生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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427.逆鱗

 さっきのお返しとばかりに、俺はハルに向かって飛んでいく土塊を狙ってつぶてを放ち始めた。ハルみたいに綺麗に両断なんて凄い事はできないけれど、攻撃を止める事だけなら俺にもできるからね。

 つぶてが突き刺さって勢いをなくした土塊は、次々に地面に落下していった。あ、これは後でちゃんと掃除しとかないと、街道を使う人の迷惑になるかもしれないな。

「あの兄ちゃんも、つ、強くないか?」
「えー…あの魔法制御能力、化け物か…?」
「あの見た目からは想像もつかないぐらい恐ろしい魔法使いだな」

 そんな声が背後から聞こえてきた。代わりに戦ってあげてる相手を捕まえて、化け物とか恐ろしい呼ばわりはちょっとひどくないか。

「さすがアキトだ!」

 ハルが嬉しそうにそう言ってくれたから、別に気にしないけどさ。

 さらりと俺を褒めたハルは、そのままファーレスウルフに向かってまっすぐに突っ込んでいった。飛んでくる土塊を一切気にかけていない、敵だけを見据えての突進だ。

 まるで命知らずで無謀な行為にも見えるけれど、そこには絶対に俺が攻撃を防ぐだろうという強い信頼があった。

 うん。この信頼だけは、何があっても絶対に裏切りたくないな。

 俺はさらに気合を入れて魔力を練り上げると、立て続けにつぶてを放ち続けた。

 相手の手数が多いせいで残念ながらファーレスウルフを狙って攻撃するほどの余力は無いけれど、魔法だけでも封じられればハルならなんとかしてくれる。そんな予感があった。

 ハルの素早い攻勢に、ファーレスウルフには少しずつ手傷が増えていく。攻撃をして即座に距離を取るハルらしいあの戦い方が、ファーレスウルフにはかなり効果的みたいだ。

「うううううう…」

 手傷は増える一方で、更に得意な土魔法での攻撃を完全に封じられたファーレスウルフは、苛立ちを隠さずに唸り声を上げた。

「どうした、かかってこい!」

 ハルが煽るようにそう声をかけたけれど、ファーレスウルフは不意にぴたりとその動きを止めてしまった。

「グアアッ!」

 叫んだと思った次の瞬間には、その巨体からは想像もつかないほど軽やかに跳躍したファーレスウルフは、俺の目の前に降り立った。

「アキトっ!」

 邪魔ばかりする俺を先に倒せば良いと思ったんだろうな。

「ひっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 高く振り上げられた鋭い爪に、背後の見物人達から悲鳴が上がった。狙われてる俺がすこしも悲鳴を上げてないのに、何でそっちがそんなに盛大に叫ぶんだ。

 騒がしい襲撃未遂犯たちに内心で呆れながら、俺は飛び掛かってきたファーレスウルフの全身を覆うようにすかさず火の魔法を発動させた。発動させる時に想像したのがキャンプファイヤーの火だったせいで、火力はかなり凄まじかった。

 突然全身を覆った炎に驚いたのか、ファーレスウルフは俺への攻撃を止めてゴロゴロと地面を転がった。

 頭が良い魔物ほど誰から倒すかをきっちりと考え、倒すべき優先順位をきちんと決める。だいぶ前にハルからそう教えられてたから、この行動は予想通りだったんだよね。

 土塊を警戒しながらつぶてを放ってる時は、ファーレスウルフをしっかりと狙うのは難しい。でも、自分めがけて突進してきてくれる時なら、しっかりと的を搾る必要は無い。

 火魔法を選んだのは相手が木っぽい見た目だからなんてくだらない理由だったけど、かなり効果があったみたいだ。

「ああ、良かった」

 ようやく火が消えたファーレスウルフは、俺への怒りをたぎらせながらまっすぐに近づいてくる。

 冷静さを失ったせいで、周りの気配に気づけていないんだろうな。

 俺の視界には剣を構えたハルが、ファーレスウルフの背後から迫ってくるのが見えていた。攻撃の機会を逃さないあたりが、さすがハルだ。

「…よくも、アキトを狙ってくれたな」

 地を這うような呪詛のようなその低い声に、自分に向けられたものじゃないと分かっていても背筋がぞくりとした。

 ハルが、怒ってる。

 滅多にないくらい、本気で怒ってる。

「後悔させてやる!」

 そこからはもう、ハルの独壇場だったよ。
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