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966.隠し廊下
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ドアをくぐったはずなのに、出た先にあったのは本棚だった。
そんなまるで物語やゲームのなかの隠し部屋みたいな出来事に、俺はワクワクしていた。
だから、声をかけられるまで部屋の中に人がいる事にすら気づけなかった。
「ジル様、アキト様、おはようございます」
かけられた声に慌てて部屋の中を見回せば、そこにはぴんと背筋を伸ばして立つ執事長のボルトさんの姿があった。
「おはようございます、ボルトさん」
穏やかな笑みでそう答えているジルさんを見て、
慌てて俺も口を開いた。
「おはようございます!」
うーん。いくらここが安全な領主城の中とはいえ、ちょっと気を抜きすぎだったかもしれない。部屋に人がいるのにも気づかないなんて。
あ、それとも執事長さんの気配の消し方がうますぎるのかな。うん、その可能性も有り得るかも。
反省しつつもそんな事を考えていると、ボルトさんはにっこりと俺に向かって笑いかけてくれた。
「ここから先は、私がご案内させて頂きます」
なんでもこのさきは廊下の移動がかなり複雑になるからと、事前にジルさんがお願いしてくれていたらしいんだ。
「今日は私たちのためにありがとうございます」
「いえいえ、頼って頂けてむしろ嬉しゅうございます」
ふふと笑ったボルトさんは、案内はまかせてくださいと優しく請け負ってくれた。
この城の中にある使用人のための隠し廊下は、細かいものまで数えたらものすごい数になるそうだ。そしてその抜け道を、執事長のボルトさんは全てきっちりと把握しているんだって。
さすがだと思わずキラキラした目で見つめれば、ボルトさんは照れ臭そうにそっと視線を反らした。
「それでは、そろそろ参りましょうか」
「そうですね。案内、よろしくお願いします」
ジルさんが丁寧に声をかける横で、俺もぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい、承りました」
胸に手を置いて見惚れるほど綺麗な礼をしたボルトさんは、さっき俺たちが入ってきたのとはまた違う本棚をサッとスライドさせた。
あー…うん。これはダンジョンというより、忍者屋敷とかカラクリ屋敷みたいかもしれない。
そこから先の道順は、俺の想像以上に複雑なものだった。
これはボルトさんがいなかったら、絶対迷子になるやつだ。
ドアが三つ並んでいるだけの部屋とか、置いてある魔道具を決まった角度にずらしたらドアが現れる部屋とかワクワクする場所がそれはもうたくさんあった。
廊下も普通の廊下とは違うんだ。緩やかな上り坂になっていて気づけば上の階に辿り着いていたり、はたまた滑り台みたいに下の階に下りられたりするんだからすごいよね。
あまりにも目まぐるしく変化していくから、自分が今どこの階にいてどちらの方角を向いてるかも分からなくなっちゃったけど。
「これは…確かに迷いそうですね」
前を歩くボルトさんに、思わずそう声をかけてしまった。
「ええ、ここは、わざと分かりにくいように作られていますからね」
ボルトさんは笑いながらそう教えてくれた。
「わざと…ですか?」
「ええ、わざとです」
この隠し廊下は広い城内を、使用人さんたちが素早く移動するために存在している。
でもこの廊下をもし悪用なんてされてしまったら、最短の時間で領主様の書斎や寝室に辿り着けてしまうって事にもなる。
だからわざと分かりにくいように廊下を作り、それぞれが自分の仕事に必要な分だけを覚えるようにしてるんだって。
執事長さんとメイド長さん、それに何人かの例外の人だけが全ての廊下を把握してるらしい。
「ちなみにハロルド様もその例外のお一人ですよ」
「え、ハルもですか?」
「ええ。まだ幼い頃にファーガス様、ウィリアム様、ハロルド様の三人でよくこの廊下を遊び場にしておられたんです」
幼い頃の年齢差っていうのは、すごく大きい。大人になればその差も埋まるけど、ファーガスさんとウィリアムさんとハルとではそもそもの体力が違う。
だからハルはいろんなゲームで勝てずにいたんだって。
「ファーガス様とウィリアム様が手加減すると、余計に怒ってしまうそんな負けず嫌いなお子様でした」
「へーそうなんですね。ちょっと意外です」
ハルにもそんな子供らしい頃があったんだ。
「そこで拗ねて終わるのが普通のお子様ですが、ハロルド様は違いました」
体力では勝てないと判断したハルは、隠し廊下を少しずつ覚えていったんだって。毎回はさすがに無理だけど、数回に一回は勝てるぐらいになったそうだ。
「ハルは、小さい頃から努力家だったんですね」
「ええ、とても」
もしかしたら、その頃の出来事が今のハルの道案内のうまさとか知識の量に、繋がってるのかもしれないな。
執事長ボルトさんは、的確に俺たちを案内しながらも色々な話をしてくれた。
ハルの話、ウィリアムさんの話、最近あった使用人の面白い話。
そのどれもが楽しくて、気づけば目的地までもう少しの所まで辿り着いた。
そんなまるで物語やゲームのなかの隠し部屋みたいな出来事に、俺はワクワクしていた。
だから、声をかけられるまで部屋の中に人がいる事にすら気づけなかった。
「ジル様、アキト様、おはようございます」
かけられた声に慌てて部屋の中を見回せば、そこにはぴんと背筋を伸ばして立つ執事長のボルトさんの姿があった。
「おはようございます、ボルトさん」
穏やかな笑みでそう答えているジルさんを見て、
慌てて俺も口を開いた。
「おはようございます!」
うーん。いくらここが安全な領主城の中とはいえ、ちょっと気を抜きすぎだったかもしれない。部屋に人がいるのにも気づかないなんて。
あ、それとも執事長さんの気配の消し方がうますぎるのかな。うん、その可能性も有り得るかも。
反省しつつもそんな事を考えていると、ボルトさんはにっこりと俺に向かって笑いかけてくれた。
「ここから先は、私がご案内させて頂きます」
なんでもこのさきは廊下の移動がかなり複雑になるからと、事前にジルさんがお願いしてくれていたらしいんだ。
「今日は私たちのためにありがとうございます」
「いえいえ、頼って頂けてむしろ嬉しゅうございます」
ふふと笑ったボルトさんは、案内はまかせてくださいと優しく請け負ってくれた。
この城の中にある使用人のための隠し廊下は、細かいものまで数えたらものすごい数になるそうだ。そしてその抜け道を、執事長のボルトさんは全てきっちりと把握しているんだって。
さすがだと思わずキラキラした目で見つめれば、ボルトさんは照れ臭そうにそっと視線を反らした。
「それでは、そろそろ参りましょうか」
「そうですね。案内、よろしくお願いします」
ジルさんが丁寧に声をかける横で、俺もぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい、承りました」
胸に手を置いて見惚れるほど綺麗な礼をしたボルトさんは、さっき俺たちが入ってきたのとはまた違う本棚をサッとスライドさせた。
あー…うん。これはダンジョンというより、忍者屋敷とかカラクリ屋敷みたいかもしれない。
そこから先の道順は、俺の想像以上に複雑なものだった。
これはボルトさんがいなかったら、絶対迷子になるやつだ。
ドアが三つ並んでいるだけの部屋とか、置いてある魔道具を決まった角度にずらしたらドアが現れる部屋とかワクワクする場所がそれはもうたくさんあった。
廊下も普通の廊下とは違うんだ。緩やかな上り坂になっていて気づけば上の階に辿り着いていたり、はたまた滑り台みたいに下の階に下りられたりするんだからすごいよね。
あまりにも目まぐるしく変化していくから、自分が今どこの階にいてどちらの方角を向いてるかも分からなくなっちゃったけど。
「これは…確かに迷いそうですね」
前を歩くボルトさんに、思わずそう声をかけてしまった。
「ええ、ここは、わざと分かりにくいように作られていますからね」
ボルトさんは笑いながらそう教えてくれた。
「わざと…ですか?」
「ええ、わざとです」
この隠し廊下は広い城内を、使用人さんたちが素早く移動するために存在している。
でもこの廊下をもし悪用なんてされてしまったら、最短の時間で領主様の書斎や寝室に辿り着けてしまうって事にもなる。
だからわざと分かりにくいように廊下を作り、それぞれが自分の仕事に必要な分だけを覚えるようにしてるんだって。
執事長さんとメイド長さん、それに何人かの例外の人だけが全ての廊下を把握してるらしい。
「ちなみにハロルド様もその例外のお一人ですよ」
「え、ハルもですか?」
「ええ。まだ幼い頃にファーガス様、ウィリアム様、ハロルド様の三人でよくこの廊下を遊び場にしておられたんです」
幼い頃の年齢差っていうのは、すごく大きい。大人になればその差も埋まるけど、ファーガスさんとウィリアムさんとハルとではそもそもの体力が違う。
だからハルはいろんなゲームで勝てずにいたんだって。
「ファーガス様とウィリアム様が手加減すると、余計に怒ってしまうそんな負けず嫌いなお子様でした」
「へーそうなんですね。ちょっと意外です」
ハルにもそんな子供らしい頃があったんだ。
「そこで拗ねて終わるのが普通のお子様ですが、ハロルド様は違いました」
体力では勝てないと判断したハルは、隠し廊下を少しずつ覚えていったんだって。毎回はさすがに無理だけど、数回に一回は勝てるぐらいになったそうだ。
「ハルは、小さい頃から努力家だったんですね」
「ええ、とても」
もしかしたら、その頃の出来事が今のハルの道案内のうまさとか知識の量に、繋がってるのかもしれないな。
執事長ボルトさんは、的確に俺たちを案内しながらも色々な話をしてくれた。
ハルの話、ウィリアムさんの話、最近あった使用人の面白い話。
そのどれもが楽しくて、気づけば目的地までもう少しの所まで辿り着いた。
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