不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

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7歳

 48、小説を書こう ★

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 「このパン生地にこれを少し混ぜてからまたこねて・・・」

朝のノルマのパンを焼きながら、ベネットちゃんにつくりかたを教える。
もし足りなくなった場合は、生地を寝かせてる間に薪を足して・・と流れを教えると、
「・・・わかったわ」
と、手順を指差しながら真剣な顔で覚えている。そして少し濁った、酸っぱい香りの瓶(酵母)を不思議そうに眺めていたが、酵母作りはまだ内緒だ。

年が明けて増えた売り上げから、砂糖を買ってもらった。去年まではミラから教わった葡萄でやってたけど、あれで作ると少し酸味のある香りでクセがあるので、本当は砂糖を使うともっと美味しいんだよ、と言って商業ギルドで仕入れて貰った。
それで作った酵母のパンを食べると、父さんも母さんも目を丸くしていた。
なので売り上げの余裕がある限りは砂糖で、ない時は干し葡萄にする事になった。

それからは果物と砂糖と、煮沸した水の割合を父さんに教えながら、1日おきくらいに仕込んで四つの瓶を使い回しさせている。
「・・火を通したのじゃないと駄目なのか?」
とヤカンを眺めて父さんが言った。
「絶対駄目・・じゃないけど酸素が多いと酵母以外の雑菌も増えて失敗する可能性があるから。手も果物も綺麗に洗って、咳したり唾入れたら駄目だからね?」
「さんそ?・・・・ざっきん・・て何だ?」

(・・・そこからか!)

肩を落として、裏通りの井戸から汲んできた自然の水は透明だけど、実は色んな物が混じってるの。コップに1~2日、水を入れておくと中に空気の粒が出来るでしょ?

・・・と言う説明から教えて、体にいい菌、助けてくれる菌、体に悪い菌、人を殺す菌とか色々あって、熱風邪もそういう菌のせい。目に見えないくらい小さいから分からないかもしれないけど、菌が付くと傷むから、どうなるかは見ればわかるでしょ?と話すと眉を寄せた。

「・・食べ物が臭くなったり、緑の苔が出来るのもそうか?」
「・・・苔?・・ああ、緑のはカビって言うのよ。死にはしないと思うけど、お腹は壊すかもね。緑だけじゃなく、黒、白、紫、赤、橙、水色とか・・・色んなカビがあるよ」

「カビ・・・」

でも精製出来たら抗生物質が出来るんだよねぇ・・・マンガで読んだけど。あんな気の長い実験、私ならすぐ雑菌だらけで失敗する自信があるね。研究出来る器材と環境と根気がいる仕事だな、と読み流したから細かい作り方は知らないけど。
ミラはやり方を知ってるかしら?でもまあここは、魔法である程度治せるから誰も開発しないか。

「もしヤカンに掛けないで試したいなら、も1つ瓶を買ってやってみれば?」
でもこっちの瓶と一緒にしないで、印つけてやってね。と釘を刺すと、何やら考えていた。
「・・・そうか」

母さんには、鐘がなったら瓶のチェックとガス抜きを徹底して覚えてもらって、最近は鐘が鳴ると裏庭へ行くのが身に付いてきた。


子供の採集は10日間ほどで再開された。
最近、兄さん達はいつもより更に早起きするようになって、文句も言わずにミンチ肉を大量に作ると遅めの朝食を食べてから採集に出掛けていく。
最初はブツブツ文句を言ってたのに・・と思ったらこの手伝いのお陰で少し腕力が上がったらしく、大勢で徒党を組まなくても、二人でなら獲物を取れるようになったらしい。
へえ・・と感心したが、半分以上がラビ(兎)。まあ食べれるからいいけど。
他にはモルモットに似たピックと言う動物で、子供達の大半はこの二種類が多いらしい。ただ市場とかで農家の人が売っているピックは私の記憶より少し大きめ程度なのに、兄達が捕ってくる野生のピックは、何故かその倍以上の大きさがある。どういう生態で何を食べて大きくなるのか謎だ。

チキン(鶏)もたまに取るけど、こいつを捕った時には必ず体に足跡を貰っている。結構手強いらしい。
他にもウズラみたいなコカールという鳥とか、リカルボという野犬に襲われた時は一匹だったから返り討ちにした、と誇らしげに話してくれた。
魔物のゴボルドとは違うらしい。

あれ?・・兄達は狩りに行くと必ず動物を捕まえてくるけど、ミラから聞いた10匹はとっくに越えているはず・・・と思って聞いてみると、イムラン兄さんはもうFに成っていて、9月から学院に入るけど、6月からのギルド申請で最初の3ヶ月が始まってるらしい。レオ兄はイム兄がいる間はなるべく動物を捕って、9月になったら又、サンコバチームの子供達と採集を頑張るんだ!と息巻いた。
棒の数は50本であれば厳しい決まりはないそうで、つまりは逆比率(獲物40採集10)でもいいらしい。登録したての一年は採集が多かったけど今は動物が多く捕れるようになったから、採集が21本、動物が29本とってFになったんだ、とイムラン兄さんが言った。


「エステルはギルド行かないのか?」
「弓、教えろよ。面白そうだったぞアレ」

7月半ばの闇の日、
昼を過ぎたら二回目の子供訓練がある。
もっと強くなるぞ、と意欲を燃やす兄達に誘われるけど、もう行かない。最初の時だって捕まらなければ長居する予定は無かったんだもん。ミラもUターンしようとしたら出くわした、と肩を落として言っていた。

「行かない。自分で頑張れば?50キュピト先の丸に矢が全部刺さるなら飛んでる鳥も落とせるよ」
「えー、行かないのかよぉ」
「エステルも冒険者になるんだろう?」
「なるけど登録してからでもいいもん。今は別の用があるの。それに最初の一週間は付き合ったでしょ。私は友達のとこにいくの」

体を鍛えるための柔軟体操や腹筋運動、腕立てやスクワットとかを教えてあげた。ついでに家の庭の端に鉄棒を作った。
ドメナンさんの所から1.5キュピトくらいの鉄の棒を安く貰って、庭の土で柱を立ち上げてから2キュピトの高さに棒を噛ませて石にすると、兄さん達が目を丸くしていた。
そして兄に上げてもらって数回、懸垂の仕方や逆上がりを教えた。兄弟だからズロースぐらいは見えてもいいか、と思ったら目を反らしながら「危ないぞ!」と焦っていた。

そして、これでお腹と腕に力がつくよ、と言うと争って練習して・・・20回も出来ずにヘタレて落ちた。逆上がりも全く出来ない。男の癖にお尻が重すぎだよ、もう!

一度にやっても駄目!疲れない程度に毎日少しずつで、格好いい筋肉になるんだからね!と言い聞かせて、早朝少しずつやっている兄達は、既にこの一週間でお腹ポッコリの子供体型ではなくなってきた。逆上がりが出来る日も近いかも知れない。

まあ主食が肉だからタンパク質は取れてるし、炭水化物のパンも食べている。野菜を食べないので、食え!と量を増やした。あと、毎日は無理だけど、週に1回か2回くらいフルーツと、低温殺菌などないだろうからホットのミルクを一杯飲ませる事にした。平民で手に入る中では、これくらいバランスが取れてれば栄養失調はないと思う。

ギルドの大通りで、ブツブツ言ってる兄達と別れてミラの家へ行く。サリベート街に入って裏通りへ回り、人がいないのを確かめてから、道の端の木箱に座って靴を脱いでから転移した。



「おはよう、進んでる?」
と声を掛けると、小さいテーブルに木札がたくさん置いてあって、ペンにインクをつけてはガリガリと木札に文字を書いていた。

「あ!エル。靴はそっちね」

一辺が1キュピトくらいのダイニングテーブルに木札を山積みにしてペンをインクにつけている。

「うん」

戸口の下駄箱に靴を置き、部屋履きを履いてから、スペースから自分のペンや木札を出しながらテーブルの向かい側に座る。


ここは2階のミラの部屋。ちなみにこの部屋は土禁である。
広い部屋は学院に入る頃に・・と言ってたけれど、弟がそろそろ1才になり掴まり立ちを始めていて、離乳食になったので鐘毎にミルクをあげる必要がなくなったの、と言った。

なのでミラの部屋はベッドも含めて、丸ごと弟が使う事になったので梅雨の間に部屋を移ったそうだ。今はまだ歩き始めで危ないのでサークル付きベッドがあると言う。ちなみに弟の部屋も歩いたり這ったり転がったり出来るように、土禁にさせたそうだ。

新しい部屋は白を基調にしていて、豪華絢爛ではないけれど全て前よりもいいクローゼットやタンス、その側に着替えの為の衝立。それから鏡台と、扉を引くと机になって手紙が書けるレターデスクと立派な書棚。小さなお茶会が出来るソファセットも置いてある。
そしてシンプルな天蓋付きベッドがあって、白いカーテンの縁取りはレース。
下級って言ってたけど流石は貴族だね。と言ったら、本家の従姉のお古を貰っただけだから殆どタダだったよ、と言った。
ミラがお願いした我が儘は大きい本棚と土禁の為の絨毯だったらしい。


私達が木札を積んで書いているのは小説。

前の子供訓練日に、相談するつもりだったのだが、訓練に時間を取られたので次の週からこっそりと始めた。

私が「前にエロ、が通じなかったのは痛かったのよね」と言ったらミラも「例え話も中々出来ないしね・・」と口をへの字にした。
豆鉄砲の鳩も見た事ないし井の中の蛙が居るかも分からなかった、と言った。
実は馬鹿と言うのも、動物の本を見るまでは、鹿がいるか分からなかったので使わなかったそうだ。
なので、こちらの世界観を交ぜた空想話を作る事に決めたのだ。

でも幾つか、どう考えても使えないのは保留した。
だって【ドヤ顔】って私達は語録として普通に使うけど、大阪弁を使う民族がこの世界にいないと意味が理解出来る人がいない、って事に気が付いた。で、私達は王都生まれの子供だから、いきなり大阪弁を喋って流行らせるのは無理。

「しいて同じ顔で言うならふんぞり返った顔からの鼻毛を【自慢毛】くらいなら言えるかなぁ?・・・」

つまりは「昔々、こういう国がありまして・・・」と大阪弁を使う民族か国の物語を作って流行らせなければ言葉遊びのギャグは使えない。という大規模かつ遠大な計画になってしまうのだ。

((・・・・今は諦めよう・・・))
二人でため息をついた。


そしてここは神の存在はあっても【教会と科学者】のような対立や軋轢もないみたいだし、勝手に魔女をでっち上げて弾圧処刑するような信徒がいるわけでもないのに、何故か想像力を駆使した話がないし、知的好奇心を追求する人が居ないと思う。

お祖父さんの本屋には、神様と精霊の物語や、竜や他種族の英雄譚とか、お姫様の物語などが少しはあるが、あとは学者さんが調べた学術書や他国の旅行記などしかない。少なすぎて面白味がないね、と言う結論になった。

書く事にしてから、ミラは採集の付き添いをしてくれたお肉屋さんの冒険者に、夏は他の子供がいっぱいなので、秋に入ってからにします。と断りを入れて3ピト4ピト5ピトの投網魔石を渡して、魔物がどの大きさまで有効か使ってみて欲しい、とモニターをお願いしたそうだ。つまりは丸投げだ(笑)。


まずは木札にジャンルを書き出してから、この世界の決まりと合わせた。
「私、諺や戒めがあるイソップ童話を書きたいな」
とミラが言った。
「ん、私はまずギリシャ神話にする。色んな語源の元にもなってるし。イソップって、訛って伝わっただけだから本当の名前は違うんだよね。・・・イソプス?アイ、ポス?かな・・・思い出せないけど。でもギリシャ人だったらしい、って知ってる?」

「え!?そうなの?」

「確か奴隷あがりで、見たり聞いたり体験した中から出来たのがイソップ童話らしいって話よ」
「へぇ、どおりで風刺が効いてるんだね」


二人で話し合い、まず世界観は【ノアの方舟説】を使う事にした。
ここの神様は基本三体と決まっているから、ギリシャ神話の神達は、星が出来た時に、三人の神様と精霊を束ねる精霊王から、全精霊の力を使う事を許された古代のチートな英雄達にした。男と女、種族は均等に色んな種族から考える。
これで魔法が少し規格外でもOKだ。チートな英雄達本人に限っては、直に神様に許された印(痣)とかを持たせて何人相手がいてもいい事にした。地球には精霊の縛りがないし、ギリシャ神話にはゲイ(同性、両刀)な話もあるし、マザコン、ファザコンの語源、エディプスやエレクトラの話もあったからね。
加護をもらった者や子孫などは規格外もたまにいるけど、代を追う毎に魔力を増やせなくて大魔法を使える者が減っていく。その負担で聖霊が消えたり、子供が生まれなかったりするのもたまにある予定。

「ん、現在に繋げやすいね」
「そして驕り高ぶり何人も妻や夫がいたり、と堕落したために神様の鉄槌を受けて大洪水・・・だけじゃひねりがないな」

「洪水って事は天候も最悪で、嵐で、暴風雨って事だよ。雷もゴロゴロ・・・・あ!そう言えば私が小さい雷を作ったら、それは神様だけの技(所業)だ、って言われたよ」
とミラが口を曲げた。

「へー、それはいいね。じゃあ全部纏めて来た大災害(鉄槌)って事にしよう。八割から九割死ねばいいから・・・・・精霊が居ない者は守られずに死に絶えた、って事にすればいいか。で、殆どの歴史が途切れたって感じで、ある程度何でもアリかな?」

どうせ竜の事件も、あったかどうか有耶無耶なのだ、そうそう文献は出まい。
神話系の話はこの時代前後の話しとして作ろうと思う。
まず、私達が覚えてる色んな国の神様神話と、グリム童話と、イソップ童話を、書く事にした。

「あと私、竜のマジックの話を書く。小さい頃大好きだったから」
もし居たら絶対に友達になりたかったんだけどな・・・とミラが言った。

それはイギリスのお話だったかな?。◯万回生きたねこ、と似たような、冷めていたり乱暴者だったり、と言うヤツが友達や恋人が亡くなって初めて泣く、と言うような話だった筈だ。

「私はね、" 時かけ " みたいなのを書くわ」
「え・・・」
ミラが目を丸くした。
「未来から来た学者の設定だけあれば、後は介入してくる異世界と未来の情報。それらしい時空間設定とか入れて、1つで全部入るし。・・・恋もね。元のは別れたけど私のはハッピーエンドになるかな?って所でエンドにする!」

おいしい所で止めとけば「どうなるの!?」と気になって想像力がつくでしょ?・・・妄想力もつくかも知れない。

「・・・ねえ、このアザって、そのうちアレも書くの?」
「・・え?」
握った手を見て考えてるけど、題名が出ないらしい。
「えーと・・珠を持って生まれた子供達の話・・・」
「あ!・・同じアザと珠を持って産まれた子供!運命に引き寄せられて八人集まって・・・悪を打つ!」
うん!敵をどんな存在にするか設定出来たら、いずれそれも書こう。


1つの童話は、木札2~3枚で簡潔に、竜の話は5枚になった。それからミラは色んな物語が全部入る、◯夜一夜物語(30枚)を書いている。

「シェラの名前は夜に引っ掛けてここから取ったんだぁ」
とミラが言うと闇の子がポン、と現れて首を傾げて何か言った。

「あー?名前?・・◯夜一夜の?えっと、シェラ?・・・シェ・・ラ、シェ・・エラザード、か!」
「うん」

ああ。あれはムカつく男だった。
確か・・女は裏切ったり、いずれ自分を殺そうとする。みたいな考えの元、結婚して一晩過ごしたらみんな殺してしまう王じゃなかったか?。そいで段々と妙齢の娘や姫がどんどん減って、とうとう白羽の矢が立ってしまったシェエラザードが残忍な王様に輿入れするんだ。そして、すぐ手に入れて朝には殺してしまいたい王様に、毎晩面白い話を聞かせるのだ。生き残りを賭けて。
アリババとか魔法のランプなどアラビア系の冒険、お伽噺の元ネタは殆ど、この◯夜一夜からだった筈だ。
そして続きが気になって殺せないまま、とうとう王様は千夜目に自分が間違っていた、と悔い改める話しだ。
今さら悔い改めても、お前の都合で殺された姫達は戻って来なーい!お前が死んで詫びろバカヤロー!と思ったけどね。

私はギリシャ神話から精霊の名前を付けたけど、ミラは全て曲から付けたと言う。
そう言えば◯夜一夜は戯曲か歌劇になってたっけ?
するとポン、ポン、と精霊がみんな現れて忙しなくフヨフヨしている。

「ん、そうだよ、みんなね。あるよ。はいはい・・・わかった。ピアノが弾ける事があったら聞かせてあげるね・・」
精霊達に名前の付いた曲を聞かせる約束をしていた。

実際の◯夜一夜は続く・・とか連続の話もあったはずだから千もないはずだけど、日にちで考えると三年近い。千日もおあずけを喰わせた賢い姫に盛大な拍手をあげたい、と思った事がある。
二人で思い出しながら30くらいの粗筋を入れた。もちろん魔法も適当に入っているが、この世界でビビディ・・・とか、アブラ・・・や、・・セサミ~、は発動しない。

いや・・・もしかして扉をこじ開ける映像を想像をしながら、扉の前で言葉を言えば出来たのかな?ミラと会ったときは石畳を動かせるか試してたんだけど駄目だったしね。機会があればやってみよう。


私のトキカケは40枚以上積み上がった。
そうして7月いっぱい書きためた。


「粗筋は大体できたねぇ・・・」
ミラが、積み上がった板を眺める。

「あとは、怖い話を書きたいんだけど・・・」
と言うと、ミラも頷いた。

「ねえ、お葬式って見たことある?」
「・・・ちゃんとしたのは見たことないわ」

首を傾げるミラに聞かれて、そう言えばないな、と気づいた。去年の流行り病では死人が出るたび、朝になると黒い布をかけた黒塗りの専用荷車が東門へいくのをたまに見た。

「去年の病のとき黒い布をかけた黒い荷車を見て、あれは何?って父さんに聞いたら亡くなった人を東門の外で焼いて埋めるんだよ、って聞いた事はあるけど・・」

「え、外側に墓地があるの!?」

火葬って事?土葬はないのかな?貴族と平民は別?一緒?どんなお墓なの?

ミラがたくさんの疑問を呟いている。私もはっきりとは分からないし、ここでは命日に花とか・・聞いたことない。お経とかお祈りもなさそうだし。二人で首を傾げた。

「でも、何を信じてるかにもよるね・・」
とミラが言った。

死んだあと見守ってくれる系なら、教会が説く天国の概念があるし、また生まれてくる、と考えるなら仏教の輪廻転生の概念があるかも知れない。洗礼の時には、神様が見守って下さり云々・・とは言っていたけど、ご先祖とか親が空(天国)から見守って・・・みたいな事は言ってなかったと思う。

「でも私達を当てはめたら天国説は駄目かな・・」

と、ミラが思案しているけど、それならば幽霊系の話は出来る。

「仏教説の方が面白いじゃない。怨霊や祟り、呪いとか出せるし。天国説でも悪いことして門から弾かれ永遠にさ迷う設定で持っていけるわよ」
「そうね。・・・そのうち東門を見に行こうかな」
「え、わざわざ調べるの?」
私が目を丸くすると、もし焼く以外に土葬があるなら、ゾンビの話が作れるかも知れないでしょ?とニッコリ笑った。
「・・・そうね、確かに」

そして、お祖父ちゃんならたくさん本を読んでるし、製本とか印刷所とか繋がりがあるだろうから、本にしてもらえるか、話の辻褄を見てもらう事にした。本に出来そうなら便箋の方にビッシリと清書するつもりだ。
 
「・・・とりあえずは読んでもらってからだけど・・・・・」
と、ミラが言い淀んだ言葉を続ける。
「ん・・場合によっては、多分・・・お祖父ちゃんには稀人って言わないとね。子供がこんな話書ける訳ないし、印刷所とのやり取りは頼まないといけないからね」
「うん・・・」
二人で頷いた。



8月頭の闇の日に、食卓テーブルに木札を山積みにして短いお話しから、おじいちゃんに読んでもらった。
私は、木札を読みながら百面相をしているおじいちゃんをチラチラと見ていた。

ミラはたまにお祖父ちゃんを見ながらも、他国の旅行記を読んでいた。

そしておじいちゃんに視線を戻すと・・・な・・・泣いている!?

そして最後の大作を読み終わると、タオルを目に当てて木札を置いた。


「・・・すごいお話しだったよ。・・・これは・・エステルが考えたのかい?」
「そうよ。どこか分からない所があったかな?」
「・・そうだな・・この二人が会えたかも気になるが・・・りにあかぁ?というのはどんな物なんだ?」
「リニアカーは磁力を持ってる石を加工して、その反発する力を利用して動く馬のいない馬車よ。汚い排気ガスの出ない、凄く未来の乗り物なの」

「はいきがす?じりょく?・・・未来のもの・・なのかい?・・・・エステル・・それは一体・・」

「地球で最初に出来た乗り物のエネルギーは、臭くて黒い水、石油って物を燃やして動いてたんだけど走りながら、燃えた後に出る煙が、生木が燃えたみたいにすごかったの」
ミラがスペースから黒板を出して簡単な車を描き、後ろにモクモクと煙を描いておじいちゃんに石油の説明をした。

「・・これがクルマ?というのか・・」
絵を見ると、躊躇いがちに呟いて私とミラを交互に見つめる。

「あのね・・私達・・・・・稀人なの」

おじいちゃんに告げると、眉を寄せてすごく困った顔になった。


* * *


「・・・・そうか。じゃあ大人になるまでは秘密だな・・・」

目を丸くして私達の説明を聞いてから、真剣な顔でおじいちゃんが言った。

「・・これは・・・・向こうの世界のお話しなんだね?」
テーブルに積み上げた、大量の木札を眺めながら言った。
「そうよ。本当にあった歴史もあるし、空想のお話しもあるわ」
「・・魔法がない世界なのか」
「んー・・昔はあったらしい、って言われているけど本当にあったのか、どのくらい効果があったのかは誰も分からないわ」
「そうか・・・・」

「それで・・本にしてもらえるかしら?」
「ああ、すごく面白かったしな。知り合いの印刷工場のドルナーに持って行ってみよう」

木札は重くなりすぎるので、とりあえずは二人でイソップ童話を便箋に清書する。

「でもこれ、おじいちゃんにも手伝ってもらわないと駄目なの」
「そうなのか?」
これは動物に例えた話が多いので、この世界にいない動物をおじいちゃんに聞いた。

「ん・・・確かに分からない生き物が幾つかあるね。きりぎりす?かえる?とはどんな物だい?」
黒板に書いて説明すると

「ああ、これはケルロンだな。・・・これは・・知らないないな。見たことがない」

カエルはケルロンというらしい。キリギリスはいなかった。バッタみたいなバチールというのはいるらしい。クローチと同じく10ピトくらいあって、飛ぶ時にバチン!と体を鳴らして飛ぶらしい。怖い!見たくない!。
蟻も知らないらしい。

◯リと◯リギリスはやめるか・・。いや、働き者と怠け者で何か差し替えればいいか。
◯エルと◯シは・・・ケルロンと牛で。
人や物を差し替えをしながら、清書した。



「読んだ途端に、本にさせてくれと頼み込まれたよ・・・」

少し困ったような笑顔でおじいちゃんが言った。
近頃は冒険者の日記や記録も目新しい物はないし、学者の実験や論文も出尽くしていてここ何年かは、金にしてもらおうと持って来られても似たような物ばかりなので、在庫が残ってます、と断っているらしい。
売り上げも儲けも殆どなくて困り果てていたそうだ。

「作者の名前は、私とミラの名前を合わせたのにするから、印刷の人に言ってね」
「わかったよ・・・」

7月はミラの部屋で書いていたが、8月はお祖父さんの家で差し替えたり直したりしながら清書し続け、出来上がるとお祖父さんが印刷所に持っていった。



そんな、8月後半の夕方、そろそろペンを置いて戻ろうかと思っていると、お父さんが血相を変えて本屋へ来た。

「どうしたんだ、アロフト。エステルならそろそろ帰る所だぞ?」
「父さん!・・イムランとバレオンが戻って来ないんだ。三軒隣の家の子が裏通りで何人か馬車に乗った靴か足?を見たらしくて五人程、家に帰っていないんだ!馬車に乗せてくれるような知り合いなんかいないし・・・」

お父さんがオロオロしてパニックに陥っている。一応兵士には知らせたので姿を見たら保護する、と言っていたらしいが、いなかったら探しようがない。

「エステルなら・・探せるんだろう?」
父さんが悲しそうに眉を寄せて私を見る。

「石、渡してあるの?」
とミラがこっちを見て首を傾げる。
「ええ、イムラン兄さんには渡してはあるけど・・・」
「最後に姿を見てから、一鐘は経ってるね・・・でも馬車だとすると大商人か貴族が絡んでるかな、たぶん」

確かに。馬車は馬がいないと引けないから、馬付きじゃない中古のでも馬車自体が結構高い。個人で馬車を持ってるか、借りられるツテがないと使えないのだ。
・・・何で狙われたのかしら?五歳前後の子供と違って、十歳前後なんてデカイから拐いにくいし、抵抗するから扱いにくい筈なのに・・・。

「でも、拐われたとして・・・五人以上いるとなると、すぐに遠くまでは連れて行けないだろうからまだ近くにいて準備してる可能性はあるわ。お父さん、どっちへ行ったのかわかる?」

「わからないが・・・南の方じゃないかと・・・」

ギルドを出て何人かの仲間とサンコバに戻ろうと中通りを歩いてて、先を歩いてた子がくるり、と後ろを見たら馬車に乗り込んだ足?が見えただけで、いつの間にか後ろの先輩達がいなくなっていたらしい。

「それじゃあ分からないわ、折れて西に行ったかもしれないじゃない」
西か南か、絞り込めずに考え込むと、なん往復出来るか、とミラが聞いたので「3ぐらいは平気よ」と言うと、「じゃあ、探してみようよ・・」と、ニッコリ笑った。

南門はスミルから近いので父さんとミラと三人で歩いて行き、居なくなった子供を探してるので一鐘の間は市外をよく監視して欲しいと言って父さんが南門に残った。

それからまず、ミラが自分の家に移動して私が追う。そこから二人で西門までランニングして、同じく兵士のおじさんに監視して欲しい、と言ってからUターンしてギルドへ行き、ギルドの訓練場の隅で座って待ってもらった。

「じゃあ、見つけたら近くの木を燃やすとか、目印ね!」
「ん、目印を付けたら戻るわ」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


簡素なベッドとタンス、小型のテーブルに椅子が二脚置かれた使用人部屋に、頭に布を被せられ、手を鎖で繋がれた少年達がいた。
いきなり殴られて意識がなかったので、抵抗も出来ずに連れ去られたのだ。


起きろ!と小突かれて目を覚ますと、口はタオルで縛られていて、大きな家がある、と思ったのもつかの間、頭に布袋を被せられて家の中に入れられ、早くしろ!と押されながら階段を上がって部屋に入れられると、ジャラリ・・と音がして手首に鎖を嵌められた。
頭がズキズキと痛む。たぶん腫れ上がっているんだろう。
うう、うう、と唸ったり怒ったりしてるような声がするので数人いるらしい、とイムランは思った。

「おい、ガキども!いいか、叫んだり逃げようとしたら腕や足が無くなるからな!わかったか!?」
ひとしきり怒鳴って脅してから扉がバタン、と閉まって足音が遠くなった。


「・・あえおん、あえおん、いうあ?」
「いーあ?おおいいうお!」

ろくに喋れないが、何とか意味を読み取った弟が答えた。
「いうあん!いうおあ?」
その声は・・・テルビーか?
「えういーあ?」
「ああ、おーあ!」

俺とバレオン、テルビー、ノンタス、ボレー、側にいた五人は一緒に捕まったらしい。
暫くするとまた足音が近づいて扉が開いた。そして二人の男の話を聞いて何で拐われたのかが判った。
その時俺は拐われて売られる怖さよりも妹の方が怖かった。妹はたまに、母さんと同じ大人のような口調で喋るけど、一つも反論出来た試しがない。

・・・エステルに殺される!

ある日、妹がこっそり使っているショルダーがどう考えても中身が多いので聞いてみたら白魔法なの。と言って、兄さんは家の買い出しを手伝ったり、重い荷物を持ってくれてるし大変だろうから・・・と渋々スペースを手に入れる方法を教えてくれた。そして俺は一週間も掛かってやっと白の精霊と契約出来たのだ。

その時に、睨むように何度も何度も、便利なスペースを持ってるって知られたら拐われて奴隷にされるからね!CかBランクになるまで、あるいは大人を負かせるくらい強くなれるまでは秘密にしておく事!と注意事項を言われていたのだ。

バレオンには教えないのか?と聞くと、兄さんの後をついてれば大丈夫、と思ってるだけで自分で考えないからまだ駄目、と言った。俺が学院へ行って、頼る人が居なくなって自分で考えて、回りの面倒を見るとか責任の重さを考えられるようになったら、教えてもいい、と。

だから最初は弟と二人で買い出しとかをしていたけど、去年スペースを手に入れてからは、なるべく一人で行っていた。
荷車を引いて行って、重いのを承知で山盛り乗せて、戻りながら少しずつスペースに入れる。門を通る時にはほんの少ししか荷車に置かないで家まで持って来られるので本当に便利だった。
しかし今年に入ってから、買った荷物を厨房で出しているのをバレオンに見られてしまったのだ。ずるいよ、知りたいよ、と散々ごねられて大人になるまでは誰にも言ったら駄目だぞ。とやり方を教えたが、理解するのが俺よりかかり、2週間くらい頑張ってやっと白の精霊がきたのだ。
俺はテルビー達には教えてないから、バレオンが教えてしまったんだろう。

テルビーは自慢話が好きな奴だ。年末に学院から戻って魔法で弓が使えるようになったときは、みんなに自慢してたし、きっとスペースも手に入れてから、俺が知らない所で自慢して見せていたに違いない。怒鳴ってた男はどこかでそれを見て、金になると思ったんだ。

「いーあん・・・おああういあぉ」

布を被せられてるから、部屋も仲間も見えない。でもたまに鎖の音がするから部屋の中にはいるんだろうけど、自分達がどうなるのか不安になってきてるってのに、お腹がすいた、と弟が言ってるらしい。俺だって空いてるし喉も乾いてるんだ!。
「ああ・・・ああっえう」
生返事を返した。こんな状態で何か言われても何も出来ないだろ!誰のせいでここにいると思ってるんだ、バレオン!。

・・エステルは正しかった。
今やっと解った。俺もバカだった・・・。

そうしている間に遠くで微かに鐘が3つ?鳴ったみたいだ。今頃は家でメシ食ってるはずだったのに、何でこんな所で縛られてるんだよ!?

心の中で文句を言ってると側で突然、ドサッ、と音がした。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


狭い箱とか檻を覚悟したんだけど、普通の簡素な部屋だった。黙って見回すと布を被せられた頭が5つあったので、一応生きてる事にホッとする。薄暗い部屋に魔法で小さいライトをポン、と出すとうちの三階の使用人部屋みたいな感じで、囚人のように鉄の手枷が嵌められ、数珠繋ぎになってて一人だけでは逃げられないようになっていた。

ああ・・・もう鎖が付いてる。

昔みた奴隷の使用人が付けてたのと同じだ。嵌め込むのは簡単だが、外すときにはかなり力が必要でナイフや普通の剣では無理、と聞いている。
チッ・・・面倒な。


「にいさん?」

目星を付けた服装に近づいてから、少し声を落として聞くとガバッ、と顔を上げた。
「えっえう!?」
「あえあいうおあ?」
「おう、あんおあいえうえ!」
「あえあ?いうおあ?」

な・・なんなの!?
モゴモゴと唸ってて、母音しか話せないらしい。どうやら猿轡でも噛まされているようだ。
「うるさいわよ、あんた達!悪い奴が来たら困るでしょ!」
声を落として脅すとピタッと黙った。
「袋は外してあげるから、叫ぶんじゃないわよ?わかった?・・わかったの!?」
頭の袋がみんな頷いた。


「エステル・・・どうやってここまで来たんだ?」
転移は上級魔法だから中級までしか知らないだい兄には教えない。教えても理解出来なかったら無理だし。
まあ白の子がいるから本当に、死ぬほど家に帰りたい!と願って家か家族を想像出来れば帰って来れるかもしれないけど、上級魔法だから魔力量が足りなかったら家に戻った途端に枯渇するかもしれないし、精霊の補助が間に合わなかったら戻れても結局死んでしまうかもしれないから教えない。

「秘密よ。・・・で?何でこんな事になってるの?腕力は十分増えてたでしょう?」
私が睨むとだい兄は言葉に詰まって目が游いでいた。

「そ・・それはその・・・」
「仕方ないじゃんか、いきなり殴られたんだぞ!気がついたらここにいたんだ」
ちい兄が眉を寄せて文句を言ったら、だい兄が慌てて止めようとするが、他の少年達もブツブツと文句を言った。
「俺たちもいきなりやられたんだ!」
「なあ、こっから出してくれよ!」

「・・・私は何であんた達が狙われたのか聞いてんだけど!?あんまり言うことを聞かない大きな子は、扱いにくいから普通さらわれないのよ!」

私が腕組みして仁王立ちで睨むと、5人とも眉をハの字にして困った顔をした。

「お、俺達がスペースを持ってるからだ!」
「テルビー!!ばか!おまえ・・・」

憮然とした顔で、荷物がたくさん持てるスペースがあって自分達が特別だからだ、と言って口をへの字にした。俺達は凄いんだから何で怒られなきゃいけないんだ、という顔をした。
だい兄が慌てて止めるが、みんなの口は止まらない。
「スペースがあるから拐われたんだ!」
「ああ、さっき男達がそう言ってた」
「エステル、助けてくれよ。何か高く売れるとか言ってたんだ」
ちい兄が情けない声で言った。
男達・・・複数か。組織的なのかしら?
・・・・まあいいわ。どんなに多くて、例え捕まっても・・・誘拐犯は一人残らず、どんな手を使っても後悔させるから。

そうして私がイムラン兄さんにを笑顔を向けると、ヒッ、と怯えて口をつぐんだ。

「・・・何でこんなに人数が増えてるのかしら?私は兄さんにしか教えてないんだけど?」

「え?兄さんはエステルに教わったのか?何で俺には教えてくれないんだよ。俺は兄さんに教えて貰ったんだ」
「・・・そうなの」
残りの三人を見ると、少しキョドってバレオンを見る。
「で?・・・いつ教えたのかしら?」
私はにっこりとバレ兄を睨んだ。
「は、8月入って・・・最近兄さんは一人で買い出しに行っちゃうから、僕だけテルビー達と狩りに行ったとき・・・・荷物を出したのを見られて、教えろ!って言われたから」
次に白髪の男の子を見た。
「た・・たくさん荷物が入る魔法なんて、誰も持ってないから便利だろ!」

「そう。・・・そうだよねぇ、便利だよねぇ。だからお金になるから悪い大人に目を付けられて、ここにいるんだよねぇ?」

「「「「 !! 」」」」
イムラン兄さん以外の4人が驚愕の顔になる。
「・・・なに驚いてんのよ。そんな事も分からないで人前で荷物の出し入れして自慢したわけ?・・・兄さん!私が教えた時の約束事をいいなさい!」

「・・・白の精霊は、百年くらい見た人がいないから、スペースを知られたら悪い大人に拐われて売られて奴隷にされる。・・・だから自分で悪い大人を倒せるか逃げられるほど強くなるか、最低でもCランクぐらいになるまでは他人に言ったら駄目・・・」

「「「「・・・・・・・・」」」」

しょぼんと肩を落として、イムラン兄さんが述べると、4人が怖々とイムランを見た。

「兄さん、だ、誰にも言ったらダメって、便利だから俺達だけの秘密って事じゃなかったのか?」

「なにバカな事言ってんのよ!変なのに目を付けられたら命が危ないからでしょ!ついでに言うとスペースは生きてれば荷物が入るから、逃げられないように腕や足が一本くらい無くなっても価値があってお金になるの。自分で逃げられないなら一生奴隷よ!だから強くなってから、って言ったのに!」

「「「「「・・・・・」」」」」

現実を突きつけると全員言葉を失って、段々泣きそうな顔になってきた。図体がデカくてもやはり子供だ。

「・・・すまないエステル。バレオンに教えた俺がバカだった・・」
「そんな!だって兄さんばっかりずるいじゃないか!」
「ずるいずるいってね!あんたはそうやって兄さんに頼ってるだけで自分でなんにも考えてないでしょ!言っていい事と悪い事も解ってない!今だって兄さんや年上の子が一緒だから何とかしてくれると思ってるでしょ!だから教えなかったのよ!」
「だ、だって・・・・」
バレオン兄さんが顔を歪めて泣き出した。

私は、兄さん達によく自慢話をしてる白髪の子をジロリと睨んだ。
「あんたも!学院へ行ってる癖に、自慢してて良い事と悪い事も分からないの!?自分だけが偉い!凄い!って持ち上げられていい気分になってれば他の子はどうでもいいんでしょ?あんたみたいな奴ってさ、もし自分より他に出来る子がいたら、それを盗むかネチネチ虐めるんじゃないの?」

睨み付けてハッキリと言ってやると、顔を真っ赤にして私を睨んて言い返そうとしたけれど、ハッと四人の仲間を見て、目が游いで固まった。

すげーだろ、これ!荷物がたくさん入るんだぜ。・・・そう周りに自慢したせいで五人がここにいるのだ、とやっと理解出来たのか泣きそうな顔で歯を食い縛って俯いた。

ホントにバカ。

「もう助けない!ここの悪い奴等は自分達で協力してやっつけて逃げて来なさい!自業自得だからね。出来ないなら十年くらい奴隷になって反省しなさいよ!白の子がいるならみんな精霊が3つか4つはいる筈よね?強くなってるんでしょ?」

じゃあね、と脅しをかけて部屋の小窓を開けてトン、と外へ飛び出た。

「お!おい!エステル!危ないぞ!ここは二階だ」
「ま、待ってくれ!置いてかないでくれ!」
「ひ、ひどいよエステル!待ってよ!」

風を纏ってトン、と外の地面に降りてから見上げた。5人が鎖の音をジャラジャラと立てて、私が消えた窓に走り寄ると頭を乗り出して見下ろして、無事だった事に目を丸くしている。
私は窓の5人に手を振った。
暫く絶望して、心から反省して貰わないとね・・・全く。

「ま、待ってくれ!連れてってくれよぉ!」
「エステル!!」
「お、おい!助けてくれ!」

窓から叫ぶな!バレるだろ!

急いで窓の下から回り込んで隠れると、室内から、うるせえぞガキども!何してやがる・・・と微かに怒鳴り声が聴こえたが、まだ外は警戒されてない。


さて・・・王都内の家みたいなしっかりした家だけどまさか市内なのかな?
王都内の市民の間取りより、少し広めの庭に、馬車と二頭の馬がいた。
そろりと塀の外に出ると、見張りなどはいない。木が数本あって掘っ立て小屋みたいなのが点々とあるが先の方は草原が広がっていた。

「へぇ、見晴らしがいいね。・・・これが外か・・」

市外の外れらしい。・・・どっちの?
ぐるりと見回しても、広い街道の両側に家がポツポツとある方が王都だ、としかわからない。しかも夕闇が迫っていて結構暗い。
 
でも広いから、ここなら少し燃えてもいいかな?と思って空に向かってレーザーを出して六十数えた。それから1本の木に向かって《ボム》と手を出したらバァーン!と、木っ端微塵になってしまった。

「あれ!?ヤバ!! 見つかっちゃう!」

仕方ないので《フレア》と唱えるとグオッと大きな火の玉が出て、2~3本の木を包み込んでメラメラと燃え始めた。

(ありゃ?火の玉、デカ過ぎだよ!!・・・ま、いいか。戻ろう)



「はーっ・・・戻ったよ」
「お帰り!お兄さんは無事だった?」
「・・・一応ね。市外の外れみたいだった」

ギルドからまたランニングをしながら、西門まで行く間に簡単に説明をすると、ミラが眉を寄せて呟いた。

「サンコバの白い髪の子?・・ああ、練習の時にいたね」
「ん・・そう」

ミラは最初の採集の時に会ったそうで、子分をたくさん連れた俺様ガキ大将に見えたそうだ。

「ああ・・まあ・・・確かにその通りね」



西門に着いて、兵士の人に少し前にスラムの外れで煙とか火が出てないか?と聞くと何も変化はない、と言われて戻る。

それから又、ミラが自分の家の庭(トイレ)に転移して、私が続いた。

「じゃあ、頑張ってね。私はここまで。これから御飯だからごめんね。・・心配はかけられないし・・・」
と済まなそうにミラが言った。

「ううん、ありがとう。じゃあ行ってくる。バカ兄さんに天誅加えにね」
と言って掴んだ木札でブンブン縦素振りをするとミラの笑顔が固まった。

「・・本の背表紙より痛そう・・・」



またランニングをしながら南門の近くまで来ると騎乗した騎士が数名、大通りを駆け抜けて行った。・・・やっぱ南か!。

「お父さん!・・とおじいちゃん?」

門に着くと、父さんが外へ行こうとして、兵士とおじいちゃんに止められてた。

「エステル!西門の方に行ったんじゃないのか!?」
「行ったけど、何も変わりがないって言われたからこっちへ来たの」

「西門から走ってきたのか?エステル」
「そうよ。・・・半分ね」
お祖父ちゃんに返事をして深呼吸した。


(だっていきなりパッと現れたらバレるじゃない!案の定、さっきのとこに戻ったら何処からきた!?って追及されちゃうわ、全く)


どうやら少し前に上の見張り台の兵士が、市外の外れで光の柱が立ってから煙が見えたのだそうだ。そしたら、そこに息子達がいるから助けてくれ!とお父さんが兵士に言ったので、兵士が一人、馬に騎乗して城門へ連絡に行き、騎士が5名来ていた。門の貸し馬車も用意されて、騎士の人達が門の兵士と話をしている。

父さんは、自分も行く!と言って兵士に止められていたらしい。


「エステル!イムランとバレオンは無事だったか?」
「さっき、行ったときは生きてたわよ。鎖に繋がってたけど・・・」
「!?・・・鎖?・・奴隷のか!?」
「・・・ええ、5人・・繋がってたわ」

「「・・・・・」」

お父さんとお祖父さんが心配そうな顔になる。

「父さん、私の・・・持ってる?」
コンコンと歯を指すと、左のウェストの辺りに手を当てた。

「じゃあ、そっちの端に絶対いて。じゃないと私がお父さんの所に戻って来れないから」
心配そうな顔で私を見る。
「・・また行くのか」
「アロフト、また、って何だ?」
おじいちゃんが首を傾げたので、回りを見てから一瞬だけピッ、と空に向かってレーザーを出した。
「さっき言ってた光の柱は私。それと白の転移魔法だよ。魔力が増えて精霊が中級になれば出来るよ、おじいちゃん。じゃ行ってくる」
フッ、と姿が消えるとお祖父さんは目を丸くした。
「・・転移・・・」



「少しは反省したかし・・ら?・・・」

開口一番、部屋の中を見るとイムラン兄さんと白髪の子が伸びていて、残りが踞ってベソをかいているが、口にはタオルが縛り直されていた。急いでバレオンのタオルを外すと、顔の左側が赤くなって腫れている。
魔力を抑えて腫れた頬の辺りだけにヒールを掛けた。

「・・エ・・・エステル・・ううっ・・痛いよ。に、兄さんと・・テルビーが、アイツ殴って逃げようとしたんだけど・・・」
「・・負けたのね。黙って」
タオルを外しながら目に見える、酷い傷と腫れだけ、一人一回ずつヒールを掛けてから、手を眺める。

えーと・・転移、転移、転移、転移、転移かな?・・・で今ヒール5回。
・・・大丈夫。まだ半分くらいはありそう。

完全治癒ではないけど酷い痛みは引いたようで、だい兄も白髪の子も意識が戻った。

「い、痛たたた・・・くそ」
「うっ・・・痛てぇ」
「ううっ、ううっ、おかあさん・・」

「エステル!!戻って来てくれたのか!」

「・・・少しは反省したかしら?」
改めて声を出してジロリと5人を睨むと、お互いに顔を見合わせてシュン、と肩を落とした。

「「「「「はい・・・・・」」」」」

前に気を取られてて、後ろを警戒してなかった!ゴツッ、と靴音がして兄さん達が目を丸くした途端にグイッ、とブラウスとエプロンごと襟首を掴まれて足が床から離れた。

「なんだこのチビは?・・どっから入って来やがった!」

プラーン、と猫の仔みたいに摘ままれて、文句を言ってやろうとジロリと首を回すと、ゴツイ顔で眉が濃・・・!?

「ブフーーーッ!!」
盛大に唾を吹いてしまった!
「うわっ!な・・何しやがる!!」

「あっははは、あっはははは・・・・なにこの顔・・・ひっひっひっひっ・・・・」

「エ・・エステル?」
「「「「!?・・・・」」」」

突然笑い出した私に、兄さん達が怖々と私を見上げている。私を掴んでるオッサンなど訳が分からずに更に眉を寄せて怖い顔になったが、眉が寄った事で更に笑いがとまらなくなった。

「くっくっ・・・かもめ眉毛・・・ケッケッケッケッケッ・・・・・・」

両手を顔に当てた。分厚い海苔眉毛の上にさらに繋がってカモメ眉毛・・・・もう見たら駄目だ!早く反撃しないと・・。

「ちょっと!いつまで掴んでんのよ!離しなさいよ!下ろさないと後悔するわよ!」

目を隠したまま足だけジタバタさせて抗議する。
「チッ、いきなり唾飛ばしやがって何だ、このチビ!何にも出来ねえ癖に何言ってやがる」
「い・・妹を降ろせ!」
イムラン兄さんが叫んだ。

「・・なんだ、アニキを助けに来たのか?お前みたいなチビが!残念だったなぁ、お前の兄ちゃん達はすげえ大金になるから返すわけねぇだろ?まあせっかくここまで来たんだ、かわいそうだからついでに兄ちゃんと一緒に売ってやるよ、はっはっはっはっ!」

「・・・もう怒った。いい大人が自分でちゃんと稼ぎもしないでこんな事してるなんて。許せない!」

「おい!何さわいでんだよバソメット?」
「おお!パキシル。このチビッこいのがよぉ、兄ちゃんを助けに来たんだと」
「へぇ、こんなチビちゃんにはむりだろうなぁ」

目を開けるともう一人、デカクないけど豚みたいにデブデブのオッサンが、ニヤニヤと笑いながらのっしのっし、と入って来た。

お・・・お前・・絶対自分の足が見えてないだろ!!

「ぐふっ・・・ピギー人間・・」

笑いをこらえて言い返すと、さすがにそのギャグは理解したらしい兄さん達が、一瞬呆気に取られてからブフッ、と吹いた。

「お父さんがピギーかオークでしょ!」

ビシッ!と指を差してやったら、真っ赤な顔で拳がブルブルと震えてる。

「なっ・・・なん・・だとぉ?」
「このチビ・・・」
    
私を掴んでるオッサンが怖い顔で睨んだ。このままだと叩きつけられそうだな、と思って両手に身体強化をかけてキョンシーのようにビシッ!と突きだしてやった。

「んー・・・・うりゃっ!」

「ウギャアァァッ!・・目が!目があああぁ・・・」
「!!・・だ、大丈夫か?バソメット!」

昔どっかで聞いたような悲鳴を上げてのけぞってうずくまり、私を離した。
トン、と床に降りて数歩下がったけど、パニック起こした今のうち、と思って股間を踏み潰してやった!

「うわああああぁぁぁ・・・」
「バ、バソメット!!」

そして、側でオロオロとお腹を揺らしてるオッサンに向かって、地下扉の時のようにお腹にドスッ!と拳一発かますと、ドゴッ!と廊下の壁にぶつかってグエッ!と叫び、バランスを崩して扉から消え、ドスン、ガタン、ドゴンドゴン、ドダダダダダ・・・・・と階段を落ちていく音がした。

「「「「「・・・・・・・」」」」」

目を押さえながら、どこだパキシル!?大丈夫か?と仲間を探しているオッサンに近づいて顔を掴んだ。
うちの労働力(兄さん)を奪おうなんて絶対に許さないからね!
覚めない悪夢って言ったらあれしかないね。火傷だらけで長い爪で、逃げても逃げても夢の中に現れるアイツだ!

「一生《悪夢》を見てなさい!」
と言うと、黒い魔力が目、鼻、口から吸い込まれた。
「うわーっ、な・・・何だ!?」
目は瞑っているが、うるさいので無詠唱でスリープをかけて静かになった。

脳裏で映画を再生しながらグワッと魔力を出したら、ミラの時より凄く多かった。
脳裏で再生してる今のうち!と思って階段の下まで走ってみると、おデブは気を失っていたが天然肉襦袢で守られたのか大きな傷もなく息をしていた。なのでコイツにも黒い魔力を押し込んでやった。
家の中は他に誰もいなかった。単独犯だったようだ。

さて、残るは・・・・


木札を持って部屋に戻ると、目が点になった兄さん達が呆然としたまま座り込んでいた。

「ほんとに反省したの?」

私が両手の拳を掲げて◯魔神のように睨むと、ひぃ!と震え上がり、青白い顔でしょぼんと項垂れた。
その頭の天辺に、木札の背でビシッ、ビシッ、ビシッ、と一発ずつ天誅を加えてやった。
「うわっ!」
「なにすんだ!」
「痛いじゃないか!」
頭を押さえて文句を言う5人を睨んだ。

「あんた達、さっき兄さんが言った事は覚えてるわね?もし忘れて一生召し使いか奴隷になっても次は助けないからね?もし学院で自慢して、卒業まで貴族のお坊っちゃまの荷物持ちをしたいなら勝手にすればいいわ」

「「「「「 !! 」」」」」

そして、卒業してからも価値があると思われたら自分だけじゃなく親に罪を負わせて、家族全員犯罪者にされてから買われたら家族も一生奴隷だからね。
とさんざん脅すと顔色が無くなって肩が小さくなった。

すると外にたくさんの馬の蹄の音がして、ドンドンドン!と扉を叩いてる音がした。
「・・・この悪い奴らは自分たちで協力して懸命に倒した事にするのよ?わかった?」
と最後にもう一度脅すと、眉を寄せて恐々と頷いた。

「じゃあそこの窓を開けて助けて下さい、って叫びなさいよ。その鎖は専用の道具がないと駄目なんでしょ?後で兵士さんが外してくれるだろうから」

多分レーザーを使えば外せるんだろうけど、いくらレーザーでもこの厚みだと焼き切るにも時間がかかる。今のところもう危機はないから私がやる必要もないでしょ。

5人は急いで起き上がると、鎖をジャラジャラと持ったまま急いで窓を開けて、助けて、と声を上げると外が騒がしくなる。

5人が窓に寄って行って視線が離れた隙に、私はそのまま父さんの所に戻った。



「父さん・・・」
「エステル!!」
目を丸くして、私をギューっと抱きしめた。

「大丈夫か?すごく疲れた顔だぞ」
お爺ちゃんが私の頭を撫でる。
「魔力がない・・・だるい」
今日はかなり使った。もう眠りたい。

「おい、まだ見つからないのか?」
「息子はどこなんだ?」

いつの間にか他の親達も、門で止められて待ちぼうけしていた。

心配そうに眉を寄せてソワソワしているけど、門に戻るにはまだ時間が掛かるだろう。

それから父さんは、兄さん達を見るまでここにいる!と言ったので、私はお爺ちゃんに抱っこされてぼんやりと説明しながら戻ってきた。

泣きそうな顔の母さんに、そのうち戻るから。と言うと無事だとわかって少しホッとした顔をした。
「ありがとうございます、お義父さん」
「いやいや。じゃあ私は門の方へ戻るよ」
私は少し考えて、おじいちゃんを引き止めた。
「・・・おじいちゃん、待って!お母さん、急いで何の肉でもいいからパンに挟んで5人分用意して!」
と言うと、兄さん達の事だと判って、母さんが急いで塩胡椒だけのピギーを焼くとベネットちゃんがペペペッと用意したパンに乗せてカットして5つ、布に包んだ。
あそこは市外の端だった。すぐに鎖は外せないだろうからそのまま馬車にのせるだろう。たぶんいくら早くても一鐘以上はかかる。門からここまでおじいちゃんの足で半鐘弱、戻れば一鐘くらいだろうから屋敷で手間取ってなければおじいちゃんが、戻る頃には会えるはずだ・・。

「会えたらお腹が空いてる子供達にやるんだな?」
「・・・そうよおじいちゃん」
「よろしくお願いします、お義父さん」
お祖父さんは足早に戻っていった。



もう、夜の四鐘を過ぎた。
今日は息子が拐われたらしい、って事で夜の営業は無しにしたらしい。

(夜の売り上げはなしか・・・全くバカ兄共め!)

私が帰ったのを見た近所の人が扉を叩いて顔を出している。
母さんは、無事みたいです、そのうち帰ってくる、と説明している。

厨房の食卓に座らされたけど、眠くて仕方ない。
「大丈夫?エステル」
ベネットちゃんが心配そうに、半眼で焼き肉をつついている私に言った。

「ん・・いっぱい魔法を使ったから眠いの。疲れた・・」
ああ。でも・・・今日帰って来れるのか確認しないと駄目か。

「ねえ、お母さん!奴隷の鎖を外す道具って、各門に置いてあるのかなぁ?」
「・・えっ!?く、鎖?」

厨房から店の方へ声をあげると、母さんはビックリした顔で固まった。

「え?鎖付けられちゃってたのかい?」
「あっらぁ、災難だったねぇ!」
「売られる前に見つかって良かったなぁ」

戸口で話してたおじさんおばさんが口々に喋っている。

「ああ・・でもなぁ、確かあの道具はお城の牢屋でしか外せなかったと思うぞ」
「そうそう。後は許可がある奴隷商人のとこじゃないと着けたり外したりは出来ねぇはずだ。拐った奴は、一体何処で手に入れたんだろな?」

「えっ・・そうなんですか!?」
母さんが心配そうな顔になる。

そうか。やっぱ数ヶ所限定ね。まあ、あんな太い鎖と枷を外せる道具が何処にでもあったら困る・・・・鍛冶屋なら外せるのかな?
眠い目を擦り、何とか食べ終わると、私が洗っておくよ、とベネットちゃんが言ったので、ありがとう、と言って椅子から降りて母さんに声を掛けた。

「お母さん、お城でしか外せないなら、帰ってくるのはきっと夜中になるか、明日だと思うよ。お休み・・」
「・・そう。わかったわ、お休み」

ほんとは風呂にも入りたいけど睡眠が先だ。睡魔様には何者も勝てないのだ。

「・・・睡魔さまか・・」



そう言えば・・・妹が、いつも入稿時には何日か有給を取り、その数日間はいつも部屋の二次元ポスターを全て外すのだ。何故?と聞くとその二次元貴公子が全て睡魔様になるのよ!と言っていた。
真剣な顔で「睡魔様はね!抗い難い姿でやって来るのよ!あの麗しい姿(ポスター)を見ちゃったら、あの方の声が再生しちゃうでしょう!・・そんな頑張ってる君も好きだけど、辛いなら眠ってもいいんだよ?・・とかあの甘い笑顔で言われちゃったら絶対に抵抗は無理!コピー本になる自信があるわっ!!」と震えていたっけな。妄想逞しい妹よ、今も頑張っているだろうか?



私も素敵な声が降りてこないかな・・と思いながらだるい体を引きずって三階へ上がり、何とか服だけ放り投げてベッドへ倒れ込んだ。




次の日は、お昼過ぎてから眼が覚めた。自分で回復して目が覚めるまで起こさないで置かれたらしい。
体を起こして顔をあげると、波打つ黒髪の闇の子がニッコリと微笑んでいた。



私が降りて行くと、父さんと母さんが忙しく働いている厨房テーブルの端に座っている兄達は、疲れた顔で黙ってお昼を食べていた。

案の定、あれから鎖は外せなかったそうで、回りに見られるのも障りがあるので親達は一人ずつ、運ばれて来た馬車に入って無事だけを確認したあと、城へ連れて行かれて兵舎で鎖を外し一泊して次の日に事情聴取され、お昼くらいにまた馬車でサンコバまで運ばれてから、解放されて帰ってきたそうだ。

後日、誘拐犯二人組は、未遂だったって事で罰金刑で済んだらしい。二人とも冒険者資格は剥奪になった。おデブの方がどっかの商会の次男か三男だったそうで、馬車はそこから使用したらしい、と父さんが言っていた。


その後5人は、強くなるまでは・・と約束をしたらしく、真面目に家の手伝いをして、採集をして、体力を付けて魔法訓練も地道に・・と頑張るようになった。

しかし今さら遅いだろう。
不安要素として、既に何人もスペースを見ているだろうから、いつ又拐われるか分からない。人の口に戸は立てられないのだ。
たぶん城でも兵士に色々質問されたらしいし、誘拐犯も喋っていると思うから、スペースを持ってる子供が王都に最低5名、はバレてて調書があるんじゃないかと思う。

なので、この先も本当に気を付けるように!と釘を刺しておいた。


そして、妹は本気で怒らせてはいけない、と兄達の頭に刷り込まれた。



――――――――――――



エステルも精霊コンプして指輪貰いました。
いずれ説明は入りますが、実はこの指輪は大人になってからは貰えないのです。

次は、算盤が広がる兆しが・・・。

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