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09 御前試合準備

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 イングラム国王陛下の御前試合の開催の号令が終わり、中央広場に集まっていた冒険者や住民が解散していく中、リースさんとイングラム国王陛下は俺達に視線を向けてくる。

「マイオス。……よくぞリースティアをダンジョン深部で守ってくれた。是非お礼をしたい。私達の城に来てくれないか?」
「……えっ!? いいんですか?」

 あまりにも想像していなかったお誘いに驚いてしまう。

「えぇ、マイオスにはいろいろお世話になったもの! 是非お礼がしたいわ!」

 リースさんが見慣れない金髪の長い髪を手で押さえながら俺達に話しかけてくる。
 神官姿のリースさんを見慣れていたので、少しドギマギしてしまう。

「そ、それなら……お言葉に甘えたいと思います。エクスもいいよね?」
「もちろんです! 私はお兄様に付き従います!」

 エクスも二つ返事で快諾してくれた。

「それなら国王陛下、お邪魔させて頂きます」
「よし! ほら、リースティア。後ろに乗りなさい」

 イングラム国王陛下はリースさんを馬の後ろに乗せた後、周りの騎士団に視線を向ける。

「全軍、城に帰還するのだ!」

 イングラム国王陛下の号令と共に、数多くいた騎士団は方向転換し、城のある方へと進みだした。
 俺とエクスもその騎士団の後を付いていき、王都サントリアに隣接する聖アランテル城へと向かった。



 城に到着すると、騎士団は解散して俺とエクス、国王陛下とリースさんのみとなる。

「今日はもう日が暮れている。マイオス達も疲れているだろう。今日はこの城で休んでいくと良い」
「……ありがとうございます! 丁度、行く宛もなかったところだったので、とても助かります!」

 ここ数日はダンジョンで過ごしていたのでまともに休まっていなかった。
 なのでとても嬉しいお誘いだった。

「……なんだ、ロイダースの作った鍛冶ギルドに住んでいるのではないのか?」
「えっと……実は鍛冶ギルドから追い出されて行く宛がなかったのです」
「なんと、そうだったのか。……よし! では、こうしよう。愛娘を救ってくれた恩人であるマイオス達にしばらくの間、城内で空いている部屋を貸してやろうではないか」

 イングラム国王陛下はとても嬉しい提案をする。

「それはもう……貸して頂けるのなら嬉しい限りです!」
「あぁ、構わない。そこのお嬢さんもゆっくりしていくと良い」
「はい! お兄様共々、よろしくお願い致します」

 エクスも国王陛下にお辞儀をする中、リースさんが国王陛下に向かって呟く。

「お父様もたまにはいい事いうじゃない! マイオス、深部での魔物の大群相手や、地上での戦いで疲れたでしょ? 今日はここでゆっくり休むといいわ!」
「ありがとうございます! リース……ティアさんでいいのかな?」
「私の事は今まで通り、リースで良いわ。長ったらしい名前で嫌だったのよ」

 リースさんがそんな事を呟くと――

「そ、そんな……リースティア。良い名前だと思うがな」

 ――国王陛下が悲しい表情を浮かべながら呟く。

「お、俺も良い名前だと思いますよイングラム国王陛下! それじゃ、リースさんがそういうならリースさんって呼びますね」
「えぇ、それでお願いね」

 俺達が話していると、城内のメイド達が現れる。

「お帰りなさいませ、ご主人様」
「おぉ、すまない。客人だ。この者達を部屋に案内してやりなさい」

 イングラム国王陛下は俺達に手を差し伸べてくる。

「畏まりました。ご主人様。さ、こちらです。付いてきてください」
「は、はい!」

 俺は慣れない扱いに緊張しながらメイドさん達についていく。
 それから俺とエクスは城のメイドさんに連れられて一つの部屋に案内された。



 メイドさんに案内された部屋は、今まで過ごしたどの部屋よりも広く、部屋の中央には大きなベットが置かれており、とても寝心地の良さそうなベットだった。

「それでは失礼致します」

 案内してくれたメイドさんはそう言い残し、部屋を後にする。

「とても広い部屋です! これならゆっくり休まる事ができますね、お兄様!」

 俺に顔を向けるエクスは、とても満足そうな表情を浮かべる。
 エクスは着ていた白銀の軽装を脱ぎ、動きやすい格好になる。

「……えっと、エクス。他の部屋を借りた方がよかったんじゃない?」

 ――コトッ
 俺はゲイボルグを壁に立てかけながら、何の躊躇もなく軽装を脱ぎ終えたエクスに向かって呟く。

「いえ、私はお兄様の剣ですのでお傍にいます!」

 ダンジョンで一度離れ離れになったのか、そんな事をエクスが言い出す。
 先ほどメイドさんからエクスは別室を用意しようかと提案されたが、エクスは即座に断ったのだ。

 ――ぽふっ
 ふかふかのベットに腰を落としながらエクスに問いかける。

「そうは言うけど、はたから見たら兄妹で一緒の部屋ってのもなぁ……」
「何の心配もありません! 今日の事もありましたので、お兄様の傍を離れる訳にはいきません」

 ――ぽふっ!
 エクスも俺のすぐ隣に腰を落とし、俺を見つめてくる。
 見た目は整った銀髪の美少女で、綺麗な碧眼へきがん|を潤ませた表情を浮かべて俺を見つめてくる。

「……い、嫌なのですか?」
「い、いや。そういう訳じゃ……でも、こんな広い部屋なのに、近すぎない?」
「そうでしょうか?」
≪お前は極端なんだよエクス。もう少し融通ってものを考えな≫

 すると、壁に立てかけていたゲイボルグが呟く。

「わ、わかっていますよゲイボルグ! ……ですが、貴方も見事な活躍でした。よくお兄様を守って頂きましたね」
≪へっ! これぐらい簡単さ。あんちゃんは絶対に殺させはしないさ≫

 恥ずかしい言葉をサラッと言われて俺は照れ臭くなる。
 俺は今まで数多くの武器と対話してきたが、何故か俺は異様に武器から好意を寄せられるんだよな。
 
「ありがとうゲイボルグ。エクスの言う通り、もしエクスからゲイボルグを受け取っていなかったら今頃、俺はダンジョン深部で死んでいたところだ」
≪へへっ! 俺がいればあんなの楽勝さ! 御前試合だっけ? その試合も俺に任せな!≫
「うん、お願いするよ! でもダンジョンとは違って、御前試合は対人戦だから殺しちゃダメだよ?」
≪そんなの分かっているさ、手加減すればいいんだろ≫
「そんな感じでお願いね」

 俺がゲイボルグにそう呟くと、エクスが寂しそうな表情を浮かべる。

「ゲイボルグだけずるいです。……お兄様っ!」

 ――ガバッ!
 エクスは俺をベットに押し倒してくる。

「わわっ」
「お兄様……今度は私を使ってみませんか! 私なら刀身も短いですし、ゲイボルグみたいに長くないので使いやすいと思います!」

 エクスは押し倒した俺に自身を思いっきりアピールしてくる。

「あはは……それじゃ、今度使ってみようかなぁ~……」

 俺が誤魔化そうと苦笑いをしていると――

 ――バタンッ!
 閉まっていた扉が勢いよく開く。

「マイオス! 早速だけど――」

 部屋に現れたリースさんは押し倒された俺と、押し倒したエクスを見て一瞬固まる。
 リースさんは神官姿ではなく、騎士のような白銀の軽装に変わっていた。

「……何やってんのよあんた達。……ってエクス、あなた剣でしょ。マイオスに何しようとしているのよ」
「良いところだったのに……リース、邪魔をしないでもらえますか?」
「え、エクスぅ!?」

 エクスはリースさんがお嬢様である事が発覚しているのに、以前と変わらない反応をする。
 俺は一人冷や汗が出ながらエクスに声をかける。

「相手はお嬢様なんだよエクス。もう少し言い方が……」
「そうよエクス! 貴方はもう少し私を敬いなさい!」
「……気が向いたらそうさせて貰いましょう。それでリース、何か用があったのではないですか?」

 エクスは俺から離れてベットの腰を落としてリースに顔を向ける。

「あ、……そうよ! ここに来た目的を忘れていたわ。……マイオス。あなたの力が借りたいのよ!」
「俺の……力?」

 押し倒されていた俺も起き上がり、ベットの傍に腰を落とす。

「えぇ、付いてきてもらえるかしら!」

 リースさんは俺の手を掴み、部屋の外へと連れ出した。
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