1,459 / 1,460
1458.選べない
しおりを挟む
目の前に積まれていた全てのノートに一通り目を通し終えた俺は、思わずふうとひとつ息を吐いた。
開いてくれてたお勧めレシピのページしか見てないんだけど、それでもすごい読み応えだったよ。
もちろん使う食材や調理法も興味深かったんだけど、ここをこう改良したとかそういう事まで細かくメモしてる人もいたりして面白かったんだ。意外と、こういう所に性格が出たりするんだよね。
本好きとしてはそういう所まで楽しんで読ませてもらったんだけど…残念ながら、結局どの料理にするかは選べなかった。
だってどれもこれもすごく美味しそうで魅力的なんだよ。
え、こんな調理の仕方があるんだ?と驚くような珍しいものから、シンプルな食材と調理法を極めているものまで種類も豊富だった。
どれも食べてみたいし、作ってみたいと思うような、そんな料理ばっかりだ。
でも、みんな楽しみに待ってくれてるみたいなんだよね。ちらりと周囲の料理人さんたちを見てみれば、明らかにワクワクした様子で俺の答えを待っている。
ど、どうしよう。困りながらもう一度ノートに視線を落とした瞬間、ラスさんが口を開いた。
「アキト、そのノートの中に、気に入るレシピはひとつも無かったか?」
「いえ、そんな事ないですっ!」
驚いてそう答えながらラスさんの顔を見れば、そうだろう?と言いたげな笑みが浮かんでいた。自分の部下である料理人さんたちの事を、信頼してるんだなってその表情だけで分かったよ。
「どれも美味しそうで、選びきれなかっただけです」
俺が素直な気持ちをこぼせば、料理人さんたちは嬉しそうに笑ったり、誇らし気に胸を張ったりしてくれた。
「ありがとうございます!」
「お前ら、やったな!」
「誉められちゃったなー」
「やったー!」
「いや、待て。例えおまえらが相手でも、自分が選ばれるぐらいの料理を考えないと駄目だろう!」
「ああ、それもそうだな」
「それぐらいできないと、料理長には勝てないもんな」
「分かる」
わいわいとまた盛り上がり出した料理人さんたちに、ラスさんは苦笑を浮かべている。
「よーし、それじゃあとありあえず、適当に選んだノートのやつでも作ってみるか」
「えー、適当に選ぶんですか?」
「え、もしかして…選ばれたら俺達のレシピを元に、料理長が作ってくれるんですか?」
「ああ、まあそうなるな」
若手の料理人さんたちはやったーと大喜び中なんだけど、何故か一定以上の年齢の料理人さんたちは複雑そうな表情でラスさんを見つめている。心なしか嫌そう?
「あれー?先輩たちはなんで喜ばないんですか?」
「そうですよ、滅多にない機会ですよ?」
「あー、お前らはまだ知らないもんな…」
「そうだよな、あの悔しさを知らなければ…素直に喜んでられるよな」
悔しさ?と思わず首を傾げてしまったけど、俺が質問するよりも前に一人の料理人さんか尋ねてくれた。
「先輩、それってどういう意味ですか?」
遠い目をした先輩料理人は、すぐに答えを教えてくれた。
「あのな…自分が考えた料理レシピなのに、自分が作った時よりも美味く作られちゃうんだよ…」
「そうそう、しかも段違いに美味いっていう笑えなさな」
「なんで俺は、ここでこの切り方にしなかったんだろう?…とか、考えさせられるよな」
「いやいや、俺なんて完璧だと思ってた料理に、たった一種類の調味料をちょこっと足すだけで味が激変する所を見せられたぜ」
料理人さんたちは揃って顔を青くしてるんだけど、そんなに悔しい事なのか。
「いや、もし嫌だっていうなら、お前らが自分で作っても良いんだぞ?」
呆れ顔のラスさんはそう提案してたけど、料理人さんたちは一斉に口を開いた。
「それは駄目です!」
「折角の機会!」
「毎回、悔しい思いはしますけど、それでもやって欲しいっていう気持ちもあるんです!」
「同じ料理人なんだから、俺達の気持ちも分かってください!」
「料理長は改良の腕も一流なんですからね!」
「そうですよ、俺のこれがまだ美味くなるのか見せてください」
わいわいと騒ぐ周囲に、ラスさんは楽しそうに笑って答えた。
「分かった分かった。順番にノートを見せろ」
開いてくれてたお勧めレシピのページしか見てないんだけど、それでもすごい読み応えだったよ。
もちろん使う食材や調理法も興味深かったんだけど、ここをこう改良したとかそういう事まで細かくメモしてる人もいたりして面白かったんだ。意外と、こういう所に性格が出たりするんだよね。
本好きとしてはそういう所まで楽しんで読ませてもらったんだけど…残念ながら、結局どの料理にするかは選べなかった。
だってどれもこれもすごく美味しそうで魅力的なんだよ。
え、こんな調理の仕方があるんだ?と驚くような珍しいものから、シンプルな食材と調理法を極めているものまで種類も豊富だった。
どれも食べてみたいし、作ってみたいと思うような、そんな料理ばっかりだ。
でも、みんな楽しみに待ってくれてるみたいなんだよね。ちらりと周囲の料理人さんたちを見てみれば、明らかにワクワクした様子で俺の答えを待っている。
ど、どうしよう。困りながらもう一度ノートに視線を落とした瞬間、ラスさんが口を開いた。
「アキト、そのノートの中に、気に入るレシピはひとつも無かったか?」
「いえ、そんな事ないですっ!」
驚いてそう答えながらラスさんの顔を見れば、そうだろう?と言いたげな笑みが浮かんでいた。自分の部下である料理人さんたちの事を、信頼してるんだなってその表情だけで分かったよ。
「どれも美味しそうで、選びきれなかっただけです」
俺が素直な気持ちをこぼせば、料理人さんたちは嬉しそうに笑ったり、誇らし気に胸を張ったりしてくれた。
「ありがとうございます!」
「お前ら、やったな!」
「誉められちゃったなー」
「やったー!」
「いや、待て。例えおまえらが相手でも、自分が選ばれるぐらいの料理を考えないと駄目だろう!」
「ああ、それもそうだな」
「それぐらいできないと、料理長には勝てないもんな」
「分かる」
わいわいとまた盛り上がり出した料理人さんたちに、ラスさんは苦笑を浮かべている。
「よーし、それじゃあとありあえず、適当に選んだノートのやつでも作ってみるか」
「えー、適当に選ぶんですか?」
「え、もしかして…選ばれたら俺達のレシピを元に、料理長が作ってくれるんですか?」
「ああ、まあそうなるな」
若手の料理人さんたちはやったーと大喜び中なんだけど、何故か一定以上の年齢の料理人さんたちは複雑そうな表情でラスさんを見つめている。心なしか嫌そう?
「あれー?先輩たちはなんで喜ばないんですか?」
「そうですよ、滅多にない機会ですよ?」
「あー、お前らはまだ知らないもんな…」
「そうだよな、あの悔しさを知らなければ…素直に喜んでられるよな」
悔しさ?と思わず首を傾げてしまったけど、俺が質問するよりも前に一人の料理人さんか尋ねてくれた。
「先輩、それってどういう意味ですか?」
遠い目をした先輩料理人は、すぐに答えを教えてくれた。
「あのな…自分が考えた料理レシピなのに、自分が作った時よりも美味く作られちゃうんだよ…」
「そうそう、しかも段違いに美味いっていう笑えなさな」
「なんで俺は、ここでこの切り方にしなかったんだろう?…とか、考えさせられるよな」
「いやいや、俺なんて完璧だと思ってた料理に、たった一種類の調味料をちょこっと足すだけで味が激変する所を見せられたぜ」
料理人さんたちは揃って顔を青くしてるんだけど、そんなに悔しい事なのか。
「いや、もし嫌だっていうなら、お前らが自分で作っても良いんだぞ?」
呆れ顔のラスさんはそう提案してたけど、料理人さんたちは一斉に口を開いた。
「それは駄目です!」
「折角の機会!」
「毎回、悔しい思いはしますけど、それでもやって欲しいっていう気持ちもあるんです!」
「同じ料理人なんだから、俺達の気持ちも分かってください!」
「料理長は改良の腕も一流なんですからね!」
「そうですよ、俺のこれがまだ美味くなるのか見せてください」
わいわいと騒ぐ周囲に、ラスさんは楽しそうに笑って答えた。
「分かった分かった。順番にノートを見せろ」
296
あなたにおすすめの小説
VRMMOで追放された支援職、生贄にされた先で魔王様に拾われ世界一溺愛される
水凪しおん
BL
勇者パーティーに尽くしながらも、生贄として裏切られた支援職の少年ユキ。
絶望の底で出会ったのは、孤独な魔王アシュトだった。
帰る場所を失ったユキが見つけたのは、規格外の生産スキル【慈愛の手】と、魔王からの想定外な溺愛!?
「私の至宝に、指一本触れるな」
荒れた魔王領を豊かな楽園へと変えていく、心優しい青年の成り上がりと、永い孤独を生きた魔王の凍てついた心を溶かす純愛の物語。
裏切り者たちへの華麗なる復讐劇が、今、始まる。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています
水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。
「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」
王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。
そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。
絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。
「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」
冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。
連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。
俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。
彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。
これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる