不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

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7歳

 47、子供講習会

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「お父様!鹿を仕止めました!」

「!・・・・・・・・」


初めての獲物だから解体する前に見せてきてもいいですか?とケルガーさんに言ってからちょっと家に戻って、鹿を庭に出してから父様を呼んだ。

牛より大きい体で血だらけの角の鹿が、ドデンと庭いっぱいに横たわっているのを見て目を丸くして固まった。

「こ・・これをミラが捕ったのかい?」
「まあ・・すごいわね、ミラ」
「・・初めて見ましたよ、こんな大きいオゼックスは・・・」

父様と母様とイレッサが、其々に感想を述べた。
それから、薬草も採りました、と巾着袋の薬草を父様に差し出してから鹿をしまって、ケルガーさんの所に戻った。


「お父様が、こ~んな顔になってました」
と、眉を寄せて目を丸くして困った顔を真似すると、ケルガーさんが呆れた顔になった。

「そうだろうなぁ」


ケルガーさん家の奥は、うちでは食事をする所が冷凍貯蔵庫になっていて、残り半分の応接間になってる所に大きな解体作業台がドン、と置かれていた。その奥の竈と倉庫はうちと同じで、台所の食卓テーブルで食事をして、倉庫はお風呂場になっていた。解体台の横の壁には大きな獲物の時の為に外扉があったが、余程大きな獲物や桶の血を捨てる必要がない限りは鍵と、太い閂が掛かっていて開けないらしい。


そして店からヒョイ、っと顔を出したユベラさんも、大きな解体台のはずなのに四肢がはみ出すくらいの鹿を見て、えぇ!?・・と、父様と同じ顔になっていた。

「・・これ・・ほんとにミラちゃんが捕ったの?」
「そうです」

私がユベラさんと話してる間に、ケルガーさんは鹿の足を縄で括って解体台の端の天井に付いている滑車に通すと、脇のギザギザの歯車に噛ませてガコンガコンと縄を巻き取り鹿を吊り下げた。

「今日はもうすぐ暗くなるから、今夜は血抜きだけで、解体は明日だぞ?」
「ああ、そっか・・分かりました」

幾つかある大きな桶の一つを鹿の頭の下に設置しながら話していると、ユベラさんが首を傾げた。

「林の入口で(血抜き)やらなかったの?」
「・・ああ」

また首を傾げて血だらけの角の辺りをジッと見たので、それはたぶん縄張り争いの相手の傷で、俺達がつけた訳じゃない。とケルガーさんが言うと、目を丸くして私を見た。

「?・・仕止めたんじゃ・・ないの?」

「・・仕止めたぞ、ほぼ無傷でな」
ケルガーさんが私を見ながら言うと、更に首を傾げたので、六角の魔石を見せて説明すると、目をまん丸にして魔石を見詰めた。

「そんな事が・・出来るの?」

「これがあれば狩りが楽になるだろうな。だがこの大きさだと精霊がいなければ触れる者がいない。まあ精霊がいてもかなり魔力がないと駄目だろうがな」
解体台に置いた魔石を見て、二人して眉を寄せている。

「狩りが再開したら、少し大きさの違うのも作ってみましょうか?」
「ほんとに?この半分くらいなら嬉しいけど」
ユベラさんが喜んでいる。

「え?・・・半分・・・・・・・」
「枯渇以外の心配があるのか?」

私が考え込んだのを見たケルガーさんが、問題があるのか?と聞かれたので少し考えてから、魔石の大きさによって紐の太さが違うんじゃないかと思うから、小さすぎる魔石では作れないんじゃないかと思う。
と言うと、ああ!と目を丸くした。

「これで小さい獲物を捕まえたら一瞬で枯渇すると思うんです。それはそれでいいんですけど・・」

鹿の魔力がなくなった途端に魔石が外れて落ちたけど、掴んだら足りない魔力を取られたのだ。魔力の少ない人は使えないだろう。
たぶん今日のは大きい魔石で大きい魔物だったし、暴れていたから魔石が満タンにならずにグングン吸い上げて上手くいっただけだと思う。

獲物の捕まえ方を考えた時、カウボーイの輪投げは技術がいるので、魚の投網のイメージで作ってみたけれど、自分でもまだ使い勝手がよく分からない。

「たぶん魔物の魔力より魔石が小さいと、外れた時に枯渇してなかったら逃げられちゃうんじゃないかと思うんですよ」

「!・・そうか、確かにな・・・」

と、二人は少し諦めた顔で息をついた。

私にとっては、ちょっと足止めが出来れば、逃げるか仕止めるか選べるだけでも充分なので問題ないのだけど。

「・・でも、動きを止めたらすぐに弓か剣で仕止めれば小さい石でも充分じゃない?」
ユベラさんが期待を込めて私を見た。

「まあ大人でも精霊がいるなら大丈夫かな?。・・じゃあ、小さいのを幾つか作って紐の太さとか消費魔力がどのくらいか試してみます。上手くいったら石の代金だけ貰っていいですか?」

「まあ、それだけでいいの?」

「はい。傷が少なければ取れるお肉が増えるんでしょ?」
まあ傷があったらミンチや、合い挽きという手もあるけど、ここでは小間肉までしか見たことがない。
だからエルの所のハンバーグは不思議がられながらも今は売れている。まだ他の所で真似されてないのは、繋ぎの卵が分からなければ崩れやすいからだと思う。

「そうねぇ。その時はお安くしておくわ」

明日は、朝の作業が終わる(店が開く)四鐘以降なら大丈夫だ、と言われて家に戻った。



次の日は、門の外へはたぶん出られないので、いつもの中古服にエプロン、ショルダーを掛けてケルガーさんの所へ来た。

午前中はここで解体の見学。
これからは初めての獲物の時は、ここへ持ってきて教わる事にした。皮の剥ぎ方から、食べられる所や食べられない所、骨の外し方とか。

皮は頭蓋骨と足先が付いたままの腹開きで、頭の付いた毛皮の敷物を思い出した。これはあと数日間干してからギルドに持っていくので、また後で、と言われた。

そうして足元の桶二つに、内臓の山と骨の山、解体台に赤身のお肉の山が出来た。
さすがプロ、お見事!

最後に大きな心臓を台に置いて少しずつナイフを入れて割ると、5ピトくらいの血の固まりが出てきた。

「ん・・・これは大きい魔石だな・・」
桶で濯ぎながらケルガーさんが呟いた。
鹿の大きさや心臓の大きさからすると小さいと思ったけど、充分だ、と言った。

「大きい方なの?」
「まあな」

魔物に比べたら、動物の魔力など基本的に体内魔力のみで、魔力の多い草や木の実を日常的に食べているか、敵と争って日常的に魔力風を受けていると魔物化すると言われているがそんなに頻繁ではないし、変化したばかりだと魔石はもっと小さいか、殆どないらしい。

そして、魔物や魔物化したもので稀に知恵があると、威力はそんなにないが魔法を使うヤツがいるので注意が必要だ、と言った。

(へぇ・・・魔法をイメージ出来るくらい賢いんだ。見てみたいなぁ・・・・その場合、攻撃されるのは私か・・・んー・・悩む)

「もし魔法を放つ動物か魔物に出会ったら、仕止めれば絶対に魔石が取れると思うぞ?大きさは分からんがな」

「そうですか・・」

そして、真っ赤で少し歪な天然魔石と20ピトくらいの闘牛の角1本、一抱えもある大きさの赤身肉の塊を、布に包んで受け取って収納に入れると、店を出た。



ギルドに着くと端のF、Gの掲示板の常時採集の札が外されていて、いつもなら商店などの手伝い依頼の小さい木札が数枚くらいはあるのに、今日は1枚もない。朝、外に行けないと判った子供達が依頼を受けたんだろうか?。
右隣のD、Eの掲示板の方には常時採集の札が掛かっていた。Eになってれば外には行けるらしい。
子供掲示板(F、G)の左の壁には大きめの木札が掛かっていて、回りに大人が群れていた。

木札には、北の林に魔物化したオゼックスが出たので暫くは子供だけでは門の外へ行けない事、E、Dの者は北と東へ出る時は気を付ける事、C以上の者は安全確認の為、ギルドから林の探索の依頼を受けられる事、などが書かれていた。

私は少し考えてから、森がない北門以外なら外へ行ってもいいのか、窓口の職員さんに聞いてみた。

「そうだなぁ、まあ森は近くないから門番も駄目だとは言わないだろうが・・・」

西門と南門は、外に町があるから駄目って言われないと思うが、東門の外は町はなくて農家が点在してるだけなので小さい獲物は居るから、それを狙う大きな魔物もいるかも知れないから駄目って言われるかもなぁ、と言われた。
東はそのままずっと一鐘半くらい道を行くと市外の外れに学院があるらしい。

やはり子供OKになるまでは、止めておくか・・・と思って訓練場に回ってみたら、いつもなら私達が少し魔法練習をしている左端の方で、子供達が5~6人ずつ固まって、ワイワイと十数名が喋って騒いでいる。

(え、何!?・・・何が始まるの?)

ミラは遠巻きに建物の扉から、寄り集まって騒いでいる子供達を覗いたが、少し考えてから回れ右して戻ろうと思ったら、訓練場に行こうとするエクラーさんと出くわしてしまった。

「お!何だ嬢ちゃん、帰るのか?他の子供達と魔法練習はしないのか?」

「・・魔法練習?・・・・練習会なの?あんなにたくさん?」
「・・・まあな・・」
私が質問すると少し困った顔になった。

すると受け付けホールの方から茶色の髪と黄緑の髪の少年が通路を歩いて来てその影から、ヒョイっとエステルが顔を出した。

「ミラ!」
「エル!?」

「エステルの友達か?」
「・・あ、もしかして最初にエステルに魔法を教えてくれた子か?」
「そうよ。ミラ、これが兄さんよ。イムランと、バレオン」

初めて見た。食堂の厨房に入った時も見なかったし、私の初めての採集の時も、あのサンコバチームの中には居なかったし。
髪の色は違うけど、二人ともアロフトさんによく似た顔立ちで絶対に兄弟、ってわかる。目を丸くして私を見て、エステルをよろしくな、と声を掛けると、訓練場にいる仲間の方へ歩いて行った。


「で早朝にね・・・依頼(手伝い)をしてない王都内の子供冒険者は、暫く外へ出られない間、訓練を受けられる事になったから来れる者は来るといい、ってギルドから連絡が来て、兄さん達は命懸けで朝の作業をしてたわ」

と言って渋い顔でエクラーさんを見上げた。私も眉を寄せてエクラーさんを見上げる。
7歳以上の子供冒険者には通達がいったらしい。

私、聞いてないけどな・・・。


「何で外に行けなくなったの?」

何も知らないエステルに聞かれて、私とエクラーさんは眉を寄せてエステルを見た。

「ごめん。・・・それは、わたしのせい」
「・・・・」

エステルが非難するような顔でこっちを見たので、簡潔に初めて外に出て大きな鹿を捕った話をしてこのくらい・・と通路ギリギリの小型車くらいを手振りで示すと驚いた顔になり
「・・それは鹿じゃなく牛でしょ」
とツッコミをくれた。
それは魔物化していたので他にもいないかどうか、子供に危険がないと大人が判断出来るまで北には行けなくなったの、と説明するとため息を吐いた。

しかし何故、大規模練習に至ったのかは私にも分からない。誰が許可を出したのか。

「なんで魔法の練習会になったんですか?」

私が聞くと少し眉を寄せてから、年明けからの騒動を少し話してくれた。
ミラは父から少し聞いただけで細かくは聞いてないし、エステルは平民だから全然知らなかった。

実は年明けの謁見で、一夫一婦にしていくと同時に、精霊の真実も大多数の貴族に告知されて、謁見の間は大混乱に陥ったそうだ。

特に  [ 子供が出来ない ]  と告げた時に。

そして複数の妻がいる者や、妻が一人でも夜の町や夜の館に行った事があって精霊がいない者やまだ子供がいない者などは、別室で妻の処遇や後継ぎについての相談を受けたりと、その日の王宮は大変な事になっていたそうだ。

多分今も毎日、頭を抱えた貴族達が、政務官に面会予約を取って王宮に足を運んでいるだろうな。とエクラーさんが言った。

そうして貴族の家ではまず、第二、第三夫人で精霊のついていない妻が離縁されたり、実家に戻されたらしい。

「いくら何でも突然離縁は可哀想じゃない?」
エステルがムッとした顔で文句を言う。

「そうかもしれんが・・・宰相が、離縁出来る者と出来ない者とかの決まりを定めていたから、大丈夫じゃないか?」

「「・・・・・・」」
そうだろうか?私はエルと顔を見合わせた。
法律を作られても納得出来ない者は暫く揉めるだろうな。


「・・それでな・・・実は先月、プリジスタに子供が出来たんだ・・」

「「・・・プリジスタ?」」

いきなり何処へ話が飛んだ?
・・・車の名前か?

「妻だよ!お前達に言われてから・・・やっと来年・・・俺は・・父親になる」

「「・・・!!・・・」」

少し照れ臭そうに泣き笑いのような顔で報告されて、二人で顎が落ちそうな顔になってしまった。プリジスタって言うのか、奥さん。

「ホントに?・・・おめでとう」
「マジ!?・・成功したんだ」
「ああ・・・ありがとう。嬢ちゃん達のおかげだ」

と言ったが、すぐに顔を曇らせた。
そのせいで宰相に呼ばれて話をしたあと、本当の政策が動き出したらしい。

ああ・・・子供を増やそう計画か。

春先に会ったジュリナ様?の話しの時は、贅沢をしなければ好きに・・・とか言っていたと思う。
じゃあ今頃はどちらか一人が選ばれている?

選ばれずに、居場所が無くなり肩身が狭くなってしまった女性達は、どう処遇されたんだろう。

ジュリナ様がどうなったのかちょっと気になった。


「・・あ、エクラーさん!前に渡した周期表は矢鱈と他の人に教えたら駄目ですよ!男の人は特に駄目!!奥さんにも言っておいてね!」

「え!駄目なのか?何でだ?」

誰が考えたかツッコまれて稀人ってバレても困るので、二人で見合ってからエクラーさんを睨んだ。

何処から漏れるか分からないし女の人でもお金を貰って男の人に言う事もあると思う。この周期表を知った男が、手に入れたい女の人を襲って、泣く泣く結婚する事になる女性が増えたらどう責任取るんですか!?
と、至極偉そうな文句を言って、夫婦両方精霊がいても何年も子供がいない女の人しか言っちゃだめって奥さんに言って下さい。教えた人にも、あまり言わないように言ってね。と言うと、悲しい顔で何度も頷いた。
「わ、わかった。妻に言っておく」

稀人ってバレるような事が仕方なく起きるか、私達が大人になるまではなるべく駄目だ。


そして今日の子供召集は、
早いうちから体内魔力を増やしておいた方が、精霊が居なくなった後や、精霊がいない者を選んでも助けになると王や宰相様、政務官の判断によって決議されたのだそうな。

で、市内の平民側では冒険者ギルドが王宮から補助金をもらい、冒険者登録をしている子供に、体内魔力を増やすのを少しずつ教える事になったと言う。

貴族側では洗礼が終わる7歳以降の希望者のみ、騎士団の訓練場で月に一度か二度、体内魔力の増やし方を教えるらしい。
教えるのは初級魔法だけで、あとは学院に入ってから教えていく事になると言う。

「貴族の子は希望者のみなの?じゃ男だけ?女性も訓練くらいはしないの?魔力は増やさなくてもいいのかしら?」
エステルが不満そうな顔で言う。

「・・・今どんどん離縁されてる現状が見えてるなら、嫁ぎ先に左右される貴族の女子にこそ必須だと思いますけど・・」

厳しい意見を言う私達を見て、エクラーさんが少し考え込んだ。

「んー、どうかなぁ。でも学院では、三年生までの授業には必須科目として、武術と魔術の授業はあるし、上級生になって将来の職業を選ぶ時になると、騎士・兵士科の授業には女子はいなかったが、魔術師科の授業には女子もいたから大丈夫じゃないかと思うぞ?」

・・科目が色々と分かれているらしい。どんな授業科目があるのか気になるな。そのうち父様と母様に聞いてみよう。

「それでだな・・・お、来たか?」

外に、数台の馬車の音がした。

「それでな、かなり魔力が増えている嬢ちゃん達に、子供達にどうやって教えたらいいかを教えて欲しい人がいるんだよ」

「え?・・・私達が?」
「・・教え方を教えるって、何なのよ?」

二人で眉を寄せてエクラーさんを見ると、先日お城の門で見た、詰め襟にダブルボタンの制服の人が5人入ってきた。三人が青で二人がグレーだ。帽子は制服と同色で、筒状の前に鍔がある軍隊のようなキャップを被っている。
(帽子あったんだ。初めて見た。)

「やあ、久しぶりだなエクラー」

それぞれに少しフレンドリーな感じでエクラーさんと話をしている。

更にその後ろから、腰くらいまでの長さの黒いハーフマントを着た金髪と茶髪の年配のおじさんが二人やって来た。紳士の山高帽を低くカットしたような帽子に、マントの下は黒のベストとスラックスでイギリス紳士風、共に白髪まじりのおじさんだ。

これぞ魔法使い。

マントの縁取りに金の蔦模様の刺繍が入っていてカッコいい。襟元のボタンがまた金色でバッチが色々付いてて地位が高そうだけど、夏なのに暑くないのかな?・・黒。

(でもこの姿はやっぱ・・・)
エルを見ると私と同じく眉をよせている。


「ナボール様、こいつがギルドマスターのエクラーですよ」

「やあ、初めまして。宮廷魔術師のぺリアス・ナボールです」
「私はグリマック・ブロニカです。よろしくお願いします」

「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします・・・」

やはり宮廷魔術師か!エクラーさんが恐縮しながら話をしている。


「(・・え?王宮魔法使いっていま二人だけなの?ちょっと!二人とも来てていいわけ?)」
「(さあ・・・)」
数歩離れてエステルと話していると茶色い髪のおじさまに突然声を掛けられた。

「やあ。君がシングレア先生のお嬢さんかい?」

「・・・・・」
「・・そうです」

エステルが私を見て沈黙したので、私は膝を曲げて挨拶すると、ローブのおじさま達が私を見た。

「ミレット様とよく似ているな」
金髪のおじさまが目を丸くする。

「!・・・・お母様の決闘を見たことがありますか?」
「!・・・ああ、あるよ。何度驚かされた事か・・」
私が質問したら苦笑いしながら目を細めた。

母様の武勇伝を知ってる人か。なら、少しやり過ぎても大丈夫かもしれない・・・と皮算用していると、三人の職員が木の武具を積んだ荷車を押してきて、三枚の木の板の的を5キュピトくらい先に立てた。


「よーし、みんなよく来たな!」

エクラーさんが、声を掛けると、自然と街毎に3つの塊になった。
まず子供達を地面に座らせて、これから魔力を増やしていかないといけない話をはじめた。
私はエステルと一緒に、少し離れた後ろの方で見ていた。側に魔術師のおじ様達がいて騎士のおじ様達は子供を囲むように回りに立っている。

精霊がいなくなったら小さい魔法しか使えなくなって、力でしかランクが上げられなくて大変になる事、大人になって好きな子と結婚しても子供が出来なくなるから何人も女の子と付き合うなよ、とか子供にも分かるように懸命に説明している。
突然の知らせに、子供たちは目を丸くして静まり返った。

「な・・何人もはダメなのか?」
子供の中から声が上がった。
「ああ、止めた方がいいと思うぞ。いま貴族の人達で奥さんが何人もいる人は大変な事になっているんだよ。例えばだな・・・」
子供達を見回して、もう好きな子とかがいるかも知れないが・・・と言いながら、男の子と女の子を一人ずつ前へ出すと、絵の具に例えて魔力が混じる説明をしてから、もう一人女の子を出して色が3つになって精霊が消えて魔法も少ししか使えず、そのあと結婚しても子供が出来ない。と男の子の頭をポンポン、と叩きながら説明した。
子供達は真剣な顔で聞いていたが、みんなの前に立つ桃色の髪の毛に桃色のワンピース、そして濃い桃色(珊瑚色)のリボンの女の子が赤い顔で声をあげた。

「私、こんな子、好きじゃないし結婚なんかしないわよっ!」
「・・・・・」

真ん中の男の子は否定されて、ムッとした顔で叫んだ女の子を見た。反対側の女の子は内気な感じで赤い顔で俯いている。

あ、前にホールで見たあの子!今日は全身ピンクだよ、すごい!

「そうか、まあ別々の街の子だからな。これは別に君の事を言ったんじゃないぞ。み~んなに分かり易く言うために手伝ってもらっただけだからな。・・・みんな、何人も駄目な理由が分かったかぁ?」
とエクラーさんが喋りながら手を上げて促すと、おずおずと全員手を上げた。
「ほら!みんな分かったようだ。君は分からなかったのか?」
「・・わかったわよ、好きなひとは一人だけにしないといけないんでしょ?」
口を尖らせながら文句を言っている。


「わかってない。あの子、バカなの?」
エステルが眉を寄せて私を見た。
「例え話だって言ってるのに、全然頭が足りてないわ」

・・・確かに。文句を言ってる所をみると、いい男を見つけた途端にどんどん乗り換えしそうな気がする。

「あの子・・サリベートらしいんだけど、初めて見たとき遠巻きにされてて、話し掛けて来なかったよ」
「そりゃ、自分がチヤホヤされなくなるからに決まってるじゃない!」
「・・・まあ、どう見ても訓練しに来た感じじゃないね。組の中に狙ってる男の子がいるのかも。まあ私は何処にも入らないから関係ないかな」
「ちゃんと採集してるのかしら、あの子。男の子達の採集の邪魔してるんじゃない?いや~ん、怖~い、助けて~、って・・・」
「ふふ・・・どうかな?それは男の子達の方に、どんな子?って聞いてみないと・・」





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「「・・・・・・・」」

目の前の少女達がギルドマスターの側にいる女の子に対して、子供らしくない文句を言っているのを聞いていた魔術師長は、眉を寄せてグリマックを見ると、彼も何とも言えない困った顔で私を見ていた。

暮れの医者達の通達をグリマックに任せてしまい後から驚くような報告を聞いて、失敗した!と思った。
セレニカについての記述に先がある事も、精霊は基本三体だと思い込み、自分は他の者より魔術を頑張っていたから精霊が契約してくれて四体になったと思っていた。

属性の性質を考えれば精霊が増やせる事も、竜族との戦争や、自分達の魔力に色があるなど深く考えもしなかった。白と闇の魔法についてもだ。

よくよく考えれば王宮の書庫には、大昔には全精霊を持ってる者がいたと言う記述が幾つかあったのは見たことがあった。だが幼い頃から親や祖父母や教師などが、今の子はみな魔力が少ないからなぁ。とよく呟いていたので、あれは魔素が今より多い時代に、魔素の多い所(山とか森、鉱山地域)で育つか、元々多い魔力を持って生まれた者しか揃えられないのだ、と思っていたからだ。

〈何故五年なの?〉
と、この少女が聞いたと言う。

高熱病の元(原因)がある事なども、誰も考えた事はないだろう。
それを聞いてから数ヶ月、王宮図書室に籠って魔法や戦争や病の文献を探した。すると私が籠っているのを知ったマグラックス近衛騎士団長に呼び止められ、宮廷魔術師が結婚してはいけない決まりを作ったのはどのくらい前の誰なのか、もし書庫で探せるなら頼みたい。と言われて一般の者は見られない書庫も許可を頂いて足を運んだ。魔法の文献は触り程度の記録はあったが、病についてなどの成果はなく、執務室に戻って歴代の魔術師長が付ける日誌のような、大量の記述を読み返してやっと、魔術師の決まりは解決した。

百年くらい前までは文章のなかに、妻、という言葉が入っていて昔の師長の在位は20年~30年と長いが、その後くらいからは十年も経たずに何人も師長が変わり、妻の名が複数出てくるようになる。そして妻が増えた、と言う記述のあとに代変わりが続くのだ。多分枯渇で亡くなったか大魔法が使えず退位したと思われる。そしてとうとう宮廷魔術師が1人になってしまった時があり、現王妃ソフィア様の曾祖父が王だった時に、当時の魔術師長が危機を訴えて法律として施行された、と分かった。

実はその時の記述から、妻が増えてから魔力が衰えている。数日前から精霊が現れない、答えてくれない。と言う文章がある。と、その魔術師が進言し、妻が複数になると精霊が消えるようなので妻は一人にするべきである。と訴えたそうだが、貴族同士の力関係やバランスなどを理由に、一部の貴族だけが抜きん出るのを許さなかった大多数の貴族達の反対にあったため、魔術師だけが独り身と言う決まりになってしまい無念である、と書かれていたのだ。それからは魔法の才能があっても結婚が許されないので跡取りは魔術師に成らなくなったらしい。
その報告も、謁見の間で述べると、自分達の親や祖父が、目先の利益や権力欲しさの為に一夫一婦にさせなかったと分かり言葉を失っていたな。

師長になった時にきちんとこの全てに目を通して、独り身の決まりを変えておけば、精霊が消えていく若者達を止められたかもしれない、と凄く後悔した。
しかしまあ、今の私とグリマックにとっては、今頃になって妻がいてもいい、と分かった所で相手もいない。精霊がいなくなる危険よりは独り身の方が楽だな、と話したのだ。

ぺリアスは目の前の少女達を見ると、出来たら魔法や精霊について話が出来ないか、と考えていた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



私とエステルが後ろから見ていると、やっとみんな立ち上がり、順番にどのくらい出来るのか弓と槍と剣を少し使って、得意の武器を決めるために武器毎に練習をしていくぞ、とエクラーさんが言った。

前に私に話しかけてきた貴族の男の子はいない。パンデルの子供達は騎士団の方で教えるんだっけ?

エステルのお兄さんがいる所がサンコバのメンバーらしく、一番人数が多い。
エステルのお兄さんの近くに先日、牛を仕止めた少年達もいた。
みな順番に矢の構えを騎士が見てくれて、5~6本射っては刺さったのを外して次の子が射つ。
さっきの女の子は脇から見ているだけで、やはり参加はしないようだ。しかも最初に見た時は一人だったのに、今日は三人いる。

「貴女は練習はしないの?」

私より頭半分高い全身ピンクの女の子に話し掛けてみた。

「あら、私はなおす方なの。彼らが狩りでケガしたとき、ヒールをかけてあげてるのよ」
と、優越感に浸った顔で言った。

(なるほど・・・)

それが私の仕事、私がいなかったらみんな大変なんだから。というような分かり易いドヤ顔で微笑んだ。
私は脇にいる二人の子に目を向けると、赤くなって、ちょっとキョドった顔で目が泳いでる。

「・・この子達はヒールは使えないけど、練習を見たいって言うから一緒に来たのよ」
「え、ち・・ちがうわよ!マルファがどうしても一緒に来てくれって言うから来たんじゃない!」
「ん・・マルファがいったから・・・」

「な、何よ!ナゼアもチオラも見たいって言ったじゃない!」

・・・虚言癖あり、か。

エステルをみると白い目で見ていた。
いい子か悪い子かは別にしても、気を付けないと自分の都合のいいように言われかねない気がする。

「狩りの棒は貰えなくてもいいの?」

「え?・・・べ、別にみんなのためだもの。たくさんとれたときはくれるし」
練習している男の子達の方へ視線を向けている。別に棒は無くてもいいらしい。

「・・そうなんだ・・・・」

エルと肩を竦めると、練習の最後尾についた。
みんな1~2本しか当たらず大暴投になっている。騎士の人が、顎を引いて、脇を締める、真っ直ぐに。とか言われているが、全部が板に刺さる子は数人しかいない。
私も五本射って、三本は真ん中辺りにいったが、二本は下の方に刺さった。板には全部刺さりはしたが弓は向かない。魔法でなら別だけど。

「私もやっていいのかしら?」

「嬢ちゃんもやるのか?・・いいぞ」
エステルがエクラーさんに許可を貰った。私が弓を渡して、自分の矢を抜きに行こうとすると、的が定まらないから真ん中に20ピトくらいの丸を書け、と言われて黒っぽい石を拾って矢を抜きに行く。

「おい、エステル。お前はまだ登録してないんだから危ないぞ」
「そうだぞ。お前は魔法は中々だけど、力は全然だからな」
と兄達に止められている。
ムッ、としてお兄さんを睨むと、練習でお試しだからいいのよ!これから頑張る目標になるからいいの!と言っている。
・・・きっと今、エルの勝負魂に火が付いてしまったんじゃないかと思う。
見やすい1ピト幅くらいの太い線でガリガリと丸を真ん中に書いてから、サムズアップして下がった。



5キュピト先の丸を見つめて、大人も子供も全員が固まっていた。

しかしエステルは一瞬、納得いかない顔をしたが、最初の一本だけ丸から少し上に外れたが、残りは全部丸には収まったので、呆気に取られてる兄を、ふふん、とチラ見してから的に歩いて来た。

「どこぞのロビンフットですか」
「ロビンフットなら一点集中よ。こんなにブレやしないわ!」
どうやら同じ所に全て刺さる、奇跡のアレをやりたかったらしい。矢を抜きながら、ブレブレよ!と文句を言っていたが、戻って職員に矢を渡すとエクラーさんが褒めちぎってくれた。
「すごいぞ!登録していればすぐにでも狩りに行けるのになぁ」

騎士達も、魔術師のおじさまも目を丸くして私とエステルを見ている。
信じられない、子供のしかも少女が!、騎士団でもこの命中率はないぞ!、女なのがおしい!、と口々に言われている。

「弓は段々的を絞って精度を上げればいいんじゃないか?」
「そうだな」
私が書いた丸を眺めながらエクラーさんと騎士の人達が板を囲んでいる。

「・・動かない的に当てても腕が上がったとは言わないわよ・・・」
エステルが、ふん、と鼻であしらうとエクラーさんは目を丸くした。
「じゃあどうするんだ?」

「動く物に当てないとね」
とエステルが言ったので
「・・やってみる?」
とフリスビーのように手をシュッシュッと振った。
「ん~・・出来るかな?・・・」
自信なさそうに弓をもったので10キュピト先くらいまで離れてから地面に手をついて《クレイ》で直径20ピトくらいの薄いフリスビー型のお皿を7~8枚ほど作っていると、子供達を置き去りにして大人達が近づいてきた。

「な・・・何だそれは?」
「どうやって作ったんだ!?」
大人達は、目を丸くして食い付いた。
「土をちょっと固めただけです。使えるお皿じゃありません」
と言って勢いよく一枚落としてパッキン、と割った。
ん、大丈夫、薄くて割れやすい。

「なんと!土で皿を作ったのか!?」
「壊してしまうのかい!?」
魔術師のおじさま達がビックリして眉を寄せた。
「壊す為のお皿ですから」

シュッシュッ、と投げる用意をしてから、エステルを見ると頷いた。
そしてキリキリと弓を引いて、用意が出来ると「はい!」と叫んだ。


「「「「「「・・・・・・・」」」」」


声と共に皿を五回、空中へほうり投げた。回りの大人も子供も全てが静まり返っていた。

五本射つと肩を落として私の所にやって来たので、二人で打ち損じた矢と皿を100メーター近く回収して、みんなの所に戻りながら話す。
「やっぱ動いてるのは難しいわ。もっと動体視力を上げないと」
「一枚は割れたじゃない」
と言うと、落ち込んだ顔で首を振る。

「一枚じゃね・・・。命中率が上がったら板の距離を伸ばして、最後に今の練習をさせるといいと思うわよ?」
とエステルが肩を竦めてエクラーさんを見上げると大人全員の眉が寄っていた。

「これは・・誰から教わったんだ?」
エクラーさんが目を丸くした。

「「(ヤバイ・・・)」」

「いつもここで練習しながら、素早い動物をどうやって追うか、私達で考えてたのよ」
エステルがもっともな言い訳をつける。

「これは、子供だけじゃなく、騎士団の訓練にも良さそうだな」
「ああ・・・しかし大人でも難しそうだぞ」
「だが出来れば、動物や魔物、敵にも当たりやすくなるんじゃないか?」
「んー、しかし皿の調達に金がかかるんじゃないか?・・・」

「このお皿は泥を練って薄く作っただけなので土魔法が使える人なら作る事も出来ると思います。なければ・・・薄目の丸い板でも良いんじゃないですか?割れるまでは使えますね」

「・・クレイでこんな物が作れるのか?」
魔術師のおじさまが皿を確かめながら、眉を寄せた。ここでクレイと名のつく魔法はクレイドールしかない。
「精霊に聞いた呪文だけじゃなく、もっと頭を柔軟にすれば出来ますよ」
「泥は形が変えられるから何にでも使えて便利よ、魔力さえあれば」
私とエステルが言うと、騎士も魔術師も目が点になる。

「ん・・まあ板なら、皿よりは使いやすそうだ。悪くはない・・・」
エクラーさんが呟いて、みな皿を見つめて考え込んでいた。


「エステル、お前いつからそんな腕があったんだ?」
「あんなの出来るなら、俺達にも教えろよ。ずるいぞ」
子供の輪に戻るとエルのお兄さん達が驚いて文句を言った。
「・・わたし、兄さん達が外に行くとき誘われた事ないけど?・・・弱い所を鍛えるのをどうするかは、自分で考えるべきでしょ!」

「「そ、それは・・・・・」」

妹にジロリと非難されて、二人が困った顔になる。小さいし女の子だから弱いと思っていつも置いてけぼりだったらしい。
兄が何をして遊んでるか知らないけど、行った所で自分が子守りになるのもヤダ、って言ってたな。

「つ、次からは一緒に行こうぜ」
「来年じゃないと門の外には出られないし、もう友達がいるからいい」
兄が誘ったが、子供らしくプイッ、と断るとゲゲッとした顔になっていた。


次の槍も全員には渡らないので、半分ずつになると、騎士の人が動きを教えてくれる。
縦も横も、直線的な動き。振り回してなぎ倒して刺すくらいしか動きがない。つまりは突きと叩きに特化してるようだ。あまり美しくない。動きだけ教わっておこう。
騎士の三人が動きを教えて、残り二人とエクラーさん三人が確認の相手をしてくれるらしい。男の子達はみな、4、5回打ち込んでは槍を押さえ込まれるか弾き飛ばされて終わっている。

「さあ、来てみろ!」
エクラーさんが槍を両手で構えて防御姿勢をとった。
「・・いいんですか?」
「おう、練習だからな」
「槍を取ったら勝ちですか?」
「・・そうだな。出来るかぁ?」

明らかに、難しいぞ?と眉を上げている。これは勝たねばなるまい!
右手の槍に左手を添えて穂先を下段に構えたら、エクラーさんが、え?(その構えは何だ?)という顔になる。

「いざ、参る!」

下段から振り上げ、頭、両脇、足、手元、と左右に振り回しながら打ち込んで隙を探す。カン、カン、カン、カン、と音がしたあと槍を片手で持った隙に近づき足を引っ掛けて止めたので体の重心がズレて「うわっ!」と叫び、槍を握った手の力が緩んだ所で、カン!と槍を打ち上げて奪うと私の3キュピト後方にカラン、と転がった。ドサッ、とエクラーさんが尻餅をついて倒れたので、回した槍の柄の先を喉に当てる。

「勝った!」
「痛たたた・・・あ?・・・・負けた」
喉元に柄の先が当たっているのを確認して、うっ、と眉を寄せて肩を落とした。まあエクラーさんは防御だけだから一方的な勝ちだけど、武器を奪ったから勝ちだ。

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

槍を掲げて万歳すると、みな目が点になっていて、エステルだけがパチパチパチパチ、と拍手をくれた。

「い・・今のは誰に教わったんだい?」
騎士の一人が聞くと、他の人も変わった動きだ、と首を傾げる。

「(マズイ)・・・誰にも教わってません。敵が前にいたらどうするか?を頭で考えながら練習してるだけです。こう来たらこう抵抗する、こんな時ならこう・・・と色々考えてますから」

「ほう、つまり守るとか逃げる隙を作る為の練習って事か・・・」
「そうです!(ここは食い付いておくべし)」
大人達が感心したように、う~む、と頷いていた。


剣はたくさんあるらしく全員に渡された。みんなブンブンと振り回して素振りしている。やはり闘うと言えば剣、という事なのだろう。男の子達は嬉しそうだ。

二人で木剣を握りしめたが、面、籠手、胴しか狙い方を知らない・・・。


(・・・私、剣道しか出来ない)
(私も授業でやったかすかな記憶しかないわね。妹がレイヤーだったから、スチール用の格好いいポーズだけなら出来るわよ?)
(・・・・・レイヤー?)
(・・・コスプレイヤーよ・・)

「「・・・・・」」


みんなで騎士の人の素振りを真似しながら、縦、横、斜め、と打ち込みの練習だけはしたが、打ち合いはやめた。

「剣はやらないのか?」
エクラーさんが目を丸くした。

「筋力がまだないので剣はいいです」
「端で練習だけするわ」

二人で答えて端の木陰の近くにいく。

「エル、防御の石はある?」
「ええ、あるわよ。・・何で?」
まさかとは思うけど、子供は握りが甘いから剣が飛んで来たら危ないので、それぞれ巾着に入れてショルダーの端にくくり付けた。

最初は又なにかやらかすと思ったのか、他の子供達がこちらをチラチラと見ていたが、延々と同じ動きだけ繰り返す私達に見向きもしなくなって、自分の打ち合いを始めた。

柔軟体操で筋肉をゆっくり伸ばしてから剣道の素振りをする。
単調で地味だけど、体が動きを記憶するためには大事だ。中々同じ位置で寸止めが出来ない。

「・・もう限界」
やっと50回で、アウト。腕が疲れた。
「・・腕が重い」
エステルは83回でアウト。
筋力はまだまだね、と二人で肩を落とすと、叫び声が上がった。

「「!?」」

大人達が囲んでいる。誰かが怪我をしたらしい。

(怪我?)
(でも木剣だから酷くはないでしょ?)

私が言うと、プロ(魔術師)がいるんだから大丈夫よ、とエステルが言った。
また二人で筋肉を伸ばしていると、エクラーさんが近づいてきた。

「すまないが怪我を見てくれないか?」

二人で顔を見合わせる。
「宮廷魔術師のおじさん達がいるじゃない」
とエステルが言ったら気まずそうに
「・・二人とも光の聖霊はいないそうだ」
「「は?・・・・・」」
二人して目が点になった。

「・・使えない」
エステルが呆れた顔で眉をひそめた。

「あの・・年末にうちの父が医者のみなさんに、いない精霊の最初の魔法でもいいから出せれば・・・って言ったらしいから、上の人も聞いてると思うんですけど?」

「・・そうなのか?・・・急いで見て貰えるか?」

20キュピトほど離れた所まで歩いて行くと、何やら少女達が揉めている。

「マルファ!まだ痛いわよ、ぜんぜんなおってないじゃない!」
「そ、そんな事ないわよ!なおしたわ。赤くなってた所が消えたじゃない!」

・・・文句を言えるくらいは元気そうなのでそっちは放っておく。意識がなく倒れてる男の子に近より首の脈と手首の脈を確かめると一定のリズムがあるのでホッとして、とりあえずは何でこうなったのか聞いてみた。

倒れてる男の子が相手の腕に打ち込んだら、腕を抱えて座り込んでいる子が反撃して横腹に打ち込んだ。その痛さと衝撃からか、倒れた子の剣が滑り飛んで、見ていた少女の腕に当たったと言う。

ほんとに飛んだのか、剣。

刺さらなくて良かったね。まあこっちに来てたら危なかったのは投げた方だろうけど。やはり初心者の練習には籠手や具足が必要じゃない?とエクラ―さんに聞くと大人用の防具はあって、武器庫で借りられるが大きいので子供には向かないらしい。

「・・出来ないんですか?」
魔術師のおじさまを見上げると困った顔でこっちをみる。
「すまない、まだ光はいないんだ」
「王族とか王宮の人とかを治してないの?」
「それは、宮廷医師の仕事でね・・」

また別に専属がいるらしい。じゃあ魔術師の仕事って何!?戦争くらいしか仕事がないんじゃないの?・・・しかし父様の先生の教本がアレだったのだから、その医師もどのくらいの知識と技術なのかすごく怪しい。
腕を抱えている赤毛の少年に近付いた。

「腕出して」
私が声を掛けると顔をしかめて見上げた。
「お、お前みたいな、チビに・・治せるわけ・・ない」
痛そうに奥歯を噛みしめている癖に文句を言った。
「・・・そう。じゃあ自分で頑張ってね」
「おいおい!いいのか、嬢ちゃん」
私が離れたらエクラーさんが慌てた。

「信用されてないのに治してあげる義理はないです。命が危ないなら別ですけど腕以外は大丈夫そうですし。1日に使える魔力は有限ですからね」

「「「「「・・・・・・」」」」」

私は腕以外は大丈夫そうな男の子をチラリと見てから、目を丸くして絶句した大人達を後目にして、エステルが瞳孔を確かめてる意識のない青い髪の男の子の横に膝をついた。

「大丈夫そう?」
「ん、意識がないだけだと思うわ」

「脇腹ってどっちですか?」
エクラーさんに聞くと左を指した。シャツを捲ると、赤い帯状のみみず腫れがくっきりとある。どんだけの力で打ったのか。
顔を上に上げて口を開けさせると、耳を寄せた。

「何をしてるんだね?治療はしないのかい?」
魔術師のおじさまが不思議そうに聞くので、まず胸が潰れてないか息を確認しているのだ、と言うと、みんな目を丸くした。
「・・潰れる?」
「・・・動物とか人間とかここに、こう何本か骨があるのわかりますか?」
肋骨を指して説明すると、騎士のおじさま達が頷いた。指で示してから、打たれて折れた骨が中に刺さるように指を動かして、もし折れて刺さってて、中に傷や穴が出来てたら空気が抜けて吸えなくなり、放って置くと死んでしまうのだ、と言うと騎士も魔術師も顔が青ざめた。

「た、大変じゃないか!」

「大丈夫です。ヒューヒューゼーゼー言ってないですから」
横腹を触りながら確かめている私を、大人達が心配そうに覗き込む。
「じゃあ骨折と裂傷だけね?」
とエステルが確認する。
「うん。この辺りだけで大丈夫だと思う」
痣を含む脇腹を押さえて治癒を掛けた。


回りから見向きもされなくなっていた少年が、イラついた声を絞り出した。

「マ、マルファ!頼む、治してくれ!」
「ええ!今なおしてあげるわ、セディール君!」
喜色満面で赤毛の子に走り寄ると、置き去りにされた少女がまた怒った。確か名前はナゼアちゃん。
「ちょっとマルファ!私を治してないのに何でセディール君の所にいくのよ!」
「変な事言わないでよ!ちゃんと治してあげたわ!」


振り返ったエステルがムッとした顔になる。

「・・ほんとに嫌ね、あの子。傷が酷いなら2~3回くらいヒール掛けないと駄目でしょうに」

エステルが溢すと、大人達が目を剥いた。

「2、3回かけるってどういう事だ?」
「聞いた事ないぞ?」
「普通のヒールじゃあ駄目なのか?」

チラリとエステルと目を合わせたが、すぐに脇腹に集中した。

「分からないけど。魔法の一回の量が決まってるみたいで、傷の深さによっては重ねないと駄目だったですよ?」

「1回では治らないのか?」
魔術師のおじさまに、戸惑いながら聞かれる。光の精霊がいないから、攻撃系は分かってもヒールの魔力量は分からないらしい。

「ええ。魔力が多くてもね」
「多くなっても駄目なのか?」

「例えば魔力を50くらい使う怪我があってヒールが1回で20使うとしたら、2回か3回必要になりますよね?でもお医者さん一人の魔力が・・・・」

エステルが数字に置き換えて説明をしてるうちに、魔力が細くなったので止めた。減ったかな?とわかる程には無くなったので、内臓も危なかったのかも。

「その数字で計算するなら、もし二人目を完全に治したら・・・」
魔術師のおじさんが悲しそうな顔になる。
「お医者さんの方が枯渇で死ぬかも。勿論、精霊がいれば少しは助けてくれるだろうし、精霊の各が上がれば助けてくれる量もあがるはず・・ですよね?」
エステルが魔術師のおじさんを見上げた。
「!・・ああ。上がればもっと楽に助けられるし、攻撃力も上がると言われた事があるな・・・」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「・・私はまだ、たくさん治してないから分からないけど。でも量が決まってるみたいだから計算はしやすいんじゃないかしら。自分の一日の魔力の限界は、攻撃なら何回、防御なら何回、癒しだと何回まで。それ以上使ったら死ぬって覚えて置けば。なので確かに魔力は出来るならどんどん増やしておいた方がいいと思いますよ?・・」
と私の方を向いたので頷いた。

「治ったのかい?」
魔術師のおじさまが恐る恐る聞くので、手を握りしめながら考えて・・・半分以上は無くなったかな?と嘘を述べておいた。

「あんまり酷くなくて良かったです」

「おお!ほんとだ。痣がきれいに消えているぞ」
「すごい!もう治ったのか?」
「こんな小さい体であの傷を治せるとは」
騎士さん達が少年を覗き込んでは感動している。

「・・一度で大丈夫だったのかい?」
魔術師のおじさまが心配そうにこちらをみた。

「いえ・・・でも結構使ったので疲れました」
とニッコリ誤魔化した。私とエステルが一度で出来るのはこの世界の呪文じゃないからで、更に基本の人体構造をこの世界の人よりは知ってるからだと思う。そのかわり魔力消費量が少し多い。
じゃあ私はあっちへ行くか。・・と呟いて仕方なさそうに立ち上がると、ため息を吐いてナゼアちゃんの所へ行った。
「大丈夫?」
「平気よ、重症じゃないし。打ち身かヒビくらいでしょ?」

エステルが話しかけて、指の開け閉めや上げ下げ肩回しをして確認してから腕(上腕二頭筋)を掴んでいた。


「うっ・・マルファ!全然治ってないじゃないか!」
「そ、そんな!ちゃんと掛けたし、少し光ったからなおってるはずよ!」
「まだ、痛くて指が動かせないよ!ちゃんと治してくれよ!」
男の子に文句を言われてブスくれながら、もう一度ヒールをかけるけど、腕は腫れ上がったまま変化はなく、また男の子が文句を言った。

「ええっ?何よ!わたしだってがんばったのよ、セディール君のためにと思って!」
「悪かったよ。でも全然動かないんだから仕方ないだろ?頼むよ」
「しょうがないわね。じゃあとっておきよ。《ライトヒール》・・・あ、わたし・・なんか・・」
突然に意識を失って倒れ、光と水と風の下級精霊がポン、と現れて、マルファちゃんに触れた。
「マルファ?どうしたんだよ、マルファ!」
痛みが少し引いたのか、少し持ち直した赤毛の少年が腕を抱えつつ声をかける。

「だ、だいじょうぶか!?」
「た・・・大変だ」
騎士達が、どうしよう、と慌て始めると、青い髪の少年が目を覚ました。

「あ?俺・・・あ!傷、治ってる。ありがとうございます」
と、当然、側にいた魔術師様に頭を下げる。

・・・まあ、いいけどね。

そしてピンク色が目に入ったらしく声を上げた。
「え?マルファ?・・どうしたんだ、マルファ!」
側へ寄って抱き起こしたが、青白い顔のまま起きない。側には焦ったような精霊がくっついている。

「お前がやったんだな、セディール!」
「違う!お、俺はただ、マルファに助けてもらおうと・・・」
言い争いが始まって、大人達が呆然となっている。


(あら、三角関係だったらしいわ。この世界にも恋の争いがあるのね・・・)
エステルが、ほう!と目を細めた。
(へえ、あの子が好きなのか・・・)

二人で顔を見合わせた。趣味悪いわね、騙されてるわね。とお互いに目が口ほどに語っている。
(イケメンなのは明らかに青い髪の方よね。赤毛の方は・・二枚目半、てとこかな?)
(そうねぇ・・・でも大人になったのを考えると、赤毛の方が稼いできそうじゃない?)
((・・・・・・・・))
顔を見合わせた後エステルが肩を竦めた。
(でもさあ・・さっきから、ヒールが三回か、四回じゃなかった?)
(ん、最後にその上のが一回だね)
(たったそれだけで枯渇しかけるくせに、よくあんなドヤ顔出来るわよね)

私達がひそひそと傍観してる間に、何やら取っ組み合いの喧嘩になり、片方はまだ完治してないので、騎士達に引き離されたがまだ睨み合っていた。
マルファちゃんは職員の人が抱き上げてギルドホールの方へ連れていかれ、青い髪の少年ナディック君は付いて行ってしまった。

「おーい、そこの嬢ちゃん達もホールへ戻るか、家に帰るなら女の子だけは危ないから、窓口の職員かリーダーのナディックに付き添いをお願いして帰ってもいいぞ?」
エクラーさんが佇む少女に声をかけると、ナゼアちゃんとチオラちゃんは顔を見合わせると
「・・・・リーダーの所に行きます」
と言って、扉へ歩いて行った。
さっきの子が今年のサリベートのリーダーか。確かケルガーさんが今年は雑貨屋の息子、って言ってたな。でもマルファちゃんに御執心らしいから付き添いはどうだろうなぁ?

セディール君も何とか立ち上がりはしたが、数歩歩いては立ち止まる。振動が腕に響いているらしい。完全に骨折だと思う。

「・・治してあげましょうか?」
私が声を掛けるとジロリと私を睨んだけれど、自分が倒したナディックを、簡単に治したのを見ていたからかムッツリと押し黙った。

「魔法を使わない方法もあるけれど・・・」

と言うと、セディール君と回りの子供達は目を丸くしたが、大人の方が声を上げた。

「ま、魔法を使わないで治す方法があるのか!?」
「嘘だろう?信じられん。」
「出来るのか、そんな事が・・・」

ブツブツと険しい顔の大人をみて、エステルがブフッ、と笑った。

「無理無理!魔法に慣れた人には耐えられないわよ。まず死にそうな激痛に耐えて骨をまっすぐに戻して、そのあと骨がくっつくまで毎日冷たい水か氷で冷やしながら、最低3ヶ月くらいは腕を固定して動かしちゃ駄目なのよ?。更にそのあと剣がしっかり持てるようになるまで、1、2ヶ月は訓練をし直して筋肉をつけないと剣はもう持てないんだから!」

と饒舌に説明すると、全員真剣な顔で静まり返ってしまった。

「「「「「・・・・・・・」」」」」

「もー、バラしたら駄目じゃん、エステル!激痛に耐える悲鳴を聞きたかったのに~」
「未開人の村じゃないんだから、その治療は可哀想だって」

セディール君が凄く嫌そうな顔で腫れた腕を見詰めていたが、ボソボソと、魔法で頼む。と悲しそうに呟いたのでちゃんと治してあげた。


魔法の練習は、まず自分が得意か使いやすい魔法で5つの属性グループを作らせたが、光と火と水の3グループになった。土と風も持ってる子もいたけど初級の土と風の魔法で攻撃しないのは、壁しかないからイメージしにくいらしい。
それから初級魔法を使わせてずっと維持でもいいし消えたらまた発動させる。疲れたら今日はそこまでにしないと死ぬからね?と脅しておいた。
一番長く維持出来た子をその魔法グループのリーダーにしてその子に追い付くために頑張る事。それが半鐘出来ても倒れないくらいになったら、次の訓練を教えますよ、と言った。子供達は脇の子を見ながら手のひらを懸命に睨んで頑張っている。

「これで増えるようになるのかね?」
魔術師のおじさま達も、一人は火の玉を、もう一人は水の玉を浮かべている。子供達より更に3倍以上の大きい玉を。
「消費して減って疲れる、のが大事です。ほんの少しずつですけど数日後、元に戻ると増えてるはずですよ。本当は体の成長が止まらないうちに増やしておく方がたくさん増やせるみたいです」
「そうなのか・・・」
騎士様も五人のうち二人は聖霊がいたので、地味訓練に加わっていた。

「でもみんな、こんな地味な訓練、すぐに飽きると思うわよ?」
「そうだねぇ・・じゃあ・・・」

エステルが心配するので、「地味だけど頑張って魔力が増えたらこんな事も出来ますよー」と言って、派手な炎の弓を掴むと子供より大人の方が「すごい!」と食いついた。エステルが、丸がついた板の的を50キュピトくらい先へ設置しにいった。

トスッ、と刺さって少し燃えるかな?と思ってたのに、カッ!と光ってからバアァァーーン!と木っ端微塵になってしまった。

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

しまった!何で?火薬とか使ってないのに。前に火だと爆発するかも?って言ったから、頭の中で矢に火薬を構築してしまったのだろうか?
火が出たら消そうと思ってたエステルが、手で懸命に埃と木屑を払っている。

振り返ると、魔術師のおじさま達は、おお!やるなぁ!という目だったけど、他のみんなは恐々とした顔で、舞っている木屑を見て、言葉を失ってた。

「エクラーさん・・壊しちゃってごめんなさい」

「あー・・・し、仕方ないな。まあ、こ・・・子供でも魔力が増えたら、今みたいに一発で魔物を仕留められるようになるって事が分かったかぁ?だから頑張るんだぞー!」

口元を引き吊らせながらも、魔力が増えて精霊を進化させて、この中からAやSの冒険者が出るのを期待してるぞぉー!と懸命に発破をかけていたが、返事をする子は少しだった。



後日、採集が再開してからも月に二回、隔週の週末の闇の日の午後に、一鐘ほど武器と魔法の訓練をするお知らせ木札がF、Gの掲示板に掛かるようになると、Eランク以上の大人で精霊のいる者も訓練に加わりたい、と言って更に大規模な訓練になっていく事になる。



――――――――――



次は、語呂や現代語を増やすためにがんばります。


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