生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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974.【ハル視点】兄の執務室

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 廊下へ出た俺は、まずはファーガス兄さんの執務室を目指して歩き出した。この時間帯なら、まず間違いなくファーガス兄さんとウィル兄さんはそこにいるだろうから。

 別に特にはっきりと時間を決めて待ち合わせをしているわけでもないから、一人でまっすぐ訓練場に向かう事もできる。

 できるんだが…二人が揃っているのを知っているのに迎えに行かなかったら、その方が面倒な事になるんだよな。

 ハルはお兄ちゃんたちと一緒に行きたくないのか?なんて幼い頃の呼び方を使って揶揄われるのは確実だし、何なら寂しそうにしつつハルに嫌われたと言われる可能性もある。

 最悪なのはアキトに相談しようと言い出す可能性まである事だな。

 普段は尊敬のできる兄達だが、こういう時は全力で揶揄いにくるからな。まあそういう家族ならではの言葉遊びも楽しくはあるんだが。

「ハロルド様、おはようございます」
「ああ、おはよう」

 作業の手を止めて一礼してくれる使用人たちの挨拶に返事を返しながら、俺は廊下をどんどん進んでいった。

 辿り着いた執務室の前には、ファーガス兄さんの専属侍従がピシリと姿勢を正して立っていた。

「おはようございます、ハロルド様」
「おはよう。兄さん達は中にいるか?」

 彼がここにいるという事は確認しなくてもファーガス兄さんは確実に中にいるんだが、ウィル兄さんがいるかどうかまでは分からない。

 そう思って尋ねてみれば、侍従からはニコリと笑みが返ってきた。

「はい、お二人とも中にお揃いです。ハロルド様が来られたら通すようにと、言われております」

 笑顔でそう教えてくれた侍従に礼を告げ、俺はノックをしてから中に入った。

「おはようございます、ファーガス兄さん、ウィル兄さん」

 室内に入った俺がそう声をかけた時、ファーガス兄さんとウィル兄さんは真剣な表情で顔を寄せ合い、一枚の書類を見つめていた。二人の眉間に思いっきりしわが寄っているから、何か問題でもあったんだろう。

 二人は俺の声にさっと振り返ったが、手にはその書類を持ったままだ。

「おはよう、ハル」
「ハル、おはよー!」
「…何か問題ですか?」

 もし今は違う領の騎士団に所属している俺には言えないような話なら、この兄たちはきちんとそう答えてくれる。

 そう信じて遠慮なく率直に尋ねれば、二人は一瞬だけ顔を見合わせた。

「いや、問題というか…問い合わせが来たんだ」

 すぐにそう教えてくれるという事は、どうやら俺が聞いても良い話しなんだろう。

「どこから…ですか?」
「衛兵隊からだな」

 衛兵隊ということは、街の治安維持に何か問題でもあったのか。

 これはもしかしたらアキトや俺にも関係のある話しかもしれない。じっと兄たちを見つめて続きを促せば、ファーガス兄さんは苦笑を浮かべて続けた。

「数日前なんだが、どこかの冒険者たちが、いきなりA級魔物の魔石を衛兵に寄付したらしくてな…?」
「この寄付に裏があるのか、あるとしたらどんな意味があるのかと、衛兵隊は大騒ぎなんだよー」
「せめて名乗ってくれていれば、冒険者ギルドから問い合わせも出来たんだがな」
「あと受け取った衛兵が新人だったのも問題なんだよねー冒険者の顔もきちんと覚えてないって言うんだから…」

 真剣な表情でどうすれば良いかと相談している兄達を見ながら、俺は反応に困ってしまった。

 これは…俺達のせいだと分かっていて言っているわけじゃないよな?いや、もし分かっていたら、この兄達は問題なしとあっさりと返答して終わるだろう。

 だから、きっと気づいてはいないはずだ。言いたくは無いが、言わないわけにもいかないよな。

「あー…持ち込んだのはサイクさんとミルゴさんだ」
「…は?」
「今なんて?」
「あの魔石はサイクさんとアキトと俺で倒した、あのルダリオンのだよ。ちなみに解体したのがミルゴさんなんだ」

 怒られる覚悟でそう告げれば、兄は二人揃ってはーと安堵の息を吐いた。

「そっか…それなら裏は無いねー。魔石を譲り合った結果、そうなったってことでしょう?」
「ああ、そうだ」
「サイクならあり得るし、ハルもアキトも欲が無いからな。それは受け取って良いと、後で通達を入れておく」

 ファーガス兄さんの言葉に、俺はお願いしますと返した。

「それじゃあ、予想外に一つ仕事も終わったみいだし、そろそろ早朝訓練に向かおうかー?」
「そうだな、良い時間だ」

 あまり早くに騎士団長が来ると、他の騎士団員が遅れたかと気にするからな。このぐらいの時間なら、そう困らせる事も無いだろう。

「それじゃあ、のんびりと向かおうかー」

 ウィル兄の言葉に、俺とファーガス兄さんは頷いた。
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