僕が過去に戻ったのは、きっと教師だったから

たなかみづき

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支配の崩壊

第16話

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 いよいよ夏休みが終わり、二学期が始まる。僕がこちらの時代に来てから、早くも半年が経とうとしていた。

 登校した初日、夏休みに立てた計画を「やりたくない」と言いにきた子は一人もいなかった。まだ全体に伝わってないのかもしれないが、クラスのみんなが不満を抱え、どうにかしたいという気持ちは伝わった。ここは僕らが先陣を斬っていくしかない。

 誕生日の次の日、男達で集まった。メンバーは、拓哉に理樹と孝彦、それに加えて、拓哉と同じサッカーチームに所属している鹿島航かしまわたるの計五人だ。
 一度目の六年次の時、航とは遊んだことがほとんどなかった。それでも今回の計画に賛同してくれたのは、夏休みに関わったことと、拓哉が後押ししてくれたからだろう。

 この五人で最初、先生を怒らせてやるのだ。僕らが先頭に立てば、教室中が勇気を出してくれるだろう。

 僕らの初陣は至ってシンプルだった。五人揃って怒られにいく。ただそれだけでいい。空き教室に呼ばれるときに、五人で行けば、生徒達もそこまで恐怖しないだろう。石神と一対一で対峙すれば、子供の彼らは耐えられない。僕と一緒に行けば守ってあげられる。

「宿題持ってきて」
 石神が後ろから回すように指示する。後ろの席の子が、前の席の子へ、プリントやノートを送る。その間に僕ら五人は先生の元へ行った。
「先生、宿題忘れました。」
 僕に続いて、他の四人も石神に伝える。石神は教師用の椅子にもたれかかっている。僕ら五人を見渡し、一人一人顔を確認した。そうして立ち上がると、僕らを退け、他の生徒達に向かって話す。

「他に忘れた人いる?」
 誰も手を上げなかった。二、三人くらい追加で乗って来てくれるかと思ったけど、まだみんな怖いようだ。前に出てきた四人も、不安な表情をしている。
「お前またか」
 先生は僕を観察しているようだった。
「じゃあ、全員来い」
 予定通り、五人揃って空き教室へ連れていかれた。もしも別々だった場合はあんまり意味がなくなってしまう。

 二回目の六年生になってから、ここへ来るのは四回目だ。僕はどちらかというと少ない方だし、あんまり怒鳴られたりはしていない。拓哉達は、勇気を出してくれてはいるが、怯えている。

 例のごとく、真ん中には椅子が六つ並べられた。集団面接のように五人が横一列に座らされ、目の前には一つの椅子が置いてある。
 石神は、ふらふらと近づき、その椅子に勢いよく座る。これも威圧するための下準備なのか。

「はい。言い訳は?」
 貧乏ゆすりをしながら、石神は聞く。
 まずは僕が答えよう。
「面倒くさかったからです!」
 石神はいつものように、僕を見ている。他の四人は、突拍子もない発言に、驚きを隠せないでいた。
「上田はいいよ。他は?」
 やはり完全に取り合ってもらえない。すると、隣に座った理樹も勇気を出してくれた。
「右に同じです!」
 理樹は無理をして笑う。
 石神は、僕らを見渡し考え込んでいた。集団で歯向かってこられるのは、初めての体験なんだろう。
 石神は数分間黙り込み、そうして苦笑しながら言い放った。

「上田に言われたな。お前ら」

 どういうわけか、僕が仕組んでいることがバレてしまったらしい。誰かが報告したのか。それとも従順だった生徒が、いきなり歯向かってきた事を不思議に思ったのか。そうなら仕方がない。

 周りのみんなは、「面倒くさかっただけですよ」「まなとは関係ない」と庇ってくれている。すると、石神は不敵な笑みを浮かべながら全員に言った。
「じゃ、上田以外戻っていいよ」

 石神に一泡吹かせようと思ったが、今回は難しそうだ。だが、拓哉達は石神が怒鳴らなかったことに驚いていた。それだけでも今回は収穫だ。

 僕だけが残ることになり、みんなに戻るように促す。理樹と拓哉は僕を心配し、最後まで残ろうとしたが、首を振り教室から出ていくように促した。
 彼らが教室から出て行った後、石神はカーテンを閉める。時間はお昼前だったため、教室は明るく、カーテンの隙間から、日差しが入り込んでいた。

 すると、あろうことか石神は、ポケットから煙草を取り出し、この場で吸い始めた。

 その姿を見て、僕は気が動転してしまった。
「な、なにをしてるんですか先生、教室で煙草なんて」
 異様な空間に、煙が舞っていた。
 石神は僕をじっくりと見ながら話をする。
「上田、新学期からお前は何を考えているんだ」
 冷静な石神を初めて見た気がした。石神はいつも怒鳴っていて、生徒の意見なんか聞かないと思っていた。
「別に何も考えてないですよ」
「いや、嘘だな。何か企んでるだろ」
 石神は口角をあげる。不思議なものを見るような目で、じっと僕を見つめていた。

「先生が嫌いなだけです」
 答えにはなっていないが、そう言った。
「どこが嫌いなんだ?」
 石神は質問する。その無頓着な石神の発言に激怒した。
「どこが…、生徒にひどいことをして、教員の立場を悪用しているところです。生徒達はみんな怯えています!」
 先生は笑いなが、再度聞いてくる。
「どこが怯えているんだ?」

 この時の僕は冷静を欠いていた。この人は何を言っているんだ。自分のクラスの現状すら把握できていないのか。生徒達が石神に怯えているのは、側から見たら誰だってわかる。

「みんな、泣いているじゃないですか。あなたがストレス発散のために、生徒に当たって、その被害を受けている」

 激昂した僕は大声で石神に叫んでいた。だが石神は、しっかりと聞いているが笑ったままだった。
「ストレス発散か…、上田、俺が暴力を振るったことがあるか?」
「暴力なんて関係ありません。生徒が怖がっているのが何よりも証拠です」

 すると、吸っていた煙草を、ポケット灰皿に捨て、下を向いたままの石神は、低い声で言った。

「怖いのは必要なんだよ」

 それは奇しくも、美来と同じ発言だった。
 確かに、生徒を指導するときに、多少恐怖心を煽ることは重要かもしれない。だが人を殺める恐怖が必要な理由がどうしてもわからなかった。

「僕にはあなたの恐怖・・・・・・が必要だと思えません」
「そうか…」
 そう言って僕は、煙の充満した教室から飛び出した。
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