生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1458.選べない

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 目の前に積まれていた全てのノートに一通り目を通し終えた俺は、思わずふうとひとつ息を吐いた。

 開いてくれてたお勧めレシピのページしか見てないんだけど、それでもすごい読み応えだったよ。

 もちろん使う食材や調理法も興味深かったんだけど、ここをこう改良したとかそういう事まで細かくメモしてる人もいたりして面白かったんだ。意外と、こういう所に性格が出たりするんだよね。

 本好きとしてはそういう所まで楽しんで読ませてもらったんだけど…残念ながら、結局どの料理にするかは選べなかった。

 だってどれもこれもすごく美味しそうで魅力的なんだよ。

 え、こんな調理の仕方があるんだ?と驚くような珍しいものから、シンプルな食材と調理法を極めているものまで種類も豊富だった。

 どれも食べてみたいし、作ってみたいと思うような、そんな料理ばっかりだ。

 でも、みんな楽しみに待ってくれてるみたいなんだよね。ちらりと周囲の料理人さんたちを見てみれば、明らかにワクワクした様子で俺の答えを待っている。

 ど、どうしよう。困りながらもう一度ノートに視線を落とした瞬間、ラスさんが口を開いた。

「アキト、そのノートの中に、気に入るレシピはひとつも無かったか?」
「いえ、そんな事ないですっ!」

 驚いてそう答えながらラスさんの顔を見れば、そうだろう?と言いたげな笑みが浮かんでいた。自分の部下である料理人さんたちの事を、信頼してるんだなってその表情だけで分かったよ。

「どれも美味しそうで、選びきれなかっただけです」

 俺が素直な気持ちをこぼせば、料理人さんたちは嬉しそうに笑ったり、誇らし気に胸を張ったりしてくれた。

「ありがとうございます!」
「お前ら、やったな!」
「誉められちゃったなー」
「やったー!」
「いや、待て。例えおまえらが相手でも、自分が選ばれるぐらいの料理を考えないと駄目だろう!」
「ああ、それもそうだな」
「それぐらいできないと、料理長には勝てないもんな」
「分かる」

 わいわいとまた盛り上がり出した料理人さんたちに、ラスさんは苦笑を浮かべている。

「よーし、それじゃあとありあえず、適当に選んだノートのやつでも作ってみるか」
「えー、適当に選ぶんですか?」
「え、もしかして…選ばれたら俺達のレシピを元に、料理長が作ってくれるんですか?」
「ああ、まあそうなるな」

 若手の料理人さんたちはやったーと大喜び中なんだけど、何故か一定以上の年齢の料理人さんたちは複雑そうな表情でラスさんを見つめている。心なしか嫌そう?

「あれー?先輩たちはなんで喜ばないんですか?」
「そうですよ、滅多にない機会ですよ?」
「あー、お前らはまだ知らないもんな…」
「そうだよな、あの悔しさを知らなければ…素直に喜んでられるよな」

 悔しさ?と思わず首を傾げてしまったけど、俺が質問するよりも前に一人の料理人さんか尋ねてくれた。

「先輩、それってどういう意味ですか?」

 遠い目をした先輩料理人は、すぐに答えを教えてくれた。

「あのな…自分が考えた料理レシピなのに、自分が作った時よりも美味く作られちゃうんだよ…」
「そうそう、しかも段違いに美味いっていう笑えなさな」
「なんで俺は、ここでこの切り方にしなかったんだろう?…とか、考えさせられるよな」
「いやいや、俺なんて完璧だと思ってた料理に、たった一種類の調味料をちょこっと足すだけで味が激変する所を見せられたぜ」

 料理人さんたちは揃って顔を青くしてるんだけど、そんなに悔しい事なのか。

「いや、もし嫌だっていうなら、お前らが自分で作っても良いんだぞ?」

 呆れ顔のラスさんはそう提案してたけど、料理人さんたちは一斉に口を開いた。

「それは駄目です!」
「折角の機会!」
「毎回、悔しい思いはしますけど、それでもやって欲しいっていう気持ちもあるんです!」
「同じ料理人なんだから、俺達の気持ちも分かってください!」
「料理長は改良の腕も一流なんですからね!」
「そうですよ、俺のこれがまだ美味くなるのか見せてください」

 わいわいと騒ぐ周囲に、ラスさんは楽しそうに笑って答えた。

「分かった分かった。順番にノートを見せろ」
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