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10 リース、姫騎士になる

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 驚いた俺は声を上げる。

「ちょ、ちょっと――」

 だが、リースさんは俺の手を掴んで俺を部屋の外へと連れ出した。

「――ま、待ちなさいリース!!」

 エクスも俺達の後からついて来るのを横目に、俺はリースさんに尋ねる。

「ど、どこに連れて行く気なの!?」
「もう、そんなの決まっているじゃない! 武器庫よ!」
「……武器庫? なんで!?」
「いいから来なさい!」

 俺とエクスはそのままリースさんに連れられて城内にある武器庫へと連れていかれた。

「はぁ……はぁ……ここは」

 大きく開かれた倉庫のような部屋には数多くの武器防具が保管されていた。
 さっき王都の広場にきていた騎士団が装着していた武器防具はここから使われているのだろう。

「マイオスにお願いしたい事なんだけど、私も御前試合に出るからには魔法で後方支援するんじゃなくて……前に出て戦いたいの!」
「……えぇ……それってリースさんも近接武器を使うって事だよね?」

 俺は数多くの武器を眺めながらそう呟く。
 さすがにお嬢様と分かった手前、正直リースさんには前線で戦ってほしくはない。

「もちろんそうよ!」
「……たしかリースさんって、ダンジョンだと神官として冒険者をしていたよね? ……近接戦闘ってそもそも使えるの?」

 俺が問いかけると、不敵な笑みを浮かべるリースさん。

「ふふ……あなどらないで! 私ね。剣の達人であるお父様から子供の頃から剣の稽古をつけて貰っているのよ。神官として冒険者をしていたのは単純にいろんな職種を体験したかったからよ」
「そ、そうだったのね」

 ……だから魔法はあまり得意じゃなかったのか。
 って事は神官以外にもいろいろしてたのかな?

「わかったよ。……それで使う武器は剣でいい?」
「話が早いわね!  それじゃ、早速だけど……」

 そう言いながら、リースさんは壁に立てかけられていたロングソードを持ってくる。

「これの武器なんだけど、マイオスの力で強くしてほしいの!」
「うん。わかったよ」

 俺がロングソードを受け取ろうとしたその時――

「お兄様、その剣に強化を施してはいけません!」

 ――エクスが声を上げる。

「「……え?」」

 俺とリースさんはその場で時が止まったかのように静止する。

「な、なんでよエクス!」
「……そうだよ。何か問題でもあるの?」

 俺とリースさんが尋ねると、神妙な表情を浮かべるエクスは話し出す。

「……お兄様が行っている武器を強化する能力は……お兄様の生命力を代償に行われるものなのです!」

 エクスから想像していなかった言葉が出る。

「……え!? それって本当!?」
「はい。私はロイダース様からその事を言いつけられていまして、お兄様に不用意な能力の行使を行わないように見守るのがお役目なのです。実際にロイダース様も能力が原因で命を……」

 エクスは俯きながら悲しそうな表情で答える。

「そんな……」

 ……たしかに、エクスの前で効果付与の力は使った事はなかったが、何の気なしに使っていた能力にそんな怖すぎる効果がある事が衝撃的すぎて言葉がでない。
 その光景を見ていたリースさんも信じられないといった表情を浮かべる。

「嘘……って、そのロイダースって誰よ」
「えっと、俺の親父だよ。……もうだいぶ昔に亡くなっているけど」
「あ……ごめんなさい!」

 すぐに謝ってくるリース。

「あぁ、気にしなくていいよ! ……それでエクス、教えてくれてありがとう。言われなかったらこれからも使ってしまうところだったよ」

 エクスがいないダンジョン深部でリースさんが持っていた杖に使っちゃった事は黙っておこう。

「でも、それならこのロングソードを使うって事ね……。もう少し強くできると思ったんだけどなぁ……」

 リースさんも俺の能力の代償を理解したのか、俺に能力を行使させるつもりはもうないようだ。
 なんだかんだ言って、リースさんも優しいのだろう。

「それならリース、いい案があります」
「……なによエクス、その案ってのは?」
「はい。私の複製を使うのです」

 サラッとエクスはよくわからない事を言い出す。
 俺と同様な表情を浮かべるリースさんが尋ねる。

「……複製って……そんなの出来るのエクス?」
「もちろんです。本物の私ほどではありませんが……そこのロングソードよりも強い剣には変わりありません」

 胸に手を添えたエクスは不敵な笑みを浮かべて自身満々に答える。
 話を聞き終えると、次第にリースさんが興奮しだす。

「ふふ……いいわね、エクス! それじゃあなたの複製ってのを使わせてもらおうじゃない!」
「わかりました。ちょっと待っていてください」

 エクスはその場で目を瞑り、足元に魔法陣が浮かび上がる。
 そして、すぐそばにも同様の魔法陣が浮かび上がり光り輝く。

「うぅっ」
「キャッ」

 俺とリースさんは眩しくて目を手で隠す。

「……さ、二人とも。終わりました」

 エクスの声で俺は目を開けると、先ほど魔法陣があった場所に鞘に入った聖剣エクスカリバーらしき剣が置かれていた。

「……ほ、ほんとだ!」

 俺は地面に置かれた剣を拾い上げ――

 ――シャキンッ!
 鞘から取り出すと全く本物と見分けが付かない程の完成度だ。

「……これって複製なの? 本物と見分けがつかないんだけど……」

 複製された剣からは声は聞こえなかったので、おそらくエクスの一部なんだろう。

「さぁリース、これを使ってみてはどうでしょう」
「……裏路地でも見たけど、本当に綺麗な剣よね」

 手に持った聖剣に見とれているリースさんに俺は剣を差し出す。

「ほら、実際に持ってみなよ」

 俺から聖剣を受け取ると、まじまじと見渡すリースさん。

「……これが、聖剣エクスカリバー」
「複製ですけどね、切れ味は私が保証しますよ。……ふふ、ですがリースにこの剣が使いこなす事が出来るでしょうか?」

 エクスはリースさんに向かって挑発的な言葉を発する。

「ふん、見てなさいよ、私がこの剣を使いこなしてみせるんだから! マイオス、早速私と稽古に付き合って貰うわよ!」
「……え!?」

 何故か俺とリースさんで稽古をすることになっていた。



 俺はすぐに部屋に戻って壁に立てかけていたゲイボルグを取りに帰り、城内にある中庭に誘導された。

「さ、ここなら広いし、稽古しやすいわ!」
≪なんだなんだ? あんちゃん。あのお嬢ちゃんと戦うのか?≫
(……あぁ、城で子供の頃から稽古してたらしいよ。しっかり手加減するように!)
≪まかせな、遊んでやるぜ!≫

 エクスが見守る中、俺とリースさんは距離を取る。

「えっと、それじゃ……お手柔らかにお願いします」
「えぇ、行くわよ。マイオス!!」

 ――シャキンッ!
 リースさんはそう言いながら腰に固定した聖剣を鞘から取りだす。
 白銀の軽装に聖剣はとても似合っている。

「マイオスの実力はダンジョンで確認済みよ。初めっから本気でいくわ――」

 そう呟いたと思ったら、リースさんはすぐに肉薄してくる。

「――っ! っと!」
≪っ!? ≫

 ――ガキィーンッ!
 勢いよく振り下ろされた剣をゲイボルグで受け止める。

「さすが……ダンジョンにいた時のリースさんとは大違いだね」
≪俺も驚いちまったぜ。ダンジョンで見たお嬢ちゃんとは別人の動きだな≫

 俺と同様にゲイボルグも驚きを隠せないようだ。

「ふん、マイオスもよ。これぐらいの攻撃は受け止めてくれると思っていたわ!」

 お互いに微笑み合った後、一度距離を取る。

「子供の頃から稽古して成果が一度攻撃を受けただけで分かったよ。それにリースさんが聖剣の持つたたずまいがすごく様になってるね」
「ふふん、そうでしょ! さぁマイオス、どんどんいくわよ!」

 それからしばらく、何度もリースさんと武器を交えながら稽古を繰り返した。



 しばらく稽古をした後、一息入れている最中にリースさんがエクスとも稽古がしたいと言い出す。

「……私と、ですか?」
「えぇ、エクスも御前試合に出るんでしょ? だったらエクスの腕前も知っておきたいもの」
「……仕方ないですね。少しの間、手合わせをしましょうか」

 俺は休憩しながらも肩で息をしながら二人のやり取りを聞き流していた。

「はぁ……はぁ……俺は、もう少しそこに座って……見学しておくよ」
≪なかなかやるじゃねぇか、あのお嬢ちゃん。なかなかの逸材だぜ≫

 ゲイボルグもリースさんの実力を評価しており、稽古が終わったリースさんもよく息が上がらないでエクスと話していられるな。
 ……複製された剣がリースさんの疲労感を軽減でもしているんだろうか。

 ――ぼふッ
 芝生の上に腰を落とした俺は、稽古を始める二人を眺める事にした。
 


 ――ガキィィンッ!
 リースさんの剣とエクスの刀身化させた手で受け止める。

「なるほどですね。ある程度は、私の複製を上手く使いこなせているようです。今までの行ってきた鍛錬が目に見えるようです」
「あら、エクスから褒められるなんて意外ね。……だけど、さすがあなたの複製された剣ね。力がみなぎってくるもの」
「それは当たり前です。私の複製なのですから」

 ――キィンッ
 お互いに武器を弾いて距離を取る。

「複製でこれほどの力をもっているのなら、本物のエクスを使ったらどうなるのかしらね」
「それは複製の比ではないでしょう。……ですが、あなたに私を使いこなすことができるかは別問題ですがっ!」

 ――ガキィィンッ!
 再び、剣を交える二人。

「すごいな、二人とも」

 たしかエクスの話だと、この国の昔であるアーサー王が元々エクスを使っていたんだよな。
 ……そう考えると、その子孫が今エクスの複製を使っているのか。

(……めぐり合わせってあるんだなぁ)

 そんな事を想いながら俺達は御前試合に備えて稽古を続けるのだった。
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