18 / 43
支配の崩壊
第17話
しおりを挟む
教室に戻ると、クラスのみんなが心配して待っていてくれた。拓哉達は、先ほど呼び出された時に起こった出来事をクラスのみんなに嬉しそうに話している。
「まなとすごいんだよ。あの石神に立ち向かってさ。俺ら何も怒られなかったよ。本当にあいつは弱いものいじめだったんだ」
理樹はクラス中に大声で伝える。クラスのみんなも、笑顔が溢れ、勇気を持ってくれたように見える。
僕が石神を否定した理由は言うまでもない。人が死ぬからだ。将来生徒が死ぬ。だからこのやり方は間違っている。単純だった。
だが、今日の石神は明らかにいつもと違った。生徒の前で煙草を吸うのも、僕を見て笑っているのも、今まで見たことがない。
一体石神は何を考えているのだろう。
「まなと、まなと」
「う、うん?」
拓哉を含めたクラスが、僕の方を見ている。
「これから、俺らも頑張るよ」
全員の目が希望に溢れている。新学期に教室に入った時とは違う色の目をしていた。
「そうだね…」
さっきの石神の態度に戸惑ったが、僕の中ですべきことは変わらなかった。
その後は、石神に反発する生徒が増え、教室は徐々に明るくなっていった。
それに相反するように、石神はほとんどクラスに口を出すことは無くなった。
なんの冗談かわからなかったが、今では怒られている生徒はほとんどいない。生徒達も元々、そこまで怒られるようなことをしていないし、本来の小学校の形に戻っていった。
最初の計画だった「石神を辞職させる」ことはできないかもしれない。現に反発する生徒が増えたが、石神は学校を休まずに来ている。
何を考えているのかわからなかった。一学期とは打って変わり、怒鳴り声をほとんど聞いていない。この石神の変化は何を表しているのだろう。
もう一つ、気になることがあった。なぜ美来は石神を肯定しているのだろう。
怖いのが必要だと言い、生徒が大人じゃないと言い切った。それに優香がいじめられる未来を予知した。
もしかしたら美来は…
そんなはずないと思ったが、愚行が頭を掠めていった。
ここ数週間、そんな美来についてずっと考えていた。
今日は体育でバスケットボールが行われたが、楽しむことができなかった。
もう一度人生をやり直している僕は、当然一回目の六年生の頃よりも、バスケットボールが上手くなっていた。この後の人生で経験した多くの記憶は、僕の中にそのまま残っている。筋力や身長は小学生のものだが、判断やボールの扱いは、未来の僕のままである。
そうなると、クラスメイトにちやほやされるのは必然だった。女の子は、自分達が休憩している時に、僕に向かって黄色い声援で応援してくれる。まあ、小学生に騒がれても、そう言った気持ちにはならないのだけど。
この時も、石神と美来のことが頭の中で蠢いていた。
「先生、足痛いんで見学します」
ステージの端に座っている石神に伝えた。こちらに振り向くことも、返事をすることもなく、ただ、生徒たちのプレーを遠目から見ている。
そのまま、反対のステージの端へ向かう。
そこには美来が先に座っていた。美来と少し話がしたくて、見学をしたのだ。
「サボりですか」
今回は僕から話しかけた。
「愛斗君…」
美来はいつもより元気がなかった。
「あ、ごめんね、もしかして本当に体調悪い?」
「ううん、サボりだよ」
笑顔をこちらに向ける。
美来には一つ聞きたいことがあった。それは、美来が石神をどう思っているかということだ。
これまで美来は、石神を肯定しているような素振りをすることがあった。なぜ小学生の彼女が石神を肯定するのだろうか。僕はその真意を知りたかった。
「美来は石神先生のことどう思う」
すると、予想していたこととは別のことを口にした。
「初めて美来って呼んでくれたね」
笑顔をこちらに向けている。そうだったか。あんまり気にしたことがなかった。
「そうだったっけ」
「いつもは美来さんって言うでしょ」
教師だった頃、どの生徒に対しても敬称で呼んでいた。生徒達に違いを生み出すのはあまり良いことではないと思ったからだ。
最初に美来に話しかけた時、彼女を友達というより、一人の生徒として見ていた。拓哉や理樹は、あの頃から友達だったが、美来は二度目の六年生から仲良くなった。気恥ずかしいことだが、今は美来のことを友達として見ているのかもしれない。
「ましだと思う」
唐突に美来は言った。
「まし?」
「うん、石神先生はましだと思うよ」
「まし」と言うからには、対象があるのだろうか。誰と比較しているのかはわからなかった。
「誰に比べてましなの?」
「この学校の先生」
美来は真剣な眼差しで言った。
生徒を泣かせて、嫌われている先生がまし。生徒を二人も殺す先生がまし。どこを比べているのかわからない。
「じゃ、石神先生はどこが他の先生と比べて優ってるの?」
石神にあって、他の教師にないものを知りたかった。
美来は深く考え、何かを思い出すように言った。
「見えないことを自覚している所」
ああ、それは僕にも心当たりがあった。
「まなとすごいんだよ。あの石神に立ち向かってさ。俺ら何も怒られなかったよ。本当にあいつは弱いものいじめだったんだ」
理樹はクラス中に大声で伝える。クラスのみんなも、笑顔が溢れ、勇気を持ってくれたように見える。
僕が石神を否定した理由は言うまでもない。人が死ぬからだ。将来生徒が死ぬ。だからこのやり方は間違っている。単純だった。
だが、今日の石神は明らかにいつもと違った。生徒の前で煙草を吸うのも、僕を見て笑っているのも、今まで見たことがない。
一体石神は何を考えているのだろう。
「まなと、まなと」
「う、うん?」
拓哉を含めたクラスが、僕の方を見ている。
「これから、俺らも頑張るよ」
全員の目が希望に溢れている。新学期に教室に入った時とは違う色の目をしていた。
「そうだね…」
さっきの石神の態度に戸惑ったが、僕の中ですべきことは変わらなかった。
その後は、石神に反発する生徒が増え、教室は徐々に明るくなっていった。
それに相反するように、石神はほとんどクラスに口を出すことは無くなった。
なんの冗談かわからなかったが、今では怒られている生徒はほとんどいない。生徒達も元々、そこまで怒られるようなことをしていないし、本来の小学校の形に戻っていった。
最初の計画だった「石神を辞職させる」ことはできないかもしれない。現に反発する生徒が増えたが、石神は学校を休まずに来ている。
何を考えているのかわからなかった。一学期とは打って変わり、怒鳴り声をほとんど聞いていない。この石神の変化は何を表しているのだろう。
もう一つ、気になることがあった。なぜ美来は石神を肯定しているのだろう。
怖いのが必要だと言い、生徒が大人じゃないと言い切った。それに優香がいじめられる未来を予知した。
もしかしたら美来は…
そんなはずないと思ったが、愚行が頭を掠めていった。
ここ数週間、そんな美来についてずっと考えていた。
今日は体育でバスケットボールが行われたが、楽しむことができなかった。
もう一度人生をやり直している僕は、当然一回目の六年生の頃よりも、バスケットボールが上手くなっていた。この後の人生で経験した多くの記憶は、僕の中にそのまま残っている。筋力や身長は小学生のものだが、判断やボールの扱いは、未来の僕のままである。
そうなると、クラスメイトにちやほやされるのは必然だった。女の子は、自分達が休憩している時に、僕に向かって黄色い声援で応援してくれる。まあ、小学生に騒がれても、そう言った気持ちにはならないのだけど。
この時も、石神と美来のことが頭の中で蠢いていた。
「先生、足痛いんで見学します」
ステージの端に座っている石神に伝えた。こちらに振り向くことも、返事をすることもなく、ただ、生徒たちのプレーを遠目から見ている。
そのまま、反対のステージの端へ向かう。
そこには美来が先に座っていた。美来と少し話がしたくて、見学をしたのだ。
「サボりですか」
今回は僕から話しかけた。
「愛斗君…」
美来はいつもより元気がなかった。
「あ、ごめんね、もしかして本当に体調悪い?」
「ううん、サボりだよ」
笑顔をこちらに向ける。
美来には一つ聞きたいことがあった。それは、美来が石神をどう思っているかということだ。
これまで美来は、石神を肯定しているような素振りをすることがあった。なぜ小学生の彼女が石神を肯定するのだろうか。僕はその真意を知りたかった。
「美来は石神先生のことどう思う」
すると、予想していたこととは別のことを口にした。
「初めて美来って呼んでくれたね」
笑顔をこちらに向けている。そうだったか。あんまり気にしたことがなかった。
「そうだったっけ」
「いつもは美来さんって言うでしょ」
教師だった頃、どの生徒に対しても敬称で呼んでいた。生徒達に違いを生み出すのはあまり良いことではないと思ったからだ。
最初に美来に話しかけた時、彼女を友達というより、一人の生徒として見ていた。拓哉や理樹は、あの頃から友達だったが、美来は二度目の六年生から仲良くなった。気恥ずかしいことだが、今は美来のことを友達として見ているのかもしれない。
「ましだと思う」
唐突に美来は言った。
「まし?」
「うん、石神先生はましだと思うよ」
「まし」と言うからには、対象があるのだろうか。誰と比較しているのかはわからなかった。
「誰に比べてましなの?」
「この学校の先生」
美来は真剣な眼差しで言った。
生徒を泣かせて、嫌われている先生がまし。生徒を二人も殺す先生がまし。どこを比べているのかわからない。
「じゃ、石神先生はどこが他の先生と比べて優ってるの?」
石神にあって、他の教師にないものを知りたかった。
美来は深く考え、何かを思い出すように言った。
「見えないことを自覚している所」
ああ、それは僕にも心当たりがあった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる