生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1439.【ハル視点】罠の先は

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 罠にかかった俺達は、全員揃って一瞬にして違う部屋へと飛ばされた。

 魔道具での転移には少なくとも数十秒の時間がかかるのに、魔法陣での移動は何故か
本当に一瞬なのは不思議だよな。

 何故かやけに冷静な頭の片隅でそんな事を考えながら、俺はいつでも抜けるように腰の剣の柄に手を乗せた。

 明らかに悪意の込められた罠にはめられたわけだが、ここで焦っても余計に面倒な事になるからな。

 素早く部屋の中の気配を探ってみたが、今のところ魔物の気配は無いな。

「コーデリア嬢、マルク殿、周囲に罠や魔道具が無いかの確認を頼めるか?」
「「はいっ!」」

 父さんの言葉に揃って頷いたコーデリアとマルクは、その場に立ったまま部屋のあちこちへと素早く視線を走らせた。

 参加者たちはその場から一歩も動かずに、真剣な表情で周囲の警戒をしている。

 しばらくしてから、先に口を開いたのはコーデリアだった。

「領主様。この部屋の中には、罠の気配はありませんでした」
「そうか、感謝する」
「いえ、とんでもありません」

 丁寧に礼をしながらそう答えたコーデリアは、すぐにマルクに視線を向けた。マルクはどう?と促すような視線だ。

「既に設置されている魔道具の気配は無いですね。魔物や人が装備しているものまでは、残念ながら把握できませんが…」
「いや、十分だ。マルク殿にも感謝している」
「お役に立てたなら光栄です」

 二人の答えを聞いて状況確認を終えた父さんは、今度はいまも周囲を警戒中の参加者たちへと声をかけた。

「周囲の安全は、二人のおかげで確認ができた。それぞれの移動を許可する。…全員、無事だな?」
「はぐれた者がいないか、隊ごとに確認をして報告してくれ」

 ファーガス兄さんがそう続ければ、すぐに全員揃っていますとあちこちから返事が返ってきた。

 どうやら周囲への警戒はきちんと行いながらも、同時進行で人数の確認も行ってくれていたらしい。魔道具での転移のために隊員ごとに集まっていたのも、もしかしたら良かったのかもな。

「問題がないようで良かった」

 父さんがホッとした様子でそう呟くと、ウィル兄さんがおもむろに尋ねた。

「ねーコーデリア嬢。さっきの罠ってさ、なんで起動したのかって分かったりするー?指示通り、誰も動いてなかったよね?」

 次回のために知っておきたいと続けたウィル兄さんに、コーデリアは私の指示にみなさん従ってくれていたと思いますと答えた。

「絶対にそうだという自信は私にもありませんが…おそらく罠のスイッチが別の場所にあったのではないかと…そう思います」
「ああ、そういう事か」
「はい。廊下かどこかにスイッチがあって、転移をしてきた瞬間にそれを起動されたんだと思います」

 方法は分かったが、それはつまり俺達が来るのを知っていて罠を張っていたって事だよな。

「ここはまだムレングダンジョン内…なんだよな?」

 誰にともなくそう尋ねてみれば、すぐに答えてくれたのは近くにいた冒険者のサイクだった。

「ああ、ここはムレングダンジョンだ。あそこの壁に這ってるあの紫のツタは、ムレングダンジョンの固有種だから間違いない」
「そうそう。花が咲いてないやつは使い道がないんだけどね、でもムレングダンジョンだって事だけは教えてくれるんだ」

 ミルゴも笑顔でそう付け加えてくれた。

「なるほど…あのツタか。ちゃんと覚えておくよ、教えてくれてありがとう」

 そうお礼を言いながら、俺は魔道収納鞄からムレングダンジョンの手帳型魔道具を取り出した。

 この魔道具には持ち主が過去に潜った最深部の階層が、自動で記入されるからな。これを見れば、今いる階層がだいたいは予想できる。

 罠が発動するまでの一瞬だけいたあの部屋が、いったい何階層だったのか。それが分かればもっと絞り込めるんだが。

 そう考えながら無造作に手帳を開いた俺は、そこに記されていた階層に息を飲んだ。

「どうした、ハル」
「…これ…」

 俺がそっと開いてみせた手帳には、160階層の文字が刻まれていた。
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