生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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419.果物の市場

 川上の船着き場と同じくらい高低差のある街中を、ハルは迷いなくどんどん進んでいく。どちらも同じぐらい迷いやすいとは聞いていたけれど、これは一人だったら確実に迷子だな。

 他の場所ならだいたいの方角とか、どっちから来たかぐらいは分かるんだけど、ここでは無理だ。方向感覚にはそこそこ自信があったんだけどな。

「あの、道案内お願いできますか?」
「もちろんです、どちらに行きたいんでしょうか?」

 不意にそんな声が聞こえてきてちらりと視線を向けてみれば、ちょうど衛兵さんが道案内をしている所だった。水色と白ベースの装備なのはどちらの船着き場も一緒みたいだ。分かりやすくて良いな。

 そんな事をぼんやりと考えながら、俺はハルと手を繋いだまま曲がりくねった道を進んでいった。

「アキト、後はこの先の坂道を下っていけば目的地の市場だよ」
「へぇ、そうなんだ。楽しみ!」

 どんな場所なのかなとワクワクしながらゆっくりと坂道を下っていくと、道の先に屋台がずらりと並んだ広場が見えてきた。

「うわぁー」

 思わずそんな声が漏れてしまうぐらい、その市場の中には色が溢れていた。緑、赤、黄色に白、紫、オレンジ、青、黒。色とりどりの果物が山積みにされた光景に、圧倒されてしまう。

「この辺りは果物が多いんだ」

 もう少し先に進めば野菜が、更に奥まで行けば川の魚や貝が、もっと奥までいけば肉類が売っているらしい。

「今日はこの辺りで良いかと思ったんだが…良かったか?」

 ハルがそう尋ねたのは、後ろから歩いてきていたクリスさんとカーディだった。

「ええ、ここまで案内ありがとうございました」
「ありがとうな、ハル」
「どういたしまして」

 ハルは笑って答えると、じゃあ行こうかとそのまま市場の中へと足を進めた。



 たくさんの人が行き来する市場の中は、活気に満ち溢れていた。

「いらっしゃい、うちの果物は一味違うよ?」
「今日は特別価格で販売中だよー」

 そんな元気な呼び込みの声を聞き流しながら、俺達はのんびりと市場の中を歩いて行く。

 近くで見て驚いたのは、屋台が思ったよりも簡単な作りだった事かな。さっきはカラフルな果物にばかり気を取られていたから気づかなかったけれど、木の机と日差し避けの布が合体したような作りだった。

 でも屋台がシンプルだから、その分売られている果物や野菜に目が行くんだよね。もしかしたら簡素で地味な作りはそれを狙ってわざとだったりするのかな?

「あ、チルー売ってる!ちょっと待って!」

 不意にそう声を上げたカーディに、俺達は揃って一軒の屋台の前で立ち止まった。机の上には色んな種類の果物がずらりと並んでいて、名前だけではどれがその果物なのか分からない。ちらりとハルを見上げれば、ハルもゆるりと首を傾げた。

「いらっしゃい。チルーは今が旬だから、一番美味しい時期だよ」

 店員のおばあさんは、優しい笑みでそう教えてくれた。

「まさかここで売ってるとは思わなかったよ!」

 嬉しそうなカーディは、早速鞄から財布を取り出している。

「チルーって…確か南の果物だったか?」
「ああ、俺の故郷の果物なんだ」

 ハルの質問にカーディがそう答えると、おばあさんはあらと目を見張った。

「同郷の人だったの?チルーを知ってる方がいてくれて嬉しいわぁ。ねえ、ちょっと味見していく?」
「え、いいのか?」
「ええ、もちろん。お連れの方たちも良かったら」

 そういっておばあさんが手に取ったのは、手のひら大の茶色い果物だった。表面には凹凸がたくさんあって、何だか巨大なライチみたいな見た目だった。林檎ぐらいの大きさのその実を、おばあさんは慣れた手つきで四つに切り分けてくれた。中の果肉は淡い黄色だ。

「さ、どうぞ」

 それぞれお礼を言って受け取ったは良いものの、これどうやって食べるんだろう。全員の視線が自然と集まったカーディは、楽し気に笑ってから口を開いた。

「皮の端をもってここに齧りついて、こうやって引っ張って食べるんだ」

 そう言いながら器用に果肉に齧りついたカーディは、キラキラと目を輝かせた。

「うっま!地元で食べてたのより美味い気がする…」
「あら、嬉しいわぁ」

 朗らかに笑うおばあさんの声を聞きながら、俺達は目の前のチルーに齧りついた。
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