朝食のまえに牛乳をのんで。

鼠蓑 シズク

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五月十八日 一杯目

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「ん・・・んー、うっ・・・」

「・・・やっと気がついてくれたか」

日をまたいで二時間、
こいつはようやく目を覚ましてくれた

辺りをキョロキョロと見渡した後、
状況を理解出来たのかゆっくりと話し始める

「おにいちゃん・・・。ありがとう、助けてくれて」

「あんな暗い中、一人でうずくまってるやつを助けない方が不思議だ。・・・まぁ、無事でよかったわ」

率直な感想を述べただけなのだが
こいつはそう聞くと目を輝かせ
嬉しそうにしていた

最初は起きた時にすぐ事情を聞こうかとも
思っていたのだが・・・やめだ

「・・・でも、さすがにこれだけは聞いとくか」

「どうしたの?」

首をかしげるこいつに対して
俺は"最低限の情報"を求める

「お前、名前・・・なんていうんだ?」

「なまえ?ぼくは、ハルト!えーっとね、パパははれるにひと、って書いてハルトなんだって言ってたよ!」

「晴れるに人・・・で、晴人か」

今どき子供の将来も考えず
キラキラネームをつける親を見ることもあるが
晴人の親はしっかりしていたようで
なぜかホッとした

「お兄ちゃんは~?教えて!」

会話の流れ的に必然ではあった気がするが
晴人も俺の名前を聞いてくる

「俺は雅人。漢字は・・・言っても分からねぇか」

見たところ晴人は小学生になりたてくらいの
あまり大きいとも言えない身長で
言動的にもそれくらいだと予想出来た

だが、とうの本人はそれが不満だったらしく

「むぅ~、いいじゃん!教えてよ~!」

と、駄々をこねてきた

・・・かなりめんどくさい事になった

「ぼく、教えたよ?だったらその代償、払ってよ!」

「現実で代償って、きょうび聞かねぇな・・・まぁ、いっか。よし晴人、今は午前の二時。良い子は寝る時間だからな~。俺は寝る」

「ふつう、ぎゃくじゃない!?・・・あ、ベッドににげないでよ~!」

深夜の真っ只中だというのに
めちゃくちゃに騒がしくしてしまった

そして、これが原因でのちに
ご近所の方と一悶着起こるのは
また別のお話・・・



「まさか、朝からこんなに動くことになるとは・・・。とりあえず、晴人が帰れたのは良かったと思っておこう」

現在時刻は午前七時十五分
晴人が起きたタイミングで電話を
しようとも考えては見たのだが、
唯一の手がかりであるあいつ自身が
まず電話番号を知らなかったのだ

しかも、あいつの朝は驚くほどに早く
俺は六時半くらいに叩き起され
すぐに家までの道を同行することに
なったのだが、往復だけで
いつも家を出る時間の
十数分前になってしまった

「・・・朝飯食べてる時間もねぇし、最低限あれだけでも飲んどくか」

そう呟いて俺が向かったのは台所の冷蔵庫
開けると若干少なめの食材たちが姿を見せるが
俺はドアポケットの所から"それ"だけを
取り出した

「牛乳・・・。軽く済むから重宝するんだよな」

コップも取り出しテーブルにつくと
早速コップに注いだ

「そんじゃ、今日一日も乗り切るために・・・頂きます」

その言葉と共にコップを持ち上げ口に運ぶ

「ゴクゴクッ・・・、いつも思うけど牛乳ってなんか飽きねぇんだよな。今日は味わってる時間もねぇのが惜しいが」

呟きの後、俺は晴人のことを考えていた

晴人に案内されながら家に着いた時に
まず驚いたのが家の大きさだ
屋敷か、と言われると少し違うが
周囲の家々と比べ、明らかに一回り大きく
訪問に対応してくれたのも
あいつの親ではなく
使用人らしきスーツを着た男であった

俺が事情を伝えたところ
号泣しながら晴人を抱き上げていたのが
すごく記憶に残っている

・・・よそ様の事情に首を突っ込むのは
さすがにまずいと思いそれ以上は
詮索などはやめておいたが
今は頭の中がそれらのことで
埋め尽くされている

「・・・あー、そろそろ準備だな。考えても仕方ねぇ」

立ち上がって制服を取りに行こうとしたのだが
ふと窓の外が視界に入る

そこに浮かんでいる太陽はいつもより
輝いているように見えて
俺は思わず顔をしかめていた
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