなんて難しいからどうやろうかなーって考えてたんだけど、良い案は浮かばなかったから、助かったよー」

 やけに静かだなと思っていたら、ウィル兄はその方法を考えてくれていたのか。たしかにいくら人数制限がなくても、全員が一人に触れるようになんて難問だよな。

「よし、ではそれぞれの隊ごとで集まり、まずは隊員同士で、その後は近くの隊の隊長同士が接触してくれ」

 方針さえ決まってしまえば、参加者たちの行動は早い。魔道具を起動させるための整列は、あっという間に完了した。

 肩に手を乗せている者もいれば、背中にそっと触れている者もいる。お互いにもたれるようにして体重を預けている者も、何人かいるようだな。

 やり方はそれぞれ違っているが、これで条件は達成できそうだ。

 ちなみに俺はウィル兄の腕に片手を乗せているんだが、ウィル兄はさらに部下である騎士に肩に手も乗せられているというなかなかに不思議な光景だ。

 条件を達成するためだから仕方ないんだが。

 周囲をぐるりと見回した父さんは、参加者たちが一塊になるという不思議な光景を気にした様子も無く、おもむろに口を開いた。

「よし。総員、準備は良いか?」
「はいっ!」
「準備完了してます」
「いつでも行けます!」

 そんな返事を受けた父さんは、すぐにファーガス兄さんとウィル兄の肩に手を乗せた。

「では、ファーガス、頼む」
「ああ、まかせてくれ」

 そう答えたファーガス兄さんは、すぐに魔力を練り始めた。

 今回この魔道具に直接触れて魔力を送る役割は、ファーガス兄さんがする事になったんだよな。マルクは自分がやりますと主張していたが、父さんとファーガス兄さん二人がかりで却下されていた。

 移動後にまた魔道具があるかもしれないんだからと言われれば、マルクも強くは出られなかったようだ。

「行くぞ」

 誰にともなくそう呟いたファーガス兄さんは、そっと魔力の込められた手を魔道具へと伸ばした。
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