生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1217.【ハル視点】先行メンバー

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 家族会議から数日が経ち、今日はついに先行部隊の出発の日だ。
 
 待ち合わせ場所は、騎士団本部の訓練場となった。

 早朝の訓練も終わり本来なら閉鎖されている時間帯のため、訓練所の中には数えるほどの人しかいない。

 先行部隊の準備をしてくれている侍従たちや、盗賊の拠点までの移動手段としてウマを連れてきた馬の世話係たち、そして見送りのためにと来てくれたアキトぐらいだ。

「ハルは、今日はイワンさんに乗せてもらうの?」

 アキトは少し離れた所に集まっているウマの方を見つめながら、そう尋ねてきた。

 先ほど律儀なギュームがわざわざ俺達の所まで挨拶に来てくれたんだが、イワンは今日も調子が良いですと教えてくれたからな。それで気付いたのかもしれない。

「ああ、いつもはウマの指定はしないんだが…イワンとは気が合いそうだからって聞いてもらったんだ」

 指示を嫌がらないウマというのは、俺にとってはすごく有難い相手だ。だから俺はシュリ経由で、イワンを指定しても良いかを聞いてもらった。

「返事は何て?」

 周りを気にしてかそっと顔を近づけて小声で尋ねてくれたアキトの仕草が可愛らしくて、俺は思わずふふと笑ってしまった。

 ああ、笑っている場合じゃないか。返事をしないとなと、俺は同じぐらい小さな声で答える。

「行きたいって即答だったらしいよ」

 別に指定していたわけでは無いが、前回まではタユに乗せてもらう事が多かった。だから一応、今回はイワンに乗るという話もシュリに通訳してもらった。

 タユからの返事は、今はシュリと離れたくないからそれで良いとの事だった。まあタユなら何故他のウマを選ぶのかなどとは言わないと思っていたが、予想以上にあっさりした返事だったな。

 そう教えれば、アキトはホッとした表情で笑みを浮かべた。

「そっか、タユさんも納得してくれてるなら良かったね。イワンさんも信頼できる人――じゃなくて信頼できる馬だから、ちょっと安心だ」

 こうして自然とウマの気持ちも考えられるアキトだから、ウマに好かれるんだろうな。

「アキト、今回は本当に情報収集が目的だし、倒したとしても魔物数体程度だから…ね」
「うん、何回も聞いたから知ってるし、ちゃんと分かってるよ」

 それでも心配はするよと思っているんだろうな。俺には分かる。

 少し寂し気な表情を浮かべていたアキトは、瞬き一つでその感情を隠してしまった。

「頑張ってね」

 精一杯の笑みでそう言ってくれるアキトを、俺はそっと抱き寄せた。



「おはよう、ハル、アキトくん」

 しばらくすると、後ろに三人の騎士たちを従えたウィル兄さんが、足早にこちらへと向かってきた。

 もう少しアキトとイチャイチャしていても良かったんだが、そうも言っていられないか。名残惜しい気持ちを隠して、俺はアキトと繋いでいた手をそっと離した。

 うん、全員がしっかりと冒険者風の装備だな。

 武器やマント、鞄に採取用の袋までばっちりと揃えられている。

 新品でもおかしくない採取袋などは新品のようだが、それ以外はきちんと使い込んだものを用意されているみたいだ。

 そういう所で本物の冒険者かどうかが分かるものだからな。これならパッとみた感じでは冒険者にしか見えないだろう。

 ウィル兄さんは前衛の剣士装備だな。背後の騎士たちは、一人は弓を担いでいて、もう一人は杖を持っていて、もう一人は巨大な盾を背負っている。弓使いと魔法使い、それと盾使いだろうな。

「おはよう、ウィル兄」
「ウィリアムさん、おはようございます」
「待たせてごめんね。この二人がうちの隊の隊員で、こっちが陰護衛の隊員だよー」

 てきぱきとそう紹介してくれたウィル兄さんの言葉に、それぞれが自己紹介を始めた。

「私はネルバといいます。弓が得意なため、今回は弓使いの冒険者として選んで頂きました。基本的には後衛として参加しますが、前衛に参加せよと思われた際には、指示を頂ければすぐに対応しまし」

 分かりやすく背中に弓を背負っているネルバだが、その弓はしっかりと使い込まれているものだ。手入れも十分だな。

 うん、彼は後衛として頼りになりそうだ。

「前衛として参加させて頂きます。盾使いのジーラルです。騎士団でも盾をメインで使っていますので、攻撃を防ぐのには自信があります」

 鍛えられた体格に巨大な盾を背負っているジーラルは、一見したところかなり冒険者らしく見える風貌だ。まあ言葉が丁寧すぎて、騎士だなと一瞬で見抜かれそうだけどな。

「陰護衛組から参りました、ダンといいます。表向きは魔法使いですが、暗器も使えますので不意打ちへの対処はお任せください」

 ああ、彼がダンなのか。

 たしか陰護衛組の副隊長の地位にいる騎士のはずだ。

 まさかそんな大物が出てくるとは思っていなかった俺は、ちらりとウィル兄に視線を向けた。ウィル兄は俺もびっくりしたと言いたげに片頬をあげただけだった。

 まあ頼りになる相手を派遣してくれたんだ、文句は無いな。
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